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第五十九話 カオスノード最終決戦その2

できましたならば、作品の評価をお願いします。

評価があれば、遣り甲斐がもっと増えますので。

 ノード11とノード12の偵察が終わった。

「こんなもんが外をうろついてたらと思うと、全く恐ろしくなりますよ。」騎士団の長が嘆息しているが、俺も同感だ。

 ノード11:巨大悪竜が八体、炎の蛇が一体。

 ノード12:炎の蛇が四体、多頭魔獣(キマイラ)多数、その他は炎の精霊が少し。


 多頭魔獣(キマイラ)とは、ライオンの身体に蛇や山羊の頭が合成されたカオスの合成生物らしい。火を噴くが、だから何だと言う気持ちになる。俺の常識は既に壊れてしまった様だ。


「魔獣は一匹ではそれ程強くないの。でも、数はそこそこ居るの。」

「どれから行く?」と俺はアローラに訪ねたが、今回は騎士団からクレームが来た。「今回は、お二人で行くとかは無しにして下さいませ。」と吊り目気味の目を更に吊り上げて来たので、俺は頷くしかなかった。

「近いところからかな。」とアローラが答える。そんな訳で、悪竜退治のラストと言う事になった。

「しかし、ドンドン増えるな。予想はしてたが。」と言うと「大丈夫なのよ・・・。あたしは信じてるの。」とアローラがしおらしい顔で何かを訴えようとしている。


「頼りにしてるぞ。」と頭を撫でると、嬉しそうな顔で「うん!」と返事をした。こうしてみると、年相応の姿に見える。細い身体で、凛々しい出で立ちだが、その表情は愛らしい。

 そこで、ふいに昨日の浴室での事を思い出して、俺はドキッと心臓が震えるのを感じた。


 ****


「今回は”飛翔”(フライト)の魔法は使えないわよ。全部の魔力を”蜘蛛の糸”(ウェブ)に使うの。でないと、空を飛んだままの悪竜が襲い掛かって来るから。」あたしは、レンジョウにそう警告した。

「わかった。」と言葉少なく返事をするレンジョウ。今回も終わったら酷い事になってるんでしょうね、いつもの様に・・・・。


「足の遅い蛇は最後まで置いておくの。問題は悪竜なのよ。魔術師は当面、射撃を控えて欲しいのよね。」と号令すると、了解とだけ返事があった。みんな緊張しているのだ。

「騎士団も最初は待機して。迂闊に前進して、悪竜と鉢合わせたら大変なのよ。」必ず先手を取って来る危険な相手。そんなのに無闇に突撃するなんて、単なる自殺行為だ。こちらも了解と返事があった。

「レンジョウも待機してよね。多分、一息で走れるところまで最後の悪竜は残ると思うから。」頭上を見ると、優しい目でレンジョウはあたしを見ていた。思わずニッコリとしてしまう。横目に、魔術師達が穏やかに微笑しているのが映る。

「来ました!悪竜が飛び上がりました!」と先頭に配置した鉾槍兵達が報じて来た。


 ブローチに手を置いて、魔法の力を引き出す。本当に素晴らしい贈り物だわよ。

 緑の魔力を使って、魔法の蜘蛛の糸を空中に作り出したわ。”ガアアァァァ!”と怒りの声を挙げながら、一匹の悪竜が、次にもう一匹がフレイア様の蜘蛛の糸に絡まり、同じ様に墜落したのよ。

 後は必死で自分の魔力の尽きるまで蜘蛛の糸をせっせと作るばかりなのよ。フレイア様の援護もあって、最後の悪竜が地面に軟着陸したの。

「全部隊、先頭の二匹に集中攻撃するの!」と言うや、魔術師が炎の帯を投げ付け、レンジョウと鉾槍兵達が左から、右は騎士団が突撃して行くわ。騎士団も悪竜退治にすっかり慣れてしまい、必殺の構えで全方向から槍で突撃するのよ。


 鉾槍兵に先立って走り、悪竜の眼前で飛び上がったレンジョウが、頸の後ろを全体重で叩いて、舌が飛び出したところを鉾槍兵が舌を斬り落とし、苦しみに開いた口の中にハルバードが何本も突き刺されて悪竜は呼吸ができなくなるの。後は頭目掛けて滅多切り。

 鉾槍兵達は悪竜の血潮で真っ赤になっているけど、全然勢いは衰えていないわね。次の悪竜を殺そうと、両手に持った魔法の武器から血を拭い、また走り出して行く。そうして、まずは二匹の悪竜が死んだの。


 次の二匹は少し賢かった。悪竜にしてはだけど。

 奴等は、基本は四本足の戦闘スタイルだけど、それは両手を使って(あたし達サイズの)小さな生物を倒し、四つ足で前進して蹂躙し、尻尾で叩くと言うスタイルが有効だからなの。それが、小さな生物の殺傷力が強く、四つ足だと自分の急所を曝け出している事を理解したみたいなのよ。

 だから、後ろ足で立ち上がって尻尾で支え、両手を構えて、口から吐く炎と足で踏んで潰す二本足スタイルにスイッチしたのよ。

 でも、それはこの場合は悪手だったの。レンジョウは、巨人にしたのと同じ様に足を狙って転倒させたし、あたしも悪竜の脚を狙って転がした。

 結果は、仰向けに倒れて更に攻撃力を失ったところに、騎士が翼を踏んで胴体や頸部に突撃し、鉾槍兵が喉に斧を、首に槍を打ち込んで仕留めたからなの。


 仲間だか、家族だかが簡単に殺されて行くのを見た悪竜は少し考えるところがあった様なの。次の二匹は、最後尾を行く二匹の方に戻り始めた。けど、それを許していたら危険なので、あたしも前進してその後に一度止まって、後退する悪竜の一匹に射撃したの。魔術師団もその悪竜に火球爆発(ファイアボール)の呪文を唱えるけど、あんまり効いてないみたいなのよね。

 騎士団は再編成中で、僅かに前進してるけど、位置的にまだ攻撃できない。鉾槍兵達は、その気になった悪竜には、コンパスの関係から追い縋れない。そしてレンジョウなのよ。


 レンジョウは、あたしよりもまだ早い速度で悪竜の後ろに迫り、そいつの背中に手酷い一撃を加えたの。青い閃光が閃いて、悪竜の背中に電撃が広がるのが見えた。

 その後、そいつはレンジョウに仕返ししようとして果たせず、結果は騎士団に追い付かれ、悲鳴を挙げながら魔法の槍に刺されて、遂に死んで行くのよ。

 レンジョウは、そんな惨めな悪竜には構わずに前進し、もう一匹に攻撃を加えるの。奴の翼がへし折れるのが見えたわ。

 翼と骨で繋がっている前脚が関節から外れて、悪竜が悲鳴を挙げるのが聞こえたわ。電光が喉の辺りまで這い上って、悪竜が舌を出して悶えるのも見えたのよ。

 そして、更にあの人は横倒しになった悪竜の目に手を突っ込んで、再び脳味噌を掴み出したのよね。


 そうしていると、哀れな声がノードの中に響くの。無敵だと信じていた自分達が、ただ狩られるだけの獲物だと悪竜には理解できたのよね。でも、それで許してやれる程に、あたし達は甘くないの。

 レンジョウが駆け抜けるのが見えるの。次には、再びフレイア様が作り出した蜘蛛の糸に絡まって、逃げようとしていた悪竜の一匹が捉えられてしまうの。もう一匹の悪竜はレンジョウが追い討ちして脚を止めたから、あたしもそいつに弓を射て、最後は奥の手を一発使ったの。


 そんな時点になっても、間抜けな蛇ときたら、まだ遠くをノタノタと短い脚でこっちを目指して歩いて来るだけなのよ。


 ****


 今は昼の2時、ノード12、最後の目的地に到達したが、全員クタクタになっている。なにしろ、昨日に比べても戦闘の密度が濃い。ドロドロに濃い。

 結局、俺とアローラが一体ずつ、他は騎士団と鉾槍兵達が殺した。蛇は俺とアローラだけで仕留めた。

「我々は、今後の長い人生で、悪竜を殺した者達と言う栄誉輝く名の元で生きる事となります。それもこれも、お二人の力あっての事。どれ程感謝すればよろしいのか、言葉に尽くす事ができません。」と騎士団、鉾槍隊、魔術師団がそれぞれに膝を着いて感謝を述べる。


「まだ最後の一つが残っている。あいつらだって手強いんだぜ。」俺はそう言ったが、「あの蛇に対しては、騎士が掛かるには不利なのです。軒並み馬が死んでしまいますから。」悪竜よりも、槍が深くめり込む蛇に対しては、槍を構える突撃が困難なのだそうだ。

「左様な次第で、今回は騎士団は編成から外れる事となります。また、レンジョウ様に間近で長々と挨拶できる機会も何度ある事かわからぬ事でございます。ですので、今をもってお礼の時と、我等一同勝手ながら、左様に定めさしていただいたのでございます。」騎士団は次は編成から外す。それがアローラの采配なのだそうだ。


 後ろを見れば、そこには騎士達が集結しつつあり、端から順番に槍を”捧げ筒”の様に穂先を高く掲げている。整列が終わると、騎士達は馬上で鐙に立ち上がり、見事に片手で馬を制して、穂先を真っ直ぐ上に差し上げ、雄叫びを一斉に挙げた。

「勇者万歳!」「”永遠の同盟国”ラサリアに栄光あれ!」とそれが二度繰り返された後、お辞儀をした騎士達は、順に馬首を返し、森の方向に帰還して行った。


「永遠の同盟国だと?」俺が呟くと、騎士団の長は「皆はもう、そう思っているのでございますよ。」と静かに返事をした。「あんたの目、それこそがフレイアと、彼女の父母が人間達に向けて欲しいと願った眼差しだと思うな。」

 俺の言葉に、長は答えた。「まだまだ、解決していない蟠りはございます。けれど、勇者レンジョウとアリエル姫様のお力で、きっとそれらは解決されるものと信じております。私も、アローラ様も、フレイア様も。ヴァネスティに住まう全ての臣民達もいずれはそう信じる様になる事でしょう。」そう言うと、彼は俺と手を握り合い、愛馬を駆って部下達の後を追った。


「レンジョウ、あんたのお役目って、これで一つ済んだのと違うかな?」アローラが気楽にそう言って来る。

「ああ、そうかも知れないな。とにかく、最初はあんな風じゃなかった。彼等も、お前もな・・・。」と言うと、アローラは露骨に拗ねた風になり。「だって、あの時はあんたの事を何も知らなかったんだもの。フレイア様しか、あんたがどんな人か知らなかったんだよね。」

「でもさ、フレイア様は最初から言ってらしたのよ。ラサリアの勇者を深く知れば、アローラはきっと彼を好きになるってね。」そして、あのニッコリした顔で俺を見たんだ。

 この顔、何度見ても飽きない。ずっと見ていたい笑顔なのだ。痩せたエルフの娘の顔が、太陽の様に輝いている。

 そう、俺が今までの人生で、守りたいのに遂に守れなかったのが、こんな笑顔だった。


 俺は・・・強い衝動に駆られて、俺はアローラの背に手を伸ばし、彼女を胸に抱き込んだ。

「ど、どうしたの?レンジョウ、何があったの?」アローラが動転して、腕の中でもがいている。

「動くな・・・。」それだけを言って、俺はそのままアローラを抱きしめた。しばらくして、アローラもおそるおそる俺の背中に手を伸ばして、俺と一緒にそこに立っていた。


 ****


「一体、どうしたのかしら?」さっきのレンジョウは、ちょっとおかしかったの。変じゃなくて、凄く深刻な表情で、悲しい目をしていたのよ。それがとっても気になるのよ。

 満座の前で抱きしめられたせいで、エルフの兵士達はその事をペチャクチャとネタにして喋っているし。抱きしめられた事それ自体は、ちょっと恥ずかしかったけど、やっぱり嬉しかったの。

 けど、あの時のレンジョウは何を考えていたのかしら?それが気に掛かるわね。


 その後のレンジョウは、何時にも増して気合が入ってる感じよ。目線とか凄く強くてギラギラ光ってるしね。全く、ノードの中の蛇達が可哀想になるくらいだわよ。まあ、それは置いておかないとね、今からは最後の戦いなんだからさ。

「レンジョウ、偵察の結果だわよ。やっぱり、あいつらは九本首の蛇で、巣から動かないのを見ても、昨日の毒蛇と同じ奴だと思うの。」レンジョウは黙って頷いている。

「毒は、炎と違って魔法免疫では防げないのよ。」

「知ってるさ。」答えが短いわね。機嫌が悪い訳でもないみたいだし。「問題ない。今回は上手くやる。」といつになく話を避けている風なの。

「うん、わかってるなら問題ないの。」あたしもついついレンジョウの口調を真似てしまうのよね。

「さあ、行こう。」それで作戦は開始になったの。


 ズラリと並んだ遠距離戦の部隊。長弓兵と魔術師達が段列を組んで並んでいる。まずは火球爆発の呪文で蛇達を巣穴から移動させる。この呪文は、すぐに再生能力で回復されてしまうだろうけど。

「次はフレイア様とあたしの魔術で行くのよ!」と言うや、”亀裂”(クラックコール)の呪文を唱え始める。これがなかなか上手く行かない術なんだけど・・・・。

 一回目、あたしの魔術は蛇の下に亀裂を作り損ねた。フレイア様の魔術は・・・ガバっと開いた亀裂に、蛇の前脚が嵌り込み、キイキイと悲鳴を挙げながら上半身が亀裂に落ちて行く。尻尾が僅かに見えるけど、そのまま亀裂は閉じて、血が噴き出して蛇は死んでしまう。

 魔術師も弓隊も大喜びで歓声を挙げる。

 二回目、フレイア様の術は今回は不発。蛇はちょっと脚を取られたけど、亀裂の外側に身体を転がして避けた。あたしの方は、今度こそ・・・・ほら成功したわ!蛇の後ろ脚と尻尾が地割れに呑まれ、九本の首だけが外に出た状態で地割れは閉じた。またしても血しぶきが噴き上がり、蛇の首は地面に転がって、しばらく動いていたけど、やがて死んだの。

 三回目、フレイア様の術は外れ。あたしの魔力はここまでで尽きたわ。四回目と五回目も駄目だったのよ、残念・・・・。


「弓隊構えて!」あたしも弓を構えるの。「撃て!」あたしも撃つのよ!あたしの矢はほぼ平射で、弓隊は山なりの弾道で矢が飛んで行くの。

 重い鏃で、板金の鎧でも貫通できる長弓の矢は、蛇の頭と背中に降り注ぎ、固い蛇の鱗に跳ね返ったり貫通したりしたわ。もう一撃。「次からは魔術師隊と交互に攻撃。」

「魔術師隊用意!」魔術師も炎の術を用意した。「発射!」


 あれ?そう言えばレンジョウは?多頭魔獣(キマイラ)達は?そして気が付いたの。真っ赤に光るドームの端っこで、炎をものともしないレンジョウが、不気味な獅子の怪物たちと追いかけっこをしている事に・・・。

 地面を走って追う魔獣には、レンジョウが拳骨で挨拶しているわ。炎を吐く奴は無視している。空から襲う奴等には避けて、いなして、時々反撃しているわ。


 そんな光景に、唖然としてしまい、思わず指示をしばらく忘れてしまっていたのよ。慌てて気を取り直し、蛇の片方を射たら、そいつの最後の首が吹き飛んで、蛇はバッタリ倒れたのよ。

 レンジョウの援護はできないわね。なにしろ遠過ぎるし、ノードの端は光がちらついているから、レンジョウを射止めてしまいかねない。それよりも目の前の最後の蛇。矢が突き立って、まるっきりサボテン状態になってるのに、まだ進んで来るのよ。魔術師の弾も切れたし。

 だから奥の手、破滅の雷を連打するの。残っている長弓兵の矢も少ないわ。後、首は二本だけなのに!


 あれ、蛇が痙攣しているわ?なんで、どうして?あ、横倒しになったわ?あれ、レンジョウが何故そこに?魔獣達はどうしたの?また蛇をぶん殴ってる。両手でボコボコにしてるわよ!

 あ・・・あそこは確か急所の真下・・・だから矢を放つのよ。やったぁ!蛇が死んだわよ!!


 ****


「本当にご苦労様・・・・。」水晶玉を見ながら呟く。正直、これ程少ない損害でノードを奪取できるとは思っておりませんでした。

 レンジョウに全身で抱きついて、脚まで絡めているアローラの映像を見つめて、微笑ましさについ声を出してしまう。


”素晴らしい部下達、信じられない程に強い恋人”得難い人達の助けがあったからだ。そう思うと、感謝の余りに涙が零れてしまう。

”今までの人生でこんなに幸福と思った事があっただろうか?”わからない。


 いや、何か自分の知らない、もっと悲しい事があったようにさえ思う。アローラを見て、切なさに胸が締め付けられる思いがする。

 確かに可愛い部下で、召喚した時から気に入っては居た。けれど、今では違う何かを感じて仕方ない。


 この気持ちは何だろうか?それはわからない。けれど、今は喜びを満喫する時なのだ。そう、レンジョウとの別れの時が迫っているのもわかっている。

 それでも、今はこの時の喜びのままに、共に祝う時なのだと。

”長いエルフの人生でも、喜びの時は短い。だから、今を精一杯喜ぼう。”そうして、残りの人生のためにも思い出を作り続けるのだ。


 レンジョウとアローラが、兵士達にもみくちゃにされて、胴上げをされているのを見つめながら、フレイアはそう思うのだった。

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