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第五十三話 カオスノードその3

”巨大悪竜”への対策:空を飛んでいる状態では、絶対に仕掛けない事。まず炎を盛大に吹き掛けられ、その後に巨体でのしかかり、爪と牙と足で踏みつけて、文字の通り蹂躙して来ます。魔法で地面に落し、騎士団による先制攻撃で一気に殺す事が肝要です。


「参考になるのかならないのか・・・。つまり、地面に落ちてない状態の”巨大悪竜”とは噛み合うなって事か?」横に居るアローラは黙って頷く。

「できる限り、あたしの弓で痛めつけておくつもり。それでもあたしの弓にはあんなのを一撃で殺す程の打撃力はないのよ。」そう小さく返事をして来た。

「前にも倒した事があるのか?」俺は少し驚いて、アローラに問い質した。

「あるわよ。」との返事には、普段の元気は全くない。

「そんなに酷い損害が軍隊に出たのか?」俺は察した上で確認した。

「うん。みんな勇敢に戦ったけど、酷い人死にが出たの。あの時はそれでも二匹だけだったのよ。今回はそれよりも一匹多いのよ。あたしはどうすれば良いんだろう。」と小声で言うなり、元気なく消気ている。

「その時は・・・・。俺が居なかったのと違うか?」と言って、アローラの頭に手を置く。

 俺を見上げたアローラは、普段の無表情さはどこへやら。ニコリと笑うと、「そうなのよね。今回はレンジョウが居るの!」と歓声をあげると、俺の胴体に身体ごと抱きついて来た・・・が、俺がそんなアローラの所作に驚いて目を丸くしている事、周囲のエルフ達がまじまじとその様を見ている事に気が付いて身体を離して背中を向けた。

「あのアローラ様がねぇ。」「よりにもよって人間をねぇ。」「人間嫌いって訳じゃなくなったんだな。」とか、お喋りなエルフは口々にそんな事を言っている。

 アローラを見やると、彼女の耳は先まで真っ赤に染まっていた。


 ****


 赤いドームの前にやって来た。そこに近付く最中にも気になっていたが、このドームは普通のドームと比べて随分大きい様に思う。身の丈10メートル近くに及ぶ炎の巨人がぞろぞろと居たドームでさえも、直径は120メートル前後だった。これは・・・ほぼ、いや多分これらのドームは完全な円形なのだろう。

 対比する大きな建造物と言うと、東京ドームが思い浮かんだ。あのドームの直径が240メートルそこそこだったと記憶しているが・・・これはそれよりもまだ大きいと思える。おそらくその1.5倍程の直径があると思えた。”400メートル近い。ならば、”巨大悪竜”とやらのサイズは・・・。”

 逡巡していても仕方がない。俺とアローラ以外の突入戦力は、長槍を持った勇壮なエルフ騎士団の精鋭が120人、魔術師が2部隊30人で編成されている。エルフの魔術師は、人間の魔術師と違い、素晴らしい速度で動けるのだと言う。ただの鈍重な砲台ではないのだ。それ故に剣士も鉾槍兵もここでは組み入れられていない。

「内部には”巨大悪竜”が三匹、”石の悪魔”が多数。他の怪物は居ないの。女王様も、ここでは大規模に援護の魔法を使って下さるそうよ。」部隊の指揮官を集めた事前打ち合わせで、アローラはそう皆に告知した。

「俺からも質問がある。アローラの使う”飛翔”の魔法だけど、あれは自分にしか掛けられないのか?」俺は少しだけ状況を楽にする方法をいろいろと考えていたが、思い付いたのはそんな策だった。

「ううん、他人にも使えるの。でも、レンジョウは、空を飛んで怪物を攻撃するつもりなの?」と驚いた顔をしている。

「”巨大悪竜”は地面に落すんだろう?なら、騎士団には悪竜を任せて、俺は”石の悪魔”を集中的に潰す役目を果たしたい。」それには騎士団の方も乗り気だった。

「誉れある仕事をご提案下さって感謝致します。」と指揮官らしきエルフの騎士は慇懃に言葉を口にしたが、その目付きはそうは言っていなかった。俺の武勇を既に聞き付けて、それに対抗したいと言う気持ちで溢れているのだ。嫉妬・・・なんだろうか。


”なるほど、面倒臭い奴等だ。こんなのと歩調を合わせるために、フレイアは散々苦労したんだろう。”おかげで、トラロックにすら油断ならない女と思われていたのだ。こいつらには、フレイアの隠れた親心みたいなものは一切汲み取れまい。と思った俺だ。


”相手の顔を立ててやってもまだ足りない。”とはザルドロンの忠告だったか。

 俺とフレイアが住居館で隠れてしている事を知ったら、多分こいつらは誰が止めても止まらなくなるだろう。恐ろしい事に手を染めてしまったと、今更に後悔してしまう。

 まあ、喧伝する事でもないのだ。今のところ、バレているのはアローラと、多分アニタくらいか。俺がヴァネスティを出るまでは黙っていて欲しいものだ。マジで頼むから・・・・。


 ****


 騎士団が次々とノードの中に入って行く。俺とアローラも並んで薄いが深紅に揺らめく魔力の覆いを潜り抜けて行く。その中には、危険な連中がウヨウヨと待ち受けている。空を舞っているのは、あれは”石の悪魔”なのか?

「全軍横列2段!並足前進始め!」と号令がかかり、騎士団が進み始める。

 フレイアはこの際は援護のタイミングすら計らなかった。悪竜の上に緑の魔力が集結したかと思うと、白い蜘蛛の糸が空中から湧き出し、一体の身体に巻き付いて転倒させたのだ。

「”飛翔”の魔法を使うよ!」とアローラが俺に告げ、俺は彼女の目を見て頷いた。アローラが俺の手を取り、青い魔力が俺を取り巻いたかと思うと、その後は薄い膜となって俺を包んだ。

「”魔法免疫”は関係ないのか?」俺は尋ねたが、「この距離では働かないよ。あたしはあんたの手を握ってるんだし。」なるほどね・・・。

「で、どうやったら空を飛べるんだ?」と聞いたら「普通に走れば良いのよ。やってみて。」と上機嫌だ。「よし!」俺は走ってみた。地面の上を目掛けて。


 ****


「ほら、飛べるでしょう?」とあたしが声を掛けるが、レンジョウは手を軽く振っただけで”石の悪魔”めがけてすっ飛んで行くばかり。本当に凄い奴だわよ。

 二十体ばかりいる石の悪魔を、あの男は全く恐れていない。空を飛んでいても軽々とフットワークを使い、上下の動きまで楽に対応している。”全然相手になってないわよね。”と思う。

 固い身体の石の悪魔でも、レンジョウの拳は楽々と破壊してしまう。さて、こっちも・・・構えて、腹式呼吸一回、放つ!悪竜の内、一匹の目に刺さったよ。


 あ、あいつ怒ったかな?こっちに突進して来るわよ。でも、フレイア様の蜘蛛の糸に絡まれちゃったね。じゃあ、最後の奴に目標変更。魔術師たちは、レンジョウと接していない石の悪魔をまずは狙っている。”火球爆発”の呪文だ。効いてる効いてる!

「凄いわ!流石、エルフの魔術師だわね!」と褒めてあげると、「勇者様、お褒めに預かりまして!」とみんなが挨拶して来る。でも、次の魔法の準備も怠っていないのがやはり流石なのよ。

 次の魔法の一斉射撃は、石の悪魔の残りを一掃した。凄いわ!本当に凄い。この編成はバッチリだった。

 それとほぼ同時に、空を飛んでいた最後の悪竜が蜘蛛の糸に絡められて、レンジョウも十二体の石の悪魔を超早業で全部砕いて叩き落したの。


 怒りに燃える悪竜、最初にフレイア様の糸に絡まった奴が、怒りの声を挙げて、遂に糸を引き裂いて立ち上がった。背中の翼に絡まった糸は解けていないので、奴は四つ足で駆け出した。顔を前に突き出して・・・・ヒュッと言う音と共に矢が走り抜けて、狙いの通りに目に突き刺さる。

 人間大の生物なら、絶対に脳味噌を吹き飛ばせるんだけど、こいつらには本当に脳味噌があるのかどうか疑わしいわよね。巨人にせよ、悪竜にせよ、こいつらは血の気だけの馬鹿者だ。精々、胡桃位の大きさの脳味噌しか持ち合わせていないだろうさ。


「そんなに血の気が多いのなら、スポーツでもして発散すれば良いのに。」とも思うが、こいつらのスポーツとは、実際のところは街を襲ったり、人を殺したりと言うものではないか?

 あれ、レンジョウ?まさか・・・まさかだった。

 今しがた目を撃ち抜いた一番奥の悪竜目掛けて、空を駆けるレンジョウは急降下して行く。そして、あたしが撃ち抜いた右目に加えて、左目に拳をめり込ませたのだ!

「幾ら何でも無茶だわよ!」と思わず叫んだ。悪竜は反撃に炎を口から盛大に吐き出したが、頭の上に居るレンジョウに届く訳もない。二本足で立ち上がって、短く太い前脚でレンジョウを叩こうとするが、鈍間過ぎてそれすらも叶わない。

「あっ!」見れば、騎士団は未だに糸の中でもがく悪竜に全速で駆け寄って、槍で突き殺そうとしている。”あっちを援護しないと!”と瞬間に判断し、弓を弾いて目を潰す。魔術師たちも炎を浴びせて悪竜を弱らせた。援護射撃の後すぐに、騎士団は悪竜に激突し、咆哮しながら痙攣する悪竜が反撃すらできない内にそれを殺してしまう。


「一匹仕留めたの!」と大声で歓声を発すると、魔術師たちもそれに応えた。残りの騎士達は、団子状態の味方を左右から迂回すると、苦労しながら立ち上がろうとする二匹目の悪竜に突撃を開始した。

 またしても、魔術師の火炎が悪竜に命中し、赤いオーラと炎の帯が互いを打ち合い、オーラは貫通されて鱗が何枚か弾け飛んだ。叫びをあげる口の中に自分の放った矢が飛び込み、悪竜の長い舌を貫いて、炎の唾液と血液で喉がむせ返った様子だ。

 その首、胴体、特に勇敢で無謀な騎士は口の中に槍を突っ込んだのよ。多くの馬は転倒したけど、投げ出された騎士達はそんな有様でも、誰も槍を離さないの。

 もう、悲鳴さえあげられない悪竜に、更に騎士が突撃して・・・悪竜を一方的に殺害したのよ。


 ****


「わぁ!」と獣じみた声で騎士達は歓声を発している。右手を挙げて勝鬨を挙げる。そして・・・。

 唐突に皆が気付いたのだ。悪竜はもう一匹いた筈だと・・・。

 それぞれが、気付いた順にゆっくりと視線を既に静まり返った深紅のドームの奥に向ける。そこに立っているのは、血まみれの人間の勇者だった。

 その足元に倒れている悪竜は、舌をだらりと口の外に投げ出し、両目は大きく穿たれて空っぽのままに開かれている。”悪竜が死んでいる”と誰もが確信した。信じられない程に凄惨な殺され方で。

 皆の心に強烈な畏怖が芽生える。この男こそは地獄の使者、カオスの者共よりも余程に狂猛な悪鬼に見えた。へこんだ悪竜の頭蓋骨、折れた角、曲がった太い首。全てこの男の仕業なのだ。


 スタスタと、男は早くはあるが、普通の歩き方で歩み寄って来る。

 騎士達にはわかる、この男の腰が全く上下していない事、足捌きが尋常な滑らかさではない事・・・それに加えて悪竜を殺した手口。到底自分達の相手になる代物ではないのだと。

「行くぞ、アローラ。次だ。」と、エルフ族の勇者を呼び捨てにして、まるで命令する様な口調で・・・。しかし、それに異議や文句を言える様な者は、命知らずの騎士にすら存在しなかったのだ。


 ****


 アローラは、今回は騎士や魔術師をノードに残留させなかった。交代の兵士が外に待機しており、それらが駐屯を引き継いだ。

「せめて顔だけでも拭いてよ。凄い格好になってるんだよ。」とアローラは濡れたタオルを渡して来た。俺は栄養補給の為に”ご馳走”を口にして、薬草湯を飲み干した。その後に顔を拭ったのだが、アローラは俺の食事の様子を膨れた顔をしながら見ていた。行儀悪いとか言ってたが無視する。


「”飛翔”はまだ使えるか?」との俺の問いには、「しばらくしたら、魔力は回復するから大丈夫。」との事だった。

「今から四つ目だが、まだ昼過ぎなんだな。」俺の確認に、アローラは「昼前だよ。凄いペースだわね。」と答えてニッコリ笑った。

 このノードで得た物は、悪竜の溜まり場に幾つかの宝箱があった。中身は確かめていないが、竜の護る宝なのだから、結構なものではないかと思う。


 騎士団の替え馬もやって来て、負傷した者の手当ても済んだ。連中は意気軒高で、完勝の喜びに皆が沸いている。

 そして・・・俺が思ってもみない凶報が陣中にもたらされる。


 5つ目のノード、まだフレイアが内部を調べてすらいなかったノードに、エルフ達が勝手に突入したと言う報せが。

皆様からの評価等頂ければ、更にやる気が出る様な気がします。

後、この物語ですが、まだ構想的には冒頭を出ていないとご了解下さい。

先は随分長いと思われます。

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