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第五十二話 カオスノードその2

「一番手前のカオスノードに、先刻偵察隊を送り込みました。入り込ませたのは兵士ではなく”魔力の精霊”でしたが、それも運よく生還できました。」フレイアは複数の精霊を召喚して可能な限りの偵察を行うつもりだと言う。

「アニタに伝令を頼んで連絡致します。配置戦力が判明したノードから攻めて行く事にしますので、遠くが一番最後になると言う事です。この5つのノード以外をまずは攻め落とします。」

「今日中にか?」と言う俺の言葉に、「今日中にです。お互い大忙しになりそうですね。手強すぎると判明したノードは、後回しにしてもよろしいかとは思います。」とフレイアは即答した。

「アローラは何か意見は無いの?」とのフレイアの問いに。「あたしは、エルフの軍勢を消耗するのが前提の作戦には反対なの。あたしとレンジョウが第二陣だとすると、第一陣は全滅覚悟なのよね。それは本当に正しいのかしらね。」との答えだ。


「アローラにせよ、レンジョウにせよ、再生能力を備えてはいるけれど、それでも連戦は堪える筈でしょう。貴方がたが戦えなくなったら、それこそ全作戦が崩壊してしまうのです。最初のノードは、騎士団と弓隊に魔法使い達を同行させます。問題なく排除できると考えています。」

「俺自身は、エルフ軍団の損傷を抑える為なら、別に連戦も我慢するさ。腹が減ると言うのなら、例のご馳走を弁当として持って行けば良いんだろう?」

 しばらくフレイアは考え込み、その後に溜息を吐いて「お心のままになさいませ。」と言うと、「必ずレンジョウ様はアローラと行動を共にする事。これが条件です。アローラは、レンジョウ様がまた倒れた場合は、全軍でノード外に離脱する事を約束して下さい。」との条件が付いた。

「最初のノードの戦力は、昨日戦ったのとほぼ同じ規模の巨人と炎の精霊、それと他にも地獄の猟犬が複数いると判明しています。騎士団と付属の遠距離部隊で対応できるとは思いますが、御二人が参加してくれるなら、更に勝率は上がるでしょう。」

 それで決まりとなった。だが、フレイアはこの時引き下がったが、実際のフレイアの心配は別のところにあった。アローラですらもその事に気が付いていなかった。

 結局、フレイア程にエルフ族の事を知り抜いている人物などいなかったと言う事なのだろう。


 ****


 森の外まで来たが、結構いろいろと前日に比べて変わっている。大量の木材が積みあげられて、何かを組み上げている。完成品に近い何かを見て、あれは投石機なのだなと見当を付ける。

 近づいて見てみると、エルフ達は螺子を嵌めたり、木槌で叩いて角度を調節していたりと、機械の組み上げや製造にも達者なのだと理解できた。本当に多芸な民族である。


 しかし、俺を一番驚かせたのは、投石機の基部に回転可能なテーブルが設置されていた事と、車輪が設置されていた事だ。これは俺の記憶にある中世の投石機を遥かに凌ぐ技術で作られている事を示している。

 そして、台座の横には、計算尺らしき物が取り付けられている。その内に試射が行われて、距離の修正を容易に行えるようにデータが”紙のノート”にペンで筆記されているのも見えた。

”中世どころじゃない。これは下手をすると近世に近いレベルの技術じゃないのか?”と心の中で思う。カタパルトの細かい機構に高度な技術が普通に見えるところが何とも不可解ですらある。


「レンジョウ、そろそろ時間になるの。女王様が”魔法の精霊”をギリギリまで前進させるって。後、これが今までに判明した3つのノードの戦力なのよ。」

 一つ目は今回の標的、二つ目は炎の巨人と炎の魔族を主力とした面倒そうな編成。三つ目は、フレイアが最悪と言っていた”巨大悪竜”が三体含まれた危険な編成なのだそうだ。

「一つ一つ片づけるしかないだろうな。」今はまだ早朝なのだ、焦らずとも日暮れは遠い。


 ****


 部隊の先頭に立ち、相手の動きを見る。後ろの部隊はアローラが直率するのだから、何の心配もない。

「各部隊、自分達が投石の対象だと見れば、その時点で散開して回避なさい。真正面に見える岩は当たるからね。横から眺める岩は外れるわよ。エルフの目なら見えるの。とにかく、岩だけには気を付けて。」

 赤いシミの様な何かが凄い速度で駆けて来る。噂の”地獄猟犬”か?あれが突き進んで行くなら、すれ違い様に俺が倒せるのはほんの数匹って事になる。後ろは大丈夫なのか?


 と思うや、長弓が唸りを挙げ、ほぼ平射の弾道で地獄猟犬の群れに吸い込まれて行く。うん、確かに脆い。数匹が風船の様に弾けて消えてしまう。けれど、まだまだ随分な数が残っている。

「前進するぞ!」とアローラに合図を送る。なるだけ固まっている場所を選び、妨害コースに陣取る。炎の帯が伸びあがり、俺を捉えようとするが・・・”こいつら速いけど、直進しかできないんだな”と見抜いた俺は、すれ違う猟犬の顔面に正面から一撃、横から一撃と二体を叩きのめした。それらは勢い良く破裂して、無害な赤い光を放ってから消えてしまった。


「応!」と叫びがあがり、剣士隊が盾と剣を構える。まあ、大丈夫だろう。ボンボンと、猟犬の死を告げる破裂音が後ろから聞こえる。前にはあの赤い風船が、ダクトがたてる金属音と風鳴に似た”呼吸”を繰り返している。坂道に難渋する鈍行のSLみたいに思える動きで連中は動く。

 真上から見れば、連中は盤面の上を行く直進しかしない”ポーン”に見えるのかも知れない。そして俺は破城槌であり、城兵であり・・・突き進むだけの愚かだが危険な駒に見えるだろう。


 ****


「凄い脚だ!」と長弓兵達が口々に驚いている。「次は巨人を狙うのよ!」と発破を掛けたら、そこでお喋りも中断したけどね。

 レンジョウは凄い快速で炎の精霊に迫ると、まずは正面、次は左右と三体の精霊を薙ぎ倒したの。その後は巨人を狩るために更に前進して行く。

 こちらは弓が一番後ろの端っこ、中央は剣士、一番前の端には鉾槍隊を配置して斜線陣を組んでいる。弓は近付く炎の精霊から、より遠くの巨人に標的を変えた。部隊に投石の被害はほとんどなかった。レンジョウが巨人から集中攻撃を引き受けてくれたのだ。

 彼は空中を飛んで来た頭くらいある岩を、殊更に殴って壊したりもした。あれは到底人間業とは思えないの。


「目標は中央の二体、距離は六〇メートル。撃て!」と指示すると、弓は次々と矢を吐き出した。しかし、こんな連射をしていると後数分も矢がもたない。その後はどうするんだろう?

 私も弓を射た。私の弓は特別製の魔法の弓で、貴重な”幻”の能力が付与されている。その分、威力は低めだし、命中率もそんなに良くない。けれど、この弓で射た矢は相手の防御を完全に無効化する事ができる。もう一つ隠し玉もあるけど、ここでは使わない。隠し玉は連発できないのだ。


 ****


 アローラの恐るべき弓が援護のために飛んで来た。毎度思うのだが、あの射手は何故相手の目を簡単に射貫けるのだろう?

「そらぁ!」と気合を入れて、仰向けに倒れた巨人の頭に稲妻の籠手をぶち込む。

 盛大な悲鳴に続いて、生意気な小人に怒りを燃やした巨人達は、俺を目掛けて右手の剣を振り下ろして来る。哀れな事に、それらは倒れた巨人の胴体や肩に命中してしまう。

「へあぁぁ!」と更に気合を込めて、左側の巨人の腕の方向に対して、踏み込み十分の正拳を見舞うと、感電した巨人は剣を取り落として尻餅をついた。

 どんなに危険でも、巨人の誰かに接近して、取り囲まれるのを防がないと更に危ない。しかも、こいつらは同士討ち上等の間抜け揃いなんだ。


 敢えて放置した右側の巨人に、矢の雨が降り注ぎ、アローラの魔弾がコメカミ付近に突き刺さる。

 俺は尻餅をついた巨人の身体を目くらましに使い、生意気な弓隊に向けて進むか、ここで俺を叩き潰すかを迷っている巨人の足元に肉薄した。

 脚絆を巻いているが、無防備に近い踝に電光を帯びた一撃が加えられて、またしても巨人がふらつき、身体を傾がせた。だからもう一発!今度こそ堪らずに巨人は倒れた。見れば、エルフの鉾槍隊が得物を煌めかせながら前進して来る。


 こうなれば、俺のやる事は一つだ。前回同様、俺は巨人の脚をひたすらに狙い、鉾槍隊は期待どおりに、巨人を切り刻み、突き刺し、反撃を許さずに殺して行った。

 やがて、奇妙な幽霊に似た何かがノードの中に入り込んで来るのが見える。あれがフレイアの”魔力の精霊”なのだろう。そいつが通り過ぎる間に、炎の巨人の躯は分解されて、赤い光となって”魔力の精霊”に吸い込まれて行く。

 最後に、精霊は全ての巨人の躯を分解して吸い込むと、ドーム状の赤い光に溶け込んで行く。

「精霊がノードと融合して行くのよ。これで、このノードはフレイア様の所有物になったと言う事ね。」

 赤い光の柱がドームの中央に生じた。そこには奇妙な何かがあるのを、兵士の一人が発見した。

「何かの宝石に見えます。」と言うが、ここに鑑定を行える者はいない。

「そこの貴方、フレイア様に伝令を申し付けます。迎賓館で待っているアニタにこれを渡して。女王様に転送してくれるから。」とアローラが命じ、革袋一杯の重い荷物はフレイア宛に転送される事となった。


「他の者達は、しばらくこのノードの周囲で待機するの。警戒を怠らない様にね。」と兵隊たちに呼び掛け、「レンジョウ、二番目に行くの。この調子だと七つとも今日中に接収できるかもよ。」と呼び掛けて来た。俺は頷いて、アローラと共に駆け出した。


 ****


「これは・・・。」フレイアは届けられた品を改めてみた。幾つかは普通の魔力のクリスタルだ。凄い量のマナが含まれているが、それだけと言えばそれだけの品だ。しかし、最後の宝玉は・・・。

「魔法の回路が含まれている。と言う事は・・・魔法で解析して、その回路を自分の魔法書に連結する。多分、知らない魔法なのだろう。いや、それどころではなかった。

「違う、これは”技能の宝玉”ですね。こんな貴重な物が・・・。」その瞬間に、その宝玉に込められた技能がどんなものかが理解できた。


「付与術師の技能?」どんなものかは理解できるが・・・それと同時に”神器創造”の魔法を自分が手に入れた事も魔法書を見て理解できた。これは、どんな手段を使ってでも、ノードの全てを制覇する事が必要なのだと知れた。

 それ程強くないノードに潜んでいた魔道具すらこの実入り。これを敵対する国の者に渡すなど論外だ。


 ****


「あれは何だ?」前方に浮かんでいる奇妙な人影。下半身は燃える炎で、上半身は人間に見える。ただし、サイズは人間の大きさを遥かに超えているが。

「イフリート、炎の魔族なのよ、面倒な奴だわね。」と言うアローラの言葉の意味を俺はすぐに理解できた。相手が先手を取って来たからだ。

「あ!やられたの!私の矢筒の矢が全部曲げられてしまった!」そう、木製の矢みたいな真っ直ぐに作られた工芸品を、連中は使い物にならなくすることができる。

 矢筒の外に出ている部分を見ても、これでは目の前の敵にも当たらないだろうと理解できる。


 次は俺が狙われた。炎の弾丸が飛んで来て、俺にぶつかって何時かの様に無害に飛散した。

 今回の戦いでは、アローラの援護は期待できないと言う事だ。そんな訳なので、通常の手順として、俺は突撃した。それ以外に俺にできる事があるのだろうか?

 前に居る炎の魔族は五体程。そいつらは思い思いに魔術や炎の弾丸を放って来たが、それ程の魔法の使い手では無い様で、すぐに種切れとなった。

 後ろから聞こえる悲鳴や怒声から、そこそこの損害が生じているのが理解できるが、今はそんな事を考えている時ではない。目の前に唐突に炎の精霊が出現したが、こんな連中が何の役に立つのだろう。ただ走り抜けながら俺は精霊を破裂させ、炎の魔族の所に殺到した。

 連中は太い腕や、口から吐く短い炎で逆襲して来たが、それで恐れ入る様な相手以外には、ほとんど虚仮脅かしにしか過ぎない。巨人より小回りが利き、頭は良いが、腕っ節では巨人がずっと上手だったし、凶暴性が随分と足りない様に思えた。


 驚いたのは、アローラが剣を抜いて俺の後を付いて来ていた事で、小柄なアローラからは想像できない力強い剣の舞いで、次々に魔族は倒されて行く。後ろに控えた巨人も

 シュリと比べて、剣では劣っていると見ていたが、こいつの強さはもう少し上方修正しておくべきかも知れないと思った。胸と女らしい体形はどうにもならないだろうが。


 ここでもノードは占領される運びとなり、戦利品は宝箱に入ってたのを、俺とアローラが発見した。

 それは呪文の書かれた魔法の巻物だった様だ。後はクリスタルと、水晶でできた貨幣の様な何か。


 ここまでは順調だった。しかし、次の戦い以降、俺達は勝手が違う事を思い知らされる。

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