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第四十八話 フレイアは語る

「話して欲しい。全てをだ。何故俺に抱かれたいのか、まずそこからだ。」俺は疑問に思った事の筆頭から口にしてみた。

 正直、多少線も身体も細すぎる感じはするが、エルフは男女とも美形揃いだ。何も俺の様な人間を愛人にする必要はない筈である。

 思い当たる節としては、エルフが嫉妬深いと言う線である。女王を独占する男は許さないと互いに思っていても不思議はない。ただ、それだとあの性戯の手管をどこで習得したものかが疑問になるのだが。


「順を追ってお話します。まず、貴方様がこの都に赴く際に遭遇した幻術の罠の数々を思い出して下さいまし。父母が森に付与した大魔法とは、許された者達以外を森の外に出さず、許された者達以外を森の中に招かない為の術なのです。この術は、”空中楼閣”と言う、空を飛ぶ者達以外を都に立ち入れぬ様にする術の変形なのです。世界樹もその時にできた”変化した地形”であり、元来存在しなかった魔法の産物です。父母はそれを更に敷衍させ、空からも出入りを禁じる様に術を改変したのです。」お、おう・・・。最初からその魔法がどんなものかわからない俺はダメな奴なのか。

「その作用は二つの効果を及ぼしました。一つは人間が森に入る事を完全に遮断した事。もう一つはエルフ達が人間を殺しに森の外に出る事を阻止した事です。両方ともがお互いの為であったと思います。特に、頭に血が昇っていたエルフ達が単なる殺人種族に成り果てる事を阻止できたのは幸いな事でした。少なくとも、エルフ達は往年の穏やかな生活を取り戻しました。しかし、それから500年が経過し、新たな問題が生じた事が発覚したのです。」


「それは、徐々にこの大陸、あるいはアルカナス世界全域でカオスのパワーノードが活性化し始めた事が発端でした。以前のカオスノードが消失し、この森を取り巻く様に凄い数のカオスノードが新たに出現し始めたのです。その中にいる怪物たちは非常に強力で、エルフの総軍としてもおいそれと手出しする事ができない規模となっています。とりわけ、現在起きている異変を打ち明けているのは、エルフの内のごく少数で1000人程の兵団の長と戦士や魔法使いたちに限られています。」

「エルフは変化を嫌います。穏やかな森の中に隠れ住む暮らしに慣れたのなら、そこから出たがる者も居ないのです。今はまだ、兵団がカオスの怪物を食い止めてくれています。しかし、数年後はどうなるのかわからなくなっています。そして更に・・・・南方でも異変が起きています。」


「今はトラロックが食い止めてくれていますが、そこでは死の魔力が濃厚となって来ています。フレイアはトラロックとの話し合いの末にとある仮説を立てたのでございます。つまり、今この世界に起きている異変は、過剰な形で緑系統の魔法を行使し続けた、このエルフ達の住まう森の魔術が原因ではないのかと言う仮説を。」

「緑系統の魔法に”大自然の怒り”と言う術がございます。世界の理を大きく改変しようとするカオスとデスの魔力を付与された都市に、自然力の均衡を強制する術なのでございます。その結果は、カオスとデスの魔法行使を行う都市に対して、自然力による大きな地震や地形の変化と言う揺り返しをお見舞いする次第となっております。まるで複数の振り子同士をぶつけた様に、それは一定の周期で起きるのでございます。」フレイアは言葉をそこで切った。

「きっと、生命の成長を司る緑の魔法であっても、世界に無理を強いれば、揺り返しは死と混沌がやって来る。そう言う事なのだろうと。」


 ハラリと、白い頬に透明な水滴が流れた。男たる者ならば心臓に一撃を覚えずにはいられない、そんな光景だった。

「父母はこんな将来を予想してはおられなかったのでしょう。そうでなければ、別の道を模索しておられたでしょう。ただひとりの娘としては、父母の命を懸けた種族への献身を思えば、真に本当に申し訳ない気持ちとなります。それでも、情に溺れて父母の思いに応え続ける事は、この世界に大きな危機をもたらすのだと納得せざるを得ないのです。ですから、フレイアは森に掛けられた大魔法を解除する事を決意しました。」

「貴方様に御すがりしたいのは、その解除のためのお助けをお願いしたいと言う事なのです。」


「・・・・・・。」いや、俺には魔法なんか全然使えないのだけれど。

「貴方様は、この世界に来られた際に、”魔法免疫”の異能を備えておいでになりました。その力をフレイアに使わせていただきたいのです。」なるほど・・・・。

「俺が備えていると言う”魔法免疫”と、あんたが行う魔法の解除は何か関係して来るのか?」

 その瞬間、フレイアは口を突然に噤んだ。異様な雰囲気が漂うが、やがてフレイアは口を開いた。


「フレイアは、森に掛けられた魔法の中心となっているのでございます。魔法はフレイアを”核”として森に拡散して注がれております。本来ならば莫大な魔力を消費する筈なのが、おかげ様で何の負担もなく術は数百年間を経過しても魔力がほぼ全て循環し続けているのでございます。ただ、世界は森の魔法が生じる”歪み”のせいで、いずれズタズタに調和が引き裂かれてしまうでしょうけれど。」肩を震わせながらフレイアは続ける。


「フレイアは、父母から術の”核”として選ばれた際に”性魔術”の手解きを受けました。」ジッと俺を見つめる視線が痛い。

「そうです。貴方様に使った手管もその一部。穢らわしいと感じる向きもあるでしょう。しかし、フレイアは種族の存亡を担う者であり、その肩に重い荷を背負わせた父母は、まさに種族の為に命を捧げたのでございます。」

「父母はその秘伝と工夫、全ての知恵と力を振り絞って大きな世界の危機を回避しようとしたのです。だから、後を継ぐ事となったフレイアは、そんな父母を誇りに思います。」

「もう良い。十分だ。」俺はフレイアの手を取った。

「俺にできる事ならば、何でもしよう。」それで決まりだった。


 ****


 もう、必要な事は聞けたと思う。後はフレイアと今後の段取りを話し合ったが、必要な事は3つあるのだとわかった。あるいは、辛うじて理解できた。


「まずは、森に掛けられた術の一部を解除致します。それにより、森の周辺に出現したカオスのパワーノードの力が常識の範囲内に弱体化する事でしょう。しかし、それでめでたしとはなりませぬ。」そう言って、フレイアは眉をひそめた。

「お話しましたとおり。赤系統のパワーノードが周辺に12個も生じてしまったのは、行き過ぎた緑系統

の魔法の力による世界の歪みからです。”大自然の怒り”が赤系統や黒系統の都市魔法に反応して、自然力の揺り返しをぶつけるのと同じく。術が一部でも解けたなら、カオスの力は森に侵入して破壊を及ぼそうとするでしょう。」

「エルフ達には、森の魔法がどんな作用を世界に及ぼしているのか。森の魔法を解けばどうなるのかを説明した上で、その総力で臨む必要がありまする。」これが第一段階の手順だ。


「次に、パワーノードを、フレイアの”魔力の源”と結びつけて、魔力供給源とします。そのためには、パワーノードの内側に潜む怪物どもを全て駆逐する必要があるのです。でなければ、ノードに融合させるべく召喚するだろう”魔力の精霊”が、融合前に破壊されてしまうからです。”カオスの国”の者共にノードが占領される事は、非常に不利な将来の状況を招きかねませぬ。幸いな事に、フレイアは”ノード支配”の技能を有する大魔術師でございます故、ノードの魔力に干渉されずに占領部隊を掩護できるのです。」これが第二段階の手順。


「最後に、森に掛けた魔術を”空中楼閣”を除いて完全に解除致します。そうなれば、カオスの者共と結託したフルバートの軍勢も森に侵入可能と相成りまする。そうなった暁には、挟撃を避けるためにもフルバート伯爵の排除は喫緊の課題となる事でございましょう。そもそも、あの街がカオスの軍団の出撃や再装備の拠点となった日には、この森は一日たりとも平穏では済まないものと思料しております。」これが第三段階の手順だそうだ。


「第三段階の実行に移るためには、俺たちが一度ノースポートに帰還する必要がある。第一段階から第二段階までは、アローラ達と共に、俺もノードの怪物どもと戦う必要があるだろう。必要な条件はこんなところかな?」と俺がフレイアに尋ねたところ、まだ必要な条件があると言う。

「他に何が必要なんだ?」俺にできる事は、人間だろうと怪物だろうと殴り倒す事だけだ。しかし、恐竜並みの大きさの怪物に人間程度の大きさの生物が何をできるとも思えないのだが。

「第三段階の魔術の解除に際しては、レンジョウ様にもフレイア同様に”性魔術”の奥義を会得して貰う必要があると思えます。」と、フレイアは顔を赤らめて説明してくれた。


「俺に魔術を会得しろと?そもそも、俺に魔力なんかないだろうに?」アリエルのノートにも、俺が魔力を使えると言う記述はなかった筈だ。

「呪文や魔力の供給はフレイアにお任せ下さい。それよりも、レンジョウ様にお願いしたいのは、フレイアを少しでよろしいから大事に思っていただきたいと言う事です。それだけで十分なのです。」と頭を下げられてしまった。

「はあ・・・・。」ノースポートの魔術師の塔に置いて来たラノベの文庫本。その本にはここまで面倒な事件が起きるとかは書かれていなかったような。


 いや、書かれていたのかな。俺が真面目に読んでいなかっただけで。

 しかし、こんな相談を受けたなら、相手が男でも女でも子供でも・・・。

 臣民達の安寧とより良い暮らしを求めて立ち上がるアリエル、種族それ自体の存亡を担うフレイア。二人が二人とも見捨てておけるか!


「じゃあ、練習をしようじゃないか。俺もその魔術とやらを習得しないといけないんだろう。奥義まで・・・。」と言うと、俺はフレイアに近付いて、両腕で抱き上げた。

「まずは、この館の中を案内して貰おうか。どこに何があるか知らないんだからな。」俺の腕の中で、フレイアは恥ずかしそうに頷いた。


 俺達はまず厨房で軽食を作って食べた後、次に浴室に行き、そこに夜が更けるまで一緒にいた。

 本当に、この館の中で起きた事は外部には漏れないのだろうか?フレイアの挙げる声を聞きながら、俺はそう思ったものだ。

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