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第四話 稲妻の籠手

 俺はボストンバッグの口を開いた。衣類、歯磨き用具、タオル、その下には・・・・。

「なんだこれは?」そこに入っていたのは2個の金属の筒、手袋部分の金属細工があるから一対の籠手(こて)・・・に見える何かだった。青く燐光を放ちながら、それはバッグの中に鎮座していた。


「こんなものは、俺の手荷物の中には入っていなかった筈だ。」籠手は重量としては軽めで、それほどの角も立っていない、至ってシンプルな装飾品に見えた。しかし、それを見つめる3人の視線はある意味とても神妙なもので、俺としては居た堪れない(いたたまれない)気持ちになった。

「少し拝借してよろしいでしょうか?」アリエル姫が俺に伺いを立てた。嫌やはない訳で、籠手はアリエル姫の白くたおやかな手に握られた。瞬間、青と白に籠手の周囲が細かく輝き、ダイアモンドダストの様に空間が煌めいた。

「これは凄い・・・・。凄いアイテムです。」アリエル姫は俺に籠手を返しながら呟いた。「これは装飾品ではありません。武器です。しかも高性能の武器です。」


稲妻の籠手(武器)

打撃力修正+6

命中率修正+3

稲妻(相手防御半減)

加速(2回攻撃+移動力倍増)


 アリエル姫はノートに淡々と武器の緒元を書き連ねて行く。

「姫様の見立てが正しければ、この武器は最強に強化した戦斧の打撃力と、最も鋭利に仕立てた長剣の命中率を兼ね備えていると言う事になります。古今、これほどの接近戦用の武具は耳にした事もありません。しかも加速と稲妻とは・・・その二つが備わった武器は伝説の中にも存在しません。」ザルドロンは多少混乱した様子だ。


 6つの瞳がジッと俺の事を見ている。俺は心の片隅で、この籠手をバッグに差し込んだのがこの三人の中の一人、あるいは全員がグルなのではと思っていた。

「勇者と言うのは、どんな出現の仕方をするのか、俺は知らない。強力な武器を携えて、世界の危機を打倒するためにやって来たりする勇者も・・・・。」そんな俺の言葉をシーナが遮った。

「そんな都合の良い存在が勇者なら、私たちは毎日、他の全てを投げ出して、勇者召喚だけを唱えているでしょう。」こちらの方を見もせずに、シーナは決めつけるだけ決めつけて黙ってしまった。


「儂から説明しよう。実際、レンジョウ殿が召喚円の六芒星の中に浮かび上がった時、儂は驚いたものだったよ。君は服を着て、横になりながら実体化した。本来、我々”勇者”と言うのは生身の存在ではない。”勇者の原型”と呼ばれる魔術で触れられるアカシックレコードがあり、それを呼び出して、魔力を注いで実体化させる。それらの原型との接触を我等は基本的に選ぶことができない。実体化した”勇者”は、常に衣服すら着ないで出現する。だから、君がやって来た時にシーナは衣服を用意していたのだよ。」ザルドロンは簡単にそう説明した。


「加えてですが、出現したばかりの英雄には、自我や記憶に関する情報が欠落している事が多いのです。ザルドロン様にしても、召喚後数週間は口もきかず、お食事は食べるものの、指示以外の事はなにもなさいませんでした。ただ、”賢人”としての資質は最初からお持ちでしたので、研究に関する質問等は正確に答えて下さりました。しばらくすると、普通の人と同じように受け答えを始め、今では一人で大学一つ分の研究をこなす大賢者様にお戻りなさった訳です。」その後はシーナが続け、最後にアリエル姫が締め括った。


「認めましょう。今回の英雄召喚では、何か不測の事態が発生したのです。そして、異世界の命あるお方をここに招いてしまった。そして、その方は神からの賜りものとしか思えない、異形の強力な武器を携えて来られた。そう言う事なのでしょう。」彼女がそう言った後、誰も何も言わなかった。俺も同じだ。あまりにも理解不能な事ばかり。

「レンジョー様は、勇者ではない。したがって、わたくしとの間に魔法による主従の絆は結ばれていない様子。ただ、わたくしは貴方の状態その他を感知できますし、幾分かの共感も感じられます。ごく緩い何かの結びつきが私と貴方との間にはあるようです。それがどんなものかは詳細がわからないのですが。」彼女の美しい声は、まるで天上の音楽のように聞こえた。主従の絆とはどんなものかわからないが、そんなものはなくとも、俺は彼女の言う事ならば何でも聞いてしまうのではないだろうか?

 しかし、それでも、俺は彼女に聞かずにいられなかった。


「俺から一つだけ質問がある。召喚された勇者を元の世界に送り返す方法はあるのか?」俺の質問に答えたのはザルドロンだった。

「本来、勇者召喚とは”この世界の中”にある”世界の記憶”に触れる事であり、異世界に手を伸ばす魔法ではないのじゃ。儂の知る限りでは、異世界との交通を行う魔法は最初から存在せんのだ。貴殿を呼んだ事でさえも、これは前代未聞の出来事であり、送り返すとなると更にな・・・。」最後の方は申し訳なさそうに下を向きながらだった。

「どんな経過であれ、レンジョウ様はこちらに来られて、招かれてアリエル姫の臣下となり、その力を揮う。それではいけないのですか?」シーナは幾分憤然とした様子で、俺に詰め寄った。迷惑極まりない。


「おやめなさい、シーナ。レンジョー様を困らせても仕方ありません。」アリエル姫は佇まいを正した。

「先ほども申し上げましたが、とりあえずは客分として、この国にお住まい下さいませ。また、先生には何故レンジョー様がこちらの世界に来る事になったのかの原因調査をお願いします。シーナはレンジョー様の付き人の選定とお部屋への案内を。今宵はこれにてお開きと致します。」

 全員、起立して、アリエル姫に一礼した。俺もそれに倣った。

「客分の件はわかったよ。そうする。」「仰せのままに、姫様。」「では、こちらへ。」


 しばらく廊下を歩くと、シーナは目的地の部屋を手で指し示した。「こちらが今宵からのレンジョウ様の宿舎となります。」そこで言葉を区切ってから、俺をほとんど睨みながら「アリエル様をお助け下さいませ。貴方にはそのための力があるのですから。」そう言って気を付けの姿勢を取り、深々とお辞儀をした。「ではおやすみなさいませ。ごきげんよう。」

「おやすみ。」俺は短く答えて部屋の中に入った。そこは豪華ではないが、趣味の良い部屋で、中央のテーブルには、シーナの署名入りの部屋の使い方が事細かに記された巻物が置かれていた。

 俺はその性格丸出しの細かい文面を何度も読み直しながら、何故自分がこの見慣れない文字をスラスラと読めるのだろうかと。そんな事を考えながら、しばらく物思いにふけっていた。

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