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第二十五話 ラナオン到着

 ****


 ファルカン定期連絡


 ヘルズゲイトの街で、勇者様は盛大な歓迎を受けたり。

 宴の日の協議会にて、勇者様は力試しに挑戦され、見事成功し、現地住民を熱狂させる。

 そのほか、使節団の面々は、宴の後遺症で、本日通常の任務遂行に甚大な支障を生じる。

 いたく反省するもの。


 ****


 私はファルカンの報告書を読み、身体の震えを止められなかった。

 そうか、そうかそうか。レンジョウは、力自慢コンテストに参加したか。

 私の一生の不覚は、ヘルズゲイトの宴でナイフ投げに挑戦し、全弾命中させた事だった。

 おかげで、それがトラロック様に伝わり、ああ、あの時の歓待だけは・・・・一生の汚点だ。


 レンジョウ・・・あんたも同じ目に遭うのよ。思わず、口元がニヤリと捻じ曲がるのを、私は自制できなかった。


 ****


 フォーウィーまでの道のりは、険しい山の上にしっかりと引かれた美しい街道を登って行く道のりだった。はるか遠くに見えるフォーウィーの街への旅路は、天界に登って行く様な錯覚すら覚える、そんな道のりだった。


「こんな高い山の上なのに、それでも水が湧くんですね。」とファルカンは驚いている。そりゃあ、人間の住む場所には必ず水が必要だ。しかし、フォーウィーの街は、更に高い山に囲まれている。その高山からの水がサイフォン現象でここらに湧き出しているのだろう。

 そう言えば、コンクリート打つ時に、サイフォン現象で降りて来た水のせいで何度か施工失敗したよな・・・。と、以前の仕事を思い出して感慨に耽ったりもしてしまう。

 ファルカンは、サイフォン現象についての俺の説明をメモに取っている。この世界では究明されていない現象なのかもね。


 ヘルズゲイトの戦士団がフォーウィーの街の外郭(これが周囲3kmにもわたる巨大な城壁だったりするのだが。)の門の一つに大声で呼び掛けた。大きな門が開き、俺たちは街の中に招き入れられた。


 フォーウィーの街は、ラナオンの街の出城から発展した城塞都市で、ここからラナオンまで徒歩で1日の行程だと言う。遂にやって来たのだ。ラサリア国内と国境での最初の1週間は地獄だったが、その後のメソ・ラナオン国の2週間は天国の階段を登る様な神秘の旅だった。

 願わくば、このまま平穏な旅が続きますように・・・と言うのは甘いか?


 フォーウィーの街で振る舞われた食事は、ヘルズゲイトの街の食事とは全然違った。豆中心で、スパイスを使い、カレーとも違う不思議な味付けがなされているのだ。俺は興味もあり、厨房の中を見せて貰った。

 そこにあったのは、巨大な鉄製の調理器具で、ボルトを締めるゴツい機械が据えられている。その下にはコンロがあり、薪が燃やされていた。


 なるほど、ここは高地だ。湯の沸点が低いのだ。だから、これは・・・「圧力鍋なのか?」ここらの料理では、いろいろと圧力鍋が使われているに違いない。

 してみると、この繊維の様な細いのは、鶏肉とかが圧力でバラバラに解けたものなのだろう。「魔法世界でも、いろいろな機械があって、いろいろな生活様式があるもんだね。」と驚く事しきりである。


 その後の旅路は、却って山を降りて行く道が多くなった。相変わらず、馬車が余裕で通れる山道の綺麗な街道を、俺たちの一団は歩き続ける。フォーウィーの街では、俺たちのために大きな帽子と、身体に巻き付けるポンチョの様な上掛けが支給された。高地の直射日光を避ける帽子であり、吹き付ける水滴(ここは雨が降らない。雲とほぼ同じ高度だから。)を防ぐ衣装なのだそうだ。


 そして、遂にラナオンの街が見えて来た。

 ラナオンの街は、ほとんど崖の上にある平らな出っ張りの様な地形で、周囲に城壁はない。

 しかし、その張り出し部分は相当な広さであるようで、巨大な神殿らしき建物も、小さくみえてしまう。そこには素晴らしく計算された街並みと、何等かの敬虔な宗教的なフレーバーが無理なく溶け合っていた。

「私は以前の巡礼以来ですな。もう15年もラナオンを訪れておりません。近いのですが、軍務が忙しいもので。」と戦士隊の隊長が懐かしそうに笑っていた。

 街の端にある、奇妙な塔と、地面一杯に敷かれた大きな石造りの複雑に刻まれた文様はなんだろうか?あれは相当な大きさに見える。聞いてみたが、戦士隊の隊長は言葉をはぐらかした。「あれは近くで見て、利用して、初めて意味がわかるものですよ。きっと、貴方も驚かれると思います。」


 実はそれこそが、シーナの言っていた歓迎と密接に関係した建造物だったのだが、その時の俺は理解できていなかった。


 近づくにつれて、俺が思っていたよりも、ラナオンはずっと巨大な街であるのだと判明した。全く、恐るべき威容の街だ。中央にある魔術師の塔が、実に小さく見える。多分、ノースポートの魔術師の塔と同じく、50メートル程の高さがあるのだろうが、他の建物も実に大きい。大聖堂、魔術師ギルド、驚くべき規模で建造物が立ち並んでいるのだ。


 市内に入る前の検問所で、我々は入城の審査を受けた。もちろん、軽く通ったのだが、それよりもだ・・・。

 そこには、背が高く、上半身はほぼ裸で、頭に羽毛と赤銅の冠を着けて、身体に比べて非常に小さな杖を持ち、豹の腰布を付けた凄く逞しい男が立っていたのだ。

 紹介など必要ない。これは・・・・。

「トラロック様!我らが神よ!」ヘルズゲイトの戦士団が全員膝まづく。

 俺も思わず膝をついて、頭を下げた。爛々と光る両目が、俺をじっと見つめているのがわかる。


「ようこそ、我が都に。我こそは、この都の主、雨と豊穣の神の子孫であるトラロックだ。面をあげよ、勇者殿。汝は我に膝をつく必要はない。アリエル姫以外に汝の主はおらんのだ。それを忘れるな。」彼は、自らの手で、俺の身体を起こし、横に立たせた。俺よりも頭が随分高い。


「さあ、今日のこの日を祝おう。汝がヘルズゲイトの競技会で立派な成績を上げた事も知っておる。その褒美を遣わそうではないか。」この言葉を聞いたなら、シーナは笑みを隠せなかっただろう。

「まずは我が宮殿である塔に案内致そう。明日の朝、皆で見て欲しい景色もあるのじゃ。ささ、参られよ。」気さくで飾らない神の末裔トラロック。その日から、彼の我々への歓待が始まった。

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