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第二十四話 ヘルズゲイトの宴

 いかん、頭がまだボーっとしている。こんな事は今までなかった。何かおかしいが、何がおかしいのかはわからない。

 しかも違和感を肉体に感じる。弱ったのではなく、強くなったようにも思える。身体が奇妙に軽いのだ。


 散々、昨日は朝食を食べまくったのだが、みんなで寝てしまったため、昼食抜き、そして、夕食は三人の美女が昼過ぎから作ってくれたビュフェ形式の立食パーティとなった。

 切子細工の入った瑠璃色のグラス。見事だ・・・。それを持って、あちこちを回って行く。今日は例の礼服を俺も着ている。靴も見事なブーツで固めている。


「男前が何段かあがりましたね、レンジョー様。」キャサリンがそう言ってエール酒を注いでくれる。

 しかし、この街の男って赤毛が多い。女の人もだけど。何か理由があるんだろうか?隣町のバーチに赤毛が少ないのを考えると、何か理由があるとしか思えない。


「レンジョー様、ようやく落ち着いてお話しできますね。市長として感激です。」市長のサランベル氏が俺に挨拶して来た。いや、本当に無作法な入り方したものだと反省している。

「ここに来るまでが大変だったもので。無作法の数々、お許し下さい。」と言うと、「武勇伝の数々をうかがいましたが、なかなかに手強い敵がおられるようですな。我々はラサリアの同盟国とは言え、内政に干渉する事は可能な限り避けたい。最後の手段と言う事でしたら、ヘルズゲイト在住の兵団でもお役には立てるでしょう。しかし、その後にラサリアが独立できないと言う事になると、我らの手助けは侵略だったと後世の者たちに謗られる事になります。おわかりですな。」そう、皆同じ事を考えているのだろう。


「私も市長と言う前に、軍団の長なのです。いざとなれば、市民と同盟国の為に死ぬ事を恐れない。それでなくては、ヘルズゲイトの市長にはなれないのです。そんな男から見て、今のラサリアに蔓延る悪は許しがたいものです。バーチも酷いものなのでしょうけど、それよりもフルバートの方が問題ですな。」いきなり・・・この市長は凄い事を切り出して来ているぞ。まあ、俺たちの道行きについて聞いてしまったのだから、そう言う事も考えるのだろうけど。


「いずれにせよ、我々の隣国はラサリアであって欲しいのです。トラロック様もそう公言しておられますし。アリエル様の補佐を、今後ともよろしく願いたいものですな。」ふむ・・・緩衝地帯としてのラサリアは重宝であると言う事なのか。しかし、流石軍事大国、頭の中は軍事の事で一杯の人が多そうだ。それにしても、本当にこの国の人たちは正直に思える。だからこそ、アリエルはこの国を安牌だと言ってたのか。


「さあ、生臭い話はここまでです。貴方様は、我々が裏表ない同盟国だと納得して下されば、その後に間違いはありませんとも。それよりも、明日の昼に行われる大協議会。外交使節団来訪をだしにして・・・ゲフンゲフン。いや、外交使節団に対する深い敬意を表するため、我らの国の若者たちが、その肉体に宿る力と妙技を競う祭典なのです。是非ご観覧下さいますよう、伏してお願いいたしまする。」いや・・本音出てるよw お祭り大好きなんだな、この街の人たちは。ともかく、明日を楽しみにしよう。

 俺は、その時奇妙に楽天的になっていた。緊張が切れた反動なのか、それとも・・・。ただ、身体がウズウズとうずいているのはわかる。俺はその晩、ぐっすりとまた眠った。


 ****


 朝から凄い騒ぎだった。外壁の外側では、火薬らしいものが凄い爆発音を立てている。硫黄の臭いやらも凄い。長い棒の上に幟が立てられ、大声で叫ぶ若者たちが通りを練り歩く。子供たちや女たちが男どもに花を振り回したり、投げたりつけて大騒ぎしている。次は見事なスタイルの女性たちが、色とりどりの衣装で飾り物を手に手を振っている。勝利の女神たちなのだそうだ。つまり、レースクイーンみたいなものなのか?


 巨大な石臼みたいなものが引かれて行く。半裸の男たちが引くその大きな石臼は・・・突然その石臼から炎が噴き出て、轟音と共に、硫黄の香りが充満する。喉が痛くなるような凄い代物だが、これは大昔にこの街の近くにあったマジック・ノードと言う魔力の噴き出る間欠泉みたいなものをかたどっているらしい。

 カオスのマジック・ノードは、沢山の魔物を生み出し、近隣の街に大きな被害を与えたのだそうだ。それを防ぐため、野蛮人と呼ばれたヘルズゲイトの入植者の先祖たちが、ここに強大な城塞都市を作りあげ、その後にノードが消滅するまで、何百年もの間、メソ・ラナオンの防人として活躍したのだそうだ。


 と言う話を聞いてみると、つまりはこの街がヘルズゲイトなのではなく、地獄の門の様なものから、他の街を守り抜くと言う決意がこの街の名前になっていたと言う事なのだろうか。実によくわからないセンスである。


 さあ、祭りが始まる。「さあ、ヘルズゲイトの若者諸君。今年は祭りが少し早まったが、気候も良く、収穫も豊作で、しかも街の人数も大きく増えた。平和は良いものだ!しかし、我々は先祖の武勇を忘れてはならないのだ。今年も競い合い、誉れを手に入れるが良い。さあ、始めるぞ!」凄い人数の”応”が入り、競技が開始された。


 まずは槍投げ。これがレベルが実に高い。遠くに飛ばすのではなく、人型の各部分に得点があり、それの合計で勝敗が別れる。また、城壁に設けられた高さ15メートル程の怪物を象った標的を狙う競技もあった。助走はつけず、その場で踏みとどまって投擲する難易度の高い競技だった。

 成績上位は、ほぼ全員が職業軍人なのだそうだ。


 次が障害物競争・・・・みたいな何かで。回転する棒や、足場のある傾斜した木の板、綱渡り、足を払う棒などを高い場所に設置して、落とされたら失格で、下に張った縄や布の中に落下するようになっている。こう言うのをテレビでやってた記憶があるが、もう思い出せない。

 ぶっちゃけ、観客たちは、挑戦者の失敗の方に興味があるようだ。無念の叫びをあげながら、落下して行く選手たちに皆が惜しみない拍手を与えていた。


 他には、ナイフ投げの競技があり、これは制限時間内に傍に置かれたナイフをいくつかの的に順番に投げ続けて、得点数を競う競技だった。妙義の数々に、観客たちは燃え上がった。


 最後が力自慢勝負。これは凄い盛り上がりで、だるま落としみたいに積まれた大きな石のオブジェを、5メートル隣の台座に反対に積み直すと言う競技だ。

 台座には正しく刺さないと第一段目の石は倒れてしまう。二段目三段目はそのまま置けば良いのだが、四段目は自分の頭位の高さまで持ち上げて据え付けないといけない。

 皆は固唾を飲みながら、競技を見つめている。下手な声援をして、選手が怪我をするのが怖いのだ。これも経過時間で最終的に得点数が決まる。


 最初から、力自慢のレベルは高かった。2メートルを超える巨人みたいな選手が挑み、四段目の設置に手間取って、最後は棄権した。

 次も偉大な肉体の赤毛の男が挑み、盛り上がる筋肉が遂に挑戦を成功させた。観客は大拍手で、男はふらつきながらも、盛大な拍手と喝采に応えていた。

 三人、四人、五人、失敗が続き、六人目が辛うじて成功させた。失敗した者にも、観客は大きな拍手を与える。この点、実に皆マナーが良い。

 七人、八人目で三人目の成功者、九人目と十人目は失敗した。全員、来年の挑戦に向けて身体を鍛える事だろう。

「レンジョー様・・・。」サランベル氏が、近くに寄っていた。むむむ。

「挑戦してみませんか?」ほら来た!悪魔の誘い。

「いやあ、無理ですよ。俺には・・・。」「やりたそうにしてましたよ。」そうか、そうでしたか。


 上着を脱いで、上半身裸になり、気合を入れる。「今回の外交使節団の一員、レンジョー様が飛び入りで力試しに挑戦します。皆、盛大な拍手を!」もう、耳が痛くなるような拍手で。おもむろに歩いて・・・一段目。

 持ち上がった。多分、100キロくらいある重さ。そのまま歩いて、ひっくり返して・・・台座に嵌った。ここで盛大な歓声。見れば、ファルカンが両手を振って大騒ぎしている。

 二段目。これも重いが・・・・。そのまま降ろす。歓声を背にして、三段目に走る。持ち上げて、更に運ぶ。これも成功。

 四段目、これが一番曲者だとわかってる。全員ここで失敗してる。引き抜く、一段目と同じくらい重い、それを腕力で頭の上まで持ち上げて、必死で5メートルを移動する。足なんか全然持ち上がらない。ヨチヨチって感じで歩く。前に重心があるから辛うじて動けるけど、歩幅が小さいので凄く途中が長い。

 最後は手首が死にそうだったけど、そのまま肘を落として台座に嵌める。成功!


 突然割れんばかりの男たちの歓声と、小さな子供たちの黄色い声の合唱、女たちの祝福の歌声。俺たち使節団はヘルズゲイトでその晩、信じられないくらいの歓待を受けた。


 いや、後悔してます。呑み過ぎました、使節団の全員が全員です。俺も凄く頭痛い。ファルカンなんか、座席に横たわって頭に濡れた布を当てて唸っている有様で。

「では、お気を付けて!ヘルズゲイトからフォーウィーとラナオンまでの間は、護衛の戦士団を付けさせていただきます。道中の安全を市長の私がお約束いたします。」サランベル氏がそう請け負ってくれるが、今の俺のコンディション的には、もう少し小さな声が嬉しかったんだが。


 ****


 遠くに去って行く一団を見つめながら、サランベルは物思いに耽っていた。


”此度の施設と共に来る若者は、我らと汝の運命の男である。オラクルのお告げには、神の子孫たる我も謙虚であらねばならぬ。”

”汝は迷いを捨てねばならぬ。かの運命の男の危機の際に、汝は決断を下さねばならぬ。この事、ゆめ忘れるではないぞ。”


 そうですね、私は・・・私はかの運命の男を心から好きになりました。それで良いのでしょう、きっと今はそれで。

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