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第二十三話 ヘルズゲイト

 バーチの街を出てから4日目の昼下がり。緑滴る丘を登りきると、そこには白い城壁に囲まれた森の街が見えます。その後ろに果てしなく続く巨大な山々の屏風の下に、目的地の街ヘルズゲイトが。


「勇者様・・・ようやくですね。」

「ようやくだ・・・・。」流石の体力絶倫である勇者様も、ほぼ不眠で過ごす4日間は相当堪えた様子。

 我々には休みを取らせて、自分だけは休まない。何と言うか申し訳ありません。


「俺は、街の宿で休むぞ。済まないが、先に宿を手配してくれ。もう、限界に近い。」

「仰せのとおりに。」

「それと、いい加減勇者様はやめろ。レンジョーで良いんだ。お前、シーナよりもしつこいぞ。」

「は、それは・・・。そうですね。」しかしですが、私にはこの方はTHE勇者みたいに定着してしまってるのです。改めてレンジョー様と呼ぶのもなかなかに。


 外壁をくぐる際に、門番はぎょっとした顔をして「おい、馬車のあちこちに穴が開いてるが、これは弓やクロスボウの痕じゃないのか?」と尋ねて来ました。

「バーチとの間で50人ばかりに襲われた。」勇者様はそのとおりに答えてしまいました。

「50人?」「ああ、盗賊50人。」「で、そいつらは?」「ぶちのめして転がして来たよ。」


「疑うのか?」と勇者様が凄むと、門番は「通行証を。」と話題を変えて来ました。そして、我々がラサリアの国の国の外交使節団だと知ると、更に驚いていました。

「積み荷が狙われたのですか?見たところ護衛もおりませんし、途中の道中は大丈夫なのですか?」と次々聞いて来る。

「我らが神であらせられるトラロック様から、この度の使節団については特に丁重に扱えとのお達しが出ております。正面のヘルズゲイト市庁舎で便宜を図って貰えると思います。是非ともお尋ね下さいますよう。」と、かねてから用意していたのだろう割符を私に押し付けて来ました。

「行こう、宿屋は後だ。」勇者様は頭をフラフラさせながら、そう言ったのです。

「早めに済ませますので。」恐縮するしかありません。


「立派なものですね。」白亜の市庁舎は、それは立派な建物でした。三階建てで、正面の大きな階段が二階に直接繋がっています。

 馬車を停留所に留め置き、番の者たちを残して、私と勇者様は二人で庁舎の階段を登ります。受付で門番の渡した割符を渡すと、しばらく待たされた後に、我々は市長の招きを受けたのです。


「このたびのご訪問に感謝致します。我らが神トラロック様が、近日中にラサリア国からの訪問があるとお達し下さっておられましたが、かほどに早くとは思いませんでした。さて、ご不自由を覚える事などは何かおありでしょうか?」

「盗賊団の襲撃を受けて、我々全員がほとんど4日間休んでいない。宿を紹介して貰い、今日は皆でぐっすりと休みたいと思う。」勇者様の言葉に、私は思わず涙ぐみそうになりました。

「盗賊団ですか?バーチの街では護衛をつけてくれなかったのですか?」市長が驚きに目を剥いている。

「盗賊団と繋がってたんだろうな。警邏の為に人数が必要だから、俺たちに付ける護衛はないと言い放ったよ。盗賊団も50人がかりで、内4人は凄腕の暗殺者だった。射手も20人ばかり居たか。そいつら以外にも待ち伏せてる奴等を警戒してたせいで、夜も眠れなかったさ。」なんでしょう。凄い武勇談の筈なのに、まるっきり投げやりで・・・。市長さん、?????ってなってます。


「ええっと・・・。まずは宿の手配をさせていただきます。丁度貴賓館にはどなたも宿泊しておられません。人数は何名様なのでしょうか?」

「俺も合わせて10人丁度だよ。」

「たった10人?」

「盗賊に篭絡されてた小物もいたので、剣士以外は全員ノースポートに送り返したんだ。」

「は・・・。それは、それは・・・・。」そうでしょうね。こんなに苦労してヘルズゲイトに辿り着いた外交使節団なんか前代未聞でしょうし。

「では、すぐにお通しします。まずはお食事などを・・・。」

「いや、まず俺は眠りたい。安全な場所で。」

「は、宿舎と馬車のそれぞれに護衛をお付けします。」

 そう言って市長は呼び鈴を鳴らしました。細々とした指示の途中で、それが子守歌にでも聞こえたのかどうか。勇者様は気が付くと椅子に座ったまま眠っておられました。

 その内に、馬車に置いて来た護衛達も全員が応接室に集まり、勇者様が起きるのをしばらく待っていたのです・・・・が・・・・。その間に一人眠り、二人眠り、遂に私も眠くなって・・・・。


 はっと目を覚ますと、そこは薄暗い部屋で・・・。もう、外はすっかり夜でした。何たる不覚。

 小さな燭台が見えます。その横には、分厚そうな皮鎧と鉄の兜を被った完全武装の兵士が直立不動で立っていました。良く見れば、部屋の中に同様の兵士が5人程います。「今は真夜中の2時です。どうかもう一眠りなさって下さい。宿直はわたくしどもが努めます。」と低いけれど優しそうな声が聞こえて。

 私は頷いてから、またソファに横になって寝てしまいました。


 朝起きたらもう6時でした。我々はほぼ16時間ほども眠っていたようです。身体はすっかり回復していましたが、凄い空腹を感じます。一番最後に目を覚ましたのは勇者様でした。そりゃあ、そうでしょうとも。途中の道すがらで聞いた暗殺者との戦いなど、どんな剣豪でも無傷で切り抜けられるとは思えない程の敵手であったようなのですから。

 勇者様の凄さには何度も何度も驚かされ、いや増す尊敬と、一緒に同道できる名誉に毎日身震いしています。

 しかし、やはり勇者様も人の子です。強敵と戦えば疲労する、緊張に晒されれば疲弊する。それをどう我々が補うのか。そればかりを考えてしまいます。無敵ではあっても、不死身ではありえないのですから。


 私が目覚めてから30分もしない内に、市長は数名の美女を伴い応接室に現れました。それにしても、血液や汗やで汚れ、風呂に入っていなかった我々がずっとしがみついていた椅子やソファはどうやって綺麗にするんでしょうか。申し訳ない思いで一杯です。

「おはようございます。ヘルズゲイトが誇る美しい飯炊き女達が、皆様の朝食にご一緒します。」凄い背丈の赤毛の美女が・・・聞き間違い?飯炊き女って?

「はははは、このパレアナ、キャサリン、メリッサの三人は、自身で申すとおり、この街一番の美しい料理人なのですよ。給仕も自分でやりたいと手をあげて来ました。朝食が足りなかったら追加でお申し付け下さい。」


「すみません、このスープもう一杯下さい。」オニオンとベーコンの胡椒で味付けたスープ、何も塗らないライ麦パンのトースト。川魚のムニエルは淡泊な白身とバターの風味と味が。

 勇者様は穀物の粥と分厚いハムの炙りものに夢中のご様子。他の護衛も飽食してます。

「凄いですね。皆さん、どれだけ飢えてたんですか?」パレアナさんが目を丸くして聞いて来ますが、盗賊の内、暗殺者の何人かが自分の武器に塗り付けた毒素で死んでいるのが見つかり、馬車に刺さっていた鏃からも毒素が塗られているのが見つかったため、我々は途中の道で捕らえた獣や、樹木や草花の果実だけを食べて暮らしていたのです。食事が汚染されてるかどうか確認する手段がなかったんですね。

 故意に重さ120kg以上に調節していた宝箱とかは盗賊も触れなかったでしょうけど、食糧の類はどうなったのかわかりませんでした。馬車で去る前に、盗賊団に食糧を置いて行く必要もありましたし。


 ほぼ飲まず食わず、寝ずの2日間。しかも緊張感MAXと・・・。勇者様が、もう一度こんな事あったら、みんなでノースポートに帰ろうと言うご意見を述べられましたが。同感です、はい。

「スープです。」と言って、ゴージャス極まりないキャサリンさんが給仕して下さいます。スープよりもずっと良い匂いがします。生きていて良かったと思えます。

 髪も胸も凄いボリュームのメリッサさんは、勇者様専用給仕となって、今度は野菜のポタージュをお勧めになっています。そして、我々の腹がおさまったところで、市長はお風呂に入るよう勧めて下さいました。そりゃあ、凄い臭いでしょうからね、我々。


 で、大浴場です。この都市の浴場は蒸し風呂なんです。お湯は蒸し風呂に入る前に身体洗う時に使うんですね。その後、奥の蒸し風呂に入ります。で、我々ですが、その中でまた寝てしまいました。

 心配した番人の方が、我々を起こしに中まで入って来てくれましたが・・・。


 もう、ズダボロになってしまってる我々でした。敗残兵みたいに追い詰められて、命からがらヘルズゲイトに辿り着いたのが、余程に市長の使命感を触発したのか、貴賓館での宿舎も豪華なお部屋を与えて頂きました。でも、すぐに出発しないといけないのですが。できたら明日の朝にでも。

 その事を聞いた市長は、是非市民による歓迎会を受けて欲しいと願い出てきました。毎回、外交使節団はそうやってもてなされている様です。

 今回だけ、そう言うの省略とはいかないんでしょうね。勇者様とも相談の上でお受けしますと返事しました。市長の顔を潰すとかありえませんし。


 さて、どんなもてなしになるのでしょうか。あ、もてなしについては、シーナ様に詳細に説明せよと言われてますね。しっかり勇者様に付き従って、その後様子を見届けなければなりません。

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