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第百六十四話 アローラの悲しみ

あたしは悲しかった。あれからシュネッサと一緒に一目散に森に帰った。

ヴァネスティの街、そして眼下のエルフ達の集落の数々。

皆がカオスノード攻略以後は平和が続いている。


けれど、ここにはレンジョウは居ない。

昨日の朝に森に帰って来てわかった。フレイア様も居ない。

持ち帰った数々の魔道具、そしてフレイア様に新しい魔法の獲得と絶大な魔力の増加を約束する緑の魔術書。

それらに対しては、女王自らお褒めを頂いた。しかし、それだけだ。

食事に誘われたが、女王様自らが作ってくれたのではなかった。


料理上手のアニタは、侍女としての役目を解かれてフルバートに出向いている。

恐ろしい事だが、以前のフルバートは闇の魔術師の力が強く及んでおり、捕らえられたエルフの女達は、皆が皆、”闇の儀式ダークリチュアル”に似た力でその肉体に宿る魔力を吸い取られていた様だ。

アニタがその犠牲となる可能性を考えると怖気が振るったものだが、そこはそれ、女王直属の間諜としての訓練を受けていたアニタの事だ。どんな風にでも矛先を逸らしたりはできるだろう。


いや、彼女は凄くお盛んな女性だと噂に聞いていたので、数名ばかりは試しに食べて見る様な事すらありえる。現にノースポートからの使節団の一員を徹底的に味わった様でもあるし・・・。

そこはまあ、自分自身もレンジョウと言う男とそれはそれは懇ろになった訳でもあるからして・・・。


そんな事は置いておいてだ。出て来た食事はエルフのご馳走と、凄く美味しくはあったが、添え物としてベリーのジャムと甘いリンゴだけだった。作ったのは侍女見習いのマレッタだ。

フレイア様も食事には同席していたが、それは旅の最中の事々を聴取するためだけの事。

柑橘の汁気と世界樹の樹液を水で割った飲み物、レンジョウが最高の飲み物と大喜びしていた飲み物で喉を潤す。


レンジョウ達の為に、豚や家禽を潰して料理していたのは、言ってみればあれは使節団への接待の為であり、30万人を擁するヴァネスティのエルフが普段から肉食を盛大に行っている訳もない。

けれど、旅の最中には、人間達の好みに合わせて、森の外だからと言う事で盛大に狩りを行って、肉食三昧だった自分には、この食事はどうしてももの寂しく思えてしまう。

そうだ、ここに人間が、レンジョウが居ない事がひしひしと押し寄せて来る感覚がある。

チラリとフレイア様に目を向けると、「どうしたのですか?報告が止まってしまいましたよ。」と無表情に催促して来るのだ。


「はい、フルバートの地下には、大魔術師ラジャとカーリの力の源泉である、奇妙な機械がありました。そこに死の天使の化身が案内してくれましたので、勇者レンジョウがその機械を操作して、大きなダメージを彼等に与えたとの事でした。」

フレイア様は見た事もない誰かに変化していた。あたしが”なのよ”とか言う物言いを語尾に付けたりすると、正直顔が引き攣りそうになる位に叱責された。

臣下であり、召喚された勇者である身の上を忘れたかとか・・・。そんな風にきつくなじられた時には泣きそうになった。


けれど我慢だ。サマエルの言う事には、近日中にフレイア様は”元”に戻るとの事だったから。

「その後に、私達は不死の軍勢が待機している場所を探し当てて襲撃しました。正直、勇者レンジョウとシーナ男爵の活躍は凄まじく、それよりも更に死の天使の活躍は格別でした。」

「あの財宝の数々を得た戦いですね。どの程度の規模でしたか?」

「悪魔貴族が1体、死霊騎士が50騎、怨霊が30体、影の悪魔が20体、動く死体や骸骨、食屍鬼はどれ程の数だったかわかりません。」

「以前にノースポートを襲撃した恐るべき数のランページモンスターズよりも更に数が多いのですね。それを貴方達は打ち負かしたのですか?」

「私は影の悪魔と死霊騎士を中心に射倒して行きました。怨霊はレンジョウとシーナ男爵が襲い掛かって滅茶苦茶に倒していました。死の天使は投げ付けた大斧で空飛ぶ死霊騎士を薙ぎ倒し、次いでレンジョウが死霊騎士を空に舞い上がって倒し始め、女王様からレインダンサーを拝領したカナコギと男爵から”正義の右手”を渡されていたマキアス隊長が怨霊を殲滅しました。」

「凄まじいものですね。あの勇者レンジョウを凌ぐ働きであったと?それ程に死の天使とは強かったのですか?」

「最後にわざと残しておいた悪魔貴族がデーモンを3体召喚したのを待って、その後に死の天使は悪魔貴族を一刀両断にして倒しました。相手にもなっていなかったと思います。」


”勇者レンジョウって何よ?レンジョウ様って言ってたでしょう?あんなに熱烈にレンジョウに惹かれていたでしょう?”とグラグラ煮え立つ腹の底を何とか抑えながら報告を続けた。

「死の天使は、手心を加えた戦いにおいても、勇者レンジョウを軽く凌駕する力の持ち主でした。しかもそれは手持ちの武器で戦った場合で、彼の本当の力はその”死の眼光”なのです。彼がその気になれば、目の前に立ちはだかる人であれ城であれ、塵になり、激しく燃え上がります。」とあたしはありのままを報告した。

実際の死の天使は、あたし同様にレンジョウにメロメロで、誰に対しても実は慈悲深いのだが、この場合はそんな”余計な事”は言えなかった。

言えば、”このフレイア様”は死の天使を利用しようとするだろう。そして、何故か、あたしにはその方が災いを招くのではないか?と言う直観があった。


あの怖いけれど優しい危険な男は、策略や誘導で利用される事を殊の外に嫌うのではないかと感じていたのだ。

そう、真心で接したらならば、真心への返礼のために生命すら投げ出して奉仕しようとする男を知った今では、それは確信に近い何かとなって感じられたのだ。

そして、そんな真心や粋に感じる者達が一番嫌うのが、今のフレイア様だろうとも感じるのだ。


”パトリシア。あんたが愛したおじさまは、あのレンジョウと同じ様な人だったの?”

そう言う想いが心の中を駆け巡る。それは思慕の範疇を大きく超えており、自分がヴァネスティの守護者であり、召喚された勇者でなかったらと思う事が常態化しているほどだ。


そして、そんなレンジョウを今のフレイア様は、単なる篭絡済の手駒と思っている様なのだ。

許し難い冒涜にすら思えた。あれ程の献身、あれ程の武勇、あれ程の善良さを兼ね備えた、同様の男にはもう二度と出会う事が無いだろうと確信できる程の男子を軽んじる様な者が自分の主君だなどとは認めたくもない。


怜悧である事は君主としての美徳だ。他国と外交を行い、国を富ませるのも君主の功績だ。他国を撃ち破り、国境を平定するのも同じくだ。

しかし、君主とても人間であるべき、あるいはエルフであるべきだ。


人間であるべき・・・そう、自分は作り物の、パトリシアと言う人間の模造品なのだと言う事を既に知っている。

しかし、パトリシアは自分、アローラを大好きなのだと言う。そして、あたし達二人は共に同じ男性を愛している。取り分けても、自分アローラはレンジョウと熱烈に愛し合った関係でもある。

そして、フレイア女王も・・・。それなのに、今のフレイア様はその事を完全に忘れている様子だ。


「それ程の危険な存在がこの地を闊歩していると言う事ですか?貴方ならば、不意を突いて始末できると思いますか?」そう、フレイア様は尋ねて来た。

「今のサマエルは”守護の風”を付与された魔法の盾をカナコギに譲っています。けれど、そうであっても、私と彼との実力差は歴然としています。矢を放っても、彼は一睨みでそれを焼き尽くすでしょう。その次には私を。その後はヴァネスティに赴いて報復を開始すると思います。」思ったままを口にした。

そう、彼は一度自分に盾を突いたモノを赦しはしない。だからこそ、死の天使と呼ばれているのだ。


「そうですか。ここで将軍でもあり、ヴァネスティ最高の戦士でもある貴方を失う危険は冒せません。その死の天使とやらが、怒らせなければ無害だと言うのなら放置して構わないでしょう。」

私はもう一つ隠し事をしている。その死の天使サマエルが、大魔術師トラロックに非常に大きな興味を抱いている事。

更に、取るに足らないケチな盗賊・・・あの真面目で勇敢なオルミックの願いを聞いて、死の天使がバーチに向かった事も言っていない。だから、次の情報を開示する。


「その後に、私達はフルバートの盗賊ギルドに押し入って壊滅させました。連中は降伏して来たので、案内人に一人の盗賊が推挙されて、その者がノースポートまでの迂回路を教えてくれました。途中、古代の寺院の廃墟を見付けたので、そこを探索してユニコーンを駆除し、守護していたアークエンジェルをレンジョウとシーナの協力を得て排除しました。そこで手に入れた品々は引き渡したとおりの物です。ただ、技能を齎す魔道具と正体不明の書物はアリエル様に献上する事となりました。」

「魔道具の中には正直撃ち砕いてマナに変換した方が良い様な代物もありましたが、それでも出掛ける時に言いつけたとおりに貴方は振舞ってくれたと思っています。ご苦労様でした。」

「はい、最後にですが、フルバートから放逐された盗賊達は、バーチに移動して、そこに巣食う盗賊の一味を掃討するつもりの様です。」

「そうですか。しかし、それは些事と言うものでしょう。盗賊達がいかに振舞おうと、問題が生じたとしても、貴方が国境で行った様に、徹底的に始末してしまえば良いのです。ノースポートの者達も、盗賊を幾ら殺したとしても文句を言う筋合いはないでしょうから。」


あたしの脳裏にオルミックの顔が浮かんだ。炎を帯びた長剣で必死に多頭魔獣に挑んでいた男。

健気で真面目で・・・。盗賊ギルドに属していたのに、悪に全く染まっていない。

もう、自分自身が以前の様に情け容赦なく盗賊達を殺戮できるとは到底思えない。

あたしは、盗賊達の人となりを知ってしまった。多分、それで弱くなったのだ。


しかし、それを悔いたり、恥ずかしく思ったりはしない。

”あたしは作り物だ。けれど、以前よりずっと人間らしくなっているのだ。あたしの変化をきっとレンジョウは喜んでくれるだろう。”そんな確信がある。

そう思えるからこそ、あたしはレンジョウを愛していると迷いなく信じられるのだ。


「しかし、わたくしも早まったものですわね。あの”オーカルスの復讐”と言い、”レインダンサー”と言い、将来に召喚する勇者の為に取っておくべきだったかも知れません。ノースポートとは今こそ友好的な関係とは言え、将来はわかりませんからね。アリエル姫の護衛をいたずらに強化してしまっては、取れる選択肢を狭めてしまいますもの。」

あたしの今の表情はどんな風なのだろうか?チャンと平静を保てているだろうか?

少なくとも、歯は剥きだしていないだろうし、目は元々吊り気味なのだし、虹彩は冷たいブルーだから・・・。

時々鏡を見て、自分の双眸が怖いと感じる事もある。けど、そんな私の目をレンジョウは美しいと言ってくれた。


レンジョウ、レンジョウ、レンジョウ・・・。もう、魂が爆発しそうだ。

そんなあたしの理解者だった筈のフレイア様。それが何故こんな風に・・・。

悲しみで心がひび割れてしまう。涙が零れそうになってしまう。


「ノースポートが新たな勇者と、新たな隊長たちを得たと言う事ならば、ヴァネスティも対抗上新たな勇者を召喚すべきかと思いますね。ああ、あのザルドロンに渡してしまった杖も勿体ない事をしました。かくなる上は、それらを恩に着せて、あの国には精々犬馬の労を惜しまない様に誘導しなければなりません。」と言いながら、フレイア様は果実水を含み、舌で唇を舐め上げたの・・・。

その貪欲で狡猾な仕草にあたしは震えあがったわ。

わかっている。あの素顔はあたしを心から信用してくれるからこそ見せる素顔なのだと。

それでも嫌だった。エルフと言う根本に邪悪な何かを抱く種族が嫌だった。

シュネッサがダークエルフの世界を捨てたのと同じ理由で、あたしはエルフの世界から逃げ出したかった。


「以上で報告の大筋は終わりです。」とあたしは締め括った。

「ご苦労様。さて・・・先ほども申したとおり。貴方の同僚たる、新しい僕を呼ぶ儀式を始める事にしましょう。わたくしの魔力と、ルーンマスターの技能、貯め込んだ膨大なマナがあれば、さほどの時間も要しないでしょう。」とフレイア様。


「男の勇者が現れたのなら、勇者レンジョウの様に、貴方の魅力で篭絡すれば良いでしょう。貴方は、その方面でも非常に達者ですからね。」と言って嫣然と笑う。

その様子にも言葉にもあたしは怖気を揮った。この身体も心も、レンジョウ以外の誰にだって触れさせるつもりはない。そんな事はありえないのだ。


黙ってお辞儀をして、踵を返して退出する。けれど・・・。

「アローラ、どうしたのですか?わたくしは、貴方との話が終わったとは言っておりませんよ。」と言う言葉が投げ掛けられた。

思わずドギマギしたが、「ここ数週間、森の様子を見ておりませんでした。何か異変が起きていないかと気が気ではないのです。」と振り返らずに返事をした。

「そうですか。相変わらず職務に忠実なのですね。よろしいでしょう。早く森に帰って、レンジャーとしての役目を果たしなさい。」そんな言葉が掛けられた。


部屋を出て、後ろ手に扉を閉めると、後は矢も楯もたまらない。そんな想いで廊下を小走りに駆けた。背負ったマントに手を掛けて、透明化を齎すボタンに手を伸ばす。

出口の近くで女王傍付き侍女のマレッタが立っていた。

白皙の整った容貌、ストレートの金髪と縁取りの無い大きな碧眼で手足も長く、大人の階段を登り始めたばかりの美少女エルフだ。

あたしの表情を見てギョッとした顔をしていた。余程我慢が切れかけていた様だ。


一礼だけをして彼女の前を通り過ぎる。玄関近くに置いていた矢筒をベルトに結わえ、弓を肩に掛け、扉を開けて外に出た。

深く呼吸をしてから、マントのボタンを合わせた。空中を駆けあがり、眼下の光景に目を奪われる事もなく、森の深部目指してひたすらに駆けた。

今は一人になりたかったのだ。


****


気が付くと小さな湖の近くに居た。そうだ、ここは確か湖だった筈だ。

一度泳いでみたら、随分と深かった覚えがあるから。池ならもっと水深が浅い筈だ・・・。

マントのボタンを外して姿を現した。

この透明化と言うのは、ほんのわずかだが景色がブレたり、視界の形に歪みが掛かったりするのだ。

今のあたしには、美しい自然の景色が必要なのだろう。

チラリと見遣ると、高々とそびえる世界樹が遠くに見えた。そして、その光景から目を逸らす。


カサリと秋の落ち葉を踏む音が聞こえた。故意に音を立てたのがわかった。

振り向くと、そこには漆黒の顔と長い手足、柔らかそうな白いチュニックに同じく白の短い巻きスカート姿のダークエルフが居た。

ラベンダー色の虹彩がこちらを見ている。

「シュネッサ・・・。」と呼び掛けた声は、我ながら元気がなかった。

「アローラ様、ごきげんよう・・・と言う風ではありませんね。」と寂し気な様子で微笑んでいる。


「そうね・・・。機嫌が良い訳ではないわよ。」

「フレイア様の事を考えておられたのですね?」とシュネッサは言った。

頷く訳にもいかず、黙り込んでしまう。

「夜行剣士団の者達もガッカリしています。小さな場所であっても、ダークエルフの逃亡者達に領地を頂けると言う話を、フレイア様は反故になさいましたから。」

「シュネッサがどんなに頑張ってくれた事か。あたしは、それを報告書にまとめて提出したのよ。」

「卑しいダークエルフ風情が、尊く美しいハイエルフの森に住まわせて貰えるだけでも僥倖と言うものでしょうか?」と淑やかなダークエルフは僅かに口角を吊り上げる。


「そんな事はないわ!」とついつい怒鳴ってしまう。

「ふふ・・・。元気が戻った様ですね。それでこそアローラ様です。」シュネッサはニッコリと笑った。やはり寂しそうではあったが。

「何にせよ、これは予想外の異変と言う事でしょうか。レンジョウさん達が言っていたとおり。この世界の者達は、たくさんの異世界の人々が知らぬ間にそれぞれの役割を演じているのでしょうね。」

「あたしとパトリシアみたいに、お互いがその事をはっきりと自覚している訳ではないかも知れないけどね。それは大いにあると思うのよ。」


「今のフレイア様は、あれが素の振る舞いなのだと思いますよ。けれど、先般までは誰かとても優しい人が入り込んでいたのではないでしょうか?そして、その人は今はレンジョウさん達の世界で覚醒していて、こちらに来てはいない。そう考えればよろしいのではと思います。」

「うん・・・。」

「多分、私も素のシュネッサでは無いのでしょう。元来のシュネッサは、もっと根が邪悪で、世間ずれしていて、淫蕩で凄く困った性格だったりするのではないでしょうか?」

「それは嫌ね。後、素のシュネッサはお料理が下手でがさつだったりするかもね。」

「そんなだと、自分で自分が恥ずかしくなりますね!」と言うと、カラリと笑ってみせた。


「アローラ様・・・。」と少し表情を引き締めて呼び掛けるや、シュネッサはあたしを引き寄せて、胸の中に頭を抱き寄せた。

「今しばらくの辛抱なのでしょう?私には何となくわかるのです。私もレンジョウさん達の世界から、この世界に派遣された者で、向こうの世界でもフレイア様に仕えているのだろうと。」

「シュネッサ・・・。」我知らず涙声になってしまう。

「あのレンジョウさんとの別れ際にアローラ様が聞いたと言う、ノースポートに居ると言う誰かの声。あれを信じるしかないでしょうね。」

「うん、あの声ね・・・。でも、あれは誰だったんだろう?シーナには思い当たる節があると言ってたけど。」

「そう言えば、シーナさんはアローラ様に美しいと言う事の意味を問い質しておられましたね。」

「そうだったね。でも、何の意味があったんだろう?」


「アリエル姫も造り物だそうです。今のフレイア様同様と言う事ですね。」

「うーん、あのアリエル姫は造り物のまんまで良いかな?」

「そんなに良い人だったんですか?」とシュネッサ。

「今のフレイア様に爪の垢を煎じて差し上げて欲しい位にね。」

「それはまあ・・・。何にせよ、造り物の誰かには美しさが理解できないと言う事なのでは?」

「そうなのかなぁ?あたしにはわかんないよ。とにかく、あのフレイア様は駄目なのよ!」


「それにしてもですが・・・。」とシュネッサが首を捻っている。

「なにさ?」あたしも首を傾げた。

「シーナさんはアローラ様に美について尋ねておられましたよね。」

「そうだったね。」

「で、アローラ様のお答えには私も何の違和感も覚えませんでした。」

「そうなの?」

「ええ。この湖を見て、どんな美しさを感じておられますか?」

「うん・・・。青く美しい空を映す湖面と、明るい日差しを照り返す様。森は緑濃く美しいし、そよ風にそよぐ水の動きが光を反映してたまらなく美しいわ。この世界が造り物だなんて信じられない程よ。」


「ふむ・・・。アローラ様は美について理解していると思えます。ならば、アローラ様のどこが造り物なのでしょうか?本体のパトリシア様がいらっしゃる事は間違いないとして、何故アローラ様だけがこんなに特別なのでしょうか?今はパトリシア様との接触はないのですよね?」

「うん、全然答えてくれないの。」

「ならば、アローラ様は素のままで造り物の域を超えていると言う事ですよね?大魔術師であらせられるフレイア女王やアリエル姫よりも完璧に近い存在と言えるでしょう。」

「あたしが完璧に近い?人間みたいな造り物と言う事なの?」

「あるいは人間、あるいはエルフそのものと言う事ですね。」


「どう言う事なのかな?なんであたしだけ造り物なのに美しさを感じる事ができるんだろう?」

「・・・・。意外とですが、この世界とはアローラ様の様な存在を創り出す為に設えられたのではありませんか?」

「あたしの様な存在を創り出すのが目的の世界?それにどんな意味があるのよ?」

「それはとんとわかりませんが・・・。アローラ様は成功例なのか、イレギュラーなのかもわかりませんし。ただ、狙って行わないと美を理解できる存在を造る事はできないのでは?」

「あたしには当たり前なんだけどなぁ・・・。けど、すこしだけ嬉しいよ。あたしは造り物だけど、レンジョウの隣にいても良い存在なんだって思えるから。」

「ええ、そうですよ。あんなお方を逃してはなりません。シュネッサは、いつもアローラ様の味方です。」

「シュネッサぁ!」と言いながら、あたしは彼女の胸の中で甘えまくった。


そうなのだ!あたしが何であろうと、あたしはレンジョウの傍に必ず居ると決めたのだ。

いや、決まっていたのか?


この世界が何の目的で造られたのかはわからない。

けれど、レンジョウ言う所の”運営”とか言う正体不明の存在は、あたしとレンジョウを結び付けようとしているのではないか?

そう言う直観が働いた。思わず目が厳しくなる。


そうだ、エルフと言う種族にはいろいろと問題がある。

しかし、その性根の中には、利用できる何かは徹底的に利用すべきだと言う信念も含まれている。

こればかりは、あたしも徹底的にエルフとして振舞うべきだと思えるのだ。

狡かろうが、策略まみれだろうが、自分の心に素直に振舞って何が悪いと言うのだろうか?

滅多にない事とは言え、今日今から自分が死んで消えてしまう事だってありえるのだ。


「シュネッサ、ありがとう。あたしの気持ちは所詮は一つなのよ。」

シュネッサはニッコリと。

「お手伝い致します。それこそ全力で。アローラ様が造り物?上等じゃありませんか。そんな事はどうでも良いのですよ。今、アローラ様がここに居て、レンジョウ様もここに居る。何だったら、レンジョウ様の世界にアローラ様が付いて行っても問題ないのでは?その方法もきっとありますよ。」

「・・・・。どんな方法だろう?」流石に想像の枠を超えているのよね。

「”運営”とやらは知っていると思いますよ。何となれば、パトリシア様と言う本体に間借りする事だってできないとは思えませんね。」

「それを探す方法は多分一つよね・・・。」

「ええ、いずれはフレイア様も元に戻るでしょう。その後は舌先三寸です。また一緒に旅に出ましょう。彼等も私の料理は楽しみにしていると思いますし。」


嫣然たる表情のダークエルフは、そのラベンダー色の瞳の中に確かに優しさを浮かべていた。

そうなのだ。あたしは旅に出る。

故郷の森の守護を怠る事に忸怩たる思いはあるが。それでも旅に出るのだ。

「きっと幸せを掴んで見せるわ。きっとレンジョウと添い遂げてみせるわ!」


悲しみから復活したエルフの勇者は、ある意味この瞬間から全てのタガが外れてしまったのだろう。

それに呼応するように・・・アローラとレンジョウ、そしてシーナその他の者達にも次々と事件が起こり始めるのだ。

それらはあるいは運命の転回が本格化し始めた。そう言う事だったのかも知れない。



さてさて、前回に言っていたスターウォーズのお話です。

スターウォーズの最初の三部作の途中で、ハン・ソロ役のハリソン・フォードは言っていたらしいです。

「自分のイメージがハン・ソロに固定されてしまうのは嫌だから、三作以上の出演はしないよ」と。

そんな訳で、彼はインディ・ジョーンズも三作で終わらせてしまっていますね。

まあ、それが彼流だから仕方ないのでしょうけど。


元来のスターウォーズは、ルークが歴史に姿を現し、デススターを破壊するエピソード4。

やはり強大な銀河帝国が共和国軍に反撃を開始するエピソード5。

ここからが大きく違うのですが、エピソード6でダースベイダーが戦死し、銀河皇帝も崩御する予定はなかったのだそうです。

エピソード6でもダースベイダーは生き残り、銀河皇帝はエピソード9まで存命の予定だったのだそうです。

エピソード7あたりで、ハン・ソロはレーア姫と同行中にダースベイダーと遭遇し、ハン・ソロはレーザーガンで立ち向かいますが、ベイダーはほらジェダイな訳で。

簡単にサーベルでレーザーは防がれ、ハン・ソロは無残に殺されてしまいます。

レーア姫も、溶鉱炉みたいなところにルークの目の前で落とされてしまい、ルークはその敵討ちをします。

ルークがベイダーの息子だったりはエピソード5のとおりですが、レーア姫はルークの姉と言う設定になっていたかどうかですね。そうじゃなかった様な記憶があります。


そして、ラストエピソードに向かって年月が経過し、主人公はルーク・スカイウォーカー・JRとなります。ルークは傍観者って感じになります。

そんなJRは心を寄せる女性フーリンと共に冒険に身を投じ、帝国を追い詰めて行きます。

そして、フーリンはその冒険の最中に銀河帝国に拉致されてしまいます。


フーリンを求めて、銀河帝国の本拠地に乗り込んだJRですが、銀河皇帝はフーリンを人質に取ります。

ビームサーベルをかざしてルーク・スカイウォーカー・JRを脅迫する銀河皇帝。当然JRはそれを跳ねのけます。

JRの目の前でフーリンの首を跳ねる銀河皇帝。JRは怒り狂い、銀河帝国の本拠地惑星の衛星をフォースで動かし、本拠地惑星にぶつけて、銀河皇帝と共に宇宙の塵としてしまいます。

フォースの作用には物体の大小とかは影響しないとヨーダが言っていましたが、ここまで凄いとは・・・。


そして、実のところ、フーリンは死んではいませんでした。銀河皇帝が殺害したのはフーリンのクローンだったのです。

しかし、ルーク・スカイウォーカー・JRの行為はその後の銀河に大きな影響を及ぼしました。

暴虐の限りを尽くす銀河皇帝はいなくなりましたが、ルーク・スカイウォーカー・JRのフォースの使い方は完全に間違っており、銀河全体にフォースの乱れを原因とする荒廃が拡がって行きます。


時が経ち、帝国と共和国の戦いの全ては伝説となり、荒廃したままの銀河には、かつての戦士達が繰り広げた物語が伝承として伝わるのみ。

そうしてスターウォーズの物語は幕を下ろす。そんな感じの流れを当初は予定していた様です。


エピソード1から3の銀河共和国の衰退の物語、ジェダイを壊滅に追いやったクローン戦争やドロイド主体の戦争と言うのは、言葉だけですが当時から伝わっていました。

そう考えてみると、ハリソン・フォードはスターウォーズの在り方そのものを大きく変化させてしまったのだと思えます。

無理にでもエピソード6で幕を下ろす必要から、ダースベイダーや銀河皇帝も消されてしまったのでしょう。

それをああだこうだと言うつもりもないですが、結果としてはスターウォーズの物語はどんどん継承され、追加され、大きくなり続けて今に至っています。


荒廃した銀河に伝わる伝説ではなく、帝国と共和国、それぞれの国是と、守るべき何かを守ろうとするそれぞれの戦士達の戦いは、今なお熱く瑞々しい活力ある銀河で継続中と言う事です。

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