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第百六十三話 アリエルは熱くレンジョウに語る

今の俺の顔はどんな風に他人から見えるのだろうか?

目の前のアリエル、皮のシャツを着た男装の少女。キラキラと輝く瞳と柔らかい微笑。

こんなに上機嫌のアリエルを俺は見た事があっただろうか?


けれど、だからと言って、あの先代様、サーラのやり口を考えると、この上機嫌なアリエルには手放しで喜べないのだ。

そもそも、何故アリエルはミニヨンの真似をするのだ?

「なあ、アリエル。ウィルヘルム・マイスターの修業時代を読んでどう思った?」と俺は訊いてみた。

アリエルの瞳は一層輝いた。思えば、アリエルの笑い顔は何度も見ていたが、これは別格だった。

驚いた事に、目を輝かせたのはアリエルだけでは無かった。

「儂も姫様も・・・そうですな。レンジョウ殿の世界で言う所の”どハマり状態”になっておりますな。」とザルドロンが頬を緩めまくっている。


「そんな言葉を誰に教わったんだよ?」と俺が言うと「サーラ様です!」とアリエルが即答して来た。

「あの野郎・・・。」と俺は歯噛みするばかりだ。毎度余計な事をやらかしてくれる。

「じゃあ、二人ともあの小説のどこがそんなに面白かったんだ?」と俺は尋ねてみた。

「儂は悩みながら行動し、様々な成果を挙げながらもそれに満足できない主人公に共感致しましたな。慈悲深く、お節介ですらある教養人。儂もそんな風に生きてみたくあります。」とザルドロン。


「へぇ・・・。なんか、どっかで見た様な人っすね。その人って。」と鹿子木。

ジロリと睨んでみたが、ヘラヘラと笑う鹿子木には暖簾に腕押しと言ったところだろうか。

「わたくしは、この姿のとおり。ミニヨンに共感致しました。直観と憧れのままにヴィルヘルム様を慕う少女。とても魅惑的です。」とアリエル。

「・・・・。お前はそれで良いのか?アリエル?」と俺は呟いた。

「どうしたんすか?兄貴?」と鹿子木が怪訝な顔をする。俺の口調に不審を抱いたのか?

けど、それは捨て置いた。考える事は他にあったのだ。


「アリエルか・・・。”名は体を表す”と言う事なのか・・・。」とついつい、俺は更に呟いた。

「”ノーメン・イスト・オーメン”でございますか?」とアリエルが訊き返して来る。

「おいおい、お前の耳には日本語がドイツ語変換されてるのか?完全にゲーテの著作に頭を乗っ取られてるな。」と俺は苦笑する。

「姫さんのお名前が何を表してるって言うんですか、兄貴?」と鹿子木が更に尋ねて来る。


「お前は”人魚姫”の小説を読んだ事があるか?」と俺は鹿子木にまず尋ねた。予備知識があるかどうかを知らないと話にもならん。

「ありませんけど、ディ〇ニーのアニメなら見ました。赤毛の人魚さんが、海の魔女と契約して陸の王子様と結ばれて、最後は魔女をぶっ倒してハッピーエンドでしたね?」と鹿子木。

やはり話になってなかった。

「チャンと双方納得の上で契約して、最後にそれが不都合だから魔女を倒して大団円とかありえんだろう・・・。魔女が不憫すぎるさ。」と俺は言った。

「アンデルセンが書いた本当の人魚姫の話では、人魚姫は王子と遂に結ばれず、王子は自分を海難事故から助けてくれた人魚の正体を見抜けず、遂には人魚姫は泡粒となって消えてしまうのさ。大変な苦労と代償、その美しい声を失い、陸を歩く為の脚は得たが、歩くたびに突き刺される様な痛みを感じながら王子の下に辿り着いたのに、最期はそんな感じだったんだ。」


「そう言えば、俺の見たアニメの人魚姫って、名前がアリエルでしたね・・・。」と鹿子木。

「でも、姫さんの髪と全然違いまっす。サラサラのストレートパツ金の姫さんと赤毛の人魚じゃ全然似てませんし。」

「元々の人魚姫は金髪なんだ。」と俺。

「姫さんの可愛く小さなピンクの唇と、あの大きな口の人魚じゃ全然似てないっすね。正直、姫さんのすみれ色の宝石みたいなお目目は、アニメで表現するのは無理っしょう。」と鹿子木は何か触れてはならない事に触れてしまったのを薄々と感じた様だ。アワアワしている。


「その”人魚姫”と言うお話はどんなものかは存じませんが、小説とそのアニメと言うものでは筋が違っているのでございますか?」とアリエルは尋ねた。

「すまん、俺はアニメの方は見てないんだ。」と俺は謝った。

「すんません、俺はアニメの方しか見てません。」と鹿子木。

「その原作では、人魚姫の恋は悲劇に終わり、アニメ?の方ではハッピーエンドで大団円を迎えるのですね?」とアリエル。妙に食い付いて来る。


俺は鹿子木の方を見た。「アニメの方は間違いないっす。みんなでタコの化け物みたいな海の魔女と決戦やって勝ちましたし。」

「原作とアニメでは結果がほとんど正反対みたいだな。」と俺はアリエルに答えた。

それを聞いたアリエルの表情はと言うと・・・。

鹿子木がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。俺はどうだったのだろう?


両目がアリエルから離れない。金縛りにあった様に俺は見入っていた。

深過ぎて底さえ見えない程の慈愛、通常の者ならば踊り出す程であろう喜び、俺達に対する信じられない程の感謝、強く揺るぎない巨岩の如き確信、俺達では遠く及ばない叡智から導かれたのだろう理解・・・。

それらを単に座ったままで俺達に悟らせるだけの共感を醸す何か。

アリエルと言う存在は、俺達凡人如きの及ぶところではない、信じられない程の巨大な器を持った存在なのだと、俺は心で、魂で知った、理解した、そう悟らされた。


「レンジョウ様、カナコギ様。本当にありがとうございます。アリエルは本当に嬉しゅうございます。」と言う平静なアリエルの声で、俺達は呪縛から解放された。

「儂からもお礼を言いたいと思います。本当にありがとうございます。」とザルドロンも唱和した。

「一体何のお礼を俺達にする訳なんすか?」と鹿子木が問う。俺も黙ってそれに頷いた。

ザルドロンはアリエルの方をチラリと見た。二人は目を合わせて微笑み合う。

麗しい歳の離れた主従の関係。この二人は強く、絶対に千切れない関係なのだ。

召喚者である大魔術師と召喚された勇者と言う関係だけではなく・・・。


「ところで、レンジョウ様。当然の事ですが、”ヴィルヘルム・マイスターの修業時代”の本編の中で、ミニヨンがどうなったかはご存じですよね?」とアリエルは唐突に問い掛けて来た。

「・・・・・。ああ。」と答えた俺の声は、自分で聞いてもぶっきらぼうな声だった。

実際、俺は人魚姫の話と言い、ウィルヘルム・マイスターの修業時代と言い。

「ミニヨンはヴィルヘルムに拾われて育てられる。しかし、ヴィルヘルムが他の女性と懇ろになっているのを見て、病気療養中のミニヨンは発作を起こして死んでしまうんだ・・・。」

俺の心は真っ黒になった。フレイア、アローラ、そしてシーナの顔が浮かぶ。


そんなミニヨンに共感しているアリエルに対して、俺は強い懸念を抱いた。

アリエルは、適わぬ恋、自らの虚しい最期に何かの”美”を見出しているのだろうか?

だとすると、とんでもなく危うい精神の状態だと言える。

「カナコギ様のおっしゃるアニメ?と言う何かでは、悲恋の末に果てる筈の人魚姫は幸せな物語の最後を迎えるのですね。王子様と添い遂げて、声を取り戻し、変わらず陸の上を歩く脚は失わなかったと言う事ですね?」アリエルは再び問い掛ける。

「そうなりますかね・・・。」と鹿子木は言うが、歯切れが悪い。


「レンジョウ様は、”ヴィルヘルム・マイスターの修業時代”をご存じなのでしょう?ミニヨンは悲恋の末に世を去ります。けれど・・・もう一つのミニヨンのお話があるのをご存じなのでしょうか?」とアリエルは言う。奇妙にいたずらっぽい表情を浮かべながら。

「左様でございます。儂もそのお話を聞いて驚いたものです。」と満面の笑みのザルドロン。

「もう一つのお話?”ヴィルヘルム・マイスターの修業時代”にそんなものがあったのか?」

俺はそのもう一つのお話とやらを全然知らなかった。


「はい。実はそれは小説ではありませぬ。”オペラ”とか言う歌劇の一種なのだそうで。実のところ、ラサリアでは歌劇と言うモノが一般的ではないのです。歌と言うと、精々が吟遊詩人の歌う持ち歌の数々位で、皆で役割を決めて歌を分担するとか言う豪勢な音楽は存在しておりませぬ。」とアリエル。

「大聖堂で合唱する事はありますし、それぞれの音程分担や、それぞれの歌手の座る位置で祈祷歌の響きを変化させる事はしますが、役者が歌を分担するとか、複数の笛や管楽器に合わせた歌謡等は高度過ぎて、この世界では発展していないのですよ。」とザルドロン。


「おかしいな。それならば何故お前達は歌劇やオペラについて知っているんだ・・・。」

いや、そうなんだ。あの女、先代様、サーラの入れ知恵と言う事なのだ。そうに決まっている。

「つまり、サーラがそう言っていたと言う事なのか?」と俺は苦々しく言葉を吐き出した。

「そうなのですよ。姫様とサーラ様はお二人で歌劇の実演も行いました。そして、儂は竪琴を爪弾いて演奏をやってみましたよ。儂の勇者としてのアーキタイプには何故か演奏の技能も含まれておったようでしてな。結構乗りましたわい!」とザルドロンは上機嫌だ。

「なんでも、わたくしの声は少しだけ低い高音なので、オペラのミニヨンと同じ音程なのだとサーラ様はおっしゃっておいででした。」

俺は何が何だか訳が分からなくなって来た。


「で、そのオペラの方は、もしかしてハッピーエンドでミニヨンも生きて終わる訳なのか?」と俺は訊いた。

「はい、そのとおりでございます!」と横のザルドロン同様に満面の笑みでアリエルが相好を崩す。

「妖精族の女王であるティターニアの如く美しい、ブロンドの大人の女性フィリーヌと張り合い、遂に勝利するのです!」と子供の様に笑うアリエル。

俺の心の中に、金髪の妖精族の女王フレイアと、同じく金髪の妖精族の幼げな勇者アローラの姿が去来した。まさか・・・まさかな。

鹿子木がこちらの方をじっと見ているが、無視する・・・・。


「そのお話を聞いて、わたくしにも希望が蘇って来ました。」とアリエル。

「話の出典は先代様と言う事で間違いないな・・・。」と言うと、アリエルとザルドロンは頷いた。

「しかし、そんなオペラがあったんだな。つまり、アリエルが歌っていた”君知るや南の国”のドイツ語の歌はそのオペラが出典なのか。即興であんなものを歌える訳もないだろうからな。」と俺は言うが、それにしてもあの歌は朗々としており、それなりに歌を練習した者の謡いぶりだったとも思う。

「なんでも、シューベルトと言うお方が作曲なされたのだとか。」とアリエル。

「フランツ・シューベルトか?ヴィルヘルムの様に才能がありながらも、挫折も多かった男だな。まあ、才能の桁がヴィルヘルムとは違っているけれど。そして、ミニヨン程ではないが、彼も早死にしている。」と俺は一通り解説を加えた。

「それは残念な事ですね。」とアリエルは眉を顰めた。

「シューベルトの遺髪を継ぐ者は多かった。メンデルスゾーンやドヴォルザーク。ベートーヴェンとは違う音楽の系譜を産み出した男だ。そう言えば、アリエルが歌っていた”アヴェ・マリア”も確かシューベルトの作曲だった筈だったな?俺の記憶ではそうだ。」

「?」とアリエルは首を傾げた。

「どうした?」と俺が訊くと。

「あの歌を歌ったのは、確か御一行がノースポートに帰り着く前の日の筈ですが、何故レンジョウ様はそれを聞いておられたのでしょうか?」と・・・いかん!


「俺が知ってるシューベルトって言ったら”鱒”って言う歌ですかね?綺麗な水面で釣りをしてても魚が釣れず、腹を立てて水を掻き回して濁らせたら鱒が釣れたと言う歌っすね。」と鹿子木。

「どんな歌なのでしょうか?あの本に載っていますかな?」とザルドロンが食い付いた。

「カナコギ様も歌に詳しいのでしょうか?」とアリエルの注意も逸れた。

机の下でサムズアップしてしまう。お前にしてはGJだ、鹿子木!


まあ、バレたとしても咎められる様な事ではないが、やはり隠し事は隠し事だし、シーナの居ないところでネタバレとかは不義理だからな。

「禁書とされていた書物に、何故こんなレンジョウ様達の楽曲が数多く掲載されていたのかは謎ですね。」とアリエル。

「この世界の楽曲じゃないからなぁ。それにしても、その禁書とやらをこの塔の中に置いていたのは誰なんだ?」と俺は疑問に思った。

「それはバルディーン様とトーリア様に間違いないと思われますな。」ザルドロンはそう言う。

「アリエルの父君と母上か。彼等とはザルドロンも会った事はないんだよな。」俺は呟く。

「朧気ながら、アリエルには記憶がございます。母は優し気でありながら、凛としたお方でした。父は逞しく、威厳に満ちた、母を心から愛する大魔術師だったと記憶しております。睦まじい父母の様に、アリエルも伴侶になられるお方の事を心から愛したいと思います。」と言うと俺の方をうっとりと見ている。


普通の物語ならば、ここで甘い空気と二人だけの空間が発生するだろう。

しかし、俺は気難しい男で、悩みも沢山ある困った奴なのだ。済まんな、アリエル。

そんな俺が考えていたのは、アリエルの両親が運営とやらと何等かの関係がある人物だったのだろうなと言う事だ。

そして、その二人は揃ってアリエルの前から消えてしまい、アリエルは孤児として残され、あのアリエルが着用に及んでいる古着を着ていたのだろう王子も消されてしまったのだろう。

カンケル王子だったか?その男が実在の真っ当な人物だったかどうかも怪しいが、その末路について俺達は勇者タキから顛末を聞いて知っているのだ。


さて、この件についてはシーナとも話し合いを持たないといけないだろう。

なにしろ、南で暴れている死の力を揮う大魔術師ラジャは、アリエルのもう一人の兄であるサジタリオ王子であり、そいつはヤツメウナギの様な気色悪い牙の生えた円形の口を備えた怪物に変化していると言う話だ。

そのサジタリオ王子がカンケル王子を殺害したと言うのも、未だに報告していない。

そもそも、報告すべき事柄なのかどうか・・・。

アリエルは決してフワフワした性格の世間知らずのネンネではないが、俺としては「真実は決して人を傷つけない」とか言う寝言を信じて、その根本が純真で穢れない、この世の中で至高の価値のある女が抱く肉親達への憧憬を損なうつもりもなかった。


平たく言うと、何をどうやったとしても、こんな残酷な事をアリエルに教えるつもりはない。

誰かが教えようとしても、俺はそれを制止する。例えばシーナがそうしようとしたとしたら殴ってでも止める。男どもには容赦なんかする必要すら認めない。

「兄貴、駄々漏れっすよ。」と鹿子木が注意を促して来る。

ヤバい、アリエルが熱っぽく伴侶(多分俺なんだろうな)について語っていた直後に、俺が怒りを満面に出しているとかはよろしくない。

不審を顔に浮かべるアリエルに対して「旅の最中に聞き知った許し難い事を思い出していたんだ。詳しくは話せないがな。」と自分でフォローを入れた。

これでアリエルが納得してくれるかどうかはわからないが、お前には話せないと明言した訳でもあり、慎み深いアリエルはこれで俺にああだこうだと問い掛ける事はないだろう。と希望してしまう。


果たして、アリエルは何もその事について俺に問い掛けなかった。ただ、その表情には若干の寂しさが見え隠れしていた。


「それにしても、”物語はハッピーエンドが良いよ”ってですか。なる程ですね。」と鹿子木が呟いた。

「?」とアリエルがその言葉に興味と疑問を抱いたのか。少し首を傾げる。

「いえね、実はアニメでそう言うフレーズが有名な作品があったんです。吹奏楽のアニメなんすけどね。もう続編はできないでしょうけど。」と奴は続ける。

「何故続編ができないのですか?」とザルドロンが尋ねる。

「いや、思い込みを拗らせた男が、製作元の会社に放火して、長い間蓄積された資料も、制作に関わる人達も大方が火に捕らえられて失われてしまったんすよ。酷い事件でした。」と鹿子木が答える。

「それは何と言うのか・・・。」とザルドロンが口籠る。


「あれは痛ましい事件でしたね。何もしないで空想しているだけの働かない男が、単に自分が思い付いた物語の面白いプロットを、何の所縁もない、努力して働いている他人が同じく思い付いた。それを何故か盗作と決め付けて怒り狂い、焼き討ちを行ったんです。」と鹿子木。表情が冷たい。

「大人しく家の中で消費してれば良いんすけどね。そう言う手合いは自分の事を大きな存在だと見誤ってますからね。どうしても、世間に足して”俺様ここにあり!”とかやりたがるんですよ。」

そこから鹿子木の独壇場が始まった。


「ほら、姫さんをご所望とか言ってる爺様ですけどね?あれもそうなんすよ。ただ単に伯爵家として国内に威勢を張るだけじゃ我慢できない。大魔術師であり、清らかな乙女である姫さんを我が物にしたい。だけじゃないっすね。姫さんの命を生贄にして、カーリ同様の闇の大魔術師を顕現させようとしている。」

「闇の力によるフルバート新王朝の樹立ですか?エルフ達が絶対に放置しませんし、ラナオンの名高いトラロックさんも全力で殺しに来るでしょう。勇者タキの言葉を信じるなら、カオスの国も来ますしね。どのルートでもラサリアは終わりっす。」


「兄貴やシーナさんだけじゃないっす。俺だってそう言うのは許せません。消しちゃいましょう、そう言う連中は全部。だから、俺は兄貴と一緒にバーチに行きます。フルバートの前に、バーチに居る馬鹿侯爵を消してしまいましょう。」「いやね、正義に目覚めた訳じゃないんす。単に消して良い悪を見付けたからっすよ。兄貴の宝物を暖炉の焚き付け位にしか思ってない糞野郎どもなんか、何千人死んでも心が痛まないっす。」


「それと、兄貴に本気の俺を見て貰いたいとも思ってますから。」と言うと、ニチャっと言う音が聞こえそうな位の嗤い顔を浮かべた。一同黙っている。


「けどね、姫さん。」と鹿子木は表情を改めて、アリエルに向き直った。

「ハッピーエンドって言うのは、その物語のピリオドだけの話なんすよ。」

アリエルはその言葉の意味を正確に受け取った。

「一つの物語を終えても、また別の物語が次の瞬間から始まる。そう言う事なのですね?」

「そうっす。ですけど、毎度毎度ハッピーで終わるなら、この世の中はもっと上手く行ってる筈です。姫さんの目の届かないところには不幸な物語がワンサカ語られているのかも知れない。それにくじけずに、最後の最後まで姫さんは努力を続けられますか?それがどんなに遣る瀬無い繰り返しであっても?」


「はい、覚悟はできておりますし、苦労の連続はシーナやザルドロンと共に慣れておりまする。その方面のご心配は無用かと。」とアリエルは凛として答える。

「ならば、兄貴と俺がやる事は一つです。このセッションに最高のピリオドを打ってみせます。ね、兄貴?」と奴は俺に振って来た。

「もちろんさ・・・。約束する。俺としては、鹿子木の奴がやり過ぎない様に手綱は緩めないつもりだ。」と笑って答えた。


「さあ、今晩はお開きだ。特に鹿子木とマキアスは疲れているんだからな。今日はゆっくり休もうじゃないか?」と俺は閉会を促した。

「はい、とても楽しい夕べでございました。また明日お会いしましょう。本当に皆さま、ありがとうございました。」とアリエルが締めを行い、残った酒で乾杯を行った。

俺が肩に手を置くと、鹿子木はとても良い笑顔で俺に顔を向けた。

「やりましょうね、兄貴。汚い所は俺が引き受けますんで。バレない様に・・・ですが。」


全く頼もしいが薄気味悪い奴だ。けれど、これがこいつの個性なんだろうし。

俺がとやかく言うものではない。

俺達は明日バーチに赴く。それがどれだけの影響を今後に与えるのか・・・それはまだ見ぬ未来の事だ。

退出して行く俺達の前に、会場を片付けるためにメイドたちが待ち受けていた。

彼女達に手を振って、俺は鹿子木と共に周り廊下の慣れた道筋を通って階上を目指して行った。





ネットを調べても、宇宙戦艦ヤマトの初期設定をまともに書いているサイトって無いモンですね。

もしかしたら、いずれは覚えてる人も居なくなってしまうかも知れないですね。

そんな訳で、古い男がここで記憶の限りを書き記しておく事にしましょう。


宇宙戦艦ヤマトが、当初はアステロイドをくり抜いて造られた船で、汚染された地球を救うために放射能除去装置を受領して、最後に地球を救う。「アステロイド6」だったと言うのは有名みたいです。

その後に宇宙戦艦ヤマトにイメージが発展して行くのは知ってのとおり。

ただ、その経過においての「宇宙戦艦コスモ」は幾つかの形態変化を行う宇宙船とされていました。

第一形態:大きなアステロイドの形で、通常はこの形で航行する。(作画も簡単だったでしょうねw)

第二形態:アステロイドを一部解除した臨戦態勢の形。

第三形態:アステロイドを全部解除した形態で、巨大な砲塔を剥き出しにした決戦時の形。


とまあ、これはこれで、第一形態の際には敵性異星人ラジェンドラ星人の攻撃を迎え撃ち、戦闘が本格化すれば第二形態に移行して応戦。

そして、第三形態に変わった時、巨大な主砲と、それよりも致命的な波動砲が唸りを上げる。

なかなか熱いじゃないですか!と・・・続きを書きます。


登場人物ですが、古代進、島大介と藪甲板員、森雪なんかに加えて、最後に相原義一も登場します。

ここらはヤマトやYAMATOと同じですが、それは名前だけです。

中身は全然違います。この人達、ほぼ全員がサイボーグです。しかも主に頭脳関係を弄っています。

古代守なんかは、過去の戦史に登場する偉大な指導者や戦術家の知識や経験その他を学習のみならず、機械的な方法で脳にインプットしています。

そりゃそうでしょう。種族の命運を賭けて、遥かな星の旅を行うラストバタリオンなのですから。


けれど、そんな彼等であっても、所詮は人間であり、旅の最中に方針を巡って仲違いをします。

もちろん、ラジェンドラ星人との戦闘でもバタバタと戦闘員と保守要員は死んでいるのですが、航行部門のリーダーである島大介は、そんな激戦の合間に反乱を起こし、古代進その他の当初の放射能除去装置獲得の旅を続行しようとするクルーを船から追放してしまいます。


締まらない事に、島大介その他の反乱クルーは、反乱を起こした惑星の軌道に停泊中に、補給物資として船内に運び込んだ食料品から発せられた毒素のガスを吸入して全員死んでしまいます。

無人となった船内に、追放されていた古代進以下の追い出された者達が舞い戻り、当初の予定を続行する事となります。


そんなこんながあり、遂にヤマトはイスカンダルに到達、放射能除去装置を獲得します。

イスカンダルについてはもう記憶にありません。40年も前の雑誌をざっと読んだ記憶ですから。読み飛ばしてますね、多分。


さて、ガミラス以前の敵性異星人であるラジェンドラ星人ですが、放射能に依存した環境で棲息する人類とは別物のノン・ヒューマノイドです。正直化け物ww

外見はと言うと、クトゥルフ神話に出て来るグレート・オールドワンと類似した悍ましい姿です。

頭にカラフルなヒトデが乗っていて、身体は透明な樽、脚が何本か生えていて、フワフワと空を飛んできて、ヒトデの脚から光線を放って攻撃して来ると・・・。(嫌過ぎ。夢に出て来そう。)


そして、その母星で森雪が放射能除去装置を作動させ、人類の脅威を完全払拭しようとするのですが、放射能を完全に除去してしまった大気は、放射能に充満した大気と同じく、人類に取っても有毒だったのです。

そのせいで即死した森雪は、ラジェンドラの空に舞い上がり、やがて落下して消えて行きます。

その様子は「オフェーリアの様」と表現されていますが、ハムレットの悲劇のヒロインであるオフェーリアは狂疾の内に死んでしまい、ハムレットを苦悩させる女性です。

川に飛び込んでの入水の末の死でした。余談ですが、面白い解釈として「オフィーリア奪われた王国」と言う映画もあります。機会があればご覧いただけたらと思います。


話が飛びましたね。そして物語のラストです。

ヤマトの帰路は悲惨でした。最後の決戦に勝ち、ラジェンドラ星人を一掃したものの、乗組員はその後も次々と倒れ、地球との通信可能距離に到達した時点で、ヤマトで生き延びていたのは古代進と通信班の相原義一のみ。

その二人とて、辛うじて命を繋いでいるだけで衰弱しきっていました。


効果的過ぎて、下手をすると人類を滅ぼしかねない放射能除去装置は、なんとか適当な度合いで動作するように調整はできたものの、生きて地球の土を踏めるのかどうか。

そして、地球の大気圏にヤマトが突入する前に、身寄りのない古代と、まだ母が存命であった相原は地球と最後の通信を行います。

「お母さん、僕は生きて必ず地球に戻ります。」と母に通信を送った相原だったけれど、大気圏突入と着地の衝撃で彼も遂に力尽きてしまいます。


古代進は、相原の遺体を抱き抱えて地球の大地を踏みしめる。そこで物語は終わります。


原作者の豊田有恒さんが起案した第一稿の原案はそんな感じだったみたいです。


第二稿もあるのですが、それについてはソノラマ文庫版の小説が筋をほぼ完全になぞっています。

二一世紀後半、世界は未だに2つの大国によるブロックが存在しており、国連も存在していたものの、その力は限定的で、世界は今と変わらない困った状況と言う所から始まります。

そんなある日、国連の管轄で駐屯地が置かれていた冥王星で異変が起こります。

国連の駐屯基地が謎の宇宙艇の襲撃を受け、あれよあれよと言う間に基地は反撃能力を失い、遂に連絡が途絶えてしまいます。

様子を確認するために派遣された快速宇宙艦も消息不明になり、外惑星に派遣された国連所属のパトロール艦隊も襲撃を受けて全滅。

A国とB国の両者がお互いを非難しあい、双方バラバラに自分達の勢力圏である土星と木星に艦隊を派遣して、謎の宇宙艇を迎え撃とうとします。

ここから地球は破滅のどん底に転げ落とされてしまいます。

土星、木星、そして火星での決戦では、既に手の内を読まれており、艦隊の主兵装のメーザー砲を無効化されて、1200隻を数えた地球の宇宙艦艇は一方的に敗退し壊滅してしまいます。

そして、降り注ぐ反陽子ミサイルに地球は汚染されてしまうのです。人類の滅亡まで後一年・・・。


この小説はなかなかにハードで、第一稿で反乱を起こした島大介君は、今回は更にパワーアップしてヤマトに舞い戻ります。

なんと、彼はガミラスに捕虜になった際にサイボーグ化されて技術の神、真田佐助をシャワールームで鋼鉄の拳で撲殺!

戦闘班の殆どを毒薬で殺害してしまうと言う大戦果を挙げます。

たかが女一人を巡る痴情のもつれで、地球最後の希望に大打撃を与えるとか。どんだけ身勝手なんじゃと・・・。

けど、金属探知機くらい、帰還時に誰か使ってボディチェックせんかったのは意味がわからないんですよね。

空港でもそのくらいはやるんだし。意味がわからん。

ちなみに、筆者は空港でゲート潜る際に、何故か警報が鳴るんですよね。何故か両腕に反応がある。係員に「ボルトとか入ってます?」と聞かれても身に覚えがない・・・。

まあ、両腕合わせて、骨を含まない重量が20キロ程もある危険物ですが、流石に金属だけは入ってませんし。理由は未だにわかりませんね・・・。


最後に到達したイスカンダルには、放射能除去装置なんか無かったと言うのも凄かった。

地球人は放射能の中で生活するために、肉体改造を行うしかない。その結末も酷い。

しかし、生き残った古代進と森雪は、それでも地球に帰還する。

希望を胸に抱きながら・・・。


YAMATO2205でのイスカンダル人の正体。実は彼等彼女等は機械の中に宿る記憶を基に再構成された仮初の存在であると既にわかっています。

実は、石津嵐版の宇宙戦艦ヤマトのガミラス人の正体が、古代イスカンダル人が作り出した巨大コンピューター”スターシア”を守る為に創造されたイメージライフと言う人造生命だった訳ですが、これがYAMATO2205では、現実の生命体であるガミラス人と、イメージライフであるイスカンダル人が主客転倒して描かれていました。

筆者はYAMATO2199でのユリーシャの覚醒時の描写から、イスカンダル人がまともな生命体ではないと確信しており、多分こいつらはイメージライフなのだろうと思っていたら、実際そうだったのには苦笑してしまいましたが。


さて、最後に前述の豊田有恒氏ですが・・・・。

彼はいろいろとヤマト関係の仕事で酷い目に遭ったらしいですが、特に困ったのは、オフィス・アカデミーの西崎さんがSF的な設定を理解できない事だったそうです。

さらば宇宙戦艦ヤマトの敵である白色彗星帝国ですが、当初豊田さんは「地球に向けて”白色矮星”が接近して来る。」と言う設定を持ちかけたそうですが、「白色矮星ではわかりにくいから、白色彗星にしよう!」と言う話になったそうです。


まあ、結果オーライなのかも知れませんが、これは酷いですねww

またまた長い後書きになりましたが、こんなのでも読んでくれてたらありがたいです。


次回はスターウォーズは最初はこんな予定だった。と言うのを書こうかと思います。

全9作予定で、4から6のエピソードはルークが主役の例の三部作ですが、前後の三作ずつは随分展開が違っていたのですね。

これも筆者の古い記憶、当時の雑誌スターログの記事を基に書いて行こうと思います。

加えて、エピソード6とそれ以降も随分違っています。当時はエピソード5「帝国の逆襲」が公開された前後の事でしたし。


じゃあ、また次回のお話で。

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