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第百六十二話 藤巻明日香は分析する

ふむ・・・。俺は今やマキアスと呼ばれる事に違和感を感じなくなっている。

リアル世界では、俺の事をマキアスなんて呼ぶ者はいなかった。チーフだってそうだ。

けれど、この世界ではチーフも、レンジョウやカナコギまでも俺の事をマキアスと呼ぶ。

まあ良いんだけどな。


とにかく、俺としてはかなり深い所までこの世界の存在理由を考察できたと思っている。

しかし、その考察をどの程度まで、誰に対して開陳すべきなのか。それは迷っている。

順当な所ではチーフ相手は外せない。彼女は頭も良いし、俺の言う事は常に真面目に聞いてくれる。

実際、姿形だけじゃなくて、俺が彼女にぞっこんイカレてしまったのは、そう言う俺に対する接し方なんだろうと俺は思っている。


そうなんだ。彼女は俺の最も頼りになる理解者なんだ。まあ、あのドSな性格だけは頂けない場合もあるが。(苦笑)


レンジョウの衆議一決の後、流石にみんな疲労していたので休む事にした。

バラミルについては、塔の外の宿舎に帰った。帰り際に布の鞄にコルクを嵌め直したワインのボトルを忍ばせて階段を降りて行ったのだが。(しかも、密かにチーフと俺の飲み残した分まで掠めて行きやがった・・・。)


出発は明朝早くと言う事だが、今は夜の九時前後だ。まだ少し時間がある。

レンジョウとカナコギは、姫様とザルドロン相手に雑談中だ。

チーフだけが後片付けをしている。幾らメイド服着てるからって、女中の仕事に熱心過ぎると思うんだが・・・。


「チーフ、片付けが終わったら、ちょっとお話したいんですが?」と声を掛けた。

「うん?良いけど、みんなの前では話せない事なのかな?」とチーフ。

「いや、そうじゃないんですけど。けど、皆に話す前にチーフには理解を頂いておくべきかと思ったんです。」と応える。

「さっきまでの話題以外にも、いろいろと深く考えてた訳ね。」と穏やかな声で彼女は言う。

「そうですね。運営が俺をこの世界に呼んだのも、言ってみれば俺に謎解きに加わって欲しいからでしょうし。」と続ける。

「最適の人材を配置した訳ね。奴等は人を見る目があるわ。」と言って微笑む。

「だったら良いなと思います。」


****


「まず、これはレンジョウとチーフがフレイア女王から伺った話からの推定ですが、この世界ではゲームのチャットを利用した場合は”空間魔法”として探知されるが、俺達みたいに普通に会話してる場合には空間魔法とやらを経由しての会話になっていないみたいですね。」

「空間魔法ね。空間を自由に操るか・・・。夢と言うか、人間はもちろん、神様レベルでも実現不可能な概念ね。まったくもって幼稚だわ・・・。」と返してしまう。

「ラノベの定番みたいですけどね。空間を断裂させて相手を切断。空間を断裂させて攻撃を無効化とか。」マキアスもラノベは読んでいる様だ。あ、もしかしてレンジョウから股借りしたのかな?

「レンジョウの持ってた本なら私も読んだよ。未来の記憶が復活した後で失笑したわね。私の居た未来では、エーテル理論にまでは回帰していないけれど、空間には僅かながら”重さ”に近い性質があって、それらは概ね太陽系を構成する双極子磁場に沿って並行に、上下幅は太陽系の最外縁までの直系の半分ほどの円筒形の空間が太陽系空域として認識されていたわね。」と私。

「なんかこの世界が平面世界だってのと奇妙に相似していますよね。」とマキアス。

「そうなのよ、現実世界も空想のファンタジー世界と奇妙に似ているのが皮肉と言えば皮肉よね。で、さっきからの話題の空間魔法とか言う代物だけど、原理的にはドアを開ける為にそれと水圧装置で繋がっている重石の大洋一つを持ちあげるのと同じ位に頭がおかしいわよね。空間の持つエネルギーは水圧なんて比較にもならないんだし。」

「迂闊に空間を切り取ったり、穴を開けたりしたらエドモンド・ハミルトン考案の最終兵器みたいな破壊効果が生じる可能性が大きいんですね。」

「仮想世界であっても、宇宙破壊者なんて呼ばれるのは御免被りたいわよね。」と思わず笑ってしまう。


「まあ、そこらは俺にとっては未知の物理学なので考察は控えます。問題なのはフレイア女王言うところの空間魔法の意味が、多分イーサマジックと言う事で、有線接続の規格についてのプロトコルを利用した魔術って言う意味なのだろうと推測されます。ほぼ当てずっぽうですが、辻褄があってますし、多分大きく間違ってはいないでしょうね。」とマキアスは言った。

エルフの諜報力の源泉は、そう言うゲーム世界の機構を利用したある種のチートと言う事で間違いないだろう。

「しかし、ここで大事なのは、俺達がこうやって普通に話しているのは滅多と内容を傍受できないのはありがたいね。ま、例外もあるみたいだけど。」と例の地下訓練場でレンジョウとイチャついていた時に、”あの女”から横槍を入れられた記憶が蘇った。

あれをどうやったのかは、後日調査しないといけないだろう。と考えた時に、真っ先に尋問すべき相手が脳裏に浮かんだ。さて、シーリスはちゃんと家に帰っているのだろうか?


「チーフ、何考えてますか?」とマキアスが訝しむ。けど、ちょっと様子が変だ。

「いえ、普通に情報収集の事を考えてたけど?」と怪訝な顔で問い返す。

「そうなんですか?何か妙な、ちょっと怖い顔で笑ってたものですから・・・。」と・・・。

気を付けなければ・・・。幸い、レンジョウその他は別の島でお話し中だ。こちらに目を向けてはいない。


空間魔法については理解できた。(気がする・・・)その他の考察を是非伺いたいものだ。

「続けて。」と言うと、マキアスは頷いた。

「サーラと呼ばれる例の怪しげな存在と、あのサマエルは確実に俺達には未知の方法で連絡を取り合っていました。そして、サマエルの昔話を参考にすると、現実世界での彼等は好き勝手に遠隔通信をしたりはできないみたいです。何しろ、電話でメキシコとギリシアで話していたらしいですからね。」

「そうよね。現実世界ではできないけれど、ここではできていた。つまりは、ゲーム世界の機能を使って話していたと言う事よね。」私も同意した。

「さて、それと同じ事を未来からの侵略者はできないのでしょうか?」とかなり真面目な顔だ。


「なるほど・・・。水晶玉の通信や、チャットその他の遠隔通話は盗聴されていると考えて良い。もしかすると、様々な状況認識用の視点や会話もプロトコルを有している者ならば閲覧可能かも知れないと言う事ね。でも、過去ログとかは閲覧できるのかしら?」と言う疑問が生じた。

「そこまでのログは無いと思います。恐ろしいデータ量になるでしょうから。オブジェクトの配置とアイテムやステータスその他の管理。基本的にゲームの保存データはほぼそれが大半の筈ですから。」とマキアス。

「つまり、巨大な表計算ソフトとデータベースの処理大系こそがネットゲームの正体なんですよ。グラフィクスやサウンドその他は大体が勝手に各パソコン上で再現されるだけです。位置情報だって、サーバー内のデータベースの位置ポイント情報を弄り回したら簡単に変わるでしょう。俺みたいに姿形が変わっている場合もあるんでしょうけどね。」


「それにしても、このゲームは良くできているわよね。持ち物や位置以外のパラメーターとして、痛みや空腹も感じるのだし。」と私の次なる疑問が。

「それは俺達の本体にフィードバックされて処理された結果が送り返されて感覚となる。そう考えるのが筋でしょうね。」

「ちょっとそれだと辻褄が合わない事が幾つか生じて来るわね。例えばレンジョウはどうなるの?この世界に転送されて来たと言ってたでしょう?」

「いや、多分元の世界に居ますよ。眠っているのかも知れないですが、詳細は不明です。」

「カナコギが言ってた、魔法陣に呑まれて消えたって言うのはどう?」

「それですが、多分、魔法陣は他の人に見えたんでしょう。けれど、レンジョウは異世界に転送されたんじゃないと思います。まだ現実世界にいると思うんです。」とマキアスは言った。


「俺達は揃って、位相を弄り回して、下手すると惑星を消してしまう存在に出会っていますよね。それよりももう少し穏当な方法で位相をどうこうできる悪魔や天使が居るとすれば、簡単に何かを見えなく、触れなくする事ができると思います。現に、この世界のレンジョウやアローラは、透明化の魔法を仕込んだ神器を持っています。あれと同様の事が現実世界でできるなら、レンジョウはその力の庇護下に居て、眠っていたり昏倒していたりするのだと思います。」

「・・・・。」私は考え込んだ。なるほど、今の私が強制催眠状態でログインしているのと同じな訳か?いや、待て・・・。


「あのさ、それだと私やレンジョウ、あんた達もそうだけど、眠っている状態でどうやってゲームの移動やコマンドを使える訳なの?」

「さあ?その辺はわからないですね。けど、例のVRヘッドセット、あれには催眠機能とかもあるんでしょう?映像とかを三次元に見える方法で投影して、それを見た俺達の視覚その他の感覚に何等かの方法で応答しているか。あるいは考えたくないんですが、精神的なハッキングをその方面に熟達したお方の魔法的な方法で受けて、その応答をゲームに入力しているのかも知れません。ちょっと怖いですけど、その線もありなんですよ。」

「起きた時に、現実世界の肉体がどうなっているのか心配よね。」


「それですよ、俺の心配しているのは・・・。チーフの肉体は、今や凄いカロリーを必要とする様になっています。多分、基礎代謝だけで6000キロカロリーは楽に消費するでしょう。貴方は、ここに来る前にどの程度の食事を済ませて来ましたか?」と真面目な顔でマキアスは言う。

「さあ・・・。あまり普段から食が細いと言う事は無かったけど、だからと言って人並以上に豪快に食べる方じゃなかったと思うよ。眠らされたのは夕食の後だったし、数日なら命にまでは関わらないでしょう。」

「なら、一番の心配はレンジョウですね。彼は今まで数日間どこかに幽閉された状態なのでしょう。あの体格ですから、普通にチーフの三分の一位の基礎代謝があると思われますし。」

私は心をズタズタに切り裂かれた。そして、拳を握り締めた。おのれ、部長!


「それと・・・。これ以上はここでは・・・。」とマキアスは口籠った。

「私の部屋に行く?」と私は誘った。

「いえ、それはチーフの慎みを疑われる事になります!」とマキアスは無意識に怒鳴っていた。他の者達は一斉にこっちを向いた。

「私達は今から密談に入るわ!マキアス、おいで!」と皆に向けて宣言した。ズルズルと赤面してアワアワしているマキアスを引き摺って行く。

全員、しばらくこっちを見ていたが、その視線はすぐに元に戻った。レンジョウが私達二人を優しい目で笑って見ているのが視界をかすめた。


****


「注目の的になってしまいました。すみません、チーフ・・・。」とマキアスはしょげている。

「いいよ。あんたと私の仲じゃないさ。」と少しだけ慰めておく。

実のところ、マキアスは頭は良いが、かなりシャイなところがある。思索に関する能力は高いが、実行力は少し乏しい。おまけにメンタルが弱いところがある。

まあ、完璧なメンタルの持ち主とかは私としては苦手な部類に入る。剣術の師匠であるカミーユがまさにそんな人物だが、CIAに所属する元兵士や軍属の者達にも少数そう言うのが居た。


彼等彼女等は揃って社会不適合者だった・・・。会話すら細心の注意を必要とする。そこらを歩いていても目立ちまくる。要は普通の人間に絶対見えないし、事実普通に人間では決してないのだ。

レンジョウは一見その手系に見えてしまうが、話してみるとシャイな一面があり、他人の言う事に常に興味を持って耳を傾けるタイプだ。

自分の正しさに絶対の自信は持っていないし、他人の指示や願いにはある意味嬉々として従おうとする。絶倫と言って良い程の恐るべき体力で、黙って的確に継続的に行動を続ける。

つまり、レンジョウはある意味マキアスと非常に似ているのだ。多少は普段頼りなくても、他人を常に信じようとする。そんな独善性や冷酷さの欠片もない所が二人には共通している。


「さあ、あそこでは口にできなかったあんたの推察とやらを聞きたいものよね。」と、葡萄酒と水を用意しながら話し掛けた。

「はい、俺が気付いたのはアリエル姫の事です。」だろうね。

「じゃあ、お願い。」


「アリエル姫は間違いなく実在の人物です。賭けても良いですよ。」とマキアスは言った。

「推測の論拠をお願い。」と短く言っては見たものの、心臓が瞬間ドキンと跳ねた。

「ええ、まずはサーラさんの思惑からです。アリエル姫にいろんな事を吹き込んだ理由は、俺達に彼女の変化を実際に見せる為でしょう。料理、これは以前からできていた様です。でも、あのダンスはどうでしょうか?あんなのチーフも見たのは初めてでしょう?」

「そりゃそうよ。あんな恰好であんなダンスをしていたら絶対に止めてたよ。」と溜息を吐く。


「でしょうね。あのダンスは、俺達に見せる為に練習したんだと思います。けど、練習したからと言っても付け焼刃でできるもんじゃありませんが、それができたと言うならば、姫様には前からそう言う事をやってた経験があったと考える他ありませんよ。そして、やってみろとサーラが言ったのだとして、何故できると知っていたのかです。」

「つまり、アリエル姫の過去を知ってるんじゃないですか?あのサーラと言う人は。未来の戦場で、姫様と同じ姿形の天使や悪魔はいなかったんですか?」とマキアスは訊いて来る。


「未来の戦場には居なかったよ。でも、過去。多分紀元前のおそらくイタリア半島には居た。もっと迫力があって、小難しい口調で話をする厳しいタイプの人だったけど。あれは間違いなく姫様だったよ。」と補足も含めて返答した。

「ですよね。なら、何故未来の戦場にアリエル姫が居なかったのか。そこが問題なんじゃないでしょうか?そして、サーラもサマエルもその理由を知っているんでしょうね。」

「余計な事を話す人達じゃないよ。ほら、最初にサマエルに遭った時。あんたは凄い剣幕の彼の前に、私を庇って立ってくれたよね。」

「ありゃ怖かったですね。自分が我慢してるのに、チーフがペラペラといろいろ話すのは許せん見たいな感じだったですけど。マジでチビるかと思いました。」

「あの時のあんたは立派だったよ。あの時の私は、いろいろあって精神が不安定だったからね。サマエルに一喝されて腰が抜けそうになってた。でも、あんたのおかげで恐ろしい相手にも遂に気後れしないで済んだんだ。」


と言うと、マキアスは覿面にモジモジし始めた。何と言うか、初心な男である。実に好ましい。

「あんたは本当の勇気と的確に働く頭脳を持った男だよ。今回、あんたとまた危険な道行きを行けるのは幸運なんてもんじゃないね。」と褒めると、これまた覿面に赤面し始めた。


マキアスは場を仕切り直すべく、咳ばらいをした後に再び言葉を発し始める。

「それとですが、これは未確認ですが、レンジョウが言っていた”星の世界”とか言う場所の事です。サマエルが、レンジョウがそこから帰還した後に意味ありげな言葉を言ってたんでしょう?」

「”面白いね、君は。そう言うものを作ったのか。これは運命なのかも知れない。”そんな事を言ってたね。」

「それって、姫様の変化に関係する何かじゃないんでしょうか?」

「うん。私もそう思う。あの娘も言ってた。精霊には美も美味もわからない。大魔術師も務まらないってね。でも、姫様には美味は理解できるし、大魔術師として国を統治できている。いろいろと邪魔は入っていてもね。」とついついマキアスには理解できないだろう情報を口にしてしまう。


「精霊って何ですか?」とマキアスが怪訝な顔をしている。

「あんたも一緒に行こうか?それについて、詳しく語ってくれる人物が居るのよ。」とマキアスを誘って見る。明朝出発のレンジョウは無理として、カナコギも同行するだろうし。

「詳しくは私にもわからないのよ・・・。」とこの話は一旦切る事にした。


****


「ふむ・・・。精霊ね。」俺は独り言ちた。チーフにも未知と言う事なら、今は考えても無駄かな。

「レンジョウも言ってましたが、”この世界は彼が今後会うだろう人物についての予備知識を与える為に作られたのかも知れない”との事でしたが・・・。」

「そうね、私やあんたにどこかで会った時にすれ違わない様にって事なのかもね。こんなゲームの使い方を誰が考えたのやらね。驚きだわ。」とチーフはクスリと笑った。

「俺はブログをいろいろと渡り歩いてました。知ってますよね?」チーフは頷いた。

「インターネットって言うのは、言ってみれば誰かと誰かの距離をゼロにする仕掛けとなりえます。そして、インターネットそれ自体が出会い系サイトとしての性格を持っていると言う事も間違いありませんね。人類は恐ろしい代物を産み出したものですよ。」


「元々は核戦争の際に、ネットワークの生存を計る為に考案された代物なんだけどね。」とチーフは言う。

「ラップだってそうですよ。元々は弾薬を湿らさないための物だったのに、今や食品を梱包し、段ボールを濡れない様に守り、ダイエットやスキンケアに使う女性まで居ますよね。人は出来合いの何かを好きな様に使うものなんですよ。」

「違いないわね。」うむ・・・チーフはご機嫌だ!笑顔が眩しい。

「で、ここからは俺の推測です。この世界を設えた者達は、確実にレンジョウとアリエル姫の接近を願っています。つまり、未来のチーフが出会わなかったアリエルと言う実在の人物は確実に居るんだと俺は思っています。どこに居るのかはわからないですけどね。」


「それは前からわかってた事よね。姫様を守るレンジョウ、その関係が深まらない訳がないもの・・・。」と言うチーフは少し複雑そうだ。

「チーフはレンジョウを独占できないのが不満なんですか?」と俺は敢えて踏み込んだ。

ギクリとした顔を見せるが、普段の澄ました様子とは大違いだ。そこに少し嬉しくなった。

「俺はチーフに惚れてますよ。ぞっこんです。でも、レンジョウとチーフが上手く行ってるなら、俺は嬉しく思います。何故って言うと、どうやらチーフとレンジョウの関係は尋常な結びつきじゃないとわかってるからです。未来で、もしかすると過去でも関わっていたのかも知れない。」

カナコギ風の尋問だなと思いながらも、俺は続けた。


「ねえ?チーフにはアリエル姫と関係した過去の記憶もあるんでしょう?そこにレンジョウかなと思える人は出て来ませんでしたか?」これは誘いだ。

「わからないわ・・・。あの人がレンジョウだったのかどうか。私にはわからない。」チーフは露骨に狼狽え始めた。

「その人はどんな人だったんですか?」俺は静かにチーフに尋ねた。

「落ち着いて。俺はいつだってチーフの味方です。」

「金の薄板で飾られた豪華な鎖鎧を着た、逞しい隻眼の男だった。黒髪で、髭を蓄えて、落ち着いた雰囲気の男だった。年の頃は50歳前後に見えた。見るからに優しい眼差しと動作で、声も美しかった。」

「そこまで・・・。」と言いながら、俺はチーフの前腕に手を掛けた。

「すみませんでした。アローラの事を勘案しても、この方法は対象に大きな負荷を掛けるとわかっていたのですが・・・。」

「・・・・。」チーフは頷いた。汗をかいている。

「どうにかして、もう一度アリエル姫とそっくりな女性ともう一度コンタクトを取れたらと思いますが。」俺はもう少し詳しい情報が欲しかった。


「それ以上はわからないと思うわね。あの丘で出会った誰かとは、あの姫様と同じ顔の女性もその後は会っていないと思うよ。」

「どうしてですか?」

「だって、彼女はその人を見送りながら、”これが今生の別れ”と言っていたのよ。」

「サマエルが言っていましたよね。人は転生するのだと。その別人みたいなアリエル姫は、その男性とは今生の別れであっても、その人の来生で再会できると知っていたのではないでしょうか?」俺はそう推測している。


「そうね。なんでも、私とは別のシーナから未来の事を訊いていたとも言ってたね。」

「それも謎の一つですね。アリエル姫のそっくりさんは、きっとその事を敢えてチーフに伝えたのだと思います。俺達にとっては理解それ自体が難儀な事ですけど、大事な事だったんでしょうね。サーラさんとやらの言う事では、”航時軍団”の様に、未来は確定していないそうですが、チーフの居た未来は終盤のジョンバールの様に消えてしまった訳ですよね?」

「そうね。あの世界は消えてしまったと思うよ。あの女と私がヘルダイブしてしまったから。」


「そのヘルダイブって言う時間遡行ですけどね。要は、一度しかできない時間遡行で、それを行うと世界線の確率を大幅に減衰させると言う事で間違いないんでしょう?」

「そうだと聞いている。けれど、私程度の知能と素質じゃ、何でそんな事が可能なのかもわかんないわよ。」

「あのですね。俺だって、知能は人類の上位0.3%位に入るらしいですけど、そんな専門的な知識はありません。けど、違和感がありますね。」

「違和感?」

「はい、違和感です。チーフの居た世界では、ケッタイな侵略者。人類の根絶を企む機械の血政体でしたか?それらと抗争を繰り広げていたんでしょう?」

「そうよ。それは疑いないわ。」

「そんなのと消耗戦を行いながら、何でそんな大掛かりな仕掛けを造ろうと皆が思ったんですか?それで戦局をひっくり返せる訳でもないのに、大掛かりな量子コンピューターと、莫大な電力、この世界には正しい概念すら存在すらしていない先進波とか言う代物を使って時間を遡行する?おかしいですよ。」


「マキアス、何を発見したの?私に教えて!」とチーフが縋り付いて来る。

「じゃあ、俺の言うとおりにして下さい。」と俺は言った。声が震えるのを感じる。

「良いけど。どうしたのさ?」と怪訝そうなチーフ。

「目を閉じて下さい。」と俺は言った。チーフは迷わず目を閉じた。糞!何て可愛いんだよ!


俺はチーフを抱き締めて、耳元で囁いた。

「チーフ、貴女は騙されてたんですよ。貴女の居た未来は、最初から破滅すると決められてたんです。」

チーフは身体をビクリと震わせた。それは凄い力だったが、俺は渾身の力でその震えを押さえつけた。

「鮭の皮食う、エビフライのしっぽ食う、手羽先の骨食う←こういう奴」と言う記事があります。

・・・・。

あかんのか!それをやったらあかんのか!

ちな、手羽先の骨を食ってたら、元上司から原始人扱いされました。

その元上司ですが、”世の中には暴力で解決できない事はない”と言う哲学を語るお方です。

私が階段を登っていると、後ろから忍び寄って正拳突きを食らわして来る野蛮人です。

そんなのから原始人と言われるとは、何と言う屈辱!w


私は、サンマの塩焼きも頭からワシワシ食べます。エコだ、エコなんだよ!

食品ロスゼロ。カレイの煮付けも全部骨まで食べます。地球に優しい!

それを育ちが悪いだと・・・。グスン・・・。チャンとご飯を残さず食べてるだけなのに。

まあ、毎度ツッコミが入るのは仕方ないかと思われますが、育ちが悪いとまで言われる筋合いはないと思いますね。(チクソー)

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