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第百五十九話 先代様、怖すぐる・・・。

「模様替え?」と兄貴が言うや、先代様(仮)はいきなり変身すますた・・・。


「こんな感じでどうかな?物言いも変えてみたよ。」と・・・。

そこには、ふわふわのカールしたピカピカブロンドはそのままに、青い、とっても青い二つの澄んだ目が。

顔はと言うと、これ白人でも珍しい位に白い。そして、パッチリしたお目目に不釣り合いな位に薄い唇と、ツヤツヤのホッペ。顎のラインは白人って感じじゃないです。むしろ、黄色人種っぽい?

鼻筋は通っているけども、高過ぎる訳ではなくて控え目っすね。


「ふつくしい・・・。美人さんはシーナさんやアリエル姫なんかを筆頭に、この世界では珍しくないですけど、先代様の美しさはちょっと衝撃的なもんがありまっす。」俺、見てるだけでフラフラになりそうっす。

横を見ると、兄貴も衝撃を受けた様です。

「やっぱりね。貴女は、サーラだよね?」そう言ったのはシーナさんでした。

「そうだね。予想のとおりだったろう?」サーラと呼ばれた美女さんは、ニコリと笑いました。

「ええ、でも未来の貴女が、ここにいるレンジョウと藤巻明日香に何をしたのかは知っていますか?」激高している風ではないけれど、シーナさんの声が険悪っすね。

でも、声とは裏腹に隣に居るマキアスさんの手を優しく握っています。

「ああ、報告書は読んだからね。マキアスもレンジョウも、私の立案した作戦で命を失った。そう言う事だったね。」先代様、サーラさんは平板な声でそう言いました。


「チーフ、未来で何があったのか俺にはわかりません。けれど、今はまだ俺もレンジョウも生きてます。そんな言い方はしないで下さい。」

マキアスさん、大人っすね。けど不安そうっす。

そりゃあ、見た事もない未来とやらで、自分が死んだのだとシーナさんに言われてますし。

兄貴が同じ事を言われても全然気にしてないのが不思議なくらいです。


「あのですが・・・。その未来ってのは、ラノベやゲームに出て来る多数の時間軸って事で間違いないっすか?」俺は敢えて訊いてみました。

もしかして、マキアスさんなら随分と詳しく知ってるかも知れませんが、他の人達、アリエル姫やザルドロンさんも含めて、さっきから無言です。訳わかんないんでしょうね。

「そう言う事になるかね。むしろ、時間軸と言う代物随分と考え方の基本は古いんだよ。21世紀のラノベどころか、お主達の産まれる遥か前、前回の世界大戦が終わった頃に、アメリカで上梓された小説があってね。”航時軍団”って言うんだけど、知ってるかい?」とサーラさん。

「私は知ってる。電子書籍で読んだから。」とシーナさん。なんでしょう、この人意外にSFに詳しいと言うか。

「俺も知っているよ。文庫で読んだ。空想のエネルギーを天才科学者が善用したジョンバールか、悪い修道士が不完全に研究をまとめてギロンチとして悪用したか。その差で人類の未来が左右されてしまう。けれど、その世界線は完全には決まっていないため、タイムマシンに乗ったジョンバール側の主人公達が、ギロンチの陣営と時空を股に戦うって話だったな。」とマキアスさん。


「すまん、俺は噛み込めない。」と兄貴。

「何が何だかわかりませぬ。」と姫様、「同じくでございます。」とザルドロンさん。

「じゃあ黙って聞いておれば良いさ。」とサーラさんは優しく諭しています。三人共頷きました。

「すんません、俺自身がその話知らないんすけど、今時ラノベの可能性未来って感じの理解で良いんでしょうか?」と俺もそっと訊いてみました。


「それで良いと思うぞ。ただし、時間や空間の在り方と言うのは厳密には宇宙全体で同一のものではないのじゃよ。わかりやすく言えば、この太陽系内だけに及ぶ現象だと思えば良いだろうね。そして、それらは”確定”してしまえば最早変更は不可能なのさ。」とサーラさん。

「なんでそんな事ができるんでしょうね?俺にはさっぱりわからないんすけど。」と正直に言いました。

「私は言ってみればサマエル同様に、死を司る天使なんだよ。だからこそ理解できた事もある。私達天使とは、言ってみれば安全装置なんだよ。人類が滅びない様に設置された安全装置。対して悪魔とは、健全な人類の発達を促す為の管理装置と言う感じじゃろうな。そして、それ以外にもいろいろあるけれど、シーナは安全装置の一つを既に手に入れているね。」


「この物騒な代物も安全装置だと?」シーナさんは、例の人を黒焦げにすると言う”月の鍵”を取り出しました。

「そうだとも。それこそは人類の生命線の一つであり、多分今回の騒動を終息するための最後のピースだと予測されておる。大事にせよ。」そうサーラさんは言いました。

「で、元の話に戻りますけど、なんで時間遡行なんて大それた事ができるんでしょう?」と俺。

「我等、彼等を装置として設置した者がおるとして、我等彼等ではどうにもできない袋小路が生じたとしても、それを解決するためには、なんぞのリセットあるいは巻き戻しの機能が必要だと思われたからではないかな?」

「なんでそんなもんがあるっすか?」

「我等彼等を設置した者、あるいはそれが神と呼ばれる存在なのかも知れぬが、その存在は随分と人間達に対しては過保護なのじゃろうな。我等彼等には何の説明もなしに、世界の各地に放り出したのとは大違いじゃよ。」


「あの?サーラさん達は世界各地に突然出現したと言う事なんですか?」とマキアスさん。

「それは私も聞いた事がある。天使も悪魔も、最初は人間の子供と同じだったって。でも、ある一定の年月の後、年齢を取らなくなるそうなの。サーラは見ての通り18歳から20歳の間で、うちの部長は見てくれは50歳くらい。サマエルは20代半ばに見えたでしょう?」とシーナさん。

「外見の年齢はどうやって決まるんだ?」兄貴が初めて口を挟んで来ました。


「さあね?それは良くわからないよ。ほら、この世界の勇者と同じく、我等彼等にもアーキタイプがあると考えたら筋は通るのじゃがな。悪魔の中には、昔は黒人だったが、今は白人にしか見えない者もいる。彼は一貫して戦士としての人生を送って来たが、やってる事は同じでも、外見だけは随分変わったものじゃよ。加えて、少数の者には完全な変身能力がある。この私自身がまさにそうなのじゃが。」

「あんた、全然姿形と声色は変わっても、口調は変わってない様に思うが?」兄貴が久々に突っ込みました。

「惰性と言うもんだろうね。出会った時からこの口調だったからな。これがお主の前では楽に感じられるのじゃよ。」と言って笑う顔は本当に楽しそうで・・・。


「それはそうとしてじゃ。アリエル姫。そなた、料理は既に皆に振舞ったようじゃが、もう一つ覚えた事があるじゃろう?披露してみてはどうじゃ?」と唐突にサーラさんが口にしました。

「あれをでございますか?」と言うと、アリエル姫の頬が紅く染まりました。

「あれって何だ?」と兄貴。ザルドロンさんはニヤニヤと笑っていますね。

水を向けられた姫さんはと言うと、指をクネクネさせながら考えています。多分、恥ずかしがってる?

と思った矢先に決然とした顔で、「着替えて参ります!」と声高く宣言してから部屋を出て行きました。


「何を姫様に吹き込んだの?」とシーナさんが警戒しています。

「ふふん。」と嫌に満足気にサーラさんは笑みを浮かべました。いたずら者の笑みを。

「しばらく時間を頂く事になりますな。」とザルドロンさんもニンマリしています。

待つ事数分で、姫さん再登場。でも、今度の恰好と来たら。

「男装だと?」兄貴が驚愕しています。


姫さんの恰好は確かに男装ですた。ピッチリしたズボンと、こればかりは胸元がちょっと・・・細身の少女って言っても、姫さんはそこそこ胸がある方みたいです。皮のシャツの胸が窮屈そう。

足には皮の短靴を履き、フェルトの縁ありの帽子を被ってます。

「その御召し物は一体?」とシーナさん愕然としています。

「カンケル兄様の御古着ですよ。さて、ザルドロン、用意を。」と姫さんは宣言します。

用意って何を用意するんでしょう?と思ったら、姫さんの手には随分大きな籠が抱かれていますね。

中身は?あれ?白い紡錘形?卵っすか?あれは・・・。


「さあ、どいたどいた!」とサーラさんが言うと、驚いた事に俺達が囲んでいた大きな机をヒョイっと手で掴んで壁の近くまで運んでしまいました。怖・・・。

兄貴もシーナさんも呆然としています。


「では、これらを置くのは儂の役目と言う事で。」そう言いながら、ザルドロンさんは小さな木の細工、多分朝食の茹でた卵を置く為の台座を設置し始めました。あらかじめ用意してたんすか?

俺達は壁際の大きなソファに全員座る事にしました。それにしても、あれは何なんでしょうね?

「なるほど・・・。」と兄貴は知った風に言葉を零し、顎に手を添えています。

「なるほどって何?ザルドロンは何をしているの?姫様の恰好は何なの?」シーナさんアワアワしてます。

「あれが何だか知っているのか?レンジョウ。」と、大往生と額に書かれた人に問う様な言葉をマキアスさんが発しています。

「うむ・・・。あれは・・・。」と兄貴もそのネタを知っているかの様な反応で。


「シーナ、最初の朝の歌。覚えてるか?」

「ああ、ゲーテの著述の一節だって言ってたわね。」

「あれは、ミニヨンと言う旅芸人の娘が主人公のヴィルヘルムに向けて歌った詩なんだ。そして、アリエルのあの恰好は多分ミニヨンを模しているんだろう。ミニヨンは12・3歳の美しい顔をした男装の女子なんだ。そして、ミニヨンはヴィルヘルムの前で踊りを披露する。ほら見ろ。」


ザルドロンさんは、卵を幾何学的な文様であるかの様に手際よく並べました。けどまあ、何十、いえ百を軽く超える数の卵はその並べている幅が非常に狭かったんですよね。

「お前さんは、ヴィルヘルム・マイスターの修業時代を読んだ事があったのよな?」とサーラさん。

「ああ、父母のお気に入りの小説だったからな。」と兄貴。

「なら、これからアリエルが行う事も知っておるな。けれど、お前さんは、ミニヨンが何故奇妙な格好だとヴィルヘルムに思われたかはわかっておらんかったろう?」

「ああ、けれど見てわかった。なるほど、高貴な美しい顔の少女が男装をするなんて、常識外で奇妙としか言えないのだからな。」

一体何の話をしているのか。俺にはチンプンカンプンでした。

そして、次に姫さんが行った事は更に驚きでした。姫さんは、いきなり首に掛けた布で、自分自身に目隠しを始めたんですよ。


「では始めます!」と弾んだ声で姫さんが宣言しました。

この人、普段は大人しい人なのに、動くとなれば、やる事為す事唐突っすね。

サッと細く長い脚が曲げられて伸ばされて振り上げられます。大開脚で・・・。驚いた!無茶苦茶はしたない姿と言うか・・・。こんな事、お姫様がして良いの?って感じで。

しかしまあ、これは男物のズボンでないとできないポーズでっす!ある意味感動的♪

次に脚を振り上げたままでクルクルっと回りながら、まるでバレエの様に回転します。早く滑らかで、しかも正確でふつくしい・・・。

マキアスさんの口があんぐり開いています。あ・・・俺も顎に手を当てておくべきっすかね?

ふと見れば、兄貴は身を乗り出しているし、シーナさんは両手を前で組んでます。

ザルドロンさんは満面の笑みのままでソファーに腰掛け、サーラさんは若干オバサン臭い様子でソファにもたれてますね。


伸ばした両手と両足でコマの様に回転したかと思うと、身体を直立させて足を曲げて回転する。時に飛び跳ねて胸を反らして両手を掲げる。

メチャクチャ情熱的なダンスが繰り広げられているのに、床の上の卵には絶対に触らない。

姫さんの隠された運動能力に俺は心底驚きました。幾何学的に描かれた卵の間の小道を、姫さんは行きつ戻りつしながら、身体をブンブンと振り回しています。

バレエと床運動とフィギュアスケート、全てを足した様な凄い動きはどれ位続いていたんでしょうか?

やがて姫さんはその動きを止めると、卵だらけの幾何学模様の中央(幅15センチの6方向通路の中央)で静止して、空中に向けて決めポーズで〆たんです。

その後に、微動だにせずに目隠しの布を取り、踊る妖精の様な足取りで姫さんは卵の間から走り出て来ました。


****


隣のシーナさんが目を見開いていますね。

「まさかと思う事をやらかしてくれるな。道理でフルバートの地下以降にアリエルが連絡を送って来ない訳だ。ゲーテの書いた小説、小説の中の詩、讃美歌に踊りか?大魔術師に天使が吹き込む事としては変わり過ぎているな。何が目的なんだ?」とまあ・・・さすがの兄貴も声を張り上げたりしません。かなり疲れたご様子で・・・・。


「彼女に必要な知識と教養。そう言う事じゃないかな?文学や詩文を愛する大魔術師が居て何が悪いんだろうね?」ちょっと開き直ってる?


兄貴は頭を押さえて下を向きました。「あんたの吹き込む事は間違いなく危険だな。アリエルはどこに行ってしまうんだ?朝方の歌謡と言い、ノースポートの市民は統治者の様変わりを今に不安に思い始めるぞ。」、どうやら、兄貴とシーナさんはアリエル姫の歌を聞いたみたいですね。俺もちょっと興味が出て来ました。

嘘です。メッチャ聞いてみたいです。明日の朝は早起きしようと心に決めました。

「良いんだよ。あれはあれで市民からは好評なんだろうしさ。今朝なんかは、遂にアリエル姫の歌う姿に感動する者まで出ていた様だしの。」とサーラさん。

「あんたは事情通だよな。本当に呆れるばかりだ。フルバートの塔の中でも、全然退屈なんかしてなかっただろう?」と嫌味を言われても平気の平左みたいで。


「そんな事よりもほら。フルバートの地下では戦利品があったのだろう?アリエル姫にお渡ししないで良いのかい?」

「ああ、そうだね。全くそのとおりだ。」と言うと、シーナさんがあらかじめ用意していた大きなバスケットの蓋を開きました。

「このライフ系統の呪文書と思われる書物はフルバートの地下にありました。ネイチャー系の呪文書と思われる書物はフレイア女王に献上致しました。」と言いながら、シーナさんは呪文書を差し出します。

「何と言う事でしょうか!シーナ、レンジョウ様、カナコギ様とマキアス隊長。皆様には感謝の言葉もありません。」アリエル姫は大喜びですが、如何せん、恰好が男装のままで、しかもあの曲芸みたいな踊りを披露した後だったりしますので、違和感が凄くて・・・。

「他にも、奇妙な魔道具が一つと、灰色の石、重さをまるで感じない奇妙な袋を手に入れました。加えて、エルフの女王から2本の魔法の剣を頂き、盗賊ギルドの館で幾つかの神器を手に入れました。」

「そうだったな。これはザルドロンにと思って、俺が預かっておいた。」そう言いながら、兄貴はザルドロンさんに白い指輪を手渡しました。


「これはこれは・・・。むむ・・・儂にもわかりますが、この神器の指輪は途轍もなく強力なアイテムであるようですな。」なんて言ってる間に、姫さんは呪文書を開いていました。

そして、呪文書の間から、ハラリと何かが落ちて来ました。

「あら?なんでしょうか、これは・・・。あ・・・これには何かの呪文が封じられていますね。」


どうやら、その書付みたいな小さな紙片には、アリエル姫の知らない呪文が記載されていたみたいです。

「これは何と言う呪文なのでしょうね・・・。あ、呪文書の回路に新しい呪文が追加されました。随分複雑な図面まで添付されています。少し高難易度の呪文みたいですね。種類は都市呪符・・・。呪文の名前は・・・。」


「”生命の流れ”ですか・・・。」と姫さんが言うと、兄貴とシーナさんが急に立ち上がりました。

二人とも血相を変えています。そして、兄貴とシーナさんは目を見合わせると、いきなり声を荒げて姫さんに言葉を発し始めました。


「姫様、ダメです!その呪文は使ったらダメです。いえ・・・ダメと言うか危険です!」

「アリエル、俺もシーナと同じく反対意見だ。それは駄目だ!いや、その呪文は俺だけじゃなくて、この国全てには早すぎるんだ。ラナオンで俺達二人は酷い目に遭った。それにだ・・・。」


「ほら、二人とも。ラナオンで何があったかを詳しく説明せんかい。皆、お主達が慌てふためく理由がわからんで困っておる様じゃぞ?」とサーラさんが愉悦に満ちた口ぶりで説明を求めますた。

兄貴とシーナさんは、顔を赤くしたり、青くしたりしながら困ってます。

首を傾げて二人を無邪気な顔で見つめる姫さんと、兄貴とシーナさんの困惑ぶりは全く見事なコントラストで。

それにしても、姫さんは男装してても可愛いっすね。ほっそり長い手足に、恰好良い太腿。コルセット不要のくびれまくりの腰、小さなお尻と意外に立派なバスト。着てるのはお兄さんの少年時代の古着なんでしょうけど、バストあたりがピッチリっす!

ミニヨンは思春期の入り立てだったから、まだ男装も様になってたんしょうけど。姫さんの場合はあれですね。ボーイッシュファッションに入りきらない位にガーリーなんす。

根本からしてガールなんすね。これが大魔術師ってのは何かの間違いとしか思えませんわ。

そいで、男装なんかしてるから、身体の魅惑的なラインが丸見えで、ナチュラルにエロい。


で、サーラさんはと言うと、ニヤニヤしながら何と朝から酒を呑んでおられる様子。

「かかか!慌てふためく凡人を眺めながら呑む酒は格別じゃな!」と言う声が聞こえたような。

黒いローブがホント似合ってます。性格も黒そうだし。

でも、この人も綺麗っすよね。

さっき見た怪力はあれとして、全体に身体のラインが艶めかしい。健康そうだけど無駄な肉が少しもなくて、ホッペのあたりがピカピカで、赤ん坊の肌みたいっす。手の指も細く長く、酒瓶をキリキリと回す仕草を見ても、信じられない位に軽快で優美なんす。やってる事はあれですが。

笑い顔が本当に板についてると言うか。サマエルさんもそうでしたが、何で死の天使がこんなに陽性の性格なんしょう?溜息出そうっす。

自分の小ささを思い切り実感してしまう様な方々っす。


「サマエルさんもそうですが、サーラさんも器が大きいんしょうね・・・。俺自己嫌悪しちゃいそうっす。」思わずそう呟いてしまった時、サーラさんのエイプリルブルーの瞳とバッチリ目が合いました。

「お主も大した器じゃと思うよ。お主はレンジョウよりは私に似ておる。」サーラさんはそう言います。

「先代様と俺が似てるんすか?俺はサーラさんみたいにいろいろと達観できませんて。何しろ凡人すから。」思わず自嘲してしまいます。

「でもないぞ。お主はレンジョウにほぼ存在せず、シーナには足りない資質を持っておる。」

「何すか?それ?」俺は訊き返しました。


「心の中の闇。悪の心さ。お主の前世では、悪の心が足りなんだ。故に、才知あり勇気あり人徳あれども、悪の心を持った者に不覚を取った。しかし、今生ではレンジョウと付き合える程の善を備えながら、お主は悪の力も手放さぬ。お主は自分の心に正直であれ。それが様々な者共の力となるであろう。」

「・・・・・。」はぁと溜息を吐き、俺は脱力しました。

「ホント、おっそろしい人っすね。サーラさんは。やっぱ、俺なんか及びも付かないじゃないっすか。なんでそこまで他人の事を見透かせるんすか?」

「そこはそれ、人生経験じゃよ。何しろ、私は沢山の人を見て来たものじゃからな。見ないで良い事まで含めての。人以外でも天使や悪魔、魔物や神獣。いろいろとな。」

「なるほど。若い間は30年程、60年で力を失い、100年で死ぬ人間にはそう言う経験は無理っすね。」

「そうかな?まあ、人生の密度にも拠るかな?」とサーラさん。


見れば、兄貴とシーナさんは、まだ疑問を投げかける姫さんとザルドロンさんに対して、しどろもどろの答弁を繰り返してる所でした。


****


疲れ切った表情の兄貴とシーナさんは、次の戦利品を差し出しました。

「これは魔術の書かれたスクロールですね。」二人の顔面がヒクりと強張りました。

「戦闘及び部隊への呪符ですね。”獅子の魂”ですか?」姫さんがそう言ってます。

「どの様な呪文なのでしょうか?」とシーナさん。

「対象の部隊に強い勇気を与える呪文の様です。戦う勇気、生き延びる気力と活力。かなりの高位呪文であるようです。」と姫様。


「じゃあ、この本と奇妙な石はなんでしょうか?」シーナさんが差し出しました。

「ほう、運営が返して来たのかい。」とサーラさん。


兄貴が嫌そうな目でサーラさんを見詰めています。睨んでいると言うのには、眼に少し力が入ってません。

「返して来たと言う事は、これは元はあの黒い石だった訳か?」と兄貴は言いました。

あの黒い石って、当時はマッチョな戦士の姿をしていた暗殺者サマエルさんが、兄貴の額に入れた黒い石、邪眼石の事でしょうか?

「そうじゃよ。お主に力を与えた残りと言う事じゃな。」とサーラさん。自分の額に石を置くと、それはスッと額の中に溶け込んでしまいました。

「それは一体何だったんだ?」と兄貴は問い詰めました。


「お主達はサマエルと共に、例のカオスの勇者タキからいろいろな事々を聞いたであろう?カーリ、つまり未来からの侵略者の先兵から逃れる時、私はあの者達を頼ったのじゃよ。何しろ、私はカーリが未来から運んで来た様々な知識や情報を、物品の形に変換して持ち帰った。ゲーム内のオブジェクトの形で、多分信じられない程に大量の情報を持ち帰ったのじゃ。」

「あの邪眼石は、言ってみれば大量の情報をオブジェクトの形に成形したモノであり、それに実体はなかったが故に重さを感じなかったのよ。そのシーナの持つ袋も同じじゃ。それは物品に見えるが、その実は情報なのじゃよ。だから重さが無い。」とサーラさん。


「おかしいでしょう?」と言うのはシーナさん。

「何が?」と無邪気にサーラさんが応じますが、シーナさんは突っ込みました。

「その袋が情報で作られたオブジェクトだとして、中に入ってた本の重みが感じられなかったのは何故よ?」

「簡単な事じゃよ?それはの、単に重さの無い情報の塊の中から、お主等は新しい情報を取り出して、それを”観測”したのじゃ。そして、確定した情報がそのカバラ十字の本なのじゃ。そして、先程の石はその時点で”重さの無い情報”として確定したと言う事じゃよ。」


「あのぉ。それって、その袋はシュレーディンガーの説明する所の箱で、箱の中身が観測された事で、死んだ猫か生きている猫かが確定したと言う事なんすか?」と俺が後を引き継いだんです。

「その理解で良いじゃろうさ。要は、その書物も運営からの贈り物と言う事じゃろうな。さて、どんな本であるのか。」と随分楽しそうです。



「なあ・・・。」と言う声が響きました。声の主はと言うと、兄貴でして。その声が、ちょっと震えてて、援けを求める様な感じに聞こえました。

「はい?」と姫さんが応じましたが、兄貴の声色が深刻な感じなのを訝しんでいる様子で。

「いや、アリエルに話し掛けたんじゃないんだ。先代様にだよ。なあ、結局あの黒い邪眼石ってのは何だったんだ?俺には気になって仕方がないんだ。」と言う兄貴の顔は少しばかり恐怖を抱いている様子で・・・。

「あれはな。未来からの侵略者の使うコンピューターのプロトコルをオブジェクト化したものなんじゃよ。つまり、私は連中から得た情報を基に、レンジョウに連中のコンピューターに干渉する事ができる能力を譲ったと言う事じゃな。」


「待て待て・・・。そうすると何か?俺には未来からやって来た敵の情報が仕込まれていると言う事か?そいつはマズくないか?」兄貴慌ててます。

「仕方なかろうよ。お主以外の誰にできると言う事でもないのだからな。あんな余計な代物を背負っておれば、私の不死性までもが蝕まれてしまうのだからの。」とサーラさん。

「そう言う問題のある何かを俺にぶっ被せたのか?」兄貴怒鳴ってます。

姫さんなんかは、泣きそうな顔でオロオロしてます。


「人間なればこそ、この様な情報を宿しても問題なく生きる事はできるが、我等天使などと言う存在は、要らぬ因子を組み込めばその存在に問題が生じるのよ。」とサーラさんは言い放ちました。

「だからと言って・・・。いや、相手のコンピューターに俺が干渉できるのなら、逆はどうなんだ?俺を相手のコンピューターが操るとか言う事もできるんじゃないか?」と兄貴が慌ててます。


フフンとあまり上品ではない仕草で鼻を鳴らしているサーラさん。美人が台無しっす!

それにしても、おっそろしい。サーラさんヤバいっす。先代様怖すぎますって!

なんか、ウクライナのゼレンスキー大統領。

アメリカの議会で日本の真珠湾攻撃と911テロを同列に並べてみせたとか。

うーん。3月23日に日本の国会でも演説するそうですが、民間人を一切標的とせず、軍事施設だけを攻撃して去って行った日本海軍と都市を狙った自爆テロを一緒くたにするかな?

この件の釈明なしには、これ以後の日本からの支援がどうなるのかは未知数ですね。


真剣な話、ここまで無神経な事を言い放っておいて、詫びの一つもなかったら、ウクライナと言う国の評価はどうなってしまうのかです。

ゼレンスキー大統領的には、アメリカの議会で突き刺さるパワーワードを選んだつもりなんでしょうけど、第二次世界大戦の敵国であった日米は現在は親密な同盟国です。

その点を弁えておかないと、結果的に日本の不興を買う事になってしまう。それすらわかんないんでしょうかね?


ともあれ、開戦直後の2月27日に、ウクライナは戦争に勝つが、最後は中途半端なままでロシア軍の撤退を見送ると書きましたが、そのとおりになりそうです。

日本列島の総面積よりも倍ほどもある巨大な国、しかもほとんどが平地と森林。

そんな国に対して15万そこらの兵力で侵攻して征服するとか。最初からムリゲーですわな。

しかも補給線は長大で、策源地たるロシアなりベラルーシなりからの距離も凄いもんですし。


そもそも、ソ連の崩壊はアフガニスタンへの侵攻が原因だった事をロシア人は忘れてしまっていた様ですね。

アフガンへの補給は陸路でしか行えず、それ程の距離でもない補給線は常に乏しく、兵力の差を活かす事もできませんでしたが。

それと同じ事がウクライナでは、もっと酷い有様で再現されています。

携帯ミサイルの発達が、低空での航空兵力の運用を阻害し、装甲ユニットの存在価値を激減させてしまったのも大きいですが、それは戦術単位での出来事。

戦略としても、今回のウクライナ侵攻は無理だったのですよ。

だからこそ、作者はキエフ近郊にロシア軍が到達する以前に、戦争の今後の展開まで予想できていた訳です。


戦闘はやってみないと結果はわからないけれど、戦争は違います。

やる前から結果はある程度予測できます。戦後の事もまたしかりです。


当面、ロシア軍は撤退の素振りを見せる事はないでしょう。

一度撤退の様子を見せれば、総崩れとなってしまうのは明白ですから。

下手をすると、クリミア半島の支配すら覚束なくなりますので。


意味なく戦力を消耗するのも愚策ですが、占領地を放棄したとなれば、プーチン大統領はロシア国内に居場所すらなくなるでしょう。

そして、ドバイ等を除けば、彼を受け入れてくれる場所もまた無いでしょう。特にヨーロッパ圏内では絶望的でしょうね。

撤退が本決まりになれば、最後のポーズとして、一部のロシア軍は確実にクリミアに退くでしょう。他のロシア軍はあるいはベラルーシ、あるいはロシア本国、多くはドネツクその他の攻勢開始点に留まるでしょう。

その後は侵攻再開など夢のまた夢になってしまうかと思われますが、ウクライナ軍も追撃できる態勢にはないですし、今後ともそんな態勢にはなれないでしょう。

決戦や大会戦なんか、この手の戦争ではありえませんからね。

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