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第百五十七話 遂に帰り着く その4

「今朝はエールは無しでお願い。それと、朝食を食べたらチェックアウトするわ。」とシーナが店主に告げた。

「あいよ。」と店主は請け負った。

「バラミルには、ご苦労さんって事でお駄賃をあげなきゃね。」

「それは帰ってからだな。あいつなら、お駄賃をあげた途端に蓋を開けそうだからな。」

「違いないわね。」って感じで会話は弾む。

「しかし、あの歌詞と音符を誰が渡したかだな。ザルドロンに訊けば教えてくれるんだろうが。」

「讃美歌なんか久しぶりに聞いた感じがする。日本には教会は少ないし、アメリカでの勤務中もほとんど教会なんか行かなかったしね。大学に通ってた頃以来よ。」

「シーナは日本で働いているのか?」

「最近はそうだったよ。と言っても、私が諜報機関に勤め始めてから、まだ2年程だし。後方勤務と思ってたら、最初からまさかの最前線と言うのも意外だったけどね。」

「お前、リアルの年齢は何歳なんだ?」多分、ずっと訊きたいと思ってたんだろうな・・・。

「21よ。剣術の師匠から勧められて、入った所が魔物の巣窟どころか。って感じかな。」

「若いな。俺はその頃は、プロボクサー目指してジムで特訓してたよ。」

「ん・・・。」と私は口ごもってしまった。


「どうしたんだ?歯切れが悪いな。」

「ここ数日で何度も考えてたのよ。私は未来であんたとずっと行動を共にして来た。けどね、全然あんたの過去とかの話はしなかったってね。」

「それは、似ていても俺とは別人だったんじゃないのか?」

「そうなのかもね。」

「暗殺者が言ってたんだ。俺は過去を清算すべきだと。多分な、お前の知ってた蓮條主税は、その清算すべき過去を清算できてなかったんだと思う。後悔ばかりの人生だったから、戦う以外の何の目的もなかった。だから、過去の事をそいつが話さなかったのは当然だったろうな。」

「そうなのかな?」私は少し考え込んでしまった。


「俺が過去を清算したら。少なくとも納得できる答えを出せたら・・・。」

「お前にいろいろと語って聞かせる事ができるかも知れない。」

「うん・・・。」私はそう答えるしかなかった。

「ところで、未来のレンジョウってのは、どんな男だった?」

「ん~。どんな男だったかと言うと。バイタリティ溢れる優しい男で、諦める事を知らなかった。不平の一つも言わず、常に誰かの為に生きる人だった。冷静でいて、熱い血潮の流れる男の中の男だったね。」


「う~ん。それって絵に描いた様な優等生って感じだな。俺っぽくないと言うかな。」

「あんたと似てないと思う?」

「思うね。俺はいろいろと雑念のある男なんだ。要らない事をいろいろと考えてしまう男だ。そんなにサッパリとした男じゃない。」

「気に入らないの?」

「いや、むしろ、俺はその蓮條主税を哀れだと思う。」意外な意見に思えた。

「どうしてさ?」

「その男は、随分無理をしてたんじゃないか?その結果が、作った様な男の中の男って感じだったんじゃないだろうか?」

「例の暗殺者は、未来の俺にどう接していた?」またもや意外な事を訊かれた。


「うん・・・。あんまり親しくなかったかな。」そうだったと思う事を正直に答えた。

「あの暗殺者にかかれば、俺程度の男の内面なんか簡単に推し量れたろうな。何しろ、人生経験が違うんだから。」

「そうだよね・・・。」

「ちょっとだけ安心できたかな。」

「何がさ?」

「少なくとも、今の俺については、あの暗殺者も及第点をくれた様だからな。」

「ん、そうだね。」


絶望の未来は、天使や悪魔がその正体を明かして、人類に大っぴらに協力を始めるまでに随分と時間が掛かっていた世界だった。

危機の序盤で人類の大半が生命あるいは自意識、自由を失い、私達は残された武器を使い、工場や農地を守る為に、電力を供給するために全ての生存者が必死で努力し、それでも戦力外の者達を庇いあっていた。

しかし、そこには本当に絶望しかなかった。希望なんか最初からなかった。

今更自分に嘘を吐いたとしても無益だろう。


「未来の私は、天使達も悪魔達も内心では憎んでいたよ。力ある存在なのに、コソコソと隠れ住んでいて、大事が起きた後でもまだ矢面に立とうとしていなかったし。」

「その未来がどれ程深刻な有様だったのか、俺は知らない。けど、今現在はどうなんだろうな?」

「わからない。けれど、まだ間に合うとは思う。未来の私は、単に生存者だったから戦ってただけだけど、今現在の私は確実に危機対処の専従班としての任務を帯びているのだし。」

「なら、俺達はできる限りの事をしよう。こんな頼りない俺だけど、お前が居たと言う未来と同様に経緯には至らない様に努力するさ。」

「ん、わかったよ。親父さん、やっぱりエール酒一杯ずつ持って来て!」と私は元気に注文した。

「なんだ、呑まないって言ってたじゃないか?」とレンジョウが引き気味でぼやく。

「良いのよ。今日はそんな気分なの。それと、朝食まだなの?私お腹ペコペコなんだよ!」声が弾むのが自覚できる。そうだ、私はもう一度希望を手に入れたのだと実感できた。


あの素敵な未来のレンジョウも捨てがたいが、私にとっては既に失われたものだ。けど、彼はここに今確実に居る。そして、私の知らない男にいずれ成長して行くだろう。

木のプレートに盛られた朝食が運ばれて来る。良く焼いたジャガイモとバターの香りが鼻孔をくすぐる。ベーコンの焼き物の香りも。

生きていると言う実感が押し寄せて来る。今の私は確実に幸せなのだと心底から感じられた。


****


宿屋の代金を清算した後、いよいよ馬車のメンツとの合流を目指す時が来た。

裏路地に入り、空が見える事を確認した。

レンジョウは私を抱きかかえ、外套のボタンを嵌めようとしている。その時だ。


「お姉ちゃん、お帰りさない。」と言う声がした。

元気でハキハキした声。聞き慣れた声だ。

レンジョウの腕の中から離れ、声の方向に向き直った。

「お前は?」と言うレンジョウの声が聞こえる。

「あれは私の妹よ。あんたの副官にしようって以前言ってたでしょう?」と私は彼に説明した。

「確か、シーリスって言ってたな。他の家から養女として迎えたと。」レンジョウは覚えていた様だ。

「そうですよ。今後ともよろしくお願いします。」とシーリスは快活に答えた。


「なんであんたがここに居るの?って聞くのも野暮よね。そうか、あんたもだったのね。」私が先日来考えていたとおりの展開だったので、それ程驚かなかった。

「うん、お姉ちゃんは頭良いからね。すぐに気付くと思ってたよ。私って異物だもんね。お姉ちゃんの記憶している誰かと全然当て嵌まらないパズルのピース。」美しい声でシーリスはそう言う。


「でもね、正確な私の正体って知らないよね。でも、これはクイズじゃないし。元から仕組まれた計画の内でもない。私の役目は、イレギュラーな事態に遭遇した際のヘルプ役だったの。最初からね。」

「敵意がある存在じゃないってのは、最初から知ってたよ。私達、出会った時から仲良かったものね。」と私は言った。

「そうだよ。私はお姉ちゃんの為に呼ばれた存在だから。」とシーリスは言う。

「だから、腹の探り合いなんかしたくない。そんな事はお互いに失礼だし、私の存在意義にも反しているから。悲しい事だよね。」丸眼鏡の奥から、大きな潤んだ鳶色の瞳がこちらを見ている。

その視線には敵意の欠片もなく、いつものとおりの親愛の気持ちが見えた。


「レンジョウさんは既に知っている事だよね。何しろ、私の仲間を一人呼んでくれたんだし。」そう唐突にシーリスが語った事に驚いた。

「あんたが知ってる?シーリスの仲間?」と若干アワアワとしながら口走った。

「合点が行った。シーリス、君は精霊なんだな?」なんだなんだ?レンジョウが私の知らない事をシーリスと話してる。

「そうなの!オンデスと同じで水の精霊よ。でも、違うのは私が十分に力を蓄えてから派遣された事ね。オンデスはまだまだ赤ん坊だから。私は見てのとおりの大人だし♪」

「あんたの見てくれは、どう見ても小娘だっての。ちょっとは身の程を知りなさい。大人って言うのはね、私みたいなのを言うのよ!」とついつい何時もの調子で張り合ってしまう私だ。

ちょっとションボリとしたシーリスに私は更に問い掛ける。


「でもさ、何でそんな事を今この時にカミングアウトする訳?」と怪訝に思うのだ。

「だってさぁ。あの天使の人がね。アリエル姫にいろんな事を吹き込んでしまったからぁ。アリエル姫がどんどん人間らしくなって行ったらさぁ、私なんかお姉ちゃんの眼中から消えてしまいそうに思えたんだ。おまけに、レンジョウさんと熱々だしさぁ。私の事をもっと見て欲しいの。それと、レンジョウさんの手助けも本格的にしないといけないから。」

「精霊ってヤキモチを焼くんだな。俺は結構ヤバい知識を仕入れてしまったかも知れん。今後、オンデスとの付き合いについても、いろいろと考えないといけないかも知れん。」とレンジョウは別の心配をし始めた様だ。


そんな事は別にして、私は頭が痛くなって来た。

「精霊って何なのよ?あんた、そんな大事な事を姉に隠してた訳?」と怒鳴ってしまう。

「私には丁寧に話しなさい。お淑やかにしなさいって、毎度クドクド説教する癖に、自分は良いのって言いたいわ。お姉ちゃんダブスタ酷過ぎない?」

自分が人外の存在だとカミングアウトしておきながら、上の方から堂々とヤマを返して来た言葉。加えて普段の通りの生意気満載。段々私もキレそうになってきた。


「あんたね。私も大概この世界に馴染んで来たと思ってたけどね。それでも、あんたには我慢できないよ。良いかい?あんたは設定とは言え、私の妹なんだろう?違うかい?」

「そのとおりだよ。だから、そう言う風にしてたでしょ?違うの?」

「違うわ!あんた、そう言う風に設定どおりに演技してるだけで充分だと思ってた訳?あんまり人様を馬鹿にし過ぎじゃない?」

「うーん、演技じゃないよ。私は本当にお姉ちゃんの事好きだしぃ。嘘や偽りなんか今まで一度でも言った事ないよ。」

「でも隠し事はしてたんでしょう?」

「まあねぇ。でも、それが仕事なんだしぃ。そこまで責められる謂れがあるの?」と、露骨に怯んだ精霊の言葉に更に腹が立ってきた。

「あるよ!あるんだってば!あんたは凄く大事な事を忘れてないかい?」とまくしたてた時に、隣のレンジョウが露骨に怯んだ顔と動作を始めた。

こん畜生!もっと堂々としてよ、未来のあんたみたいにさ。


「忘れてる事って何さ?」と言う、その及び腰の態度に。自分が人ならざる精霊とやらとだとカミングアウトした後なのに、全然据わってない態度に。引きつった顔に現れる怯えに、ちょっとだけ嗜虐的な気持ちが・・・・。

「姉である私に、前々から隠し事をしてたんでしょう?なら、私になんて言ったら良いの?それがわからないの!」とついつい怒鳴ってしまう。

「ごめんなさい、お姉ちゃん。シーリスは隠し事をしてました。黙っててごめんなさい。」としゃがみ込んで半べそをかいている。これが精霊なの?精霊って何なの?


と考えを巡らせていると、レンジョウが腕を引っ張った。何事と目を剥いてしまうが、レンジョウの指す方向を見ると・・・路地の入口に観客が集まり始めている・・・。


「皆さん、お見苦しい所を。身内の揉め事ですので、これにて退散致します。お騒がせしました。」とパンピーらしくお辞儀をして、その場を取り繕って、シーリスの腕を掴んで走り去ろうとする。

レンジョウもオタオタしていると、私の怒りを買うと理解しているのか慌てて追随して来る。


走った。走った。そして、気が付くと、ノースポートの間諜組織の縄張り近くまで来ていた。


****


「兄貴とシーナさん、どうしたんでしょうね?」と客室区の中で俺とマキアスさんは話してます。

「わかんないが、揉め事に巻き込まれたって線はあるかもな。」

「じゃあ、揉め事から逃げる為にも、俺達の所に帰って来るのはアリだと思うんですが。」

実はあれから、更に一度ランダムエンカウントらしきモンスターに出会いました。

ガーゴイルって言うモンスターで、悪魔みたいなのが旅商人みたいな人を襲ってたので、俺達だけでまた頑張りました。

ま、それもマキアスさんが一発で倒してしまったんすけどね。”正義の右手”、VSカオスモンスターでは半端ない存在感っす!


「前までこんなにノースポートの近くでは怪物出現とか無かったとおもうんだがな。」

「あれですかね?ゲームの終盤になって、難易度が上がったとか?」

「何言ってんだよ。俺達はまだ序盤の方でうろついてんのさ。ほら、お前が好きだって言ってたあの古い高難易度のシミュレーションゲーム。シュヴァルツシルトだったっけ?」

「ですです。あれは、主人公の王子様が、反乱を起こした勢力を討ち取るところから実質上のゲーム開始っすからね。そのパターンが何作も伝統的に続いてたりしまっす。」

「だろ?それが俺達は叛乱勢力の討伐どころか、その本拠地の状況を確認に行っただけじゃないか。」

「ですよねぇ~。」


****


「そんな訳だから、詳しい事情を説明してくれ。君ならできる。俺はそう思っている。」

ここって、例の地下訓練場なんだけどね。少し前に、ここで散々レンジョウと致してた訳だけど。

こいつ、私達が熱々だとか知ってたな。どうやって知ったんだろう。まず、そこから尋問だ。


「シーリス・・・・。」と名前を呼んでから、剣の鞘で頭をゴチンと言う音を立てて叩く。

「ぎゃあ!お姉ちゃん、いきなり叩くって!」シーリスは頭を押さえて抗議する。

「ウルサイ!知ってる事をサクサク白状なさい。そうしたら叩かれないよ・・・。」と声を抑えて忠告する。

「お姉ちゃん、目が据わってるよ!ただでさえ怖いのに・・・。」もう一発。

「余計な事言うな。さあ、知ってる事を洗いざらいだよ。」

「お前、誰かれ構わず殴ってるな。どんだけドSなんだよ。」とレンジョウまでもが余計な事を言う。もう一人頭叩かれる奴を追加。それ以降、レンジョウは口を噤んだ。


「さあ、あんたに訊いてんのよ。あんたは元々から人間じゃなくて、訳わかんない精霊だった。そして、私の義理の妹として今までずっと正体を隠してた。それで間違いないね?」

「あうあう、そうですぅ・・・。」べそをかいている姿とかは、完全に人間そのものだ。

「で、レンジョウ。あんたにも質問よ。あんたは精霊とやらを既に見ていた。けど、私達に黙ってたね?何でさ?」

「あれが本当の事かどうかわからなかったからさ。お前にも魔法の知識なんか無いし。アリエルの周囲にいるのが精霊だとしたら、帰ってからアリエルやザルドロンに精霊について尋ねた方がわかりやすいと思ったんだよ。違うか?」

「まあ、そうね。あんたは許してあげる。それで、シーリス。あんたは今から素直に話す。そうだよね?」剣の鞘を掌に打ち付けて音を立てる。

「お姉ちゃん、降参するから!降参降参!」

「一度言えばわかるわよ!」頭に一発バシン!

「ぎゃあ!」


****


江戸時代の番所みたいなやり取りの末、シーリスはゲロった。

曰く、自分がシーナ付きの専属精霊である事。俺にも同様に専属の精霊を与えようと言う計画がある事も。

「でもなあ、俺の見たオンデスと言う精霊は、あれは凄く幾何学的な形をした。宝石の粒か、結晶みたいな形をしていたぞ。君なんかは、人間と全然変わらない姿形だ。それはどうしてなんだ?」それが一番の疑問だった。アリエルの周囲の精霊達も、言ってみれば光の粒の様にしか見えなかった。


「そこは複雑かな。この子、シーリスと言う子はね。以前は存在していたけど、小さい頃に病気で亡くなってるのよ。」

「じゃあ、君は死んだ女の子に乗り移っていると?そう言う事かな?」

「ううん、それも違う。本当のシーリスの肉体は埋葬されてしまったよ。でも、私はシーリスの生前の記憶にアクセスできるの。そして、精霊の力で肉体を新しく創造して、シーリスのパーソナリティを呼び出した。そのパーソナリティを復元して、私はこの肉体に共存していると言う事。」

「じゃあ、あんたはそのシーリスのふりをしているの?」とシーナ。

「違うよ。私はシーリス本人なの。でも、その本体は人間じゃない精霊だって事。上手く説明できないな・・・。箇条書きで説明するよ。」


「私はシーリスと言う女の子の過去の記憶にアクセスした。」

「本物のシーリスは、人間の女の子だったけど、私にはそれらの全てを現実世界で作り上げる事は流石に誰にもできない。」

「だから、電脳世界の中で、オブジェクトとして動いているキャラにシーリスの形質を移植した。」

「私自身は精霊なので基本的にオブジェクトに起きる出来事を計算し、結果を出力する。シーリスのパーソナリティは、様々な出来事に反応して行動として返す。」

「こんな感じの協働、計算と人格の二人三脚で私と言うシーリスは成り立っているの。」


「生前のシーリスの記憶を元に、あんたはシミュレーションを行っていると言う事で良いのかな?」シーナが訊いた。

「ううん、違うよ。私はシーリスの記憶をサルベージして再建したんだから、人格的な蘇生で間違いないよ。このパーソナリティは確実に人間のものだから。でも、完全じゃない。私達精霊に備わっていない感覚は再現できないみたい。例えば美味しい、例えば美しい、でも遂に美味しいと言う感覚だけは再現できる目途が付いたみたいだけど。」

「とにかく、シーリスは居るよ。私は彼女をシミュレートしているんじゃない。彼女と一緒に居るんだから。」と言って、シーリスは言葉を切った。


実際、説明を聞いても良くわからない。

「楽しい、嬉しい、悲しいとかの情動は再現できる。正しい、間違っている、正義、悪とかの論理や倫理も理解できる。そう言う事で良いんだね?」とシーナ。

「うん、そう言うのは理解できる。けど、動物を可愛いと言うお姉ちゃんの考え方は理解できないし、レンジョウさんを魅力的だと思う理由もさっぱりわからないんだけどね。」

「最後の一つは私にも理由がわからないよ。いろいろと今まで信じていた事に確信と自信がなくなってきたね。なんでなんだろう。」と言って睨まれる。

ピンチだ・・・。いや、そんな話ではない。真面目に行こう。


「それはそうとしてだ。俺には、シーリスと同じ様な人に心当たりがあるんだが。シーナはどうだろうか?」

「私もあるよ。あんたにもでしょう?シーリス?」とシーナはシーリスを睨みながら言う。

「ご想像のとおりだと言っておくよ。」

秘密の訓練場の薄暮明の中で、机に叩き付けられた剣の鞘がバシン!と音を立てた。

「ぶつよ、シーリス・・・。」とシーナが低く呟いた。

なあ、お前の眼鏡は、なんでこの暮明の中でそんなにも光っているんだ・・・。


「わかった!降参!降参します!アリエル姫だって言いたいんでしょう?違うよ。あの人は精霊じゃない。そもそも、大魔術師を勤められる精霊なんか居たら大変じゃないのさ。そう言うの考えてみたらどうなの?」とシーリスは言うが、そもそも精霊に何ができて、何ができないとか言う事自体が俺にはわからない。

俺はほとほと困り果ててしまった。ここまで込み入った、しかも一般ピープルにとっては難解過ぎる事々を目の前に提示されて、しかも理解しろ、解決しろとばかりに丸投げの謎が次々と迫って来て、それで困らない者が居るだろうか?

シーナの言葉とは反するが、俺には運営とか言う連中が俺に投げ付けて来る情報の密度と量にお手上げの状況に陥りつつあった。


「俺はどうすれば良いんだ?」とついつい弱音を吐いてしまうが、それを責められたとしても、俺にはどうにもできないと思った。

「あのさ、まずは私達を信じて欲しいんです。これからは、レンジョウさんに私もお傍に置いて貰って、姉と一緒に手助けをします。まず、そこからなんです。」と言うシーリス。

「俺の目指すべきゴールは随分遠そうだな。」と幾分皮肉を込めてシーリスの言葉に返答した。

「遠いですけど、レンジョウさんの手助けをする人たちは沢山います。私もその一人、多少短気で随分怒りっぽいですけど、姉もちょっとは役に立ちます。」と言う言葉が終わるか終わらないかの内に、剣の鞘が横殴りにやって来て、素早く避けたシーリスを外し、俺の腕に当たった。

鎖帷子に付与された”神の加護”は打撃をほぼ完璧に和らげてくれたが・・・。俺としては渋面を作るしかない。


「まあ良いさ。とにかく俺は、お前の心が人間と同じだと言う事は信じる。」

敢えてシーナの行った乱暴については無視して、シーリスの頭に手を置いて髪の毛に手を突っ込む。

そのまま、髪をもしゃもしゃと指で掻き混ぜていたら、シーナが抗議して来た。

「レンジョウ、何やってるのよ?」

「友好の挨拶だよ。人間の子供だけじゃなくて、お前が好きだと言う動物にも同じ事をするんじゃないか?」と返したら。

「あんた、子供だからってシーリスは女の子なんだよ。そんな簡単に頭をクシャクシャっとするもんじゃないわ。」

何故か叱られてしまう。


「この子はまだ13歳よ。まあ、あんたなら、これでもストライクゾーンの内側なんでしょうけどね。」

「そんな事は・・・。」アローラの笑顔が俺の胸中をよぎった・・・。もう、何も言うまい。

「とにかくだ。こんな辛気臭い場所で言い争いを続けるのには反対だ。何もかも有耶無耶って感じだが、大切なのは今回のセッションが終了して、俺達はノースポートに帰って来たってのが一番大事なんだろうさ。シーリスも今後は裏表なく協力してくれる。そうなんだろう?」


何故かシーナの胸に抱っこされる態勢で、シーリスは頷いていた。シーナが何故か睨んでいる。

はあ・・。今後起こるだろう、様々な事々は想像もつかないが。多分、俺はいろいろな意味で引き回されてしまうのだろう。


「あ・・・。そうだ!」とシーナが呟いた。

俺も瞬間的に閃く事があった。


「「鹿子木マキアス達の事を忘れてた!(わ!)」」

「シーリス、あんたにはまだまだ聞きたい事があるから。家に帰ってなさい!」とシーナは言いつけて、俺と二人で地下訓練場に繋がっている建物の階段を走りあがる。

「はあい!待ってるよ、お姉ちゃん!」と元気にシーリスは返事をする。


「この建物の屋上からは空が開けているよ。空を飛んで行けば、多分大丈夫!」

シーナも俺も、新しい展開がもたらした大量の情報に麻痺していたが、そうであってもやるべき事はやらないといけない。

「行くぞ!」俺は怒鳴った。そして、空に舞い上がる。

こんな事は、決して元の世界ではできない事だろうにと、ゲーム世界ならではの行動なのだと自嘲しながら。


****


「薬が効きすぎたかな?」とシーリスは零した。

「そうも言っておれぬであろう。」と、レンジョウとシーナの両方に聞き覚えがあるだろう声が響く。

「でも、トラロック様。レンジョウさんは本当に悩んでおいでですよ。」

「さればこそよ。今後の事を考えるならば、今のうちに精々困っておく位の方がずっと良い。ぶっつけ本番で泡を吹くよりは随分マシだろうとも。」

「そんなものでしょうか?シーリスにはわかりませんが。」

「今にわかるさ。これでもまだマシだったとな。」苦い声である。


「パパロテよ、帰り来るが良い。シーリスよ、二人を頼んだぞ。女狐めを頼りにできんとなれば、お主以外に頼れるものはおらぬからな。」と言うや、声は止んだ。

「お任せ下さい・・・なんて安請け合いは全然できないわ。」とシーリスはボヤく。

「だって、次に起きるのは・・・。」そこまで考えが及ぶと、今回の姉とレンジョウさんの旅は、本当にギリギリのタイミングだったんだなと気が付いた。


「姉ちゃん。思ってるよりも、フルバート攻略は手間取るよ。」その言葉は、誰の耳にも届かず、空中に消えて行った。

昔の事ですが、今後物語に登場してくるだろうお方(故人になってしまいましたが)のセミナーに出掛けた際に、夜のJR大阪駅で、女の子がうずくまっているのを見掛ました。

傍には女の子の母親らしき女性がいて、私は何かできないかと話し掛けました。


お母さん曰く、「娘がお腹痛いと言ってしゃがみ込んでしまいました。これから京都へ帰りたいのですが、しばらく動けません」と。

私はお母さんに言いました。「ホームまで上がったら、新快速に乗れるでしょう。連れて行ってあげますよ。」と・・・。お母さんはその案に賛成しましたので、私は女の子をお姫様だっこして、ホームまで階段を駆け上がって行きました。


ホームでお母さんに「ありがとうございます。助かりましたが、娘は重かったでしょう?」と言われたので、「子供なんか目方無いのと同じですよ!」と謙遜したんですが、お母さんはそれから怒り始めました。

「娘は中学生ですよ。もう子供じゃありません。」と・・・。


いやはや。

先日も、コンビニに行った際に、少年少女見守り隊らしき車椅子のかなり高齢のお爺さんが、近くに居た女の子に「君達中学生か?」と話し掛けていて、その女の子達が「そうですよぉ♪」と返事していましたが。

実は私、このお爺さんが女の子を中学生だと見抜いていた事に愕然としてました。


このところ、最近の私は自分が爺になってしまったと実感する事しばしなのです。

爺とは何か?それは、女の子を見ても、それが大人か子供かでしか判別できない。

私には幼稚園児と小学低学年の違いがわからない。小学高学年と中学生の区別が付かない。

女子高生と中学高学年の見分けができない。女子大生とJK3当たりの差が判別できない。


成人年齢以下の女の子を、既に異性として見てないので、若い女性を大人か子供かの区別しかできなくなっているんでしょうかね・・・。

だから、この後書きを書いていて、蓮條主税が年齢関係なしに女性を女性として扱える事に憧れを抱いたりします。奴はそう言う意味で全然枯れてないですから。

自分の創作物の登場人物に憧れると言うのも何ですけどね。


劇中のシーナがレンジョウを叱る場面と言うのは、私があの時の女の子のお母さんに叱られた時の気持ちはこうだったのかなと思いながら書いていました。


ちなみに、蓮條主税が頻繁に女性をお姫様だっこするのは、お姫様だっこされて嫌がる女性を私自身が今に至るまで見た事がないと言う経験則からです。

肩に乗せて嫌がった女性も見た事がありません。

腕力や足腰の使いどころと言うのは、実際のところ、ここなのだと思いますね。

特に、背の高い女性はお姫様だっこに弱いですよ。

ちなみに、私は泥酔状態の85kgの男でもお姫様だっこできます。

女性でそんな体重の人はまず居ませんので、どんなお方でも楽勝ですわい!(今のところはね。)


と、既に爺の作者がほざいていると・・・。はあ、ギリシア人じゃないけど、歳は取りたくないですね。特に精神的に。


それはそうと、ロシアがウクライナを攻めあぐねています。

序盤からおかしいなと思ってたんですが、航空優勢は獲得していても、制空権は握ってないみたいです。

戦場で猛威をふるっているらしいのは、低空ではスティンガーみたいなレーダーで照準するのではなく、航空機の発する熱を追跡する赤外線誘導ミサイルの様ですが、それよりも活躍しているのは陣地式あるいは車両で移動できるタイプの長距離対空ミサイルである様です。

ロシア空軍の航空機は、知る人ぞ知るなんちゃってステルス性能しか持たない5世代以下の戦闘機と、それ以前からある襲撃機タイプのスホーイ25みたいな航空機が主力ですから。

もう、このパートを書いている時間までに、全世界から携帯対空ミサイルが恐ろしい数で届く予定ですし、対戦車ロケットや対戦車ミサイルもワンサカやって来るのだとか。

ルーマニアあたりに退避している防空戦闘機その他の航空機部隊もいずれ姿を現す事でしょう。


未だに健康で損傷していない主力の帰還があれば、戦局は随分変わって来る事でしょう。

私は戦争を憎んでいますが、それよりも憎んでいるのが戦争に負ける事です。

ウクライナの人達がこのまま敗北してしまうのは、理不尽であり、何よりも侵略する無法国家の側が大笑いすると言う意味で、今後の世界の行く末を悪い方向に舵きりさせる事だと思っています。

実際の所、現時点でロシアは既に負けています。ロシアによる戦後ウクライナの復興や今後のロシア軍の現在の戦闘力の維持あるいは向上が可能だと思っている”正気あるいは素面のロシア人”は誰か一人でも居るのでしょうか?

勝っても広大なウクライナの維持は不可能ですし、ウクライナを獲得してしまえば否応なしに西側の国家と隣接する結果となります。

制裁も解けません。これはつまり今の時点で戦後に何の希望もない事が判明している訳です。


日本の識者と言われる人達の論評を聞くのも、段々と嫌になって来ています。

特に、維新の会とやらのボスが言う「キエフが総攻撃されてしまうよりも、ロシア側に妥協を求めた方が良い」と言う意見には虫唾が走ります。

今講和して、ロシアの側にも利益を与えたとして、その代価を支払うものは誰なのでしょうか?

当然ウクライナ人に他なりません。ウクライナ人達は妥協の代償として、必ず現時点でのロシア占領区域の割譲を求められるでしょう。

今まで死んだ人達も殺され損です。将来の独立もままならないでしょう。国民の結束も壊れて行くでしょう。

可哀想だ、勝ち目がないんだ、みんな幸せになる為には我慢も必要なんだ。

そんな事を、当事者達、特に被害者であるウクライナ人以外が口にするのは許されないでしょう。

人道主義ぶった卑劣な言説を弄する者を許してはなりません。

今回の戦争にロシアが勝てば、勇敢なコサックの伝統を引くウクライナ人の歴史は失われてしまうかも知れないからです。

ロシアが夢見る未来のウクライナとは、カルタゴの平和そのままの綱渡りにも似た屈辱に満ちた世界の実現なのですから。

東欧で最も勇名を馳せた民族の末裔の戦い。刮目して見るべきでしょう。勝利を願いながら。

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