第百五十四話 遂に帰り着く その1
エルフ達が去ってから・・・。あれから二日。
みんなそれぞれに元気に働いてはいるが、やはり寂しいのは間違いない。
あの素晴らしい料理を作ってくれていたシュネッサ姐さんはもとより。アローラが居ないのも寂しい。
あの元気なソプラノで様々に突っ込んで来る元気な小娘。
レンジョウとも最初は酷い経緯だったらしいが、エルフの森から帰るまでにお互いにベタ惚れになっていたのだとか。
外見がアレなので、俺としては恋愛相手だとちょっとパスだけど、いろいろな素直に喜び、少し生意気だけど、根は献身的で不思議な魅力のある女の子だった。
何よりも戦闘能力が高い。
レンジョウやチーフとはその能力が性質的には大きく違うが、弓矢を防げるのが、俺達の一行ではサマエルから盾を譲り受けたカナコギ以外には誰も居ない事を考えると、広い場所や森の中ではレンジョウやチーフと互角以上かも知れない。
他人の話、特に俺達の元の世界の話を熱心に聞いていたのも可愛かった。
「ねえ、あんたも寂しい訳?」と馭者台の隣に座るチーフが話し掛けて来る。
「ええ、チーフもですか?」と。このやり取り何回目だろう。
「実は私もかなり堪えてる。日を追うごとに、サマエルやアローラ達の事を思う事が増えて来る。ほんの数日の事なのに・・・。」
「勇者パーティが離合集散ってのは、ファンタジーRPGでは定番の展開じゃないんですかね?カナコギあたりなら、そう言うでしょうよ。」
「カナコギの言う事を真面目に聞いてたら頭がおかしくなるわよ。」
「それは否定しませんが、現に今居るここは、ファンタジーRPGの世界観の異世界ですからね。それは認めないといけません。」
「こんな世界に投げ込んでくれた部長には、丁寧にお礼しないとね。」と、毎度の事ながらここにいない部長に対して中指を立てているチーフである。
いればすぐに拳骨で挨拶していたろうけど・・・・。ホント、チーフは怖いわ。
と思っていると、心を読まれた様で、首をコキっと曲げられた。
「何考えてた?」と眼鏡の奥から睨まれた。
「前をしっかり見てないと、馬車が事故を起こしそうだなと考えてます。」とだけ返事をした。
「じゃあ、しっかり前を見て運転なさい。」とチーフも思い直したみたいで、その場は事なきを得た。
既に街道の上を走っているので、そんなには危険はないだろうけど、万が一にも街道で事故を起こしたりしたら面倒だ。特に、あの糞重い宝石の櫃。あれの中身が散乱したら一体どうなるのかとも考える。
「チーフ、そろそろ宿場町に到着しますよ。後少しです。ほら、ランドマークの標識もあそこに。」
ふと、横に目を向けると、チーフの顔は本当に穏やかな表情だった。
その穏やかで美しい横顔に、俺の心臓が凄い音を立てたが、これはチーフには聞こえなかったんだろうか?
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膝立になって、馬車の中を拭いている俺達。馬車の中は、街道に入ってからも結構ガタガタとウルサイし揺れるのだ。
「考えてみれば、滅茶滅茶に後先考えず生肉や獣の死体を積んでたよな。」と俺は零す。
「この馬車も役目が済んだら解体なんすよね。」と少しでも楽をしたい鹿子木が俺に流し目を送る。
「それはそうだが、やはりノースポートに帰った時に、馬車の扉を開けたら凄い臭いがするのはマズいだろう。この生臭い臭いだけでも何とかしたいんだ。」
「特にこの数日にこもった臭いは凄いっすよね。猪の血と脂に、雉の血液。饐えた臭いが絶妙のハーモニーを奏でて・・・ないっすよね。」
「最初の方に、シーナにベーコンとかの保存食を与えすぎたとは反省しているが、アローラとシュネッサが来るまでは本気で食糧事情酷かったからな。とにかく、この世界はファンタジー世界だが、お前の好きなゲーム世界とは違うって事だろう。なにしろ、不潔だ。血や泥が臭う世界に生活していれば、小奇麗な冒険なんかありえないって事だな。」
「ファンタジーRPGで食糧のパラメーターがあるゲームって少ないっすよ。ローグライク系しか思いつかないくらいっす。」そのローグライクってのが何だか俺にはわからないのだが。
そもそも、水の在処を探すのすら苦労するのが現実世界と同様なんだから、本気で難易度高い。
水棲の怪物とかには出会った事がないが、いない訳ないだろう。
この世界は実に人類の生きた中世と似通った世界なのだろうか。怪物、鬼族である筈のオークも知ってみれば普通の文明種族で、勢力争いの末に都市を失ったノール族(狼みたいな頭の蛮族)がたまに開拓地の周辺で悪さをするくらいなのだとか。
まあ、大勢に影響はないのだろう。問題はやはりフルバートだ。あそこを何とかしないと。
そんな事を考えている間にも、馬車は減速し始めた。
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「宿場町に着いたか?」と俺が馭者台に話し掛けた時、馬車の横に張り出したステップが奇妙な音を立てた。軋んだ、そして踏んだ感じがおかしい。
「鹿子木、ステップがおかしくなった様だ。脚を掛ける時は気を付けろ。」と言うと、コクリと頷いた。
「もうすぐだ。後三〇分くらいかな?行商人の引き馬車とかが多くなって来たから、行き会う時の事も考えて減速した。」とマキアスが返事して来た。
「わかった!」とだけ声を掛けた。
「この荷物、商人ギルドの人達に宿場町で引き取って貰えないんでしょうか?もしくは運搬して貰うとか。」
鹿子木の言う事は理解できるが、この宝石の護衛として俺達以上に戦える者と言うと思い付かない。
「いや、約束は約束だ。もうすぐノースポートだ。その後の事は商人たちに任せるとしても、そこまでは俺達の責任だろう。」
「まあ、そうなんすけど・・・。落ち着かないっすよね。この櫃に馬車で揺られてる間に、何度頭をぶつけて寝てたのを叩き起こされた事か。」
「客室区で寝て良い事になったんだから、もう済んだ事だ。」
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宿場町に着いた。変わらず賑わっている様で何よりだ。
街の外れに馬車を留めてからマキアスと一緒に買い出しに出掛ける事にした。
レンジョウもカナコギも文句ないようだった。
「蜂蜜、固形のモノが欲しいね。棚一つ分買い込んでも良いよ!」ついつい言葉尻が弾んでしまう。
「後は大きなベーコン、腿肉か脛肉一つ分でも良いですよね。香辛料も買い込みましょう。」
「今日は野営地じゃなくて、宿屋の食堂のチャンとした食事でも良いわね。荷物の番があるから、馬車の中で寝る者は一人必要だけど。」
「残る人可哀想ですね。どうやって選ぶんですか?」
「もちろんくじ引きよ。」と私は答えた。こう見えても、籤運は強いのだ。
この宿場町では、バザールではなくて、専門の食料品店が幾つかある。それぞれ小さな店だが、それでも保存食とそれ以外の生鮮食料品(調理の際に油断は禁物だが)も置いてある。
宿屋も開いていた。ここの食堂は何度も利用した事がある。とても美味いのだ!
「昼の食事としては遅いけど、残ってるかどうか聞いて来るね。」とイソイソした口調になってしまうのは仕方ないだろう。
「じゃあ、俺は向かいの店で買い物して来ますよ。多分、レンジョウ達も納得してくれるでしょうから、一人で食べてても良いですよ。」と言い置いて食料品店にマキアスは入って行った。
「そんなの、できる訳ないじゃない。」とは言うものの、何食分の食事が残っているのかは確かめておかないといけない。
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町行く人々、その雑踏と言うには疎らな人の行きかいの中。自然自然と聞き耳を立てる癖がついている。その癖なり習慣なりが何時身に着いたのか。それは既に覚えてもいない。
「俺は見たんだよ。一昨日の夜だ。ノースポートの近くで、白い馬を引く黒い影が、馬と同じ速度で走って行くのをな。」
「何言ってんだ、おっさんよ。法螺もいい加減にしろよ。夜中に馬を引いて走る影だって?もうちょっとそれらしい作り話をしろよ。バレっバレじゃんか!www」と中年の実直そうな商人らしい男が周囲の者達から盛大に突っ込まれている。
「ねえ、親父さん。その黒い影って、やたらに手足が長くなかった?それって、俺達が街道のちょっと東の開拓村から街道に出る前に出会った奴と似てるんだよ。」
「さあ、そこまではわからんかったが、白い馬の背中には、武装した皮鎧の男が乗っておったよ。」
「その皮鎧の男って、片手に燃える剣を持ってなかったかい?」
「おお!それじゃ、その男は松明の代わりかどうか、赤く燃える剣を片手に構えておったよ。」
「間違いないな、俺達もその二人に出くわした。彼は本当の事を言ってるんだよ。」
「そーなのか、おっさん!すまねぇな、疑ったりして。」
「聞いても信じられなかったんだよ。でも、この人も同じ馬と男達を見たのなら本当なんだろう。悪かったな!」
中年の商人からはお礼の言葉を頂いた。そして、俺は些細ではあるが、あの暗殺者の被害を被った無辜の市民を嘘吐きの汚名から救い出す事ができたのだった。
その後は気分良く買い物に戻り、チーフの所望する蜂蜜の蝋でガチガチに固まった塊を本当に巣棚一つ分仕入れて、要塞に帰還した際の事も考えて更にもう一つ仕入れ、背中の背嚢にぶち込んでおいた。
吊り下げられた燻製の度合いが良さそうなベーコンも味わい深い脛肉を選び、腿の上の部分も買い込んだ。そして、別の店では香辛料を・・・・。
どうせ、要塞の中での調理はチーフが仕切ってやるんだし、残りは全部要塞に持ち込むんだし、多めでも良いか!
何となく、俺は嬉しくなって来た。買い物それ自体が面白かったのだ。
気が付くと、持ってきた一番大きな背嚢が一杯となり、それに加えて薄い布袋の中のいい加減な造りのやはり薄い木枠に入った蜂蜜の塊を両手に持つ事となった。
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食料品店の前でマキアスを見付けた。
張り切って買い物したせいか、一杯の背嚢に加えて、両手に大きな包みまで抱えている。
あれでは掏摸の格好の餌食になるだろう。
中世世界では、掏摸とは”財布代わりの袋を吊った紐を切って盗む”のが一般的だ。だから、掏摸は普通にそれを咎めた者に刃物で反撃するのが常だった。
両手、少なくとも片手を空にしていない剣士は剣も抜けない。
カナコギみたいに、剣帯ごと剣を盗まれる阿呆は論外としても、これは良くない。
第一、マキアスがワンサカ買い込んで来たモノは全て食料なのだ。
口内に涎が湧き上がるが、それを飲み込んで行く。
こんな身体にしてくれた部長には(以下略・・・)。
「ありがとうね、マキアス。」と言いながら、その手の中の包みをかっさらって、自分の背嚢に入れる。どうやら蜂蜜みたいだ。これは取り扱い注意ね。
固いと言っても多寡が知れている。パンをどこかで売っていないか調べてみよう。
「ところでチーフ。宿屋の食堂はどうだったんですか?」と聞かれたので「売り切れてたよ。夜の分は4人分を注文しておいたけど。」と答えた。
「残念でしたね。」と言うが、もう時刻は午後三時だ。古くなった食事は、賄いに出されたか、主人達の遅い昼食になってしまったのだろう。
余った分を悪くならない内に全部食べているから、あの食堂の者達は揃って丸々と太っているのだろう。
ああ、そうだ。あの食堂はオカズは全部なくなってたけど、パンはあるんじゃないか?
しかし、時間が悪い。急いで馬車を走らせていたせいで、朝に食べてから確かに何も全員が食べていないが、だからと言って今しっかりと食べてしまうと、今度は夕食を食べるのが苦痛になってしまうだろう。
私以外は・・・。
「チーフ、じゃあ、食堂に戻りましょう。チーフの分だけでも買い込めば良いんですよ。」と言うマキアスの言葉がありがたかった。
「どうせ、いくらでも食べられるんだし。」と言う余計な一言さえなければだが。
後頭部に一発食らわしてやりたかったが、そこは背嚢が背を伸ばしていた。
「この恨みは部長に・・・(以下略)。」
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そんなこんなで、その晩は宿場町に泊まった。宿屋にはシーナとマキアスと鹿子木が泊まる事となった。
食事だけは、俺も鹿子木と交代で宿屋の食堂で食べたが、シーナが褒めるだけあって美味かった。
その後は貨物区で戦利品と、スパイダーが預けて行った宝石のどデカい櫃の御守りをする事になった。
床に寝ころび、神器の鎖帷子は装備したまま、寝袋を背中に敷いて、毛布を被った。
まあ、別に良いのだ。暖かい寝床は明日以降はたっぷりと堪能できる。
それよりも考える事が幾つもある。
まずは、ノースポートに帰還した時の事。
次は、バーチでこれから起こるだろう事。
そして、なりふり構わず去って行ったアローラとシュネッサの事。
あの星空の中で聞いた事から想像できる、今後に不安な影が差して来たフレイアとの関係だ。
もちろん、そんな事を考えても結論など出る訳もない。だが、考えないではいられなかった。
とその時・・・。ミシ・・・メリメリと言う音が、扉の外のステップから聞こえて来た。
慌てた様な小声と、叱責する様な小声。どうやら、俺の知らない者が訪問して来た様だ。
****
「馬鹿野郎!何やってんだ!」と男が小声で毒付く。
「すんません。」と小男が謝るが、その声も決して小さくはない。
扉の前につま先だけが残っているが、意を決してもう一度足をステップに乗せる。
再び、前ほどではないがメリメリと大きな音がした。
そうこうしている内に、中からレンジョウが現れた。
「俺の馬車に何か用か?」と凄んでいる。これは見事に効果的で、踏み出した一歩がメリメリと音を立て、小男はヒッと言う声をあげて、ステップから転げ落ちる。
「手前ぇは何だ!」と男は怒鳴ってみるが「お前こそ何だ?この馬車は俺達の馬車だ。」と冷静に、ある意味何の興味もなさそうな風に当たり前の事を言い返されてしまう。
逃げるのが正しいんじゃないか?と思う間もなく、レンジョウはステップの上から降りて来る。
「おい、出て来い!」と男が怒鳴ると、馬車の馬付近に居た二人ほどの男がレンジョウの近くにやって来た。
「お前達、やる気か?」とレンジョウは構えを取った。ボクシングの構えを。その後に、顔の両側まで籠手に包まれた両掌を上げた。
「こいつは無手だ。剣を吊ってないぞ!」と言う声がした。一斉に小男を除いた男達が剣を抜いた。全員が短い剣で武装している。
「手早く済まそうか。」と言うと、レンジョウは新手の男の一人に詰め寄って、鎖骨の当たりを右左の順に肘から上だけを動かして叩いた。
いつもの様に電光が迸り、男は肩を不自然な形に折り曲げて、顔面から駐車場の石畳に頽れた。
男達が露骨に怯んだ。
「ねえ、レンジョウ?こいつら、ノースポートから追い出された盗賊ギルドの連中なんじゃないの?」と、バスケット片手に私は話し掛けた。
男がもう一度ギクリと驚き、こちらを見た。
剣士の様な格好はしているが、私は背も低く、痩せている。親分格なのだろう男と、もう一人は露骨に性格悪そうなブ男だった。奇妙な格好の皮の下着みたいなのをズボンの上から被せている。
こんな目立つ格好で盗賊をやろうとか。こいつらは世間を舐めているのだろうか?
ブ男はショートソードで突き掛かって来た。威嚇のつもりだったのか?それとも本気だったのか?
どっちでも良い。
空の右手の人差し指と中指でショートソードを挟み、右手を強く引いた。
ショートソードはすっぽ抜けた。次は親指を使って強く曲げる。
安物の剣は、地金が曲がるよりも早く途中で破断して折れた。
唖然としたブ男の目の前で、私は右手を振り上げた。ブ男は目を見開き、アングリと口を開けている。
握った拳を振った。側頭部に拳はめり込み、白目を剥いたブ男は更に醜悪な顔に変化する。
そして、その醜悪な顔のまま、地面にドウと倒れた。
それは部長の頭をイメージして食らわした一撃だった。気分が爽快になった。
夜食を差し入れに来て良かった♪
「で、あんた達は番所に大人しく行く?それとも、抵抗してこんな風になる?」と私は問い掛けた。
ブ男はまだ生きてる風だったので、更にダメ押しとして腹に蹴りを入れた。
醜悪な肉塊が二人の前に落下して跳ねる。
親分格と小男は地面にしゃがみ込んだ。尿の臭いが周囲に立ち込め始めた。
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「まさか、こんなところで遭うとはな。」髭もじゃの兵士が手槍を手に話掛けて来る。
「バラミル、元気だったか!」と、マキアスが手を差し出す。
偏屈なバラミルとマキアス。二人とも腐敗したノースポートの軍事組織の腐敗と戦い続けて来た同志であるが、マキアスの方は複雑な感じに見える。
なにしろ、この世界がゲーム世界であると既に知っているからだ。
「もちろんさぁ、マキアス。それにしても、巡邏の最中にお前達と出会うとはな。男爵もご一緒とは。さては、何かの秘密任務だったか?俺には内緒とはな。お前は全く水臭い奴だ。友達なくすぞ。こら!」と言って、重い槍の柄をマキアスの頭に振り下ろしてくる。
「どんだけ乱暴なんだよ!お前さ、その槍の穂先がどんだけ凶悪なのかわかってんのか?」と大声を出している。
とまあ、いつもの掛け合いを済ませた後に、バラミルは詰所に居た兵隊に賊を引き渡した。
可哀想に、さっき捕まった賊は、二人とも意識不明の仲間を背負わされて番所に引っ立てられたのだから。今は馬車の御守りは鹿子木が引き受けている。
「こいつらは、最近問題になっていた車上荒らしの一党みたいですね。逃げ足が速いので、鎧を着て武装した巡邏の兵隊では捕らえられなくて困ってたんですよ。」とバラミル。
「こいつらを捕らえたのは僥倖です。アジトを吐かせて一網打尽とします。」
「バラミル隊長。兵を街の両端に配置しました。3名ずつですが、それで何とかなるでしょう。」と報告に来たのは、あの懐かしいハルトだった。
「よう!」と俺は挨拶した。
「兄貴!久しぶりですね。アマルも来てるんですよ。」とハルトは笑う。
その時に俺が考えたのは、現実世界でのハルトとアマル、そしてバラミルはどんな感じの人物なのだろうかと言う事だ。
この姿も、鹿子木やマキアスと同様に、元の姿とは違うアバターなのだろう。けれど、俺やシーナの様にリアルワールドでも同じ姿の者も居る。
アローラも、あれはパトリシアの子供時代そっくりと言う事だったが。
まあ、こんな事で悩んでいても仕方ないのだが。
「今更ノースポートに向かってもどうにもならないだろうしね。連中が盗賊ギルドの残党なら、間違いなく庇護を求めてフルバートに向かうと思うよ。」
俺もそう思った。
「アジトへのカチコミの前に、アジトの場所を吐かせないとな。」マキアスがそう言ったが、俺には腹案があった。
「悪いな、この木箱を借りるよ。返せないけど。」と言って、空の木箱を持ち上げた。
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レンジョウは木箱を殴り壊し、蹴り壊して破片に変えた。
小男と男は二人とも泣いて助命を請い、アジトの位置はさっさと判明した。
しかし、半分わかっていたが、アジトは空になっていた。きっと、近くで見張りをしていた者が居たのだろう。
何も残っていない。人も、物も、生活感のある建物の中、ここに何人の元盗賊が潜んでいたのだろうか?
カップや皿まで残っていない。戸棚の中は全て空だ。後、残っているのは煮炊き用と暖を取る為の薪くらいか?これは運んで行かないだろうさ。
「逃げ支度をしていたとしか思えないな。けれど、街道を逃げても追い詰められるだけだし、近くの耕地はそこに逃げても追跡者から丸見えだ。左右の丘も高くはないし視界も良い。それに、今の季節は蛇が出るのでヤバいって事だし。」バラミルがぼやいているが、ハルトには指示を出して、ノースポート側に注意する様に呼び掛けろと命じた。
「すまんが、男爵にはハルトと一緒に動いて貰う。レンジョウとマキアスは俺と行こう。本命はどう考えてもフルバートへ続く道だ。人数がそれなりに居れば、血路を拓こうとか無茶を考えるかも知れないんだ。」とバラミルは説明した。
「街中とは言え、夜の道だ。馬で進むのもそんなに早くは無理だろう。だから、俺が先行する。」と言うや、レンジョウは走り去った。
チーフもハルトと共に走り去った。まあ、余程に知恵の回る奴が居て、ノースポート側に馬を何頭か潜ませておいて逃げるとか。そんな手を使われない限りは取りこぼしも無いだろう。
「俺達も急ごう。」と俺はバラミルを急かして、自分も駆け出した。
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「凄いじゃないか、アマル。お前一人で二人もノシちまうなんて。」
アマルは剣を抜いていなかった。単に鉄の長い棒に革紐を巻いただけの代物で、襲い掛かって来た二人の賊を叩いて血まみれにして倒した様だ。結構、折れた歯が飛び散っていたりと、血の臭いと倍レンスの香りがプンプンしていた現場だった。
結局、ほとんどの賊は出払っていたのだ。残っていた二人は、夜闇の中をフード付きの旅支度で検問をすり抜けようとしたのだそうだ。
けれど、足止めをされるとわかれば、家財道具(野営道具よりも多少豪華な位の代物)を背負って逃げようとして、アマルに殴打されたらしい。
調べてみると、懐に武器を忍ばせていた事もあったので、多分無実の市民とやらではなかっただろう。
しかし、旅人と言えども、普通に野犬避けの長い杖やナイフ、追剥ぎ避けの武器を携帯する事もあるのだから、そこらの見分けは難しいと思う。
結果オーライだったが、やはりファンタジーあるいは中世世界とは人権の意識溢れる現代日本とは大違いだ。それが良いか悪いかは別として。
捕縛した盗賊は都合6名、こいつらはまたぞろ道路工事とかに使われるのだろうか?と俺は思った。
俺が稽古を付けるまでもなく、アマルは強くなっていた。多分、ハルトも同じく強くなっているのだろう。
俺はちょっとだけ嬉しくなった。
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仕事が終わったとなると、バラミルのやる事は一つ。
「おめでとう。そして、ありがとう。じゃあ、呑もうじゃないか。」と言いながら、まずは革袋の葡萄酒を煽り、次には背嚢から大きな瓶を取り出してテーブルに置いた。
「明日はノースポートに帰るんだ。深酒できるか。それよりも、お前の背嚢には何本の酒瓶が入ってるんだ。その量はおかしいだろう?」とレンジョウが突っ込んでいる。
「つまみは部下に持たせている。俺は酒だけで良いんだ。」とバラミルは嘯く。
「ハルトとアマルをお前に任せたのは間違いだったかな。」とレンジョウ。
「チャンと剣の腕は鍛えてるさ。それ以外も。」とバラミル。
「剣の腕だけで良い。後の事は、あいつらに取って、多分マイナス方向だろうよ。」レンジョウはジト目でバラミルを見る。
しかし、そんなもんで怖じ気付くバラミルではない。
「お前は何もわかっておらん。社会性に乏し過ぎる。そんな事では、魔法使いみたいなケッタイな連中以外の味方が着かないままだぞ。ほら、俺をもっと見習え。今からでも間に合う。」と、言いながら葡萄酒をグビグビと煽っている。
「よこせ。」と言いながら、レンジョウは酒瓶をひったくってカップに酒を注ぐ。あれはテキーラみたいな蒸留酒だ。しかし、レンジョウは酒豪だから、大丈夫だろう。
「ほら、男爵。あんたもだ。折角、今日は姫様のお付き以外の恰好をしてるんだ。俺の酒を呑むチャンスだろう。」と私にもお鉢が回って来た。
「私は弱いのよ。巻き込まないでくれる?」と言うや、「無礼講に爵位は関係ないだろう。呑んでくれ。美しい女性に酒を注ぐのは、男の本懐だよ。ほら。」
「そんなに注ぐんじゃないわよ。あんた、私を潰す気?」と喚いたら、「それ以外に何で女性に酒を注ぐんだ?」と真顔で返事された。
マキアスが何とも言えない顔でジト目をバラミルに向けている。
「それでだ。俺達がノースポートを出発してから、あっちでは何か変わった事はあったか?」とレンジョウが極々真面目に、当たり前に聞きたい事を聞いてくれた。
「ああ、結構いろいろとな。」バラミルは空中に目を彷徨わせた。
「何さ?気になるじゃないの。」私は問い詰めた。
「別に悪い事じゃないさ。悪い方向じゃないと思うんだが。」真剣、歯切れが悪い。
「勿体ぶる事じゃないだろう。」とレンジョウ。
「ああ、実はな・・・。アリエル姫が歌い始めた。」バラミルがそう言うが、何が何だかわからない。
「歌い始めたって、何か歌を歌ってるの?」と更に詳しく問い詰める。
「それがわからんのだよ。ただ、凄く美しい歌声でな。俺達も含めて、要塞の展望台から朝昼晩に聞こえて来る歌声を楽しみにする様になった。ここ数日だが、ノースポートの者達は、姫様が新しい力に目覚めたのではないかと噂している。」
私はレンジョウと顔を見合わせた。
「今から仮眠を摂ろう。その後に明け方前に俺達二人で出発して、朝にはノースポートに到着する。その歌声とやらを聞いてみない訳にはいかないな。」彼はそう言う。
「寝床に案内して。私達二人は明日の日の出前には出発するから。あんた達は馬車でおいで。バラミル、兵隊たちと馬車を守って同行して。」と指示した。
「ああ、そう言えば馬車だ。鹿子木の事を完全に忘れていたな。」とレンジョウが言ったが、そんなのは私も完全に忘れていた事だった。
スカイライン・逆襲を見ました。アマゾンのプライムVIDEOで。
映画館に行って映画見るなんて、夢のまた夢ですな。現在は・・・。
感想としては良かったです。役者さん達もノリノリで、エンドロール前のNG部分がとても楽しい。みんな、良い笑顔だ!w
最初のスカイライン・侵略を見た時には、あんな展開は予想もしてませんでしたが、とにかくハッピーエンドで良かった。
第二作、第三作で、主役の中軸として大活躍だったトレント。人間の身体を失った後も、何度も何度もエイリアンの命令に晒されながら、なおも人間性を失わなかった素晴らしいアメリカンヒーローの一人だと思います。(なんか、第二作からマーベルのフレーバーがプンプンしてたのも悪くないです。第三作ではパシフィック・リムも少し混じってますね。)
このハッピーエンドと言うのについては、本編中ですぐに述べる事となるでしょう。
それにしても、ウクライナです。頑強に抵抗していますね。
最低なのは西側の国々です。ウクライナに武器は提供していますが、兵力を送る事はしません。
どんなにロシアがうだうだと物申しても、国境までなら兵隊を送る事は出来る筈です。なのにやらない。
ロシアが音を上げて、ウクライナへの侵攻兵力を引き上げさせた後に、更に経済制裁を行っても問題ない筈です。しかしやらない。
そりゃあ、大規模な兵団を維持させる負担を強い、ウクライナ国内に兵団を嵌り込ませて更なる戦費を費消させるのは効率としてはありです。
けれど、正義に悖るやり方です。ウクライナ国内に拘置された兵力が何をするのか?ウクライナ国民を殺傷するために努力するのはわかっているでしょうに。
かように、正義と効率は相反するものです。ただ、ここまで他人事として、一国の荒廃を眺めやる様な非道を合理的な戦略と判じるのはどんなものかと思います。
日本は、林外相の個人的な資質は恐ろしく酷いものだし、あんな輩を外相にした内閣それ自体がアレだとは思いますが、それでも国ぐるみで旗幟をいち早く明らかにしたのは褒められるべき事と思います。
今回の戦争で、私と繋がっているロシア人達は揃って嘆き悲しんでいますし、ウクライナ人達は銃を取って戦いに赴いています。何人かは死んでしまうかも知れません。
一刻も早いウクライナ国内からのロシアの撤退を希望しています。
ただ、ヘルダイバー本編でも書きましたが、今回のウクライナ侵攻は、結局はロシアの撤退で幕を閉じるものと私は判定しています。
しかし、グレイス言う所の”最後が残念だった”と言うのは、ウクライナ東部で蜂起した者達は、最後は内乱準備と外観誘致で絞首刑が相応だと思いますが、そこまでは至らず、クリミアも結局は今回の侵攻にも関わらずロシアは放棄しないだろうと言う事です。
そして、ロシア人達は、軍備を維持できないところまで制裁で絞られる事になるでしょう。
特に中距離及び大陸間弾道弾については、ロシアは早晩戦力としては使えなくなるでしょう。
そこに誰がどう関与して来るか?私は中国がロシアに自分達を依存する様に働きかけるものと思っています。迂回路を使って。
次の危機は、もっと根深い形で東アジアに起こって来るだろうと。
台湾を巡る争いは、違う方向にシフトすると思っています。