第十四話 NPC達
「クエスト:廃墟に住み着いた”丘の巨人”討伐。報酬 討伐成功時に総計金貨100枚支給」とありました。
丘の巨人は、中堅のモンスターで、緑系統の自然力魔法でも召喚できるユニットです。袋から人間の胴体くらいの大きさの岩を取り出してぶつけてくる、現実世界だと自衛隊が出撃しないとヤバい位の怪物っす。
警察の機動隊で囲んでも、盾は岩を防げないでしょうし、警棒で叩いても多分効かないんじゃないかなって感じです。背丈5メートルの巨人となると、プロレスラーでもオモチャみたいに振り回されて殺されちゃうでしょう。ファンタジー世界、これで中堅なんだから実は怖いっす。
「大丈夫、剣で殴ればダメージは入るから。けど、反撃もあるので、鹿子木さんは倒されない内に後退して下さいね。」とランスロットさんからのありがたい申し出がありました。ソロでやってたら、全滅するまで踏み留まって戦うとか、クエスト失敗して信用失うかしそうです。仲間って大事っすよね。リアルも同じですけど。ランスロットさんが呼んだら、ダイルって男の人と、マミアって女の人がやって来ました。マミアさんが女なのか男なのか、俺には知る術がありませんが、ともかく女の人って前提で話をすることにします。二人ともフレンドの登録受けてくれました。これもラッキー。
例の練兵場で集合してますが、そこにはまたNPCがぞろぞろ並んでいます。会話できそうなので、コメント欄にキーワード入れて聞いてみます。もちろん、キーワードは”蓮條”です。
大半のNPCは決まったセリフしか言いません。「俺、この戦いが最初の実戦なんだ。」とか、今の俺が言いそうなセリフを返して来る奴が大半です。つまり、このNPCは大半が雑魚なんですね。数だけはいますけど。見回せば、ローブ着て杖を持ったNPCも居ます。眼鏡かけてます。女の子かな?名前はシーリス。
話してみると「実戦って怖いです。お姉ちゃんが一緒だからまだ安心できるけど。」とか言ってますね。お姉ちゃんって誰でしょう?横にいるメイド服の女の子かな?
シーナって言うメイド服に話しかけてみると、「王国に仇なす怪物を退治します。アリエル姫の宸襟を悩ます悪に鉄槌を!」と勇ましい事を言ってます。ここでも”知ってる?”+キーワードの”蓮條”を入力してみました。そうしたら、なんか変な反応が・・・・。
メイド服は黙って返事しないんです。普通なら、”知らない・・・。”とか”無効な会話です”とかの返事が返ってくるのに、シーナってNPCは黙って待機、その後に”貴方何者?”って言う短い反応が。
何でしょう?単にNPCが普通でない反応をしただけなのに、この妙に胸に迫ってくる不安の様なものは。”俺は鹿子木誠人、蓮條兄貴の弟分です。”と答えたら、”弟分?”と言うこれまた変な反応です。
「ランスロットさん、会話で妙な返事をしてくるNPCがいるんですが。」と聞いてみると、「このゲーム、疑似的なAIが使われていて、基本はオウム返しだけど、人間らしい反応をしてくる奴がたまにいるんだってさ。」との事。なんか、奇妙なものを感じましたが、その内にシーナが”今は忙しいから”と言って、妹のシーリスを連れてどこかに歩き去って行きましたので、それ以上は情報収集も会話もできませんでした。何かスペシャルなイベントだったのかも知れませんね。
その後、俺たちは練兵場の中で整列して、それぞれに番号が与えられました。参加者に番号が割り振られて、それでMVPとかが後で表彰されたり、追加の褒美を貰ったりするらしいです。
さっきのシーナと言う名のメイド、あの人が討伐部隊の隊長NPCみたいです。気のせいなんでしょうか?あの人、壇上から俺の事をガン見してる気配がするんですが。PCのゲーム画面では良くわからないんですが、何故かそんな気がするんです。
その後はみんなで隊列作って、王城の門から出て行きました。手を振ってくれる街の人たち、城壁の上からも挨拶している人たちがいます。何と言うか、ゲームの演出とわかってても、結構晴れがましい気持ちになりますね!
ところで、あの横にいる馬上のメイドさん、こっちをやっぱりガン見してます。顔がこっち向いてます。エフェクトですか?青い目が爛々と・・・。怖いっす!なんか怖いっす!俺、触れちゃいけない何かに触れてしまったんじゃないでしょうね?
そんな事を考えながら、ズンズンと軍勢は進んで行きます。全員で50人くらい?プレイヤーキャラは俺と、ランスロットさん、ダイルさん、マミアさん。随分少ないっすね。ほとんどモブですか?人気薄いゲームなんか、こんなもんなんですかね。
「中隊停止!斥候を出します!アマル、ハルト、二人で丘の巨人の動静を調べてらっしゃい。良いですか!」シーナさんがそう言います。
「はい!俺たちレンジョーさんの舎弟ですから。兄貴の名前に泥を塗ったりはしません!」二人の内の一人が、勢い込んでそんな事を口にする。と言うか、そんなテキストが表示されました。これ、見間違いじゃないですよね?
「!」今、絶対俺の事をシーナさん睨みました。そして、あの二人、兄貴の事を兄貴って呼んでました。
「鹿子木さん、聞いたかい?今、確かにレンジョーってあの二人言ってましたよね?」ランスロットさんも彼らのセリフを見たようです。
「レンジョーって、例の逃亡犯よね。何で運営はこんなイベント作ったのかしら?意味わかんないんですけど?」マミアさんも見た様だ。
「これ、なんか深い意味のあるイベントなの?俺、運営の考えてる事がまるで見えないんですけど?」ダイルさんもそんな事を言ってる。
「スクショ取り損ねた。くそ、唐突過ぎんだろう。なんなの、このゲーム。」ランスロットさんはチャンネル晒し用のスクショを取り損ねて不機嫌な様子で・・・。そんなチャットしてる間も、シーナさんこっちを見てます。怖い。
そんな風な異様な数分間の後に、二人の斥候は戻って来て復命をしてます。「前方に丘の巨人の塒になってる廃屋があります。歩いて10分の位置。数は2体で連中は起きていて、今は何かの獣を食ってます。」そんなテキストが見えました。
「中隊前進、強襲作戦になります。番号4の倍数の人は第1部隊隊長は私、番号4の倍数プラス1は第二部隊 隊長はカイアス、プラス2は第三部隊 隊長はバラミル、プラス3は第四部隊 隊長はマキアス。以上の部隊に再編成します。各部隊は散開して投石を可能な限り防いで下さい。後は突撃して仕留めます。右の巨人は第一と第二、左の巨人は第三と第四部隊で担当します。」俺の頭上に第一部隊所属と表示が出ました。シーナさんは馬から降りて、近くの樹に馬を繋ぎました。横にはあの眼鏡の魔法使いがいます。
「これからは無言で行きます。全員、その旨よろしく。うるさくしていたら、後で問責となります。その旨もよろしく。」シーナさんがそう言います。この人、いちいち物言いが怖いんですけど。
それから、しばらく森の中を進んで、ちょっと開けた場所に出ました。ぶっ壊れた民家の屋根の上に、どでかい巨人が腰をかけてます。塒じゃなくて、家を椅子の代わりに使ってる?そして、近くには血だまりと、大きな牛らしき四つ足だったろう獣の食べ差しがあります。
「ふうーう!」と何かの機械がたてるような大きな音がしました。これが巨人の声なんでしょうか?「ギャアオ!ワファオウ!」と耳にずしんと響く効果音がPCのサウンドボードから発せられます。これは、真夜中のプレイとか気を付けないとヤバいっす。そして、いきなり出た!腰の袋から小石(コンクリートブロックより大きい)が取り出され、節分の豆まきみたいに無造作にばら撒かれました。
あたりの樹にぶち当たった石が、跳ね返って凄い音を立ててます。何発かは周囲のNPCに命中して、犠牲者の人はひっくり返って動かなくなりました。
NPC達はしばらく巨人に接近しませんでしたが、巨人の袋の中が尽きたとみると、”突撃!”と言う命令一下、雄叫びをあげて突っ込んで行きました。俺も走ります。
みんな馬鹿じゃないので、正面から突っ込む事はしません。数名の盾を持った人は相手の右手の棍棒を何とか防いでます。蟻んこみたいに群れた兵隊たちは、巨人の向こう脛や、膝の裏側に武器を叩き込み、巨人の足がもつれて倒れたら、背中や頭に武器をぶち込みます。
例のハルトと言う若い人は、巨人の棍棒と向き合って防いでいました。度胸ありますね!俺は巨人の膝を前から長剣で叩き割って、棍棒を持った手首に同じく一発叩き込んでから、さっさと腕を掻い潜って背中の方に抜けました。巨人が膝を着いたところをみんなで滅多刺しに刺して仕留めました。
「まだいるわよ!」シーナさんが警告を発してすぐに、俺たちの目の前に何かが降って来ました。これ、鹿か何かですか?角のある四つ足の獣が兵隊NPCの一人を直撃し、二人の巨人が目の前の森から姿を現したんです。
「援護します!」眼鏡ちゃんがそう言うと、杖の先から炎が噴き出して、毛むくじゃらの巨人の顔に命中しました。髭が燃え上がり、汚い髪の毛が火を噴き、巨人はまたあの大きな声をあげました。これ、悲鳴でしょうか?音量ヤバいんすけど?
「やっちまえ!」ランスロットさんが吼えて、マミアさんが弓を射かけます。人間の背丈よりずっと高いので、頭越しでも弓矢を撃てるんですね。ダイルさんも前進してデッカイ槍を巨人にぶち込もうとしてます。各部隊は投石の後に巨人に殺到してフィニッシュしたんで、部隊を分けた意味がなくなってます。しゃあないっすね、乱戦っす・・・・・。
俺は巨人に接近して、向う脛に野球のバットみたいに剣を水平に振り切ってお見舞いしました。ゲージマックスで腕力の補正あり。効いたみたいです!でも、上から棍棒が・・・命中!凄いダメージ。緑のゲージがあっという間に真っ赤っ赤!
「そりゃあ!」そこを助けてくれたのは、あのシーナさんでした。サーベルで巨人の棍棒と撃ち合って逸らし、足の甲に一撃した後、思わずしゃがんだ巨人の耳と鼻っつらに連打食らわしてます。俺、その間に逃げました。また火の帯が伸びて、巨人が悲鳴上げてます。
ランスロットさんは長剣で巨人の胸を突き刺して、巨人が仰向けにひっくり返ったところを、ダイルさんが滅多刺しに刺しまくってます。二人とも強いです!勝負はそれで決しました。俺たちの勝ちです。
と、しゃがみ込んでいた俺の肩に、白い手が置かれました。予想はしてましたが、シーナさんでした。「聞きたい事がある。迎えを後でよこす。」それだけを言い残して、シーナさんは去って行きました。ランスロットさん達がなにも言わないのを見ると、これって個人宛の会話だったんでしょうか。
「あれ、単なるNPCの筈っすよね。」俺、わかんなくなってきました。けど、兄貴の情報を掴むためには、誘いに乗らないといけないでしょう。これは、ランスロットさん達にも言えない事ですね。
「わかりました・・・。」と心の中で呟くと、俺はモヤモヤする気持ちを抑えながら、またゲームの画面に目を向けました。王城に帰るんです。凄く今後が不安です。