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第百三十話 フルバート脱出

「とにかく、荷物は馬車の中に。いざとなったら、チーフが櫃を抱きかかえて、レンジョウのマントで全部見えなくしてしまえば良いんですよ。」俺がそう言うと。

「私の身長よりこの櫃の方が大きいのよ。しかも、マントはボタンを合わせていなければ透明にはなれないみたいだし。隠すのは無理ね。」


「その櫃を肩に担いでここまで持って来れるってのが凄いんですが。レンジョウに真似はできる?」

「いや、流石に無理だ。それと、俺にしても、この櫃は鼻のあたりの高さがある。隠すのは無理だな。」レンジョウもそう答えた。

「フレイア様にもう一度頼んでみようか?」とアローラちゃんが提案して来たので、レンジョウは「頼む」と返答をした。

「うーん・・・。返事なしだわよ。時間が時間だから、早寝早起きのエルフには深夜はキツイのかもね。」アローラちゃん残念!


「朝まで待つしかないんすかね?」とカナコギは言うが、俺は「変装セットは例の隠れ家に置いて来てしまったからな。今更来た時と違う顔で、しかも魔法の武器で武装までしている有様だ。目立たない訳がない。朝まで待てば確実に見つかるし、逃げたとしても騎馬隊からは距離を稼ぐのは無理だ。」と俺は反論した。

「この大きな櫃を馬車の中に隠し持っている怪しい集団を警邏の兵隊が見つけたらどうなるんだろう。朝まで連中がボーっとしてるかな?特にこの震災騒ぎの後で侵入者があったと通報された直後だし。疲れて警戒緩んでたら良いけど・・・。ほら・・・。」チーフが言っている間に、誰か近付いて来ましたね。


 衛兵?剣を抜く前に良く見れば、手を挙げて近付いて来ているな。あれは、さっきの盗賊。アランと言ったかな?

「しばらくお待ち下さい。只今、俺達の手の者が北門の門番達と話を付けに行っています。」

 チーフの了解を得て、待つ事しばし。

「”盗賊ギルドの密輸団が、夜更けに出発するから、黙って門を開け。”そう言って普段から飼い慣らしていた門番達に小さな方の北門を開けさせます。問題は、そちらからは、基本エルフの国の国境までしか道は通っていないのですが、森の中を迂回すればノースポートまで少し遠回りですが確実に着ける道があります。馬車の通れる迂回路ですから、2日ばかり遠回りになりますが。道案内も一人付けますのでご心配なく。」アランは待ち時間の間にそう俺達に説明をしてくれた。


 夜更けの月明かりの中、一騎近付いて来る馬が見えた。

「あれはオルミック。まだ若いですが、物知りで、忠実な男です。彼を案内人に付けます。」アランが紹介した。

「オルミック、お前は俺達とは別行動だ。御一行を例の森の中の道を案内して、チャンとした道に出るまで同道するんだ。」アランはそう命じた。

「わかりました。では、北門に向かいます。交代が来るまでに門を潜らないといけません。皆さん、今すぐに出発できますか?」とオルミックは答えた。


「あたしたちは外で待っているわ。幾ら何でも、エルフが夜中に門を潜るとかはないと思うから。」アローラちゃんは、シュネッサお姐さんと一緒に別行動。

「俺とシーナも同じだな。顔が知られ過ぎてる。それと、あんたはどうするんだ?」レンジョウはそう言った。それに大男は答えて言ったんだ。

「そうだな・・・。我も護衛であると言う触れ込みで、門を潜ろうかね。もう、ここで我ができる事もないのだから。ちと鎧が目立ち過ぎるが・・・こうすれば良いか。」と言うと、大男の鎧は普通の鉄製の鎧に変化した。

 金色だった板金鎧は、艶の無い黒色に変化している。鎧の形状も通常の剣士の鎧と同様になった。


「いや、存在感そのものが凄過ぎて、誰もああたの事を普通の人間とは信じてくれませんて。」俺がそう口走ったところ、ジロリと片目で睨まれた。

「ふふん・・・。それくらい押し出しが強い方が、密輸団の護衛としては適任なのではないかな?」と大男が言うと「密輸団がそんなに目立ってどうする?」と普段はボケに徹しているレンジョウまでもが突っ込んで来た。

「ほら、レンジョウ。動くとなればすぐに動くよ。それと、彼が本気になったら、フルバートの誰が止まられるって言うの?」チーフ急かした。

「レンジョウ、あたしたちも行くよ。」とアローラちゃんもすぐに動くつもりの様だ。

「では、私もこれで失礼します。ボスの方の出立を手伝わないといけませんから。」アランはそう言ってこの場から辞去する旨を伝えた。


「ああ、頑張ってくれ。」レンジョウがそう答えて、アランは街路を走り出した。

「じゃあ、オルミック。彼等を頼む。城壁の外で会おう。」レンジョウはそう言うと、チーフを抱きかかえてマントに包み、透明になって去って行った。ちょっと羨ましい・・・。

「あたしたちも行こ。」アローラちゃんはお姐さんを同じく抱きかかえて消えた。


「では、出発しましょうか。馬車もそんなに痛んでなさそうだし。充分にノースポートまで帰り着けるでしょう。」オルミックはそう値踏みしながら言った。

「とにかく頑丈なのを選んで来たんで、途中荒事も無かったから大丈夫だと思うよ。」俺は答えた。

「ええ、それでは道中一緒しますが、どうかよしなにお願いします。」と言って挨拶をして来た。


 印象としては、盗賊にもこんなチャンとした奴が居るんだなと思った。

 もっと、下種で卑しい、どこに出しても恥ずかしいゴロツキだと思っていたら、一丁前の騎兵ばりに馬も扱うし、姿勢も良く、顔付も精悍な20台半ばの男らしい男なのだ。

「俺達の方こそ、よろしく頼むさ。なに、足手まといにはならないから。」俺もちょっと気分が良くなって挨拶を返した。

 オルミックは、良い顔でニコリと笑うと、「まだ少し時間に余裕があります。音を立てない様に、馬は並足でお願いします。」とさっそく気が利くところを披露した。

「わかったよ。」俺が答えると、カナコギと大男は馬車の中に入った。

「行くぜ。」俺は馬車を走らせた。


 オルミックの後を行くと、程なく北の小さな門に到着した。ここは東西南北の大きな門とは違い、商業用の門ではない。戦時に騎馬隊や歩兵隊を外に繰り出すための軍事用の門だ。

 そんな重要な個所に、盗賊ギルドによって揃いも揃って篭絡される程度の人員しか配置されていない事こそが、フルバートの病巣の深刻さを物語っているのだろう。

「俺と馬車一台。」オルミックは手短に確認を促した。

「予定のとおりですね。じゃあ、10人分で頼んます。」門番はそれだけを言う。

 オルミックは、鞍の両脇から大きな袋を10個取り出した。

「こりゃあ・・・。」と門番が驚く。「全部銅貨だ。それでもいつもの額よりはハズんでおいた。」

「これが銀貨だったら腰を抜かしますぜ。ようがす、通って貰いましょう。」えびす顔になっている。


 門は小さな音を立てて開いて行く。上を見ると、城壁の中ほどに、緊急閉鎖用の鉄板が据えられている。ここらが、通常の中世の城壁との違いだろうか。

”隔壁やシャッターと同じ設計思想なんだな。”ふとそう思う自分が、フルバート攻略の際の方法について考えている事に気付いた。

 それは絶対に行うべき事柄だとして、その後はどうなるんだろう?北のカオスの国と戦うのか?それともヘルズゲイト経由で南に援軍を送る算段をするのか。


 とにかく、今は城門を潜る事が先決だ。そんな程度の事は、この後幾らでも調べられる。

「ギリギリの高さなんで、気を付けて下さい。」俺はそのとおりにした。馬車の天井から城門の上部まで30センチ位しか隙間が無い。商業ギルドの駐車場で幟を捨てておいたのは正解だった。


 城門の外に出ると、どっと夜気を含んだ冷たい風が吹いて来た。もう、秋も終わってしまう頃だ。

 前を行くオルミックは、この寒さを物ともしていないみたいだが、俺には堪える。

 すぐに先行していた4人とも合流した。為替の箱は全て降ろしていて、客室部以外にも人が入れるようになっていたので、チーフと大男に客室部に座って貰い、カナコギには荷物区に櫃と一緒に入って貰った。

 レンジョウとアローラちゃんには、透明な姿のままで周囲の警戒を頼んだ。


「こっちです。ここから先は、月の光も通りにくいので、俺の後ろをゆっくり付いて来て下さい。」そう言うと、オルミックは例の夜光石でできているらしい標識を鞍の後ろに立てた。

 ぼんやりと光る頼りない照明ではあるが、こんな暗い林道ではこんなものでも目印にしない事には進めない。

 本当に、自動車のヘッドライトを発明した奴はノーベル賞を受賞したんだろうかと思った。家庭用の照明を発明したエジソンも偉いが、それに匹敵する偉業だと俺は思う。

 夜の静寂の中で、馬の立てる音、車輪の回る音は別格に耳に響いた。風鳴りも時に耳を打ったが、それは常にではなかったのだから。

 目には見えないが、レンジョウとアローラちゃんは、どこかから監視してくれているのだろう。

 時々、木の根っこが飛び出している時もあり、馬車が大きく揺れる場面もあった。

 行き道の平坦な街道ではなく、今進んでいるのは未整備の裏道であり、幅も俺達の大きさの馬車だと行き会えるギリギリの幅しかない。

 途中で宿場があるとも思えない。さて、超高カロリーを必要とするに至った、我等が美人のチーフはどうやって飢えを凌ぐのだろう?今の買い置きだけでは到底足りないだろうから。


****


 長い夜を抜けて、俺達は何とか林道を抜けた。朝方の大気はひんやりとしているが、まだ何とか凍えずには済んでいる。

 結局、昨夜取沙汰されていたフレイア宛に宝石類を転送すると言う案は立ち消えになった。

 フルバートの地下で見つけた金銀だけでも凄い量だったのに、それに加えて宝石となれば、それらを為替で送って貰ったとしても、ノースポートの商人ギルドの手持ちで換金できるのかどうか。

 ヘルズゲイトならば、多分大丈夫だろうが、それもまた日数が掛かるのだ。なんでもかんでも右から左に金が動く程、この世界は金融の仕組みが整備されてはいない。


 そんな事を考えつつも、食料調達に出かけたアローラの帰りを待っていた。

 遅いとは言え、まだ秋なのだから、果物とかを持って帰って来ると思いきや、アローラは大きな鹿を持ち帰った。頭の部分が無い鹿を腹に両肩をねじ込んで運んで来たのだ。


「えらく大物を仕留めて来たんだな。到底朝食用とは言い難い様に思うが。」と俺が言うと、「血を抜くのに2時間ほど必要だと思うよ。その間に夜起きてた人達は仮眠をして、昼前までに皮を剥いで解体しておこうよ。これで当面の食糧問題は解決でしょう?」そう言った。

「俺、そのお肉と一緒に貨物区の中で座ってる訳っすか?どんどん過酷な環境になって行きますね。」と鹿子木がぼやいていた。

「ここらでは火を焚いても怪しまれないか?」と俺はオルミックに尋ねた。


「完全に騎兵の巡回コースからは外れてます。あんまり時間を掛けなければ大丈夫かと。ここからは平坦な地形が続きますが、一日位南下しないと村落の近くに出たりはしません。」

「台を作って、まずは内臓から吊るして火で炙り、剥いだ皮に残った肉を乗せておけば、明日くらいなら何とかなりますよ。」シュネッサ姐さんがこっちは果物とでっかいウサギを二羽持ち帰って来ました。

 エルフと一緒なら、森の中でも充分暮らしていけそうな感じが。


「調味料は途中の宿場で買い込んでおいたからね。塩の他にも胡椒もある。葡萄酒もある。」俺は申し添えた。

「香り付けの野草も採って来るね。シュネッサ、行こう。」アローラちゃんは、縄で哀れな鹿を逆さに吊るした後、野草狩りに出かけて、すぐに帰って来たけど、野草以外にも果物をまた採って来てくれた。

 チーフは吊るした鹿とウサギを手早く背中からナイフを入れて皮を剥いで行く。こんな事できたんだね。

「俺、この生臭いの我慢できるんでしょうかね。」とカナコギがぼやくが皆から無視されている。


 それから、レンジョウとアローラちゃんが客室区で寝始めて、俺も一緒に休みました。

 俺は椅子の上で横になり、レンジョウとアローラちゃんは床でマントに包まってスースー寝息を立ている。

 それを見届けた俺も、疲れに呑まれて鎧を着たまま寝てしまったんだよね。


 ところでオルミックは?実は彼は木陰で木にもたれたまま寝ていたそうだ。アウトドアライフに完全に適合した奴だ。多分、マタギになれる素質があると思う。


 3時間程度の仮眠から俺は目覚めた。血を抜き終わった肉は、きれいに解体されて剥がれた皮の上にゴロゴロと転がっている。それを昼飯の前に炙り始める訳だ。

 今更着けていても無益な屋号の板を外し、それらを焚いた火の整流板にした。周囲だけだが鉄枠で補強してある。

 焼肉用の鉄の串は、貨物区画の床下に何本かあったが、それらは総じて長くはない。鹿の丸焼きとかに使える太さでもない。

 オルミックは、アウトドアライフへの適性を示すかの様に、鉄の串を数本持ち合わせていた。


 シュネッサ姐さんは、如才なさを遺憾なく発揮して、発見した水源から水を大量に汲んで来ていた。

 その間、大男は姿を現さなかった。まあ、元来から正体不明なので、別にいてもいなくても心配する事それ自体が馬鹿馬鹿しいし。敢えて考えない様にしていた。


 肉が炙られる香りが立ち込め、まだ寝ていた(のかな?)レンジョウとアローラちゃんは揃って馬車から出て来た。

「何か手伝う事はないかな?」とレンジョウが聞いて来たので、薪になりそうな乾いた木材を見つけて来てくれと頼んだ。

 レンジョウとアローラちゃん、シュネッサ姐さんの三人が手を挙げた。

 貨物区画から出て来たカナコギも一緒に行くと言い、この場を離れた。

 チーフはと言うと、俺が買って来た最後の固形蜂蜜をガリガリと咀嚼している。後は瓶に入った液体の蜂蜜しかない。こりゃ、早い所補充しないと、空腹で行き倒れかねない。


 チーフには、カロリーを使わないためにもここに居て欲しいと告げた。

 それに加えて、馬車近くが手薄になるのは避けたいのだ。

 今のチーフなら、トラでもライオンでも、もっと悪質な魔獣でも一蹴できる気がする。

 それと大男が居たら・・・一都市の軍勢を潰せそうに思えた。


 薪を探しに行った連中は実に有能で、薪を両手一杯に抱えて帰って来ただけではなく、竈用に使えそうな大きな石を5個程、シュネッサ姐さんはシソに似た植物を見つけて、葉を沢山捥いで帰って来た。エルフは有能さ半端ない、マジで森の妖精と言われるに相応しい。


 内臓の炙り物が出来上がり、オルミックが細かく折ってくれた木片がくべられて、今度はもも肉とかアバラの周囲の肉とかが焼かれ始める。

「一人を除いて全員いるな。なら、今から昼食と言う事にしよう。内臓は今日中に食べてしまおう。」レンジョウが皆にそう告げた。

 ちょいとばかり脂っこく、切り分けた内臓を皆で小さな串で刺して食べて行く。

 即席で組んだ竈で作られたスープが供されたが、これがそこらの草を使って作られたとは到底思えない。シュネッサ姐さんは料理の達人でもあるのだ。


 脂っこい内臓には、シソに似た植物が薬味として添えられた。

「これは旨い。あの葉にこんな使い方があるとは知らなかった。」オルミックも驚いている。

「シュネッサが台所で作る本当の料理を食べたら驚くわよ。」アローラちゃんもご機嫌だ。

「これから俺とボス達は遠い国に行きますから。その料理を相伴できないのは残念ですね。」とオルミックは応えた。


「ふうん?あんた、飽くまでもスパイダーに付いて行くつもりなの?」アローラちゃんが怪訝な声で問い掛けます。


「そりゃあ、勿論です。俺はボスに12歳の時に拾われて、今まで養って頂きました。多分、バーチでの出入りで生き残った者達は全員ボスに付いて行くと思います。盗賊としてじゃなく、商人として働く道もあると言う事なら、俺も真人間に戻り、ボスの手伝いをする道もあるかと思っています。」

「皆さん、特にシーナさんにボスが酷い事をしたのは知っています。ですが、ボスが人変わりしたのは、ほんの10年前の事でしたから。それまでは、糞みたいな盗賊風情の俺達に、厳しくても寛容に接してくれる、荒事を嫌う人でした。皆さんが、ボスの目を覚まさせて下さった事にはお礼の言葉すら浮かびません。」丁寧に頭を下げながらオルミックは言った。


「あたしは館の中には入らなかったから、事情は良く知らないのよね。でも、人間が一つエルフより優れていると思うのは、赦しを相手に与えられる事かしらね。エルフは恨み深い種族でおまけに長生きだから手に負えないところがあるわ。人間よりずっと不寛容だし、無暗に誇り高いし。」

「とにかく、オルミック。あんたは立派な男だわよ。あんな環境に居て、悪に染まりきらないだけでもね。」


 思えば、アローラちゃんが人間をここまで褒めるのは初めて聞いたかもね。

「アローラは変わったな。前までは人間大嫌いだったのに。」レンジョウもそう言う。

「まあね。でも、人間を良く知れば、それ程捨てたもんじゃないって思えるようになったの。」

「ごめんね、オルミック。あたしは、あんた達を最低の人間だと思ってたのよ。でも、そんな者達でも、新しい明日を見つけられたら更生できるんだって。人間は良くも悪くも柔軟なのよ。だから道を誤っても、きっとやり直せるんだと思う。」


「アローラ様。最低の人間よりももっと酷いのがシュネッサの種族でございます。シュネッサは、その悪に抗いましたが、同心してくれていた愛する男がおぞましい拷問の末に、見知らぬ男に成り果ててしまい、部下達と地上に亡命して今に至っております。」

 オルミックは思わぬエルフ達の話に仰天している。それよりも強いのが感謝の気持ちだろうか?

「シュネッサには夢がございます。地下からまだ悪に染まりきっていないダークエルフ達に手を貸して、フレイア女王陛下の庇護の下、心清いダークエルフの避難所を作り上げると言う夢です。」


「ほ・・・本当にありがとう。俺はエルフを恨んでいました。レンジョウさん達を襲撃した時に、仲間達が大勢殺されてしまって。幼馴染もいたんです。ボスの側近にまでのし上がっていた暗殺者でしたが。」

「あいつも、幼馴染とは言え、成長するにつれて奴は俺の知らない男に変わってしまいました。冷酷で非情で非人間的な男に。それでも俺との間にはいろいろと思い出もあったんです。けど、あいつはそれで救われていたのかも知れません。これ以上悪事や殺人ができなくなったって事ですから。」

 オルミックはそう言って、込み上げる何かを我慢する様に沈黙した。


「人と人が正しく知り合って、相手を理解しようとすれば争いの殆どは避けられる様な気がしますね。」カナコギがそう言った。

「ただし、相手を理解するあまりに、こちらが手控えてしまうのを弱みと受け取る者もいる。剣術家の禁忌は相手を理解する事でもあるのよ。」チーフはそう言った。

「本当に・・・ありがとう。俺の胸の中のつかえが消え失せた気がします。」ビルリックはもう一度感謝の言葉を口にした。


「おう、良い話をしておるようだね。」そこに大男が帰って来ました。

「近くにマタギ小屋を見つけてね。何か良い物はないかと探しておったのだよ。」

 大男は大きな鉄串を差し出した。

「可哀想に、マタギの方は獣の肝臓を食べ過ぎてしまった様で、小屋の中で亡くなっておったよ。冬を越す為にビタミンAは必要だろうが、熊の肝はなぁ。肝硬変に一直線の危険食物だからな。」

「彼は綺麗な樹木の下に埋葬して来たよ。鉄板も幾つか持って来れていたら良かったんだが、今はこれを使うだけにしておこう。」


****


 それから、俺達は交代で休憩しつつ、鹿肉を焼きながら、薪の補充を続けた。

 まるでキャンプみたいな感じで鹿肉を調理した。その場を出発したのは太陽の位置からして、昼の3時過ぎだっただろうか?

「ここから数時間南に下ると、そこに湖が見えた。漁師の小屋もあったから、近くに村落があるのかも知れない。」大男は言う。

「真夜中に村落に到着と言うのは良い図ではないですね。山賊と間違えられる可能性が高いです。俺達は仕事柄問題としませんが、皆さんは村人の警戒を買うのは好まないでしょう?」オルミックの言う事はもっともだと思った。


「村があったとして、その手前で火を焚かずに野営する事にしよう。」俺はそう皆に告げた。

 夕刻を超えて、日没後に俺達は湖の湖畔に行き当たった。そこで昼間使った食器と鉄串を洗い、鍋に湯を沸かして夕食を作った。貨物区画に鹿子木は入らず、普通に歩いて馬車に遅れていない。

 金の腕輪の移動力向上は素晴らしいものだったようだ。

 シーナは時折、新しく手に入れた指輪の効果を試している。空中を走る術を早く会得したいのだろう。着地以外の全てはスムースで素早くなった。

 アローラは夜目が利く事もあり、前方にあるかも知れない集落を探しに先行している。


 夕食は、シュネッサが作ってくれた鹿肉の濃厚なスープだった。ハーブの代わりの野草で獣臭さとエグさを抜いて、鹿肉を柔らかくした上で、肉の味が濃厚なスープを作ってくれた。

 それらを飽食して、満足感に浸っている俺達のところに、アローラが舞い戻って来た。


「おつかれさん、アローラ。」俺は労ったのだが、アローラはそれに反応しなかった。

「あのさ、レンジョウ。この先に村を見つけたよ。でもね・・・。」

「その村は何かの襲撃を警戒している感じなの。かがり火を夜なのに焚いて、女子供達が庄屋さんらしき人の屋敷に集まって、男達は皆武器になる物を持ってるのよ。」


 俺達は皆で顔を見合わせた。

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