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第百二十九話 盗賊達の行方

「さあ、お前達の頭のお帰りだ!出迎えは靴の汚れを拭く布なりと寄越すが良い!」

 そう言うや、大男は館の扉に斧を一発ぶち込んだ。

 鉄の板が仕込まれており、頑丈そのものの扉が、脆くも両断され、蹴りが入って扉が内側に倒れた。


「片手で振ってる斧があれ程の威力なのか・・・。」ゲンナリした声が俺の喉から出て来る。

「彼の戦い方、あれって本当はナイフで戦うやり方なのよ。それでフェンシングの突きと斬りを全部斧で受け止めるんだからね。もう、滅茶苦茶だよ。」シーナも同じ気持ちらしい。

「出鱈目な人物も上位になって来ると、こう、見てて何やってて何が目的なのかを、そもそも理解ができない場合が多いですよね。」マキアスも・・・。


「玄関の外で待ってる訳にもいかないだろう。カチコミなんだから、元気良く行こうか。」俺がそう言うと、「盗賊の館なんか罠だらけってのが相場ですよ。」と鹿子木が言う。

「階段下に隠し階段が!ははは!定番だな!」と言うと、大男は斧で破壊を再開した。

 廊下の奥の壁がスライドして、クロスボウが鉄の矢を放った・・・が、彼の鎧はそれを弾き返し、一本は斧に当たってひん曲がって飛び去った。


「俺が先に出ます。」大男に貰った盾を構えて、鹿子木が前に出た。

 クロスボウはもう一度放たれたが、鹿子木の盾の前には無力だった。

「降りよう!」大きな声が響く。

 隠し階段の天井部分を斧で滅茶滅茶に破壊しながら大男は進んで行く。

「そら!そら!そらそらそらぁ!」ノリノリである。


「なんでここまで乱暴なんすか?」鹿子木も驚いている。

「後学のためだよ。我に逆らったら、どんな目に遭うのかを教育しているんだ。現実世界の我は、こんなに親切に人死にを避けたりはしないのだからね。」大男は振り返らずに斧を振り回して、乱暴狼藉の限りを尽くしている。

「その他には、流石の盗賊達も本拠地でここまでやられたらだ!」

「心ボッキリ折れますね。納得が行かない事は多々あるんですが、理屈だけは通ってますです。」

 鹿子木の声には諦めがある。


「理屈と無理と間違ってない?こんなのを通したら、道理が引っ込んじゃうわ。」とシーナ。

「俺、こんな場面に出くわしたら、絶対逃げます。下手すると地の果てまで。」とマキアス。


「まさにそれを狙っているのだよ!」と大男。

「お前ぇ、滅茶苦茶過ぎるだろう?けど、俺ぁ、お前ぇの事をちょっと思い出したぜ。こんだけの無茶をやらかす奴って言えば、一人しか居ねぇ。」肩の上のスパイダーが、ようやく目を覚ましたのか抗議に似たお手上げの言葉を吐き出した。


「今の我とは似ても似つかぬ姿であろうが、同一人物なのだよ。君だって、現実では小男どころか大男で、趣味の悪いスーツで固めたイカツイ道化みたいな姿だったろう?」

「お前ぇ、俺に対して酷評が過ぎねぇか?」

「まあ、それはお互い様だろうからな。君の我に対する論評は”地獄の使者”とか”快楽殺人鬼”とか散々だったではないか。」

「正確に表現したつもりだったが、気に障ったか?」

「いやはや、君と君の同業者達に取って、あの連中の悪徳の度合いがどハズレていたから。だから全員死んで貰った。それだけなんだがね。君達もおかげで助かっただろう?いちいち、構成員の家族から友人からを嬲り殺しにして行く、最低の仁義の欠片もない屑どもだったからこそ、我も君達の願いを叶えただけなんだがね。」

「ああ、間違いねぇんだな。お前さんはあいつなんだ・・・。ああ、なんてついてねぇんだ。お前さんだと知ってたら、絶対に手出しなんかしなかったろうによ。」


 そんな会話の最中にも、大男の斧は一切止まらない。タクトの様に打ち振られる斧が、罠らしき機械仕掛けを片端から叩き潰して行く。

「俺達もよ、お前さんが片付けてくれたあいつらと同じ様なもんだって事なのかい?だから、俺達も皆殺しにされるってのかい?」スパイダーは既に心折れたのか、身体を動かそうともしない。

「うん、我が旧友よ?もちろん違うさ!」


 木製の扉に見えて、実は尖った鋼鉄が沢山仕込まれていた素晴らしい調度の門扉が蹴り破られる。

 その向こうには、盗賊達が待ち構えている。

「ビッグボス!」と、小洒落た服装の伊達男が大声を張り上げる。

「アラン、お前ぇ・・・。」とスパイダーは小さく呻いた。


 盗賊達は既に得物を抜いている。

「ボス、及ばずながら、あの世のお供に俺達を一緒させて下さい。他の者達には、僅かばかりの金を勝手ながら与えて、暇を取らせました。ですが、ボスに特に取り立てて貰い、お世話になった者共だけがここに残っております。」アランはそう言って剣を掲げた。

 二十人ばかりの手下一同も、アランと同じ気持ちであるらしい。


「ねえ、レンジョウ君・・・・。君ならこの場をどう収める?任せるから、君の漢気を見せて欲しいものだね。」大男が多少意地悪な表情を見せながら、俺にお鉢を回して来る。

「あんた、本気でイカレてるよ。ほら、それならこうするさ!」


 俺は、スパイダーを大男の肩からもぎ離した。

「お前達のボスを釈放する!勇気のある奴が迎えに来い!」と俺は怒鳴った。

 アランと呼ばれていた男が剣を収めた。そして、手を挙げてよばわる。

「俺が迎えに行く!お前達も今は手出しをするな!」と場を収めると、つかつかと歩み寄って来た。


「ボス・・・御いたわしい有様でございますね。」と言うと、深々とお辞儀をして、膝を突き、自分の崇めるボスに右手を差し出して来た。

「アラン・・・・。」スパイダーはそう呟くと、右手を震わせながら差し出した。

「お前ぇの様な手下・・・いや、舎弟が居て、俺と言う男は幸福だぜ。だがよ、俺の為にお前達がこんな連中とやりあっちゃいけねぇ。こいつらには誰であろうと勝てねぇんだよ。」


「俺がこんな事をする日が来るなんてな。頼む、こいつらを見逃してやってくれ。俺だけが降伏して、お前達の言う事を聞くからよ。俺には勿体ねぇ、こんな子分共と、舎弟だけは助けてやってくれよ!お前ぇ達の男を見込んで一生一度の慈悲をくれや!」


「いや、私は女なんだけど・・・・。」と言うシーナの小声の突っ込みは無視する事にしよう。


「お前ぇら!こいつらに逆らうんじゃねぇ。国境のあの酷い有様よりも、もっと酷い目に遭うだけだからな・・・。可愛いお前ぇらを、むざむざ殺してしまえば、俺も生きてはいられねぇんだ。」

「ボス・・・・。」口々に盗賊達が呻き、膝を突いて黙って寛恕を求めている。


「レンジョウ、どうする?君に取っても許し難い敵だったろう?」そう大男は言うが、俺はもう、こいつ等に対しての興味を無くしつつあった。シーナも同じみたいだ。

「こいつらを殲滅するなら、フルバート伯爵と一緒くたでも構わないんだし。もう、どうでも良いよ。」そんな感じで総括された。


 既にして、シーナはアリエルを援ける大戦略を発動しているのだから。

 もう、ただの子爵であり、孤児であり、忠義一徹の凄腕剣士でもない。


 単に剣を振るだけでは到底登り詰められない、王国を真に動かす者として開眼しているのだから。

 こんな相手は、本来なら歯牙にもかけないで良いとすら思えるのだ。

「そうなんだよな。これが、単なるゴロツキだった俺と、シーナとの違いなんだよな。」

 俺は呟いたが、それを聞いたシーナは、複雑な顔付をしただけだった。ただ、考えた末に一言だけ発した。


「そうね・・・。随分変わったみたいだけど、自己評価の低さだけは変わっていない。」


 見ようによっては、メロドラマの様な盗賊達の必死の懇願に返事をする訳でもなく、俺達は佇んでいる。


「ここからは我が仕切って良いかね?」大男が言ったが、誰が反対する訳もない。


「我が旧友よ・・・。昔の事を思い出そうじゃないか。また、頭が痛くなるかも知れないが。それに耐える決意はあるかね?」大男は荘厳と言って良い声で呼ばわる。

「あんたの言う事はいちいち理解できねぇんだがよ。もう、まな板の鯉ってもんよ。」スパイダーはそう返事した。

「今しがた、それをレンジョウ君達に言った後に、君は悪あがきをしなかったか?」大男は突っ込む。

「もう、やめてくれや。そこまで他人を虐めても、そいつを自棄に追い込むだけだろうがよ!」


「おやおや・・・。まだまだ元気みたいで安心したよ。ところで、思い出すべき事と言うのはね・・・。」

「君は過去に願ったよね・・・。か弱い者達を故意に狙って殺す外道共に天罰が下りますようにと。俺達は絶対に連中の様にはならない・・・と誓ったよね。そうじゃなかったか?」

 無理からぬ事だが、盗賊の内の何人かは失禁した。殺気で部屋の中の空気が水中の様に重い。呼吸困難になりそうだ。

「シーナ君・・・・何か言いたい事は?」大男は続けた。


「いえ・・・沢山ありますが、今言う事はありません。」蒼白で汗まみれのスパイダーを前にして、シーナはそれだけを口にした。いや、それ以上は無理だっただろう。

「ここは確かに別世界だよ。しかし、ここがどこであろうがだ・・・。君は我との誓いを破ったな。破ったよな!!!」大男の超絶声量で発せられた怒号に尻餅を衝く者が続発した。アランと言う盗賊だけは、ふらふらしながらも二本足で立っている。


「す・・・すみませんでした!すみませんでしたぁ!!!」とスパイダーは土下座して謝罪した。

「お・・俺は忘れてました。あ・・・あんたとの誓いを!敵の家族や弱い者を狙う事はしない。女と子供は殺さない。全部です。俺は外道でした・・・。連中と変わらない外道でした・・・。」


「じゃあ、どうするんだね?君達流の落とし前か?それをどう付けるんだ?」

「死んで詫びろと?そう言うのなら、俺がバッサリ殺られてケジメを付けようじゃないか。」スパイダーも流石に覚悟を決めた様だ。


「いや、足りないね。それでは死んだ者も帰っては来ない。シーナ君の気持ちも収まらないだろうさ。」大男は更に追い込んで行く。

「じゃあ、どうしろってんだい。だが、俺の命以外は駄目だって。手下達は関係ねぇだろう!あんたが相手でも、それだけは譲れぇって!」スパイダーも怒鳴り返す。

「では、我からの提案をしよう。それで、シーナ君が許してくれると言うなら、君の命も助けよう。それで良いかな?」


「シーナが俺を許すだって?そんなのありえねぇって・・・。俺ぁ、シーナに酷い事をした。残った家族を全部殺したんだ。どうやって詫びるってんだよ・・・。」スパイダーは涙を流し始めた。

「俺は悪魔に取り憑かれていたかも知れねぇ・・・。」


「いや、悪魔は君が思ってる様な存在ではないよ。それだけは彼等の名誉の為に言っておく。それは君の心の中の悪心そのものなんだ。悪魔達は関係ない。」大男は混ぜっ返した。


「そうなのかよ。まあ、良いぜ。とにかくだ・・・シーナに赦して貰える方法なんか金輪際無いって。そりゃあ、俺みたいな悪党でもわかってる。」

「そうかね、では試してみよう。シーナ君!」


「はい!」シーナは直立不動で返事をした・・・。

「こいつらは全員、フルバートから退去させる。そして、バーチの盗賊ギルドのランソムを始末させる。つまりは、こいつら以上の外道を殺させるって言う寸法だ。そこまでの反対はあるかね?」

「いいえ、ありません。むしろ、そうして貰えるなら好都合です。バーチの貧民街では、ランソムの暴虐で毎日沢山の貧民が殺害されています。大した理由も無しにです。」


「使命その1、お前達以上の外道を殺せ・・・。わかったかな?」

「わかったさ。だがよ、手下どもは精鋭とは言え20人程だ。これでバーチを仕切るのは無理だな。」

「じゃあ、使命の追加だ。指名その2、お前自身がメソ・ラナオンに出向いて、トラロック様に雇って貰えば良い。バーチでは、盗賊ギルド同士の粛清がありましたって事にすれば良い。狙うはランソムの首だけだ。」


「俺が?トラロックの手下になるって?トラロックの主力部隊は聖騎士隊だぜ?盗賊あがりの勇者が聖騎士を指揮するってのはありえねぇよ。」

「精々頑張ってみたまえ。我からは以上だ。だがね、君はいつだって・・・手下からの信頼に応えて来たビッグボスなのだろう?ならば、今回も応えてあげたまえ。後は、この館にある全ての財宝を持ち去る事。フルバート伯爵にくれてやる等論外だろうからな。できるか?」

「やらねぇって選択肢はねぇんだろ?重いのは重いが、20人でなら金貨と銀貨だけは背負えるかな。だが、銅貨の大半は無理だな。両替の方法も今となってはな。」

「それでよい。後はとにかく、ヘルズゲイトまで辿り着けば、何とでもなるだろうさ。」


「これでどうだね、シーナ君?」

「いえ・・・あの・・・。それが私の納得する償いなのですか?」

「駄目かね?」

「いえ・・・ぶっ飛び過ぎてて理解が及びません。」

「将来のための布石。そう考えておいてくれ。」

「はい・・・。」それでシーナとの問答は終わりだった。


「お前ぇらに言っておく。俺達はバーチに潜入してランソムの野郎を消す。その後は、今から渡す金は自由に使え。退職金の代わりって事にしておく。」一同頷いた。

「逃げちまった連中が帰って来るかも知れねぇ。銅貨はそいつらの好きにさせたら良いさ。ただ、街を出るなら今すぐって事になる。人の口に戸は立てられねぇ、フルバートの盗賊ギルドがなくなった事は明日にはバレる。そうなったら、伯爵の配下は間違いなく俺達を追うだろう。」


「アラン、今日の門番で買収してある奴はどいつだ?」

「オルミック。南の門番で今日が当務の連中はどうだ?銅貨一袋ずつで何人分用意すれば良い?」

「南より、目立ちにくいのは、今居る館の近くの北の門ですか。バーチに向かうなら、ちょっと迂回して森の中を行けば良いんです。馬車も、途中の宿場で調達できると思います。」

「俺達が持ち逃げした金を、あいつらは絶対に手に入れたがるだろう。追手は掛かる。それを覚悟した上での道行きになるぜ。」


 スパイダーは本気でバーチに向かうつもりなのだろう。向かわなかったら?別に構わない気がする。その時は軍勢に囲まれて捕縛される事になるだろうから。

 こいつも、自分が今まで無事だったのは、盗賊ギルドと言う後ろ盾があったからとわかっている。

 それが無くなったら、単に金持ちのお尋ね者になるだけだ。強欲な伯爵達の餌食になるだろう。


「さあ、長々とここに逗留する意味もない。我等は去ろうではないか。」大男はそう宣言し、続けて言った。

「ああ、そうそう。君、ラナオンにも射手がいるんだよ。わかってるね?」邪悪な笑みを浮かべている。

 ラナオンの射手?シュリの事か?シュリとこいつに何の関係がある?

「ああ、無礼を働いてはなんねぇって事だろう。それも使命なのか?」

「そうだな。そう思っていれば良い。」

 何の事を話しているのかはわからないが、とにかく、スパイダーの態度を見るに大丈夫なのだろうか?

「おい、レンジョウ、シーナ!」スパイダーの怒鳴り声がした。

「なんだ?」俺が応えた。


「手伝ってくんなよ。」

「何をだ?」

「アラン、道具庫に連れて行って差し上げろ。」

「は・・・。」アランは一礼して拝命した。

「好きな物を選ばせろ。ただし、手下達にも配るから全部は渡すな。」そう言って顎をしゃくる。

「心配するな。小細工なんか今更だろう。お前ぇ達をもうどうこうするつもりはねぇ。信用してくんな。」


 案内される事しばし。何と言う事もない通路の真ん中に来た。

 俺とシーナ、そして神器の効果に詳しそうな鹿子木も同行させた。

「ここでございます。」そう言うと、アランと呼ばれた男は床に石板の様な何かを置いた。

 すると、壁の両側に今まで見当たらなかった引手の様な物が浮かび上がり、それを起こすと、アランは複雑な方法で回転させ、最後にグイっと引いた。壁の一部が内側に入り込んで、新たに出現した廊下にピタリと密着した。

「防火扉そっくりの隠し扉って事ですか。」鹿子木は唸った。「設計者誰なんでしょうね。」


「どうぞ。ギルドの魔道具庫にございます。中にはとっておきの神器もございます。」

 それ程多くのアイテムがあった訳でもない。主に装飾品の小箱が10個程と、剣が数本、メイスと斧、クロスボウ。鎖帷子が数着。

「どうぞお選び下さい。ただし、御一人につきお一つで。」アランは控えている。


 俺は武器には目もくれなかった。装飾品では・・・。

「この青い石の付いた指輪を貰おう。」直観的にそれが目に付いた。

「この透き通った石の指輪を貰うわ。」シーナも選んだ。

「俺はこの金の腕輪が良いっすね!」鹿子木も選んだ。


「シーナ様、まずはそれをお着け下さいますよう。」アランは言った。

「籠手の下にしても結構なのですよ。では、一度軽くジャンプをお願いします。」

 シーナはそのとおりにした。そして、地面に降りて来なかった・・・・。

「その指輪には”飛翔能力”があるのか?」俺はアランに問い掛けた。

「左様にございます。良い物を選ばれましたね。流石のお目利き。感服致しました。」

「どうやって降りれば良いの?」とシーナに聞かれたので、「坂道を降りる様に足を踏むんだ。」とアドバイスをした。

 ただ、俺は忘れていたのだが、シーナは最近筋力が激増していた。しっかりした足場の上では何とかなっていたが、見えない足場を踏むにはまだまだ不器用だったんだ。

 シーナは空中で”蹴躓いて”床に転げた。

「重宝な物でございますが、修練を必要とする神器でございます故。お小言は作成者に申し付けて下さいませ。」

 鹿子木が腕輪を二の腕に嵌めると、今まで鹿子木の鎧の上に着けていたベルトが音を立てて外れた。

「装飾品は二つ重ねられません。しかしながら、その腕輪は逸品にございます故。ご期待に背く事はありますまい。」

「俺のマントも同じだろうからな。この指輪は他の者に渡す事にしよう。」俺がそう言うと。


「その指輪はこの中で一番強力な魔力を備えております。ただし、とりわけでも魔術師用の品物でありますが。。」

「ならば、渡す相手は決まった様なものだ。」

 俺は、ノースポートで、アリエルと共に俺達を待っている賢者の顔を思い浮かべた。


「さて、この様なものでしょうか。後20人には無理ですが、主だった者数名には、これらの品をバーチでの荒事に備えて分配しなければなりませんので。ご容赦の程を。」

「俺のベルトはマキアスさんに渡しておきます。あの人、まだまだ移動速度に問題がありますから。」鹿子木はがそう言うと、アランは手招きをして、俺達は元のホールに戻った。


「次は手下どもに装備させろ。オルミック、お前ぇが一番先だ。バーチではお前ぇに斬り込み隊長をやって貰う。リッツ、ローガン、お前ぇ達は俺と組んで貰う。オルミックと一緒に行け。」


「でだ、レンジョウ、お前ぇ達にも手伝って貰う。宝石の類の処分だ。今の俺達じゃあ捌き切れねぇ。お前ぇ等なら、ノースポートの商人ギルドで換金できるだろう。それ以外に売っても構わねぇ。それを為替にして、後日俺達に返してくんな。それがお前ぇ達に渡した神器の代価って事で良いだろ?」

「返すってどうやるんだ?」俺は首を捻った。俺達に面会できる伝手なんかないだろう?


「そこはそれ。ほら、これはお前ぇの割符なんだろう?今更要らねぇよな。」と言って、鹿子木が貰っていたシーナの割符を見せた。

「使者はアランがやるさ。だから、為替はシーナが持っていてくれ。これでどうでぇ?」


 シーナは鹿子木を睨んだが、それも一瞬。

「転んでもただでは起きないか。全く、ふてぶてしい奴だ。」俺は半ば感心していた。

「これくらいチャッカリしてないと、盗賊の頭なんか務まらないんでしょうね。」マキアスも同様みたいだ。

「本当にラナオンに行くの?」シーナは訊いた。

「ああ、行かねぇってなれば・・・。ほら、そこのそいつにマジで殺されちまうしな。」大男がニカっと嗤った。


「正道に戻るなんて、俺の柄でもないし、できるかどうかもわかんねぇ。けど、聞いてたぜ。”未知の未来に立ち向かう”ってあたりのお前ぇ達の話をよ・・・・。俺もそうしてみるしかねぇだろう。邪悪な死の力に立ち向かう元外道の盗賊。笑っちまうよな!」

「だがよ、バルディーンが俺に願ったのは、毒を以て毒を制するって事だったんだろ。良いさ、今度の毒は一味違うだろうが、それでも俺はやってみようと思う。それで良いんだよな?」


「ああ、我はそれで問題ない。シーナ君は?」

 シーナはしばらく考えていた。

「良いわ。これも未知の未来って事なんでしょう?過去は覆らない。母と兄の仇は生きて罪を償うと誓ってくれた。後は私が振り向かなければ良いのよ。それとね、スパイダー。」

「・・・なんでぇ?」いささか気後れした風にスパイダーは返事をした。

「宝石は、為替と瑠璃石に変えておくわ。それをヘルズゲイトへの隊商として運べば良いのよ。生き残ったあんたの手下には、商人として暮らさせれば良いんじゃない?」


 盗賊達は顔を見合わせた。

「それだけの元手があって、目端が利くのなら、今後は商人としてやって行くのも夢じゃないわよ。その為に、中継点のバーチの治安は不可欠なのよ。」シーナはそう言ってから、「だから頼んだわよ。」と続けた。

 目を伏せたスパイダーは、いつもの甲高い声ではなく、低い太い声で「わかったぜ、シーナ。」と答えた。


「ほら、これが宝石の櫃だ。」と指を差した。

「これがね・・・。」と言うと、シーナは大きな櫃のバンドの一本に手を掛けて、グイっと引っ張ると肩に掛けた。床がメリメリと音を立てる。


「冗談だろ!それは大人三人分以上の重さがあるんだっての!」スパイダーがあんぐりと口を開ける。

「どうって事ないわよ。」とシーナが応えるが、盗賊一同は目を回さんばかりだ。

「さあ、みんなで退散しましょうか。」とシーナが声を掛けて、「約束は守る。じゃあな。」と俺も踵を返す。

「チーフ、人間辞めちゃってますよ。」とマキアスが小声でつぶやくが、地獄耳のシーナがそれを聞いていない訳がない。

「あんた勤務評定もう一段下げるね。」と言われて慌てている。

「では、これで失礼します。」と鹿子木が平熱であいさつを送り、「さらばだ。」と大男も階段に向かい始める。

「約束だよ♪」と最後に声を掛けるのは忘れていなかったが。


「しゃあねぇな・・・。」と一言スパイダーが呟いたのが聞こえた。

 その後、俺は奴に会う事は二度となかった。


****


「ボス、準備完了です。」一番手で帰って来たのはオルミックだった。

「よし。じゃあよ、さっそくお前ぇには動いて貰う。」

「へい・・・どんな仕事からでしょうか?」オルミックは返事をした。


「まずはよ。お前ぇは銅貨の袋をワンサカ持って、北門の連中に話を付けて来い。」

「アラン、お前ぇは奴等を追って、しばらく北門近くで待機するように話を付けて来い。」

 二人は揃ってすぐに動いた。

「連中の馬車の在処はわかってるな?オルミックが調べて来たとおりの場所だ。」

 アランは一礼して走り去った。


「夜逃げかぁ・・・。俺がそんな事をする羽目になるなんてなぁ。」思わず嗤っちまうぜぇ。

 けれど、気分は爽快とは言わなくても、憑き物が落ちたと言う事は実感できた。


「死に抗うか・・・。」レンジョウは死に抗う男なのだそうだ。あいつはそう言っていた。レンジョウの事を。

「俺は知らなねぇ間に負けて、死の罠に呑み込まれていた。」

 そして、レンジョウはあの”死の天使”と戦って打ち勝ってさえ見せた。

「そもそも、あいつの前に立って、おまけに一撃を見舞うってだけで驚きなんだがな・・・。」

 あの無敵の”サリー”がぶっ飛ばされる姿は、生涯忘れられないだろう。


「器が違うって事かい?それは悔しいんじゃないか?男としてはよ・・・。」


 だが、見届けた。あの男の漢気そのものは。

”完敗だ・・・。”それはすんなり認める事ができた。


「さあ、野郎ども。バーチへは急がないとな。ランソムをぶち殺して、あいつの舐めたやり口にし返さないとな。後は・・・。」

 この際だ。アラリック・ロンドリカも消しちまおう。なに、それも難しい事じゃない。

 あいつには金を積めば会えるんだ。隙があるんだから、バッサリ殺っても文句はどこからも出ねぇ。手前が爵位だけ高いだけで、不死身の存在だと信じ切ってる馬鹿なんぞ、物の数でもないさ。

 その後は金目の物を奪って一目散って事で良いだろうさ。


「ラサリア国内での最後の花火を打ち上げるんだ。やるだけやってやるさ!」

(地下のアンデッドを倒して手に入れた装飾品)

鹿子木:オリオンのベルト 攻撃力+2 防御力+2 抵抗力+2 移動力+2

マキアス:イーストウッドの籠手 攻撃力+2 防御力+1 命中率+10% マナ+10

(エルフ達の戦利品)

アローラ:エルフの健康の指輪 攻撃力+1 防御力+1(ハズレ!)

アローラ:防御の外套 防御力+2 抵抗力+3 抵抗緩和+3 移動力+2

シュネッサ:聖なる死の十字 攻撃力+4 命中率+20% 祝福 神の加護

シュネッサ:カーリの額冠 鑑定不能の未来の産物 カーリの遺留物の一つ(大当たり)


(盗賊ギルドの武器庫で手にした装備)

蓮條主税:狂える魔術師の指輪 魔法免疫 神の加護 攻撃力+4 マナ+15

シーナ:ダスミスの指輪 飛翔能力 攻撃力+3 命中率+20% 移動力+1

鹿子木:ムラッドの腕輪 攻撃力+4 防御力+4 抵抗力+6 移動力+3


(地下で見つけた武器)

弓:地獄の一撃 炎(攻撃力+3) 攻撃力+2 防御力+2 命中率+20%

メイス:頭蓋砕き 攻撃力+3 命中率+20%

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