第十三話 勇者の足跡
困った・・・。何が困ったって、世界が広すぎるんですよ。
「王城内の魔術師の塔に入ろうとすると、衛兵に拒否られて、まーったく状況の進展が見込めない。」これ、マジで今の俺の状況の要約っす。
これ、ゲームっしょ?自由度とかどーなってんすか?もしかして、クソゲに分類される代物なんすかね、これって。なーんて、いろいろと考えながら、あちこち歩いてる訳です。とにかく、このゲーム異様にNPC多いんすよ。セリフ聞くだけでも凄い手間。「プレイヤー少ないゲームだから、NPCで嵩上げしてる?こんなんじゃ情報収集だけで日が暮れまっす。」俺、既に挫折の予感してきました。
急がば回れ。検索エンジンでこのゲームのまとめサイトやWIKI見つけました!キーワードを登録するショートカットとか、目当てのNPCを探す機能とか。でも、このゲーム、熱意のあるファンが着いてないみたいで、とってもWIKIの内容が少ないんですよね。後、街のどこで兵隊や魔術師を雇ってくれるのかもわかりました。王城の塔に入れない理由も、作り立ての雑魚キャラだと入場制限されてる場所が多いらしいです。
また溜息出ました。結局レベル上げしないと駄目なんすね。練兵場にも行ってみました。なんかミニゲームみたいで、ひたすら相手に攻撃を当てるマウスワークを鍛えられます。このゲーム、ボタンを押すタイミングとか、ゲージの溜め方とかでダメージ随分違うみたいです。最初は上手くできなかったすけど、30分程も夢中で教官NPC相手にやり方を試してたら、最後はボタンを押すたびに教官NPCからお褒めの言葉を頂けるようになりました。上達の実感がありました!
移動もスムースにできるようになり、地稽古とか言う乱戦モードでも、NPC相手なら楽勝で勝てるようになって、いよいよ実戦に出てみようかと思うようになったのは1時間程遊んだ後だったでしょうか。
”初期スキルが発生しました。スキル腕力が選択可能になりました。”と言うアナウンスが。
つまり、ダメージに修正が加わるんでしょう。WIKI読んでると、初期スキルは全くのランダムで発生するみたいですって。このゲームは凄い運ゲーで、キャラ作り直すのも当たり前みたいっす。
俺のは当たりスキルみたいっす。腕力と双璧を成すのが体格みたいで、これは耐久力がボコ増えするスキルみたいで、あると遣り甲斐がマシマシって噂でした。強いキャラはそれだけでありがたいですもんね。
さて、レベル上げるためにやはりクエストとかこなしたいんですけど、このゲームはクエストとか少ないらしいです。ノードって呼ばれる魔法の力が噴出する地形があって、そこからはモンスターが産まれて、世界を闊歩し始めるって事っす。闊歩って、あちこちの人や村を襲い始めるって事でしょうね。迷惑っす。
各地に点在する廃墟にも変な連中が住み着いてるって事っす。自給自足体制のアンデッドモンスターや、人間を襲う悪い妖精やはぐれ者の巨人族。まあ、一人で何とか出来る相手じゃなさそうです。でも、わかってみると今の状況はそんなに悪いもんじゃなかったんすよね。兄貴の名前の勇者が出現したって事で、ネタを求めてラサリア国にやって来たプレイヤーキャラがそこそこ居たんですよ。
「鹿子木さんで良いかな?俺はランスロット、旅の戦士だよ。」人間が中にいるプレイヤーを遂に見つけたっす!ゲーム開始後2時間かかりました。
このゲームでプレイヤーを見つける方法は、酒場や広場で”大声”を発する事なんだそうです。
「誰か俺の話を聞いて下さい!」ってコメントを入力し、俺はフォントを奇妙な飾り文字にして、極太のサイズ極大、色はサイケなグラデに塗りまくって、何度も同じ言葉をあちこちでショートカットで喚きまくったんす。
リアルワールドでこんな事しでかしたら、次の日から覆面被らないと街を歩けませんって。ゲーム世界での恥はかき捨てなんでしょうか。
その甲斐あって、ランスロットさんとお知り合いになれました。プレイヤーのフレンド登録もして貰えて、何人かのお知り合いにも紹介して貰えるとか。なんでも、彼のお仲間の皆さんはそれぞれなかなかの腕前で、パーティを組めば適当な廃墟くらいなら何とかできるメンツらしいです。
「けど、先日グールと思って入った廃墟でデスナイトが出て来たのには困った。」この世界のデスナイトは、空を飛ぶとんでもないアンデッドで、必ず先手を取って来るし、生命力をドレインするし、移動力は人間の脚よりずっと早いしで、逃げ出す以外に方法がない代物らしいです。
「大魔法使いの肝煎りクエストなら、支援魔法も遠隔で使って貰えるんだけどな。そこの領域の魔法使いは冒険してるフリーの戦士には目もくれない、冷淡な奴だったんだよ。そこそこの期間、北のオークが作ってる街にいたけど、領主からの冒険依頼は全く来なかった。NPCで全部解決してたみたいだな。」いやいやいや、これってプレイヤーが遊ぶゲームでしょう?なんで全部クエストをNPCがやっちゃうんですか?間違ってるでしょう。
「このゲームって、そういうところあるんだよね。プレイヤーがいろいろ操作できるPCのための国と、イベントのための完全NPCのための国と、明白に分かれてるみたいなんだ。」それはそれは・・・。で、このラサリア国はどうなんでしょうか?
「ラサリアの国は、国の兵隊が充実してないみたいで、頻繁に領主からのクエストが来るみたいだ。」それはラッキーかも。兄貴の名前のキャラとも組んでクエストできるかも知れないっす。
「そりゃそうとして、”蓮條主税”って言う勇者を探してるんですが、ランスロットさんは会ったことあるんですか?」俺は単刀直入に聞いてみたっす。
「いや、それが全然見つからないんだ。この国の勇者として登録されているのはわかるんだ。全体画面で勇者を閲覧できるから。でも、現物を誰も見ていない。塔の中にいるのかも知れないが、俺にしてもラサリア国に来て時間が経ってないし、クエストもこなしてない。入れる場所が限られ過ぎてるからな。」
「俺と一緒に、”蓮條主税”って勇者を探してみませんか?俺、凄く興味あるんですよ。」
「勇者は、廃墟討伐とかの戦闘イベント、呪文解読とかの研究イベント、アイテム作成とかのスペシャルイベントでサポートしてくれる場合がある。そう言ったクエスト系の依頼で網を張っていれば会えるかも知れないな。」ランスロットさんはそう言いましたが、これは結構な時間がかかりそうです。
俺はその時知らなかったんです。勇者って、外交官として他の国に出向いてたりするんですよね。兄貴にそんな事が務まるとは思ってませんでしたけど。何しろ、普段は無口で怒った顔してて、口を開けば微妙に説教臭い上に冷淡だったり。行動はびっくりする位に献身的ですけど、何しろ不器用な人で、人嫌いなのか、親切なのか、両方が混ぜこぜなのか。ぶっちゃけ、わかりにくい人なんです。それがねぇ・・・。後で聞いてびっくりしましたよ。
「お!依頼掲示板のウオッチアラートが来た。討伐任務みたいだぞ。」ランスロットさんが俺にそう言いました。このゲーム、自動化とかちゃんとできるみたいだし、俺の方でも研究キチンとしないといけませんね。
「わかりました!」こうして、俺の最初の実戦が始まったんです。