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第百二十八話 帰路の途中

「さあ、シーナ君の言うとおり。もう、ここでできる事はない。ひとまずお開きにしようか。」大男は言った。

「いろいろと世話になった・・・。と言いたいところだが、こいつはどうするんだ?」俺は床で人事不詳となっている盗賊を指差した。


「まあ、これでも元の世界では古い友人なんだよ。殺すには忍びない。ただ、シーナ君はどうするんだろうか。彼女の兄と母の仇なのは間違いない訳だし。」大男は思案した。

「カジュアリティと言うには、作意が入り過ぎている。こいつのやった事は悪意の産物なのは間違いない。けれど・・・殺してしまっただけでは、私の気持ちしか救われない。そうでしょう?」シーナは答えた。


「模範解答ではあるが、それで君の気持は済むのかね?」と大男は再考の機会を与えた。

「家族の事は・・・許せない。けれど、それが未来からやって来た”者達”の仕業だと教えられてしまっては、以前の敵意は戻って来ないのも確かね。捨て駒が一つ減るだけの事でしょうし。」


「ふむ・・・。だそうだ、スパイダー。我が旧友よ。死んだふりは止めなさい。でないと・・・わかってるね?」大男は柔らかく言った。が、迫力は半端ない。

「途中から話は聞いてはいたが、死んだふりと言うが、俺は本当に動けねぇんだ。だが・・・本当なのか?俺は操られて、この女の母親と兄貴を殺したってのはよ・・・。俺がやったのは間違いねぇ。だが・・・。」鼻が血だらけなので、言葉に力が全くないが、スパイダーは返事を返した。


「今の君は無力だ。そして、君の言葉それ自体が意味を持たない。態度で示すべきではないかな?」

「態度ってのは、何でぇ?俺に更生して真人間に成れとか言うのか?そりゃあ、犬に向かって猫になれと言ってるのと同じく、無理な事じゃねぇか?」

「俺ぁバルディーンに呼ばれた時から悪党の頭として呼ばれてたんだ。それを辞めろと言っても無理なんじゃないかい?」居直っていると言うよりは、真実を滔々と語っている口調だった。


「君には、類稀なる”指導力”がある。それを活かせる場所ならば少なくはないと思うがね。」大男は言う。

「けどよ・・・俺に軍隊でも指揮させるつもりかい?誰が悪党について来るんだ?俺が聖騎士を指揮して戦うとか、お笑いを通り越して不可能でしかねぇだろうに?」

「わかってるんだろう?もう、フルバートは終わりだ。君の居場所はラサリアにはない。あの伯爵に搾取されながら、最後の日を待つのかね?」

「だがよぅ!」スパイダーは大きな声を出した。


「こんな俺でも頼りにしてくれる手下どもが居るんだぜ!そいつらを残して、俺だけが逃げるのか?それはねぇ!俺は確かに国境の戦いで、こいつらに敗れた。ビビッて、芋を引いて、アランが助けてくれなかったら・・・・。」

「アラン・・・。」スパイダーは頭を抱え始めた。


「ぐ!ぐあぁ!!」酷い頭痛に苛まれる様な有様で、スパイダーは頭を抱えている。

「あ・・・あいつは・・・。そしてお前は・・・・。」大男を指差しながら、スパイダーは声をかすれさせている。


「ふむ・・・。彼はこの世界ではゲシュタルトを有していない。そこのマキアス君やシュネッサ君と同様にね。けれど、本体とシンクロしている事は間違いないんだ。」手をひらひらと動かしながら、大男は説明した。

「リアルでも縁があるんだから、君はトラロック様を頼ってラナオンに向かうべきじゃないのかな?」苦しむスパイダーに、大男はさりげなく今後の事を告げていた。


「こいつは元の世界では何をしてた男なんだ?」俺は尋ねてみた。

「メキシコの武装ギャング団の親玉さ。凶悪で手の付けられない男だよ。アル・カポネ程目端は利かないが、それでも大した男である事は間違いない。」

「残念、アメリカ国内なら、リアルでいろいろと手出しできたでしょうに。」シーナがそう口にしたが、それも大男の判断を追認したと言う事だろう。


「とにかく、この薄暗い場所から出ようじゃないか。デス・ストライクも魂が残っていれば、こんな場所にずっと居座ろうとはおもっていなかっただろうし。」そう言うと、大男はスパイダーを片手で担いだ。スパイダーは苦しんだ末に気絶していた。

「さあ、行こう。盗賊ギルドの館の場所は知っているから。」


 大男は付いて来いと手振りで示した。行く先には、あのホールがあり、長い長い階段がある。

 俺は両脇にシーナとアローラを連れて歩いて行った。

「それにしてもさ、あんた、あの炭塵爆発をどうやって食い止めていたの?」シーナが尋ねて来た。

「実は良くわからない。誰かが俺に方法を教えてくれたような記憶もあるが、あの時はアローラと鹿子木を助ける事しか頭になかったからな。」

「やっぱり、あたしを救うために頑張ってくれたレンジョウに奇跡が起きたって事なんじゃないの?」とアローラが混ぜて来たが、残念。今回はあまり俺に反応して貰えなかった。


「鹿子木。俺はまず、あのマシンの中に入り込んで、その中でゲームの様な光景に出会ったんだ。」

「どんなゲームなんすか?」後ろから鹿子木が進んで来た。シーナは俺の横の位置を鹿子木に明け渡して、マキアスと並んで後ろに下がった。

「凄い数の階層のある六角形のタイルの海を俺が進むと色が変化する。動いた跡に軌跡が残って、それを使ってタイルを囲い込んで、階層をまたいで大きな塊を作る。そんなゲームだったみたいだ。」

「それって、兄貴の得意そうな分野ですね。」

「まあな。けれど、あれは俺達の敵の持ち物だった。出て来た敵をぶっ潰して、俺は奴等の陣地みたいな大きな塊を潰して回ったんだ。」


「あれは、敵の作ったウィルスと同じ様な効果があるプログラムだったんだよ。あのコンピューター内部では、かなりの数の人類に敵対的なプログラムが形成されていた。君はそれらに壊滅的なダメージを与えたんだね。このゲーム世界は随分と我々に取ってやりやすくなるだろう。彼等は携えて来たプログラムのほとんどを失った。それらを復旧するためには、まず未来に救援の要請を送る事から始まる数々の難行をこなさなければならなくなったんだ。」


「兄貴の破壊したプログラム達って、自分達では復旧できないんですか?」

「無理だと思うね。あのマシンの本来ならばハードワイアードのプログラム達にしても、ロジックのバックアップ機能は備えていない様だし。」

「でも、不思議ですね。あれだけの込み入ったオブジェクトを送り込めるなら、もっと直接的な破壊活動を行う事だってできたと思うんですが。」

「君は本当に賢いね。そうさ、できただろうさ。その気になればね。ただし、そうなると、送り込まれて来た12体しか存在しない”考える機械”の内の最低一つは共倒れで失われるだろう。それを引き受ける者はいなかったろうし、そもそもからして、連中の目的はこのゲーム世界の奪取なのだからね。」


「つまり、人類に友好的な機械の一つであるアリエルさんは、このゲーム世界に居る。そう言う事なんでしょうね。ここまで説明を受ければ、俺にもチャンと理解できましたから。」

「そう言う事になるかな?」大男も否定しない。

「俺達はこれからどうすれば良いんすか?ゲーム世界のシナリオを今回みたいにこなして、クリアしたら兄貴は元の世界に帰れるって事なんでしょうかね?」

「クリアの条件が見えないと言う事かな?」大男はそう言葉を継いだ。

「そうっすね。見えないっす。混沌の軍勢や、死の軍団を叩き潰して全世界が平和になったとしても、それでクリアなんすか?アリエル姫から祝福されて、貴方こそこの世界の救世主!とか褒められたからって、この世界はそれからも続くんでしょう?」鹿子木は疑問を全てぶつけるつもりみたいだ。


「そうだね。レンジョウ君がアリエル姫の伴侶となって、シーナ君達を含むハレムを作る様な未来はこのゲームのクリアを意味しないね。」

「そんな未来はフレイア女王が許さないと思うの。あたしも同じだけど。」とアローラが頬を膨らませている。

「おお怖いね!もてる男にも悩みは尽きないって事だろうかね?」と大男は言うが、ちょっと俺にはキツ過ぎる冗談だろう。

「じゃあ、俺はどうすれば良い?このゲーム世界が機械であるアリエルの住処だとして、それをどう守れば良い?」俺は尋ねた。


「姫様を塔から出すのよ・・・・。」シーナがそう言った。俺は足を止めて振り向いた。

「どう言う意味なんだ?」

「文字のとおりよ。姫様をあの塔の中から救い出すの。あれは、要塞に見えるけど、本当は牢獄なんじゃないかな?」シーナはそう言い切った。大男は興味深そうにそれを眺めている。


「姫様は、本来は青空の下で旅をするのが似合っている人なの。姫様を・・・私は外に出してあげたい。本来の居場所に戻してあげたいの。」


 アローラはキョトンとしている。「じゃあ、ラサリアの政治や統治は誰がするの?国を守る大魔法使いが居ない場所なんて、草刈り場みたいに他国の侵略を受けちゃうよ?ヴァネスティだって、そんなラサリアは放置しないもの。不安定な要因になる都や街は乗り込んで統治するしかないんだもの。」

「それはそうよ。でも・・・でも、それが正解だと思うの。どうしても、私にはそれが正しいと思えてならないの。」

「あ!そうか。レンジョウ、フレイア様がお話してた”塔の中の姫君”ってさ!」アローラが大きな声で閃いた事を口にする。

「ああ、俺もそう考えていた。あれは、サリアベルではなくて、アリエルの事だったんだ・・・。」


「でも、バルディーン様は、なんで自分の娘であるアリエル姫の事を救えって・・・・わざわざフレイア様にお願いしたんだろう?」アローラは首を捻っている。

「それはわからないな。だが、アリエルのお父さんは本当に未来を知っていたのかも知れない。ここにいるシーナ自身が、未来からやって来たと言う事もある。俺にも不思議過ぎていろいろと理解ができないが・・・。」


「あ・・・あのさ。」アローラはモジモジし始めた。

「なんだ?」俺はその仕草を奇妙に思った。

「あの・・・。あたし自身もそうみたいなのよ。今はこの世界のアローラなんだけど、何度も別世界からのあたしが話し掛けて来て、時々はあたしの代わりに戦ってくれたりしたの。あの炎の蛇にレンジョウが捕まって噛みつかれていた時も・・・。あれは今のあたしじゃなかったのよ。」

「お前、そんな事一言も・・・。」

「ううん、ちょっとだけは言ったよ。シーナにも言ってたでしょう?元の世界に戻ったら、あたしもそこに居るって。レンジョウも薄々感じてたんじゃないの?あたしもきっと未来から来たの。レンジョウのために・・・。」アローラはそう言う。


「兄貴・・・。」

「皆まで言うな・・・。」


「元の世界のあんたは、今何をしているの?」シーナが尋ねた。

「旅に出る支度をしてるみたい。あのさ、さっき見た機械とは形が違うけど、多分同じ様な機械を今は使ってるみたい。忙し過ぎて、戦いの時には出て来れなかったけど、ついさっきはレンジョウの姿を見て、凄く喜んでたのを感じたよ。」

「元の世界のアローラには護衛を頼まないといけないね。」シーナはそう言った。

「ううん。もう二人来てるよ。ラミーとバービーって言う男の人と女の人が。」

「どんな人達?」

「えっとね、一人はゴッツイ感じの大男で、太ってる感じじゃないのに、身体が樽みたいに太かった。もう一人はキツイ感じの女の人、なんか女豹みたいな感じ。シーナに似た美人だけど、もっと鋭角的だった。」


「へぇ・・・・。豪勢な護衛だわ。それが私の知ってる二人だとするとだけど。」

「多分、シーナ君が思っている二人で間違いないと思う。あの二人ならどんなものが現れても対抗できるさ。何しろ、レンジョウ君と一番似た能力を持った二人だからね。」

「俺と似た能力?」俺は思わず聞き返した。

「そうね。成長しきったレンジョウと似た能力だった。けど、今のあんたじゃ、彼等の足元にも及ばないと思うよ。あの二人が本気になったら・・・・。」そう言ってからシーナが頭を押さえた。


「シーナ君も、無理をして未来の事を”思い出さない”方が良いよ。時間が経過すれば、更に詳しい情報を思い出すだろうけど、君の頭脳の一部分は常にそのためにフル稼働してるんだから。まだ、君は目覚めたばかりだろう?」大男はそう言う。

「でもね・・・。別世界のあたしは・・・随分と物知りで、未来の事もしっかり覚えてる感じなのよ。ボーっとしかわからないけど。」アローラは言う。


「兄貴、この世界と言わず、プレイヤーの人達にも謎が多過ぎませんか?」

「そう思う。」それ以外に何を言えるだろう。随分と諦めが入った想いではあるが。

「兄貴は大男さんの言葉を聞きましたよね?」鹿子木があまり見せない表情で俺に囁く。

「どのあたりの事だ?」

「大男さんはこう言ったんです。”彼はこの世界ではゲシュタルトを有していない。そこのマキアス君やシュネッサ君と同様にね。”と・・・。」

「そうだったか?ほかの情報が多過ぎてな。そこらは聞き飛ばしてたかも知れない。」

「まあ、両手を洋アダルトと洋ロリータに引っ張られながらでは、お話も耳に入らないかも知れないっすね。けど、大男さんは逆に俺達二人とあの二人には、この世界でゲシュタルトを有していると言ってた訳でしょう?あの人は何かを言い間違えたり、省いたりはしないんですし。」


「それはどう言う意味なんだ?」

「つまりなんですけど・・・。実は俺も兄貴も、自分で覚えてなくても・・・本当は未来からやって来た者達なんじゃないんですか?」俺は息を呑んだ。

「お前、良くそんな事を思い付いたな?」

「もう、いい加減、俺も慣れてしまったんですね。この世界の在り方そのものに。それとね、この世界が兄貴を中心に回ってるのを考え合わせれば、そう考えるのも正しいんじゃないかとね。一つだけ疑問があるとすればですが。」

「なんだ?」

「なんで俺までって事ですかね。俺は兄貴程に腕っぷしも取り柄もありませんよ。普通の人間ですし。」鹿子木はそう言って首を傾げた。

「まあ・・・。お前は俺の弟分だし、ずっと俺と一緒に道を行くんだろう?」そう言うと、鹿子木は嬉しそうに笑った。

「ええ、俺はそう決めてますから。でも、不思議なもんっすね。兄貴と出会ってもう5年。いろいろあって、俺も正道に戻れて・・・迷惑ばかり掛けましたが、兄貴に見捨てられずにいられて感謝バッカリです。」

「けど、お前は俺を見つけて、この世界まで追い掛けて来てくれた。それだけで俺は嬉しいさ。俺こそ感謝してるんだ。」

「兄貴!」


 そんな俺達を見つめていたマキアスはと言うと「洋ロリ、洋アダルト、遂には舎弟とも。雑食ってレベルじゃないな・・・。」と要らない事を口にして、シーナにゴン!と言う音がする程、手酷く頭を叩かれていた。


****


「さっきシーナにも聞かれていたが、俺は炎を跳ね返した時、確かにプラズマ状の炎なら、プラスイオンと電子が均衡している状態だろうから、プラスだけのイオンを方向変換すればイオンは拡散して、炎の状態を保てなくなる。そう思ったんだ。」


「けど、俺が言ったみたいに、炎って言うのはプラズマと言うには電荷も低くて頼りない存在なんですよね。酸素とかがなくなったら消えちゃいますし。放電とかで何とかできる様な代物じゃない様にしか思えないんですけど。そもそも、放電現象は炎の中を通過するもんでしょうし。」

「けど、兄貴の言う通りだとすれば、ところどころで炎の中に黒い影が見えてた理由もわかるんですね・・・。」階段を上がる道すがら、俺と鹿子木はそんな事を話し合っていた。


「ねえ、あの二人。本当はとんでもなく頭良いんじゃないの?」アローラとシュネッサがひそひそと話をしている。

「そうですね。私なんかには理解できない事をスラスラとお話していますし。」シュネッサもそう応じている。


「俺の考えなんですが、兄貴のその籠手。電気を流したり、人の速度を加速したりするだけの代物じゃない様に思えます。」

「と言うと?」

「粒子の方向を変える働きがあるんじゃないでしょうか?それとか、電磁波の周波数を変更する働きですね。」

「ふむ・・・・。それに要するエネルギーはどこからやって来るんだ?」

「さあ?ファンタジー世界みたいないい加減な世界観だと、熱力学関係の法則なんか端から無視って言う向きが多いですが。この世界ではどうでしょうか?俺は、この世界は元の世界と同様の物理法則が成立していると思ってます。なら、この籠手と言わず、魔道具、神器はどこかからエネルギーを借りて来て駆動されているのだと思いますね。」


「この考えはハズレでしょうか?」と先頭を行く大男に鹿子木は呼び掛けた。

「正解だよ。」と大男は返事をした。「我等は揃って”秘密のどこか”から、エネルギーを拝借して、それぞれの能力を発動しているんだ。」


「だそうです・・・。」

「そう言えばだ。俺が気を失ってる様に見えた間に、俺は違う場所に入り込んでいた。星々が輝く世界で、俺はまた軌跡を使って星々を囲い込み、星々を分解して、光り輝く巨大な時計の様な世界を作っていた。」

「またもやパズルゲーだったと言う事ですか?」

「そうかもな。そして、今にして思えばなんだが・・・。あれは元素だったんじゃないかと思うんだ。それらを分子の形にして、離散集合させて、俺は巨大な光の世界を作り出していたんだ。」

「最初のコースは大成功だったって事なんすかね?」

「かもな。だが、俺には今一つ意味がわからない事だったんだが。」


「いや、重要な意味があったと我は思うよ。今に君もその事を悟るだろう。そう、とても喜ばしい事として、君は驚きを感じるだろうと思うよ。」会話の間も後ろも振り向かず、大男は階段を登って行く。

「・・・・。」あまりに予言めいた断言に、俺は少し不信感すら抱いた。

「君に起きたのと同じ事が、他でも起きている。そう考えれば良い。」


「俺に起きた事?何かあったか?」俺は鹿子木に問い掛けた。

「ん・・・。兄貴は・・・そうっすね。兄貴は自分の事については鈍いですからね。」

「ヴァネスティから帰って来た時も見違えたけど、今回も同じ位に変わったわね。」

「多分、次に会ったらフレイア様も驚くと思うわね。」

「左様ですね。きっと大喜びなさいますね。」

「使用前、使用後位に違うわなぁ。」


 そうだこうだと、いろいろと話をする間に階段は終わった。

「さて、我もこの恰好では少し不審ではあるな。」とボロボロのローマ軍の鎧は、突如黄金色の剣士の鎧に変化した。緋色のマントはそのままだ。例の斧を右手で構えて、左肩には盗賊を担いでいる。


「少しだけ寄り道をしようか。なに、盗賊ギルドの館の方向なのだから、それ程の遠回りではないよ。」軽い感じで、大男は言った。


****


「みんな・・・生きてる?」シーナが声を掛けた。

「俺、相当やられました。」

「俺も・・・。」鹿子木とマキアスは散々に生命力を剥奪されて危うい所まで追い込まれていた。

「もう矢が足りなくなって来たのよ。」アローラもほとんどの矢を射耗している。

「お役に立てなくて申し訳ありません。」シュネッサも結構叩かれていた。

「なに・・・その埋め合わせをする程の財宝だよ。ほら。」大男は無造作に埃だらけの床から取っ手を掴み出し、建物の地下にある宝物を探し当てた。


「金銀財宝マジックアイテム!」鹿子木が大声で勝利を宣言する。

「このケープと指輪を貰って良いかな?」

「この額冠とペンダントですが、これも値打ち物だと思います。」エルフの二人組は目ぼしい品物を見つけた様だ。

「棍棒と弓もあるな。これはどうする?」俺は二人に訊いた。

「メイスと弓か。あたしの弓は最高峰の弓だからね。それはノースポートに持ち帰って。」

「この籠手は何だろう?レンジョウのより随分ゴツイけど。」マキアスも何某かのアイテムを手に入れた様だ。

「このベルトも魔法の品なんでしょうか?薄っすらと光ってますね。」

「この大量の金貨は凄いね。どんだけ貯め込んでたんだろう。」シーナも興奮している。


「フレイア様!応答して欲しいの。大量の財宝を発見したんだけど、流石に持ち帰れないのよね。」と水晶玉に向けて通信を送っている。

 声だけが聞こえただけだが、フレイアは返事を寄越した。

「それは喜ばしい事ですね。ノースポートの方々と共同で発見したのですか?」

「そうなの。だから、山分けなのよ。」アローラはそう応じた。

「では、それらの金貨を魔法でこちらまで転送致しましょう。後日、ノースポート宛に財宝の半分を送り返す事に致しましょう。エルフの女王の名に懸けてそれを誓いまする。」

「それで良い。頼むぞ。」と俺が言うと、「はい、レンジョウ様のお役に立てて、フレイアは嬉しゅうございます。」と言葉を紡いだ次の瞬間。


 金貨と銀貨、宝石類は全て消え去った。魔法が掛かっていない財貨だけが消えうせたのだ。

「あれ?金貨以外にも何かまだあったのね・・・・。これは魔法の書物。呪文書?」

「白と緑の魔法書だね。それはそれぞれに相応しい人に渡すべきだろう。」大男はそう言う。


「緑はもちろんフレイア様。白は当然アリエル姫の物。それで良いと思う。フレイア様も納得なさるわ。」アローラはそう言って、俺に白の魔法書を渡して来た。

「アリエルは喜ぶだろうな。」俺もそう応じた。

「ラナオンから頂いた財宝に加えて、今回も馬車1杯分以上の財貨が手に入ったのね。」驚きの戦果だ。

「これだけあれば、更にたくさんの兵力を維持できるわね。先代の時代の様に、国軍の復活も夢じゃないわ。」シーナはそう言って喜んでいる。


「これで大方は済んだろうか。さて、悪魔貴族と死霊騎士団まで打倒したのだから、君達も相当に成長したものだ。もう、アルカナス世界のどこを旅しても困る事はないだろうね。」

「後一息だ。ここからは強行軍で地上まで出る事にしようか。」


****


 時刻は既に夜半に達していた。照明はあちこちに見えるが、基本薄暗い。しかし・・・。

 俺達の姿は多分異様なグループとしか見えないだろう。特に、肩に盗賊の親玉を担いだ彼は。

「私とアローラ様は流石にこの場から遠くにいるべきだと思います。」シュネッサが献策した。

「それで良い。お前達二人はしばらく離れた場所で待機だ。」俺はそう決定した。


「姿を消して、近くで待っているわよ。」アローラがそう言うと、マントの力で透明化した。

「では私も・・・。」シュネッサも透明になった。


「では、我々も行こうか。あの屋敷だよ。」

 そこは城壁にほど近い、塀の高い屋敷だった。

「ここは旧市街と接しない場所で、地下の方が大きい屋敷なんだ。」

「小細工無用。正面から行くよ。」大男はそう言うと、門の閂となっている鉄の金具を見事斧の一閃で断ち切った。


「お邪魔します!」一声掛けると・・・そのまま無造作に門を潜った。

「できるだけ殺さない様にね。そんな訳で、レンジョウ君。先頭を頼む。」

 俺は頷いて歩み始めた。屋敷の入り口が前に見える。ふと、屋敷の証明が全て消えた。


「お待ちかねみたいだな。まあ良い・・・。決着を着けよう。」

 もう迷いはない。散々苦労させられた盗賊共の根城だ。徹底的にやってやろうじゃないか!

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