第百二十四話 扉から出て来た女
”少し遅かった様だね。だが、今後の為にはなりそうさ。”
「できました!できました!できました!」普段のお淑やかな所作はどこへやら。
大声を挙げているアリエル姫を、ザルドロンが驚いて見つめている。
「レンジョウ様!」水晶玉を両掌に掲げて、アリエル姫が叫び声を挙げた。
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「レンジョウ様!」突然、大きな声が、俺の話を聞く為に全員が黙り込んでいた場所に響き渡った。
そして、天井の方に光が噴き出す様にわだかまり、一つの像を結んだ。
藤色の瞳、金髪で、繊細な顔だち。美しい!儚げで、護ってあげたいと本能が訴える美少女だ。
「アリエル・・・・。」レンジョウが短く呟いた。
「姫様!」シーナが驚いて声を上げる。
「この女の子が、ラサリアの大司祭アリエル姫なのか?」俺は驚いた。
エルフの女王も美人だった。けれど、この子は何だろう?俺にはわかる、この子は絶対の価値がある女の子なのだと。
フレイア女王は、本当に美人で、聡明で、衆人の支持を集めている、女王の中の女王だ。彼女はエルフ達全員の母であり、エルフ達全員が熱狂的に守ろうとする不滅の御神体なのだが・・・。
”なるほど・・・・。あの糞爺いが嫁に欲しがる訳だぜ。”
そうだな。フレイア女王は、誰もが認める美女であり、誰もが憧れる女性的な原理だ。
それに対して、アリエル姫は、誰もが欲しがる愛の形そのものなのだ。
彼女に隙がある訳ではない。それは絶対に違う。
アリエル姫とは何か?それは一言で言える。充足だ・・・。
この女さえ居れば、他のどの女も必要とは思えない。側室も要らない。この女だけで全てが充足する。そんな女なんだと。
”魔性の女とも違う。演技は一切ない。こいつは天然でこんな女なのだ。”
”包み込む母性。決して裏切らない一途さ。尽くせば、それに徹底的に尽くし返す律義さ。愛を与えれば、それに対して愛を数倍にして返して来る愛情の容量が並外れた存在。”
”そして、こいつは性別は女でも、実は女じゃない。女なら、絶対に子供から大人まで意地悪をしない女は居ない。人間でも、獣でも。だが、こいつには意地悪な魂胆は一切無い。”
”打算が無い。こいつには愛と善意しかない・・・・。愛だけを、善だけを目的とした見た事のない生物なんだ・・・・・。”
俺は衝撃を受けた。自分の”本能”が告げたアリエル姫の正体に驚愕した。
そう、本来の自分自身が、”愛を求める存在、愛なしでは生きられない存在”であるが故に、俺は気が付くと、アリエル姫に膝を折っていたんだ。
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「良かった・・・。皆、無事な様子で安心致しました。」空中でニッコリとほほ笑むアリエル姫の様子に、俺達はさっきまでの陰惨な話と、目の前の災厄の権化である奇妙な装置の事も束の間忘れてしまっていた。
「ところで、見知らぬお方がおられますね。特に、そちらの大きなお身体の剣士様は・・・。貴方がお父様の召喚された勇者デスストライクなのでしょうか?」アリエルの澄んだ声が響く。
「姫様。おめもじ適いまして光栄に存じます。姫様のお言葉、左様にございますが、本当は少し違います。我は、デスストライクの身体を借り受けて、この世界に顕現してはおりますが、レンジョウやカナコギ、マキアスと同様の世界からまかり越した者にございます。」
「それは・・・。そんなにたくさんの方々が、レンジョウ様の世界から。しかもマキアス隊長までとは。」アリエルが驚いている。
「ここなるスパイダーも同じでございます。ああ、彼は今はとある事情で人事不省の有様で残念ではありますが。」とある事情・・・ね。
「あら・・・。その方が負傷されたのでしたら、わたくしの術で回復できますが?」
「無用にございます。もう少しの間、この者には静かにしておいて欲しいと思います故。」
「左様でございますか。ところで、貴方様とレンジョウ様の戦いは、もう終わりましたのでしょうか?」事情を知らないアリエルは、無邪気と言うか、疑う事を知らずに大男に問い掛けている。
「はい。それはもう、レンジョウ殿のお強き事。我は感服する以外にございませんでした。誓って、今後レンジョウ殿とは戦わぬものと致します。」
「それで良いとは思わないか?」大男の問いに、俺は高速で首を縦に振りまくった。
「2回戦をやったとしても、俺の勝ち目なんか全然見えないな。」正直にそう言った。
「君は強いが謙虚だね。そう言う所が素晴らしいと我は思うよ。」大男はそう言って。
「けれど、それは現時点での事。将来はどうなるかわからないよ。」と続けた。
「30前の男が、更に強くなったとしても多寡が知れているさ。」思わず本音を口にした。
「ふむ・・・・。そう思うのかね?」大男は首を傾げた。
「何が言いたいんだ?」俺は多少イラついて来た。
「君の考えは少し間違っていると思うがね。君は現時点で達人なのかね?」
「いや・・・・そんな風には自惚れていない。」
「ならば、更に上を目指そうと思わないのかね?」心底不思議そうに訊ねられた。
「なあ・・・。あんたなら答えを知ってるかも知れない。そう思うから訊ねるんだが。」俺は意を決した・
「我は助言は得意ではないが、聞かれた事には真面目に答えるつもりだ。」
「そうだな。俺は元の世界に帰る事になっている。だが・・・・。」
「・・・・・。」
「これ以上強くなったとして、俺は元の世界で何と戦えば良いんだ?」
「助言と言えるかどうかわからないが。」
「ああ・・・。」
「君はもっと身綺麗になった方が良くないかと。我は思うのだ。」
「身綺麗?どう言う意味だ?」
「君はいろいろな事に負い目を感じ過ぎている。我の目から見れば、そこまで様々な事を背負ってしまうのは、君が過去の出来事に対して目を背けているからではないか。そう思うのだよ。」
「あんた、俺の事を調べたのか?」俺は思わず怒鳴った・・・つもりだった。
しかし、その声はかすれており、小声にしかならなかった。
「いいや、それはシーナ君達の方が専門だろうからね。しかしね、我には見えるのだよ。”人の業”と言う何かがね。」大男は真剣な顔で答える。
「”業”だと?」
「”業”さ・・・。過去にあった何かが君を蝕んでいるのだろう。だが、それは浄化できるのではないかな。」
「どうやれば・・・・?」
「簡単ではないよ、過去と向き合う事は。君はその過去で、戦いに敗れたんだ。あるいは、逃げを選んだか。」
「・・・・・。」
「我と戦うよりも、過去と戦う方が辛く惨めだろう。勝利の快感も無いだろう。そして、飛び切りの勇気が必要だ。」大男の隻眼は強く優しい光を放っている。
「考えたい。考える時間が欲しい・・・。」俺に言えるのは精一杯でそれだけだった。
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一方その頃・・・。アリエル姫は絶好調だった。
「あん・・・貴女様が、ラサリアの国主であらせられる・・・あ、アリエル姫なのでございましょうか?」タキと呼ばれていた男が、床に膝を突いたまま、姫様を拝跪している。
「はい、左様でございます。ところで、貴方様はどなた様なのでしょうか?お顔を拝見した事はなかったと存じますが?」上機嫌そのものでタキに話し掛けている。
「お・・わたくしめは、カオスの国モルドラの、と・・・尊き大君主であらせられるタウロン陛下にお仕えする、勇者タキと申します。ご・・・ごそ・・・ご尊顔をは・・拝見いたする幸運に恵まれた、お・・・わたくしは、真に幸運な男と申せましょう・・・。」
「あら・・・。それはそれは・・・・。北の大国モルドラの勇者様でございますか?それが何故この場におられるのでしょうか?もしや・・・もしや、貴方様は、レンジョウ様の試練に御助勢下さる為に、この場に馳せられたのでしょうか?」
タキの顔が、グシャリと言う擬音が似合う有様で歪んだ。
その様はあまりに哀れであり、ついつい私はタキに助け船を出してしまった。
「はい、姫様。この者は、真に武勇に優れ、義に感じ、レンジョウの危機を前に一臂を貸す事で恩を返そうとしてくれたのです。真に天晴な男ぶりでありました。」
タキが横目でこちらを見ているが、当然ガン無視。
「まあ!騎士道の物語でも、敵国の好敵手たる騎士の危機を救うため、単騎で加勢に向かう友情深い名誉ある騎士のお話がございましたが、貴方様は、それを実際に行ったと言う事ですか?」
「ご主君からのお叱りを敢えて覚悟の上で、正々堂々と義理と粋を徹し抜く等、並大抵の御覚悟とは思えませぬ。わたくしからの、最大の感謝を捧げます。勇者タキ、貴方のますますの御武運を祈ります。」と勢い込んで言い連ねると、姫様は目を閉じて魔力を行使した。
タキの身体を、白く柔らかい光輝が包み込む。永続的な付与ではなく、短時間しか効果はないが、アリエル姫から直々に”祝福”の魔法を付与された事は本当に名誉な事なのだ。
「ところで、レンジョウ様はどうしておいでですか?」と姫様は周囲を見回した。
”それにしても、私の方も姫様で呼び名が定着しちゃってるわね。次回、あの”アリエル”に出会ったら、今度は私の知らないシーナと間違えてくれそうだわ。”
そんな事を考えていたが、ふと気になる事があった。
”同じアメリカ生まれで、私の知らないシーナ。それはもしかすると、違う可能性の未来から来た誰かなのか。それとも、未来の姫様と呼ぶのが当たり前の私自身なのか。”
”そして、鏡で垣間見たシェンナと言う過去の誰か。彼女は瞳も髪も顔だちも、見事なまでに私自身の生き写しだった。服装と眼下に見える都市の様子から、アレクサンドロス大王の話から、彼女自身の話の内容から、私は彼女が過去の人物だと推測しているだけだ。”
”そしてこのゲーム世界の中の出来事。それらがどう繋がっているのだろう?全く無意味な目的で、連中がこんな大袈裟な代物を構築する訳はあるまいし。”
そんな思考にふけっている最中に、姫様が私に話し掛けて来た。
「シーナ、レンジョウ様は、何故あんなに悲し気な風なのでしょうか?あのデスストライクを依り代としておられる、おそらく高位のお方なのでしょう。けど、そのお方とのお話で、レンジョウ様をあれほどに悲しませる流れになるのでしょう?」
見れば、レンジョウは下を向いて、唇を噛みながら何かを考えている。カナコギは傍に控えて、彼の方を心配げに見つめている。
「それはわかりませんが、私の知る限りでは・・・。レンジョウには、元の世界に戻って戦う理由があるのです。いかに姫様であろうと、それを邪魔なさる事は適いません。」
何故だろう・・・。そんな言葉が口をついて出て来た。
「それにしても・・・・何故?どうやってこんな事ができたのですか?私達の持つ水晶玉も使わずに、私達の場所を突き止めて、映像や魔法を送るなど。その様な事を姫様ができたと言う記憶はありませんが?」
私の言葉に、姫様はしばらく反応しなかった。直前のレンジョウが元の世界に戻ると言う件が引っ掛かっていたのだろう。そして、一つ溜息の様な咳ばらいをすると語り始めた。
「先代様のお言葉では、わたくしとレンジョウ様やシーナとの間には、強い繋がりがあるとの事を伺いました。”宿世の縁”ともおっしゃっておられましたが。」
「わたくしが願えば、この様な事もできるのだと。これで、もう一歩だけ大魔術師の階段を登れたのだと言う手応えを感じました!」
そう言いながら微笑んで水晶玉を両掌に掲げる姿は、大魔術師と言うよりも・・・。
”大司祭でもない。聖女ですらない・・・・。”そう思ったが、タキに先に口にされてしまった。
「天使だ・・・・。」星々に由来する姫様の周囲でキラキラと燃え上がる神聖な力と、天界と人々を結ぶ白い光で後光が差したアリエル姫は、まさに天使と言うべき可憐さと美しさを備えている。
「あの人は絶対の味方なのよ。あたし達に取っても、この世の生きとし生ける者全ての味方なのよ。」今や自力で立ち上がり、全回復したアローラがそう言う。
「さあ、タキ。お話の続きをお願い。」
「ああ、わかったよ。」
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アリエル姫の登場で、なんか調子狂って、話が偉く横道に逸れたが、仕方ないかな。
「その女は、封じられていた扉から出て来た。正しく、扉から出て来たんだ。まずは手が現れ、次に頭が、胸が、扉からニョキっと生えた様に出現した。そして、最後は脚からつま先までを扉の金属から引き抜く様にして、俺達の眼前に突如として、一人の女が現れた訳だ。」
「俺達全員が、新たな敵かと警戒したが、女はそのまま頭を押さえながら座っている。」
「そこな、面妖な現れ方をした女子よ。汝は一体何者なのか?事と次第ではただでは置かぬぞ。」
「爺さんがちょっと凄んでみたが、完全に腰が引けている。そりゃそうだろうさ、さっきまでの”書物の護衛”を相手にした、手酷い乱闘を考えると、扉を抜けて来たこの女が、サリアベル達の追い打ちの手駒だと言われても、それは凄い説得力のある話にしか聞こえなかっただろうさ。」
シーナは俺の言葉を聞いて頷いた。アリエル姫は先からのタキの話を聞いていなかったため、チンプンカンプンと言う表情で黙って話を聞いている。
「レディーに対して開口一番で脅しを掛けるのかい?」あの女の最初の言葉はそんな感じだった。
「申し訳ないのですが、貴方の登場の仕方が、余りに衝撃的過ぎて、我々としても先程まで正真正銘の怪物どもと戦っていた事もございまして、なかなかに貴女に対して通常の礼儀作法で接するのが現在は難しい状況なのですよ。」ウォーラクスが丁寧に声を掛けてくれた。
「まあ、致し方ないところでしょうな。我は、貴方とそちらの方々の事は良く知っておりますが、我の事は良くわからぬところでございましょうから。」女はそう言った。
「我々の事を良く知っておられると?」
「ええ、先程まで、我はカーリとして、大魔術師の代役を務めておりました。今はお役御免と言う事になりましたがね。先程の貴殿等の奮戦も見ておりましたよ。」ウォーラクスとの問答にあの女はそう答えたものだ。
「そこな女子よ!それは一体どう言う事であるかよ!?」爺さんが血圧を上昇させて問い詰めたんだ。
「お主らの国では、美女が目の前に出現した時に、そんな風にもてなせと教育されておるのかえ?」
「それは無理がありますな。貴女が美女である事を否定しはしませんが、できればもう少しドラマチックではなく、普通に、ごく普通に登場していただけたら、事情は変わっていたと思われますよ。」ウォーラクスの指摘のとおり。女は、30に届くか届かないかと言う位の、俺的には妙齢に思えるフワフワの金髪の美女だった。しかし、この出現の仕方は余りと言えば余りの展開だったんだよ。
「我は汝らの敵ではないよ。むしろ、カーリ達が完全な力を取り戻すための幾つかの要素を奪って来た位なのだからね。」その手の中に入っていた何かは、俺達から見てガラクタにしか見えない何かだった。
あるいは機械装置なのかも知れないが、それはあまりに俺達の技術と異なっているのか、それに意味を見出す事はできなかったんだ。
「しかも、あの女は、そのガラクタの類似品を、頭の天辺とか、胸とか、掌とか、腕とか。全身から取り出して見せた。地肌ではなく、服の上からも取り出した。一体何がどうなっているのか見当も付かないさ。」
「いやはや。そう言う芸当を見せられては、ますます貴殿を普通の人間として扱えなくなった訳だが。貴殿の目的は一体何なのか?我等の警戒を招こうとしているだけではないのか?」レイヴィンドはイラついてるのを隠そうともしなかったな。
「もっともな事じゃな。そう、我は汝らとは少し違う存在じゃ。そして、今は手助けを求めておる。」あの女はそう言った。
「我々に何の手助けができると言うのじゃ?それとその見返りは?」そう、爺さんが聞いたんだが。
「今の我は、多少困った状況にあってな。説明を端折るが、我はカーリともう一人に集中されるべき”死の力”を一部拝借する事に成功しておるのじゃが、これがなかなかに厄介なものでな。このままじゃと、その”死の力”が流出して方々に被害を与えかねない訳なのじゃよ。」
「ほう、それで?」
「簡単に考えるではないぞ。汝らの祖国の都市に、”飢饉”や”疫病”の魔法が恒常的に駐留するようになればどうなる?そのような事態を防げると言う事ならば、我に助力をする意味はあろうよ。」
「・・・・・。」
「加えてじゃが、汝らの軽い気持ちの侵攻が、巡り巡って今のこの事態に繋がっておる事を黙っていようと思う。特に、トラロックあたりがこの件について興味を示すやも知れぬしな。」
「それは脅しと言う事か?儂らがその程度で怯むとでも思うておるのか?」爺さんは嚇怒していたが、あの女は恐れ入ったりはしない。
「ほれ、始まったぞよ。」と周囲を見回すと、そこには複数の召喚円が発生しており、まさにそこから死の領域の怪物どもが噴出して来る様子が見えた。
「我を放置すれば、あのような現象が一日に何度も起きる。さて、貴殿等のお点前を今一度拝見させて頂こうかね。」つまりは、死の領域の怪物を駆除せよと言う事か。否応はなかった。
「老師様、あの女子の言うとおりに、一日に何度もこの様な事が起きるとなれば、放置は論外にございますぞ。」レイヴィンドは爺さんにそう諭したんだ。
「死霊騎士、悪魔、ゾンビとグールと骸骨多数ですか。防備の弱い都市なら、これだけでも壊滅しそうな軍勢でしたね。」ウォーラクスの評価はそんなもんだった。
「それ以上のモノでございましょうな。あの女子の言う事を字義のとおりに受け取るのも危険でございましょうが、疑うのみで捨て置いた結果、実は本当でありましたとなれば、我等の責任は大であると考えます。」レイヴィンドの苦り切った顔は、見ていて気の毒に思えた程だった。
なにしろ、奴は責任感が強いんだ。生真面目で、俺なら他人事で投げ捨てる事でも、自分が見た聞いた事の結果を自分の責任と感じるんだな。
「立派な考え方だと思うわよ。私はあんたに近い考え方だけど、そのレイヴィンドって人は、そこで悩んでる誰かさんと似た者同士なのかもね。」とシーナが言った。
「違いねぇ。レンジョウは、拳骨に物を言わせるタイプだが、必ず相手の話は聞く。レイヴィンドは怒りっぽいが、理性的で、絶対に仲間を見捨てないし、責任からも逃げない。」
「タイプは違うが、二人とも生真面目で、理知的で、それなのに好戦的で、とにかく魂が熱い。そこは共通しているな。」俺はしみじみそう思った。
「二人とも、頭の良いバカなのよね。でも、それで良いんじゃない。男らしいって事は、馬鹿か利巧かで言うと間違いなく馬鹿で、損か得かって言うと間違いなく損なタイプなんだし。」
「シーナさんは、男らしい男が好きなのかい?」と聞いてみたら「程度の問題よね。ほら、あそこにいるあの男。男らしいわよぉ。でも、度が過ぎてると思わない?」との返事だった。
「まあな・・・。あそこまでって言うと、俺には真似ができるかどうかはわからないな。けど、女も同じじゃないのか?」俺はそう思った事を口にした。
「え?」とシーナは意外そうな顔をした。
「おたくのお姫様とか、シーナさん自身とかも・・・・。いざとなったらどうするんだろうね。」
俺は小さく溜息を吐いて続けた。
「あんた達全員が、実は似た者同士の集まりなんじゃないか?俺にはそう思えるんだがね。」
シーナの顔が、少し考え込む表情になった。
その時、自分達の会話をアリエル姫が聞いているのではと思い当たり、俺とシーナはアリエル姫(の映像)の方を振り向いた。
当のアリエル姫は、レンジョウと大男に声を掛けているところだった。さっきまで居たアローラ達もマキアスって男もレンジョウの周囲に居た。
「私達もあっちに行こうか。何か、状況が煮詰まってそうな予感があるし。」
「そうだな。」俺としても、レンジョウの事は実は気になっていた。
ただ、そっとしておいた方が良い時もある。そうも考えたんだがな。
とにかく、俺達はレンジョウの方に向かって動いた。