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第百二十二話 ”彼女”の再臨 その1

「ここは未来からやって来る、人類の敵を捕獲するための装置でもあり、大魔術師トラロックが一手に引き受けてくれている闇の軍勢。カーリとラジャの二人ともが戦力の補給装置として利用している力の源泉でもあるのだよ。」大男はそう言うと、タキに向かって促した。


「では、これで書物と装置についての概略は一旦置くとしよう。君の見た新たな”彼女”であるカーリとラジャの正体を説明してくれたまえ。」


「わかったさ。」俺は答えた。

「議員の護衛はそこそこに、俺は奇怪な死を遂げた者達の周辺を調べてみたんだ。」

「ほら、このベルト。今は透明化は使っていないがね。これであちこちを嗅ぎまわった。簡単なもんだったぜ。最初にあたりを付けたのは、フルバート伯爵のお屋敷さ。そこで、昼過ぎに侍女たちが交代休憩の時に泣き言を言ってるのを聞いて回ったんだよ。」

「犠牲者は全員がフルバート伯爵の屋敷で雇われた侍女ばかりだった。」

”あの恐ろしい事件に出くわしたのは、揃って、あの書物を届けた者達ばかりではございませんか。”

”わたくしめは、あの本を届ける位なら、お暇を頂く方が余程マシだと思いますわ。”

”まだあの書物は3冊残っておりましてよ。どなたがあの書物を運べと言われるのでしょうか。”

 そんな泣き言みたいな会話をピーチクパーチクと、怯えた様なヒステリックな口調で女どもは話し合っていた。


「そんな感じの会話だったが情報としては有用だった。俺は、その書物を探そうと思い至ったんだ。」

「そして、その書物は拍子抜けする位に簡単に見つかったんだ。何しろ、近日中に尖塔に運び込む段取りになってたらしく、フルバート伯爵の書斎の中のワゴンの上に置かれていたんだ。」

「俺は不思議に思ったね。何故、そんな貴重な書物をこんなにいい加減に管理してるのかと。」


「その理由もすぐにわかった。俺はヘマをやらかしたんだ。書物を不用心に手に取って、袋に入れて持ち帰るつもりだった。そして、それは現れたんだ。」


「その3人は、例の犠牲者たちの成れの果てだったんだろう。揃って固まった血でカチカチに形が歪んだ長い髪をしていて、目玉のあった筈の場所には鬼火の様な灯りが揺らめいていて、肘から上には、奇怪な何かが据えられていた。針金の様な、ヤットコの様な。ハサミにも見えた。とにかく、それが奴等の武器だった様だ。」

「歯の無い口の中には、奇妙な何かが生えていた。そいつらはいきなり空中から現れたが、透明になってたんじゃないだろう。瞬時に転移あるいは召集されたんだ。」

「俺達勇者が、大魔術師の魔法で召集されるのと同じくな・・・・。」


「俺は荒事を覚悟した。ここでの活動はやりにくくなるだろうが、逃げて逃げられる相手じゃない。そう瞬時に悟ったからだ。そのとおりだった。連中はフワフワと空中に浮き、ビックリする様な速度で突っ込んで来た。腕に生えた武器?が変形して伸びた。俺が一瞬前までいた床は、小さな音を立てただけだったが、絨毯も木張りの床面もゴッソリ抉られていた。」

「その時の俺の持っていた武器は小ぶりな神器の斧だった。格闘戦もできるし、投擲もできたが、俺がそれを持っていた理由は、いざとなればドアを壊して入るためだったんだが。」

「俺は斧を相手に投げ付けた。相手の動きは複雑だったが、狭い書斎の中だ。直線コースでぶっつけたんだ。相手は脆かった。首を斬り落とすとそのまま床に落ちて消えた。俺はその次からは首を狙って他の2体も片付けた。」

「俺は思うところがあって、ワゴンを書斎の入り口まで引いた。その頃には、主に俺が立てた大きな音から、騒ぎを聞きつけた館の衛兵らしき者達が走って来る音が聞こえていたんだ。」


「書斎に続く廊下に、衛兵達の姿が見えた時、俺はもう一度本に触れてみた。すると、今度は首を縫い合わされた姿の、例の三人組が再び現れたんだ。俺は、透明化しているのを良い事に、衛兵の方向に突っ込み、そいつらの間をスルリと走り抜けて、廊下の角を曲がった。」

「後ろから、絶叫と悲鳴、金属が割れる音や、狂った様な笑い声が聞こえたが、それらは全部無視した。あれが書物の護衛をしてると言うならば、それ程遠くまで追って来ないだろうとも思ったからな。俺は走って走って、館の外に出た。」


「ふむ・・・。その当時の事を我は知らぬのだ。しかし、君の説明してくれた怪物の外見には思い当たる節がある。特に腕に付いていたと言う装置の外見は・・・・。」大男はサラサラと紙に見た事の無い形の尖筆で何かの形を書き上げた。

「それに似ていたと思います。」俺は答えた。


「RUR計画の産物と見て、間違いないだろうね。」大男はアローラの方を見たが、アローラは不思議そうな顔をして首を振るだけだ。「そうか、今のところは仕方ないね。タキ君、続きを頼む。」

「了解だ。けど、これ以後が結構悲惨な事の連続になる。覚悟してくれ。」


「その日の夕刻、俺は性懲りもなく、フルバート伯爵の屋敷に潜入していた。当然だろうな、そこに謎の核心があるって知ってしまったんだから。仲間に相談して、武器も変更した。タウロン様は秘蔵の武器である”ガブリエルの斧”を携える様にと俺の下に武器を転送して下さった。デス系の敵に対して恐るべき威力を発揮する武器なので、この場合は凄く有難かった。館の周辺を私服のレイヴィンドと爺さんが警戒し、ウォーラクスは目立ち過ぎるから留守番にした。」

「程なくして、俺は屋根裏を歩きながら、大きな声がしているのを聞きつけたんだ。」


”あの書物に手を触れた者が居たのは間違いない。あれが万が一にも持ち去られた場合はどうなると思っていたのか!”と叫んでいるのはフルバート伯爵だった。

「今日の昼にあった事を夜に忘れているのか?めでたい奴だ。俺はそう思った。潜入者はまだ居るんだってね。」


”しかしながら、書物の護衛は忍んで来た者を撃退した模様にございまする。”

”たわけ!その割を食って、こちらの精鋭の剣士が5人も殺されておるではないか!”

”サリアベル様が選定なさった者ども以外は、あの書物に触れる事もできませぬ。此度犠牲となった剣士どもも、侍女同様に腕と目玉、歯を残しておるのみです。今や護衛は8名まで増えたのではございますまいか?”


「俺はその言葉にゾッとした。あれが8人だとまずどうやっても勝ち目はないし、逃げるのも無理だろうと思った。」


”騒ぎの始末は着いたのだろう。ならば、次の書物を運ぶまでだ。”

”それにつきましては、明日、サリアベル様がお示しになるそうです。それにしても、本日も尖塔は人払いする様にとの命が下りましたが・・・。”

”王子が一緒なのだ。問題あるまいよ。”


「その後に伯爵は気になる事を言ったんだ。」


”予定のとおりに、バルディーンもトーリアも消えた。書物に書かれていたとおりに行動すれば良いのだ。そして、我の後添いにはアリエル姫を据える事で、ラサリアはフルバートのものになる。”

”あのようにまだ幼い姫を後添いになさるのですか?国内の者共が黙っているとは思えませぬ。”

”サリアベルの次の巫女をアリエル姫に産ませる。それで、ラサリアの王家の血筋は途絶える事であろうよ。サリアベルがサジタリオ王子の子供を産んだとて、ラサリア王家の血筋は残る。”


「俺は思った。じゃあ、バーチに居るカンケル王子はどうするつもりだと。実は、その時点で事は起きていた。」

「カンケル王子は、その頃バーチの軍勢を率いて、北の平原で軍事演習を行っていたんだ。そこにランページモンスターがやって来た。全部が死霊系の軍勢だったらしい。急いで応戦の準備を行って、敵のモンスターを迎え撃ったものの、戦闘の序盤でカンケル王子は謎の失踪を遂げ、軍勢は最終的に壊滅したと伝えられている。ここからは俺の実見した事と、少しの推理が入る・・・。」


「俺は今度は寺院に出向いた。尖塔の上で何が起きているのかが気になったからだ。あらかじめ、尖塔の様子は下調べしていた。レンジョウとアローラ・・・嬢ちゃんは知っているとおりだ。しかし、あんた達が見たのと少し違う風景もあった。あの寺院の床が全部剥がされて、地面に書かれていた魔法陣らしき何かが棄損されていたんだ。」

「俺は天窓から侵入して、忍び足で尖塔の基部に向かった。そこで寺院の入り口が開き、奇妙な何かが現れた。それは人の形をした亡霊に見えた。お供に骸骨が一人ついており、骸骨は何かを手に携えていた。」


「亡霊の様な人影は、すぐに人間の形を取った。サジタリオ王子だった。そして、骸骨から何かを受け取った。それは凄い血の臭いのする何かだった。王子は一人で階段を登り、周り廊下を歩いた。そして、尖塔の基部にやって来て、扉を開けた。」

「俺は忍び足でピタリと王子の後ろについた。王子の目はボンヤリとしており、俺が間近に居るのに気が付いた素振りもない。それを良い事に、俺は更に王子の後を更につけた。危ない橋とはわかっていたが、ここでやめる気はなかった。」


「あんた、本当にイケイケよね。良く今までそれで生きて来れたわね?」とシーナになじられた。


「最近は、特に危ない目に何度も遭ってるが、その都度優しい誰かさんに命を助けられてるんだよ。」俺がボケたら、レンジョウが突っ込んで来た。

「お前、ちょっと甘え過ぎだろう?そろそろ厳しく行った方が良いのか?」

「森の中で何時間も追い回されたり、建物から転落したり、一発で空中を飛ばされる位殴られるのが厳しくないってのかよ!お前らの常識はどうなってんだ?」と喚いてみたが、確かにこれでも甘い仕打ちなんだろうさ。毎度命を取られてないんだから。


「いやよぉ。俺は本当にいろいろと恩に着てるんだよ。だから、ここまで情報提供をするんじゃないか。タウロン様だって、凄く感謝してらっしゃるんだぜ。」

”もう良い、タキ。話を続けるが良い。”俺は頷いて話を続けた。


「特別に胸糞悪い事がそれから尖塔の上で起きた。そこには半裸のサリアベルが居て、桶に入れた血液を身体になすり込んでいた。血液は肌から吸収されている様で、塗り込んだ途端に肌は元の色に戻った。」

”おかえりなさい、王子様。ご首尾はいかがでしたでしょうか?”

「王子は黙って布の包みを渡した。」

”上々吉と言う事でしょうか。この御印はカンケル王子のものでまちがいございませんか?”

「髪の毛を掴んで、首を実験する黒髪の悪魔・・・。しかも、あいつは摘まみ食いをするように、カンケル王子の目玉を後ろに続く紐ごと食べたんだ。」


”王家の血と言えども、魔術師の血を受け継いでいない者では、庶民の血とそうそう変わりませんね。”

「カンケル王子の布に着いた血液を舐めながら、サリアベルは詰まらなそうにしていた。俺はその時に見た。サジタリオ王子の首筋に歯型が付いているのを。」


「つまりは、カンケル王子の軍勢を襲ったランページモンスターは、このフルバートの地下に潜んでいた。それを亡霊の様な姿のサジタリオ王子が率いており、サジタリオ王子はカンケル王子と遭遇して、彼を討ち取った。」

「その光景は、準備不十分で照明も足りていなかった夜戦の最中であり、目撃者は居なかったか、王子諸共に討ち取られて、逃亡できた生存者達に伝わらなかったと言うのが俺の推論だ。多分、これが正しいのだろうと、俺は思っている。」


「その亡霊の様な姿と言うのは、俺には覚えがある。”死霊変化”と言う、人間を非実体化させる黒系統の魔法だろう。弟そっくりの亡霊の様な姿に出会えば、兄としては酷い驚き方をしても不思議はない。そして、武器が通用し難い非実体の相手に、武器で立ち向かっても手酷く分が悪かったと言う事でもあったのだろう。」レンジョウも俺の意見に賛同してくれた。


「それにしても、あんたさ。どうやって、そんな吐き気のする様な相手から逃げられた訳?」シーナは心底不思議そうに尋ねた。

「俺は事前に仲間達やタウロン様に伺いを立てていたのさ。この連中は利用するにも値しない、単に頭のおかしいだけでもない、極めつけの危険な存在なのだと思います。いざとなったら、俺の独断で消して良いですかってね。」

”そのとおりで間違いない。予は、館を出た後のタキから説明と報告を受けており、寺院に入る前にその裁可を与えた。もしも、寺院の尖塔での出来事や、カンケル王子の殺害を事前に知っておったならば、タキ以外の者にもサリアベルとサジタリオ王子の抹殺を命じていたであろうな。”タウロン様も賛意を示して下さった。


「俺は息を凝らして動静を観察していた。狭い部屋の事だから、俺はほんの短時間の間であっても緊張が絶えなかった。」

「何しろ、謎が幾つかあった。トーリア王妃の結界の中で、サリアベルはどうやって魔法を使っていたのかが不明だった。」

「ただ、俺はある程度は楽観していたんだ。少なくとも、結界のおかげで、死霊系の怪物が増援に来る事はない。この結界内で黒系統の危険な魔法は少なくとも襲って来ないと。そして、フルバート侯爵の館で聞いたとおり。今晩のこの場所は人払いがされてるって事も。」


「俺はいろいろと考えたさ。王子が例えサリアベルを護ったのだとしても、俺ほどの腕前じゃない。それは既に知ってた訳でね。ましてや、携えてた神器の斧はレンジョウもさっきまで食らってた”幻影武器”であり、”対死霊用武器”で威力も命中も斧の最高峰だったから。」

「後で叱られたのだとしても、今ここでこいつらを殺そうかなってね。だが、相手の方が上手だった。」


「サリアベルは最初から余裕綽々だったのさ。チャンスなんか無かったんだ。」

”さて、ネズミさん。見たいものは見れたかしら?”


「俺はサリアベルがそう言った瞬間に動いていた。無言で斧を軽く構えて、問答無用でサリアベルの首を落とすつもりだった。サジタリオ王子は意外にも後方に飛び退った。そして、俺は、サリアベルが右手で”書物”を掲げているのを見た。」

「本能的に危機を感じた俺は、足音を立てるのも構わずに右横に飛び退いた。だから、空中から湧き出した”書物の護衛”と激突せずに済んだのさ。」

「ガブリエルの斧は、そりゃあ効果的だった。5体の内の1体を”聖なる復讐者”の効果で運良く消し飛ばして、2体を切り裂いて倒した。しかし、追加で瞬時に3体が出現したんだ。その内の1体は昼間に犠牲になった剣士だった。そいつは俺が何秒か前に斬り倒した首筋をすぐに縫い付けて再登場した訳だ。勝ち目はないと、その時に悟った。」


「後は無我夢中さ。あいつらは、ことごとく透明化を見破って来るし、動きも奇妙で、低い天井に背中を張り付けて攻撃して来たりもした。乱戦の中で、チラリと見えたサジタリオ王子だったが、生気の無いどんよりした目付きでこちらを眺めていた。大きく口を開けて、知性は全く感じられなかった。」

「後は、何とか防戦しながらドアに近付いて、斧で鍵をぶち壊し、必死で階段を駆け下りた。そして、尖塔の入り口に辿り着いた時、俺は初めて振り向いた。気味の悪い護衛どもは、王妃の結界を超えられない様で、そこで立ち止まっていた。数を数えたが7体だった。魔法で消散されてしまえば、流石に復活はできない様子だったが、斬り殺しただけだとすぐに復活する相手なんだ。俺は自力ではこいつらの排除は無理だと判断して、撤退した。」


「もう、こうなったら、俺は単独での連中の始末は諦めたよ。生きて帰れて、情報を得ただけでも充分の働きだったと思ってたからな。」

「そのとおりだ。お前の判断も行動もほぼ完璧だ。勇気も思慮もある。」思わぬところでレンジョウに熱烈に褒められた。

「あんた、本当に凄いのね。あたし見直したわよ!」

「タウロン陛下も、あんたみたいな勇者を召喚出来て鼻が高いと思うわ。」

 俺は、アローラやシーナにも褒められて、思わずホロリとしちまったんだわ。


「お褒めの言葉ありがとう。けどなぁ、やっぱ最後は締まんないだわ。ほら、カーリは今でも南の方で好き放題やってる訳だろう?」

「俺達の失敗の最終章を話そう。」あれから時は経った。俺は冷静に過去を話し続けたんだ。

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