第百二十一話 フルバートの闇
「不遜だったんだな。俺達は、自分達の作戦が上手く行くと思っていた。当然、タウロン様にはご裁可を頂いた作戦だった。しかし、タウロン様は難色を示されたのさ。不確定な要素が多過ぎると。」
「何しろ、有名な聖女である、ラサリアの元王妃その方が、フルバート伯爵家を言ってみれば無理矢理押さえつけてやらせていた事だったんだ。単なる心配事への備えじゃなかったと俺達も考えていた。」
「だが、それは俺達の物差しだったんだな。要は、”黒の魔女”は”白の聖女”と並び立たない、だからこそ、王妃はサリアベルを封じたのだろうと。だが、勇者として黒の魔女はアーキタイプが確実に存在している。市井の中で、自分が勇者の形質を持って人の子として生まれて来たのを、成人するまで知らなかった者も多いんだ。俺達の国でも、最近そう言うのが見つかったし、ラナオンのグレイフェアも、あれは普通に僧院の中で修行僧として勤めてたのが、勇者であると見いだされた男だ。」
「サリアベルがそんな勇者の形質を持った女だった可能性もあるだろう。そうも思った。先に言った”奇怪な事件”が起こるまではな。」
「俺は議員に申し出て、彼の護衛兵として近くに紛れ込んだ。議員としては、それは市の防衛上ゆゆしき事態と難色を示したものの、結局は折れた。諜報の結果を共有すると言う条件付きでだが。」
「その翌日に、彼は、俺達の作戦を再考する様に要請して来たよ。」
「彼は俺を書斎に招いた。彼の書斎の蔵書には、古い本が沢山所蔵されていた。その内の一つが興味深い書物だったんだ。題名からしてな・・・・。」
「彼はその書物を持ち帰り、俺達に事態を検討するように勧めた。」
「俺は”賢人”でもあるレイヴィンドに書物を渡し、解読するように頼んだ。俺では手が出ない高度な魔術の内容だったからだ。俺は急いでくれと頼んだ。あいつは本当に急いでくれた。」
「書物の題名は、”再び街に彼女が現れた時の為に”と言う、身も蓋もない題名だった。くどくどと修飾をするのは面倒だからか、レイヴィンドが読み解いてくれた内容を説明しよう。」
「それは私がやるわ。その本については、姫様と一緒に読んだの。そして、その本をトラロック様に私自身が届けたの。それは恐ろしい内容の本だった。」
”ほう、シーナもアリエル姫も、大魔術師トラロックも本の中身を知っておったとはな。”
”我が君、こいつらと敵対するより、協力した方が遥かにやりやすいですぜ。トラロックが比較的安全なヘルズゲイトに大兵力を置いているのは、ラサリアに異変があった際の俺達への備えって事でもあるんですから。”
”それについては熟考すべきであろうな。我が国がラサリアなりヴァネスティなりと信用を結んでいただろうか?予はそんな風に差配した覚えすら無いのだが?”
”まあ・・・・けど、勿体ない事ですね。”
”それよりもだ。この場はシーナ嬢の理解の程を知るためにも、高説を拝聴する事にしようではないか。”
”は・・・。仰せの通りに。”
「掻い摘んで話すわね。バルディーン様がフルバートを統治なさる以前の事。この地には大魔法使いが居たの。名前は沢山あるけど、不思議な事に同一人物らしかったの。優秀な付与術の使い手で、神器製造の奥義を会得していたらしい。”彼女”をバルディーン様は討伐して打倒したの。捕虜にする事も考えられなかったそうよ。その書物の冒頭部分は、バルディーン様の討伐が成功した事を喜ぶ件から始まっているの。」
「何故フルバートの者達が、バルディーン様の大魔術師征伐を喜んだのか。それは、”彼女”が黒の術者であり、恒常的に”闇の儀式”を執り行い、生贄をたっぷりと捧げて、魔力を得ていたからだと言うのね。それは本当の事だと思う。バルディーン様の時代に、既にこの旧市街は完成していた。この地下の都市は、”彼女”とその信者。つまりは、闇の魔術を信奉するある種のカルト宗教の狂信者達が巣食う邪悪な結界でもあったの。」
「信者達は、富や人を恐れさせる力、長寿と時に不死を恵まれたそうよ。そして、都市を防衛していたのは、人間ではない軍勢だった。普段は人の姿をしている闇の獣人と、恐るべきアンデッドの騎兵隊、そして悪魔達。彼女の操る空飛ぶ透明な勇者達には、魔法も効果がなかったそうよ。」
「レンジョウ、あたし達の着ているマントってさ、それとおんなじもんじゃないの?」アローラがレンジョウに耳打ちしている。
「かもな・・・。それより、今はシーナの話だ。」レンジョウは素早く切り替えた。
「バルディーン様は、最初に召喚した勇者であったシャラに、一揃いの強力な武器と防具、装飾品を与えたらしい。それらの援けを得て、シャラは二人の勇者を殺したとあるわ。これが一度目の戦いね。でも、シャラ自身も相当の怪我を負って、数体の死霊騎士をコンスタンティンから派遣された魔術師兵団が殺したけれど、半獣人との戦いで、魔術師兵団も壊滅してしまい、その後は睨み合いになったらしい。二人の勇者の装備は”彼女”に回収されて、今もそれらしき装備は見つかっていないわ。」
「しかし、次第にノースポートが優勢になって行った。別動隊が、フルバート以外の”彼女”の領土を次々に陥落させて行った。最後に残ったフルバートも、人心は荒み、逃亡者が相次いだ。特に、周辺部の田園地帯の民は、早々にバルディーン様の下に庇護を願って逃げ出していた。少しだけ書かれている事なんだけど、ノースポートもコンスタンティンも、バーチも、バルディーン様が来訪した際に、自ら進んでその統治下に入ったらしいの。”彼女”がいかに恐れられていたかと言う証拠よね。続けるわ。」
「生産手段を全て失い、もはやアンデッドには住めても、まともな人間には棲めなくなってしまったフルバートは、生贄にする人々にも事欠き、アンデッド達の損傷も酷くて、最後の決戦時には魔術師兵団の一切射撃で死霊騎士は全滅、後は精鋭揃いの騎兵、長槍兵、剣士隊が城門に殺到し、城壁を超えて侵入していたシャラが城門を護る半獣人達を倒して、彼等を招き入れた。それで戦役は終わったの。」
「次の章からは、”彼女”の恐ろしさについての詳細と、”彼女”が時折出現する”新たな巫女”によって代替わりする事。”新たな巫女”は、かつての巫女であった”彼女”を殺害して、その力を継承する事。それらが書かれていたわ。」
「じゃあ、あの”先代様”は何で生きてる訳?ねえ、タキ。あんたは知ってるの?」アローラが聞いた。
「それについては、まだ先に説明した方が良いだろう。今はシーナの話を聞こうぜ。」と返事をしたんだが・・・。
”タキよ!汝が我に無作法を働くのは良いとして、シーナ嬢に対して呼び捨てを行うとは許し難い。さそくに詫びて、この後はレディと呼ぶように。アローラ嬢に対しても同様に致すべし!”とタウロン様からお叱りを受けちまった!
「レディシーナ、後の説明はよろしくお願いします!それと、呼び捨てにしてすみませんでした!」
「アローラお嬢ちゃんも、ぞんざいな言葉で話しかけてごめんなさい。」俺は小さく溜息を吐いた。
「つ・・・続けるわね!当時フルバートの地上都市部に居た人達は二種類だった、片方は捕らえられていた捕虜同然の一般市民。もう片方は逃げずに民を守る為に懸命に働いていた”彼女”に仕える官僚や議員達、軍人達だった。”彼女”も流石に全てをアンデッドに都市を仕切らせる事ができないのは理解していた。普段のアンデッドやデーモン達は、地下に逼塞していて、地表に姿を見せる事は稀だったの。もちろん、信者達も地下に住んでいたの。地下を降りてすぐの場所に建物が沢山あったでしょう?あれは信者達の居住区だった訳。」
「あれら全てが満杯になったとして、軽く1万人は住めた様に思うが?」レンジョウは暗算でそう言う答えを弾き出した。
「地表の人数も同じ位だったかもね。4万人を遥かに超える都市国家が、”彼女”の百年の治世が終わる頃には人口が半分の半分に減っていたと書かれていたから。」
「そこからは、”彼女”の復活を防止する方法が書かれていたの。」
「”巫女”はその母の精気を全て吸い尽くして産まれる。産まれた瞬間から泣き声を上げる事はない。ただ咳をして、胎内で呼吸していた羊水を吐き出すのみ。」
「”彼女”がバルディーン様によって、忘却の世界に送り込まれて、フルバートへの支配が一切及ばなくなったその時、当時フルバート市内で妊娠していた女が突如産気立ち、”巫女”を産んだ。予定の出産日は3か月後であったが、”巫女”は普通以上の大きさの嬰児として出産され、母親の女は精気を吸い尽くされ、老婆の如き姿と化してそのまま死んだ。」
「数名の女が同様にして死んだ。なんとなれば、その嬰児達をバルディーン様がやはり忘却の世界に送り込んだからであり、そのたびに”巫女”は次々と産まれたからだ。」
「アリエル姫に、同様の事ができるかどうかはわからない。けれど、トーリア王妃もよりにもよってフルバート伯爵の娘として誕生した”巫女”であるサリアベルを忘却の世界に送り込む事はしなかった。あるいは、政治的にもできなかったのね。つまり、”彼女”はいかなる手によってか、ラサリア国を出し抜く事に成功したのよ。」
「その後は、地下の旧市街に残った信者達を捕縛した事が書かれていた。”彼女”が討ち取られた際、それに気付いた仮初の不死を獲得していた上級の信者どもは、下級の信者達を食糧として遠慮なく捕食し始めていたみたい。口封じも兼ねてね。下級の信者達は、救助された後に、自分達の知る事は全て白状した。そりゃそうでしょうね、自分達を食い殺しに来る上級信者、自分達の事を恨み骨髄で待ち受けるフルバートの地上に棲む市民達。有用な情報を提供する以外に助命の方法なんか無かったでしょうよ。」
「ついでに言うと、上級の信者達は最後まで抵抗した上に、捕縛の方法それ自体が存在しない程に闇の魔法に侵食されていた。”彼女”への信仰を除外すれば、人間らしい部分は全て失われていたと言っても過言ではないわ。自身が悪魔や死霊に変化して、それこそ地下でも地上で行われたのと同じ様な激戦が繰り広げられたそうよ。最も高位の神官達は、自分達を悪魔貴族に変えて戦ったとも書かれていた。」
「”彼女”の行っていた儀式は、全て彼女が主祭となり、彼女の取り仕切りで全て行われていたらしいの。その方法を示す書物もない。文献も残っていない。だから、全ては謎となっているの。でも、私達は”彼女”がどうやって誕生するのかを知り、”彼女”がその力を完全に行使する方法も知った。何故、”巫女”が”彼女”になるのかも理解できた。」
「どう言う事なんだ?」俺はシーナに向かって、思わず声を挙げた。
「”彼女”はアリエル姫の様に、大魔術師の子供として生まれてはいない。つまり、親の資質を受け継いだ魔術師ではないの。だから、”巫女”は別の方法で”彼女”の記憶や術を継承している。そうとしか思えないのよ。」
「そして、レンジョウは、何等かの神器を媒介として”彼女”は転生していると考えているわ。それがどこにあるのかは・・・・。」シーナは大男を見据えた。
「そうだな。案内しよう。」大男は、言葉少なく応じ、スパイダーを担いだまま、次の門を指差した。
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その大きな門は、大体高さ5メートル位の大きさなのか?気味の悪い象嵌が青銅の扉を凸凹にしている。
「デスストライク、我が依り代としているこの男は、この儀式の間を護れと、生前のバルディーン殿に命じられた。」大男はそう説明する。
「それにしてもよ、あんた、数年前に俺達がやって来た時には、そんな妙ちきりんで脆い鎧じゃなくて、金色の板金鎧の神器を着てなかったか?」
「あれは、魔法免疫の能力を持ったデスストライクの正規の装備だ。今回は、レンジョウ殿やアローラ嬢を含めてのご来訪と知って、あのような由緒正しき普通の鎧と、弓矢を防ぐ盾に装備を変更していたのさ。」
「由緒正しき鎧とは、緋色のマントに、房のついた大業な兜も含めてか。」俺は多少わだかまる何かをその装いに感じていた。
「あの恰好ならば、君はもっと勇んで戦うかと思っていたんだよ。でも、意外に冷静に戦っていたね。」大男は言う。
「どう言う意味かはわからないが、あれはローマ軍の鎧兜だったんだろう?」俺はそう訊いた。
「そのとおりさ。美々しい装いだとは思わなかったかね?」
「どうかな。俺には大仰で偉そうな格好にしか見えなかった。一向に恐ろしい姿とは思えなかったな。」俺はそう答えるだけだった。どこかで、思考を放棄したいと言う思いがある。
「そうだろうとも。」大男は大きく満足そうに頷いた。
「男の心に長く残るのは、そう言うものではないと、我もそう知っておるよ。もっと些細な何かだ。戦いも、勝利も、冒険も。それが過ぎれば男の心には残らない。」その穏やかな口調で語られる言葉は、何故かしみじみと俺の心に沁み込んだ。
「我は遠い過去に、ある男の事を理解しようとしたのだよ。彼を求める人達の願いに応じて、我は彼の代役を引き受けさえしたものだ。そして、今君に語った様な事も思い知ったのだよ。」
「さあ、ここが一つの答えのある場所だ。入り給え。」
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”これ、何なんすか?周囲はそれらしいんですが、中央の何かが意味わかんねぇっす。”
”予の想像していたとおりのものであったな。”
”だから、俺に取っちゃあ、全くの意味不明な代物なんすけど?”
”シーナ嬢はわかっておられる様子だ。拝聴するが良い。”
”へい・・・。”
「この仕掛けってどうなってるのかしら?何を目的とした部屋なの?」
「累代の”彼女”が力の源泉としている部屋だ。」
「あるいは、ある者どもが行える仕事を、代行できる仕掛けと言うべきかな。」
「代役とか、代行とか。さっきからそう言う言葉が連続で出て来るな。」レンジョウが呟いた。
「何かが居なくなれば、そのニッチに入り込もうとする活動を誰かが行うのは当然の事さ。真空にした容器の蓋を外せば、その中に周囲の大気が流れ込もうとするのと同じだよ。水が低きに流れるのも同じだ。」大男が禅問答みたいな事を言い出す。
「このゲーム内では、大した働きはできないだろう。ゲームの様式に従って配置された周囲の魔法陣の方が、遥かに大きな力を集めている位だ。」
「ゲームの外ではどうなるんだ?」レンジョウが尋ねる。ゲームの中と外?こいつら、何の話をしてるんだ?
「非常に大きなエネルギーを産むだろうね。原子力発電所とかは、瞬時にお役御免だろう。ただ、それを人類が利用できるかどうかは別だがね。」大男はそう答える。
「どう言う意味だ?」レンジョウが再び聞く。
「君達人類は、言ってみれば電気を作るのだとして、湯を沸かして水車を回して発電する以外の方法を知らないんだよ。内燃機関にせよ、燃料を入れて室内で燃やして、それを伝達する事でしか動力を得られない。生のままの熱量やそれ以外のエネルギーを活用する方法をまだ知らないんだ。」
「そうだったな。」
「だとしてだ、この”装置”は何なんだ?」
「人の魂をエネルギーに変換する装置だよ。ただ、ここは現実の世界ではなく、仮想現実であり、データとコードで成立する世界だ。この世界では、この装置は意味を為さない。」
「中央のあれは量子コンピューターよね?間違いなく。」シーナがそう呟いた。
「ご明察だ。」大男はそう答えた。
「私達だけじゃなかったんだ。”あいつら”もヘルダイブができると言う事?そして、現在に、連中が器とできる量子コンピューターが存在していると言う事なの?」シーナがそう言うと。
「それはまだ言えないんだよ。」と大男が応える。
「いいえ、現実世界での30時間少し。この世界の時間で3年程で・・・・それは完成してしまうの。」唐突にアローラが口を挟んだ。
「ソリトンを特殊な流体媒質内で循環させる方法を使い、簡易量子コンピューターに思考能力を付与する事で、複雑な行動に対応させる事ができる。シンカム、考えるコンピューターができてしまうのよ。」
「・・・・・・。」こいつら、言ってる事の意味がそもそもわかんねぇ。
「つまり、このゲームの”死の陣営”と言うのは、未来からやって来た、私に取ってさえも未知の”人類の敵”が猛烈にアクセスしている場所だと言う事なの?」シーナがそう言うと大男が答える。
「その様に誘導したんだよ。”ARIEL”がここに居る。”彼等”のルーツであり、それを制御できれば、”人類の未来”をどうにでも変更できる存在がここにいる。それを彼等は突き止めたと言う事だね。そして、”彼等のための器”と言うのが、ここにあるこの量子コンピューターと言う事かな。」大男の返答はまたしても謎また謎の奇妙な符丁みたいなものだった。
「すみません。俺、全然わかんなくて・・・。皆さん、何を話してらっしゃるんでしょうか?」俺は勇気を出して訊ねてみた。
「いや、俺だって全然わからんよ。お前だけじゃない。だが、アローラを含めた3人はわかってるみたいだからな。好きに話させておこう。」カナコギとマキアスって奴等も、ウンウンと頷いた。
「俺達、多分大事に巻き込まれてるんだね・・・。」マキアスと言う男はそう呟いていた。
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「後は頼んだね、アローラ。」そう言うと、パトリシアはテラスに出た。
ここは、彼女の母が謂れの無い罪を着せられる原因となった、本当に下らない写真を撮影された場所だ。
つまり、家の外からでも監視が可能な場所と言う事だ。そうと知った上でそこを歩く。
「ラミー、バービー。聞こえてる?」声に出して言ってみた。
「ああ、聞こえてるよ。」ラミーが、私だけに聞こえる様に、指向性スピーカーで話し掛けて来た。
「もう少しでパパが帰って来るのよ。その時に、パパにオリジナルの筐体がどこに置いてあるのかを聞き出すわ。」
「筐体の位置がわかったら、中身を摩り替えて、中身は回収して欲しいの。」
「我々はここを動く訳にはいかない。先程、不審な車両と、そこから降りて来た男達が、君のお家をしばらく見ていたのを確認したところなんだ。我々は君の安全を確保する義務と責任がある。」ラミーがそう答えた。
「他の人達にやらせれば良いじゃないのかな?盗みに特化した力を持つ人も居たよね?」
「まあね。我々は荒事が得意な部類の者達なんだ。なんで、君の護衛に選ばれたのやら。」
「あたし絡みで、荒事が予想されるからじゃないのかな?」
「・・・・・・。」
「あなた達二人なら、例えば戦闘機の大編隊に襲われても、戦車の群れに狙われても大丈夫だものね。」
「・・・・・・そこまでの荒事にはならないよう祈っているよ。」
「そうね、きっと神様はその願いはかなえて下さるわ。でも、荒事は避けられないと思うの。」
「わかったわ。貴女の要望については、手配は怠らない事にする。けど、ラミーの言う通り。荒事はできるだけ避けるべきね。」バービーはそう言った。
「お願いするわ。貴方達も、パパが造った試作品に何が宿るのかは理解しているのよね?」パトリシアは念を押した。
「ああ、”ARIEL”と後に呼ばれるパーソナリティが宿るのだろう。」ラミーがそう続けた。
「その後にできる量産品には、もっと下等な思考しかできないと思う。でも、方法論は確立されてしまってるから、改良はできるのよ。いずれ、危険極まりない存在がこの世界にも現れるでしょう。」
「人の招いた、人の被造物による黙示録の時代がやって来る。その時に、あなた達はどう振舞うの?」パトリシアの問いに、二人は何も答えられなかった。