第8話 リアクト
お待たせ致しました。第8話です。
甲羅蟻、倒れ伏す冒険者と思しき甲冑を着た二人。その2人を庇うように防護魔法を張り何とか猛攻を耐えている男性に必死の装いで回復をする少女二人。
クエスト帰り。街までの道路、たまたまカサ村を通りがかった五人組の冒険者パーティー。疲れも多少ある中村から聞こえてきた悲鳴に対して咄嗟に体は村へと向かった。
冒険者の駆ける足に力が篭もり到着した末見たもの、それが甲羅蟻の群れであった。
幸い村人を襲う手前で到着し甲羅蟻の視線が冒険者へと移った。
しかし7等級冒険者推奨のモンスター。その大軍。蓄積した疲労。勝ち目が薄いと判断した冒険者は村人を村奥へと逃がし甲羅蟻と退治していたのだった。
「クソ…洒落にならないだろこの数は…!」
十体は確実にいるだろうその数。群れで行動するモンスターだとは知っていたが間近でみるのは初めてだ。
奥で甲羅蟻の猛攻を受けている冒険者を視認し周りに村人がいない事であらかた状況は理解した。なりたてホヤホヤの俺が言うのもなんだけど良い冒険者達だ。
「ミィシャ。今からちょっと頑張るから手を貸して欲しいんだけど」
「うん!!何をすればいいの?」
元気の良い返事が返ってきた事に内心ホットしこれからの計画を話す。
見た感じあの横たわってる二人は十中八九甲羅蟻にやられている。だけど一体も甲羅蟻の死体が転がってないのを見ると9等級か8等級のどっちかだろう。
これであの数相手に村の人たちを逃がしたと言うなら本当に勇気のあるパーティーだ。心から尊敬する。
だったらまずはあの人達を死なせず生還させ同時にこの親子を安全な場所へ移すことが大事。
それには周囲の甲羅蟻の注意を誰かが引き付けないといけない訳だが。
「俺があの甲羅蟻を相手にしてるから合図をしたらミィシャは俺の持ってる回復薬を持ってあの5人のところに行ってくれ」
こんな状況でも臆することの無い精神はまるで新人冒険者、村から出始めとは思えない。
「分かった。…気を付けてね」
「はいよ」
さて。ちょっとカッコつけた手前負けるのはカッコ悪すぎる。それに数も数だ。ここは少し真面目にやらないと。
俺は地面にある石ころ広い勢いよく甲羅蟻へと投げる。
「…な、なんだ?」
甲羅蟻の猛攻が止まり放心する冒険者。まずは俺に注意を集めないとな。
徐々にその鋭い眼光は後ろでバカスカと石を投げたり蹴ったりする俺へと向いて行く。よーしよし。いい感じ、そろそろだな。
「ミィシャ!!頼んだ!!」
「りょーかい!!」
壊れた家を迂回し慎重に、気付かれないように、迅速にミィシャは冒険者の元へと走る。それに気づく…いや既に冒険者達には敵意を向けてないな。
嫌に鋭い牙をカチリと鳴らし獲物を捉える狩人のように間合いを見定める。
1匹ならまだしも新人冒険者に十数体の群れでその行動は恐怖、トラウマを植え付けられかねない。まぁ普通の新人冒険者ならの話だ。
「こちとら森でお前らよりヤベー奴と何回も会ったことあるんだよ。流石にそれを知ってからの威圧…はっ。笑っちゃうわ」
「ギシャァァ!!!!!!」
自分達が煽られている事が分かったのか。1匹の甲羅蟻は勢いそのまま突進してくる。
一年以上も伊達に”職”を与えられたわけじゃない。ちゃんと技の研究してそれに見合う鍛錬も積んできてる。
「舐められちゃ困るんだよ…”顕現するは紛いの真”」
【万能者】のスキルの一つ。
ー”リアクト”
簡単に言えばイメージしたものを顕現させられるスキル。それはコピーでは無い。実物を顕現させる。これだけ聞けば凄いだけで終わるがそうは問屋が卸さない。
リアクトは物体を構築する上で幾つか条件が存在している。
一つ。実物を見た事がなければ例えイメージができたとしても形にならず霧散する。
二つ。量産型では無い、唯一無二の物体はそれに持ち主がいる場合顕現不可能。つまり世界に一つしかない剣だけど見たことがある。けれどその剣に持ち主がいる場合はスキルが不発するってこと。
量産型って言うのは同じ物質で作られた物、無印の物だ。剣なら鉄、銅。そんな感じ。
他にも見たことがあっても刻印やら条件付きの物体などは顕現不可能だ。《零職》しか使えないとか。
三つ。魔力結構食うのよ。
魔力許容量が多い人はいいが普通の人がこれを使えば持って30分時間が限界だろう。それに物によって使う魔力は増すし。
まぁ【万能者】の能力値で魔力許容量が増えてる俺は今なら多分半日は使っても大丈夫な筈だ。
そして顕現させたのは母が愛用していた魔銃。”ルーへルギア”。火力、使い勝手共に今俺がリアクトで出現させられる物の中ではトップクラスだ。同時に魔力も凄い食うけど。
だが問題はそこじゃない。
「なんじゃレイシャ。妾の出番か?」
金髪の髪に見目麗しい人々を魅了してしまうような姿形、容姿の美女。
そう、コイツ。実体化するんだよ。
元々”ルーへルギア”は神代と呼ばれる武器で母はそれの使い手だった。諸説あるが”悪魔皇女”、”魔将星”など結構な異名があったらしい。我が母ながら凄い話だ。
しかし親の武器ならそれを拝借すればリアクトを使わなくてもいいだろう。うん。俺もそんな考え一時期ありました。
だが神代と呼ばれる武器だ。母さんは”ルーへルギア”を自らが作ったダンジョンに封印したんだ。悪用するやつが出ないようにって。それに武器は道具じゃない。選ぶ権利はある。
俺は何度も何度もダンジョンに挑戦した。そして遂に!!
ー諦めた。
だって強すぎるんだもん。モンスターがおかしいくらいに強すぎるんだよ。俺は12階層まで行けたがこれが限界。その先には進めなかった。行ったら命を落とすかもと思って怖気付いてしまったから。
じゃあ何で顕現させられるのかって?
出てきたんだよ。ダンジョンから。
もう頭が痛くなる話だから手短に言うと、、、
退屈すぎて暇してた。んで俺がダンジョンに挑んでる事を知ってワクワクして待ってたけど一向にここまで辿り着ける気配が無かったからムカつくことに自力で出てきた。そして俺の前に現れ無理やり俺と契約した。
リアクトで顕現させる武器が俺自身のものであれば瞬時に出現させられ魔力も食わない。何処にいても、何処にあっても、だ。
結論から言うとルーへルギアの持ち主は俺という事。こんな武器リアクトでだしたら一瞬で俺の魔力無くなっちゃう。いつもは邪魔で出してないだけ。
「今失礼な事言ったじゃろ!」
「言ってない言ってない」
頬を膨らませ詰め寄るルーへルギア、ルゥから顔を逸らし甲羅蟻の方へ目を向ける。
「これ。やれる?」
俺の指の先を追うように甲羅蟻へと目を向けたルゥの表情は一転、獲物を見る狩人へと変わりため息を吐く。
「当たり前じゃ。なんならレイシャは見てるだけでも良いぞ?実体化してても容易いからの」
「それは無い。万が一にも有り得ない。ルゥだけに戦わせる気は毛頭ない」
「そ、そうか…?」
なに顔を赤くしてるんですかね。当たり前のことを言っただけなのにな。
俺は今にでも襲い掛かって来そうな勢いの甲羅蟻に魔銃へと変わったルゥを手に持ち構え挑発めいた笑みを向ける。
「さぁ、狩られる準備は出来てるかい?」
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