第4話 村クエスト
無事冒険者登録が終わり俺は魔石の換金でミィシャはクエストを選んでいるところ。
「お?兄ちゃんそのプレート…もしかして冒険者になったのかい?」
ギルドで魔石を換金する時によく当たる快活なおじいさんは俺の胸のプレートを見て目を見開いた。
「いやぁ遂に!って感じだね。これだけの純魔石を取ってこれる程の男が冒険者にならないなんてもったいねぇなって思ってたんだ。頑張れよ兄ちゃん」
「…無難に頑張ります」
俺の返答に苦笑を漏らすも直ぐにお金に替えて大きい麻袋へと入れ直してくれる。
この人はなんと言っても仕事が早いから助かる。喋っててもいつの間にか換金し終わってるし変に勘繰りしてこないから接しやすい。
おじいさんは最後にお祝いにこの街のオススメの店の場所、そして紹介状をくれた。俺は替えてもらった麻袋へと入れ、おじいさんへと御礼を言ってその場を後にした。
「ミィシャ。決まったか?」
「うーん。どっちがいいんだろう」
換金を終え一目散にミィシャの元へ行ったがどうやらまだ悩んでいる様子。両手のクエストとにらめっこしている。
ふむふむ…どういうクエストだ?
「…ん?甲羅蟻と角鳥?いきなり難しいの選んでんな」
「え?どっちも難しいの?…そっか、」
「そりゃあこれ7等級のクエストだしな」
俺の顔を見つめれば再度顔を曇らせクエストに目を向ける。俺ももう一度クエストへ目を落とせばミィシャが悩んでいる意味がわかった。
この2枚のクエストは村クエスト通称”村クエ”だ。
”村クエスト”とは村がギルドへと要請したクエスト。大体がモンスターの討伐だが受ける人はほとんどいない。
何故だろうと疑問に思うが単純に[報酬とリスクが釣り合わない為]だ。
村クエの大半は強力なモンスターの討伐や集団となったモンスターの群れを討伐するものが多々ある。しかしそれに見合った報酬は出ない。
理由は簡単。村だから。
街などに住む住民よりも稼ぎは少ないし人口も少ない。村全部でお金を出しあってもリスクに釣り合うまでには届かない。そして助けが来なかった村には移住か破滅の二択しか待っていない。これが現状だ。
でも何で村クエスト何か持ってるんだ?てっきりDの多いクエスト持ってきて俺が怒る流れだと思ってたのに。
「ねぇレイシャ。これね、小さい子が配ってたの」
「……」
なるほどね。
なら俺が言うべき言葉が1つだ。
「ミィシャはどうしたい?」
「…助けたい」
「なら行くかー」
あっけらかんと。即答で返す俺に放心するミィシャから俺は持っていたクエストを2枚受け取り、受付に持っていく。
確かに危ないし大怪我をするかもしれない。それでも俺だって人の心を持ってる人間、人族だ。
悲しんでいる、助けて欲しいと叫んでいる誰かがいるなら助けたいと思う。もしそれが子供や女なら尚更だ。
「ミィシャは配ってた子達に安心させてあげられる言葉を言ってきてくれ」
「うん…!!ありがとうレイシャ!」
少し恥ずかしいから背中越しに手を振る。きっとミィシャは満開の笑顔で笑ってるんだろうな。見なくても分かるわ。
さて、と。リナさんが居ないとこ探さないとなー。
俺は圧倒的に行列の長い列を見てそこから一番遠い列へと並ぶ。
リナさんには悪いけどさ…怖いじゃん?何言われるか怖いじゃん?
さっき言われたばっかりでこんなクエスト持ってきたら絶対怒る。だから帰ってきてもしバレてたら話そっと。
「すいません。これお願いします」
「…えっと、本当によろしいのですか?」
営業スマイルから一転、表情を曇らせ明らかに困惑の笑みを浮かべている。まぁ知ってた。そりゃ十等級の新人冒険者がこんなの持ってきたらこんな反応になるよね。
「はい。大丈夫です」
「分かりました」
驚いた表情から受付嬢さんは案外すんなりと受け入れてくれた。
その理由も。
「…お名前は?」
受付嬢さんは誰も並んでいないのを確認すると俺を手招きまた2階へと上がる。
その半分複雑半分嬉しいような奇怪な表情から直ぐに察した。
人気のない廊下。喧騒鳴り止まないギルドの中央。
「実は私…」
「知ってました」
俺は言葉を発するよりも先に口を開き受付嬢さんは目を見開く。
「何も言わないでいいです。別に関係ないです。全部助けるんで」
きっとこの人はこのクエストを要請した村で生まれた人。すんなり通してくれたのはきっと嬉しかったんだろう。そしてこんなにも苦しい、悲しい顔をするのはもしかしたら死にに行かせるかもしれない色んな感情が入り混じったものだ。
それに今からこの人が話す内容を聞くほど俺は責任持てないし。ありがとうなんて言われて負けて帰ってきて悲しい顔なんかされたら死ぬ。心折れちゃう。
一人の男としても泣かせたなんてのも嫌だし。
「取り敢えずいつもの様にしててください。帰ってきたらいつも冒険者に接するように接してください。それだけでいいんで」
よし、保険をかけたぞ。これで運悪く失敗しても大丈夫だ。まぁ負けるきなんかさらさらないけど。こっちは初陣のミィシャがいるんだ。全力で倒させてもらうよ。
俺はそれだけを言い残して下へ降りた。
「あ、あの人がレイシャお兄ちゃんだよ」
「「「レイシャお兄ちゃーん!!」」」
俺が下へ降りるや元気な顔で走ってくる3人の子供。ミィシャがなにかしたな。
ニヤニヤと笑うミィシャを睨みつつやれやれと群がる子供の頭に手を乗せる。
年齢的にはまだ10歳に達してない子が2人、1番大きいのは灰色の髪の子かな。
「レイシャお兄ちゃん!クエスト!!本当に来てくれるの!?」
大声で叫ばれる子供の嬉声に若干注目が集まり冷や汗を流す。
「う、うん。お兄ちゃんとあそこのお姉ちゃんで悪いヤツ倒してあげるからね」
「やったー!!!」
「あ、ありがとうお兄ちゃん…!」
うんうん。子供の本物の笑顔ってのはどうしてかこっちまで笑顔になっちゃうよね。
俺は優しく子供の頭を撫でる。
ここまでされちゃあもう保険もクソもない。
”勝つ”
モンスター倒して、笑顔を取り戻して、初戦闘を華々しく勝ち戦として飾って無事ハッピーエンド。これしかありえない。
「んじゃあ行くか、ミィシャ!!」
「うん!!」
久しぶりに心の底から、戦意が漲る。
こうして俺達は初戦闘、村クエストへと向かった。