表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

優男リュウ


ジハードは路地裏の光景を壁に背を付けて眺めていた。


ふうと息を吐き、少女を抱き締めている我が相棒に近づく。


「ほれ、二人ともいつまでそうしておるつもりじゃ。とっとと行くぞ。とりあえず情報を集めん事には行動もできんじゃろうて。」


相棒は少女を離し、そうだなと頷く。


「とりあえずギルドに戻るのが良かろう。盗賊の根城くらい知っとるかも知れん。この小娘は…どうするかの。」


涙で顔をクシャクシャにした娘を見てここに捨て置く訳にもいくまい。


「君、えっと…名前はなんて言うんだい?」


リュウが腰を降りながら少女に問いかける。


「…シオン…です。」


涙を拭いながらシオンは答える。


「そうか、シオンはどこに住んでるの?」


「町外れの…小さな漁師小屋です…。」


「よし、じゃあとりあえずそこまで行こう。お腹空いてないかい?」


そう聞いた瞬間シオンのお腹から、くぅと可愛らしい音が鳴った。


「いやっ、あのっ!」


シオンは、かぁっと顔を赤くしてお腹を抑える。


「ははは。よし、じゃあちょっと待ってな。ジハード、ちょっと頼む。」


「ん。」


ジハードにシオンを任せてリュウは市場の方へ駆けて行った。


その後ろ姿を見届けてジハードはシオンに近づく。


「さて。シオンと言ったな。」


「お姉ちゃんは…?」


おずおずとシオンはジハードに伺う。


「儂か?儂はジハード、あいつの相棒じゃ。それにしても汚い格好じゃのう。ほれ、こっち来い。」


そろそろと近づくシオンにジハードは掌を向けた。

シオンはそれを見てびくりと体を強張らせる。


「安心せい。ちょっと洗うだけじゃ。」


ジハードは掌に魔力を込める。

すると掌から暖かなお湯がチョロチョロと出てきた。


「奴はまだこういう細かい魔力操作ができんのでな。ほら、頭を出せ。」


シオンの頭を半ば強引に引き寄せ洗ってやる。


「全く、儂も奴の甘っちょろいのが移ったかの。」


「気持ちいい…。ありがとう、お姉ちゃん。」


「ふ、ふん。礼ならあの優男に言うんじゃな。」


少しむず痒い、よくわからない感情をジハードは誤魔化したが、シオンの髪をわしわしと洗う彼女の瞳もまた、リュウと変わらない、慈愛に満ちていた。





「おう、お待たせ!」


「なんじゃ、遅かったのう。」


軽く肩で息をしているリュウをジハードは目を細めて見る。


「すまんすまん。とりあえず…ほら。食べな。」


リュウは手に持っていた先ほどのヘビーボーンの焼き串をシオンに差し出した。

例によって肉がでかい。


焼き串を目の前に出されたシオンはゴクリと喉を鳴らす。


「い、いいの…?」


勿論だとリュウは笑い、シオンに手渡す。


「…頂きます。」


肉を口に含んだ瞬間、唾液が溢れ出し、今まで喋るのも辛かった顎が勢いよく動く。

溢れる肉汁を飲み込む度に、体に力が甦るのが分かる。


「よっぽどお腹が空いてたんだな。ほら、ミルクもあるよ。」


肉にかぶりつくシオンの前にミルクが入った瓶をことりと置く。


「ありがとう。お兄ちゃん。」


シオンは瓶を手に取るとこれもまた一気に半分ほど飲んでしまった。


その光景をやや苦笑しながらリュウとジハードは眺める。


「ん?ところでリュウよ。儂の分は無いのかの?」


「はぁ?お前はさっき食ったろ⁉︎」


「何を言う!あんな量、我が胃袋の1割にも満たんわ!」


そういえばこいつ、森のダークネスウルフを二頭分くらい食ってたな。


「お前の胃袋に合わせててたらあっという間に破産だよ!そのうちまた食わせてやっから今は我慢しとけ!」


「むう…。まあ良かろう。全く、少しは儂にも甲斐性を見せて欲しいものじゃ。ん?」




リュウはシオンの方を見ている。




ジハードもシオンの方を見て毒気が抜かれる。




「ふん。シオンよ。貴様、泣くのか笑うのか食うのかどれか一つにせい。」



シオンは口いっぱいに肉を頬張り、涙を流しながらこちらを見て笑っていた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




こんな気持ちはいつ以来だろう。



突然現れた私の王子様は一緒にいた綺麗な人と、他愛もない話で私を楽しませてくれる。



いつか見た、酔っ払ったお父さんがお母さんに怒られている光景を思い出す。弟はお母さんの剣幕に怖がっていたが、私はそれがとても可笑しくて、楽しくて幸せだったんだ。



つい数年前まで私の家で当たり前だった出来事。

お父さんがお仕事に行って、沖で波に飲まれた時もお母さんは笑っていた。あのバカって笑っていた。夜に部屋でお母さんが泣いてたけど、そんなお母さんを見て頑張らなきゃって思った。



お母さんと弟が森で行方不明になった時も、私が頑張らなきゃって…。初めて客を取った時も、凄く嫌だったけど私が頑張らなきゃって。


でもほんとは誰かに甘えたかった。

優しさで包み込んで欲しかった。


この王子様は汚れた私を抱き締めて、頑張ったねって言ってくれた。

辛かったねって言ってくれた。


私はこの人になら騙されてもいい。

もう諦めていたこんな気持ちにさせてくれたのだから。




私の王子様…。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「よし、とりあえずギルドに行こう。」


シオンを家に送った俺達はギルドで情報を聞くことにした。


町外れのシオンの小屋からしばらく歩き、ギルドを目指す。


夜に差し掛かり、人通りは少なくはなったがギルドはまだ灯で道を照らしていた。



ギィと扉を開ける。


するとカウンターで頬杖をつくジュピアさんと目が合った。


「あなた達…。」


無言でカウンターに近づくとジュピアさんは何かを諦めたように紐で結ばれた紙をカウンターに置いた。


「…これは?」


「早くなおしなさいな。こんなのバレたら私クビになっちゃうわ。」


はぁと盛大なため息を吐くジュピアさん。


言われた通り、それを懐に収める。


「盗賊団の潜伏場所とおおよその人数。あいつらは森の中にある岩場を根城にしているらしいわ。奴らが活動するのは月夜の夜。捕まった人達を解放するなら奴らがいない時を狙いなさい。まあ、見張りくらいいると思うけどね。」


「ジュピアさん…。」


「私に出来るのはここまで。後は知らないわ。そんなにお人好しじゃないの。」


ふふっとリュウが笑う。


「…何よ。」


「充分お人好しですよ。ジュピアさんは。」


そう告げるとジュピアさんは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


「は、早く行きなさい!仕事の邪魔よ!」


「客は見当たらんがの。」


ジハードがニヤニヤとつっこむ


「うるさいわね!あんまり年上をからかうもんじゃないわ!さあ、とっとと行きなさい!」


しっしっと手を払うジュピアさんに礼を言って俺達はギルドから出た。

今日まだ更新します。


評価とかブックマーク励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ