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ギルドに来た!そして涙…


買い物を続けていた俺達の前に、一際大きな建物が現れた。


2つのスイングドアの向こうには少なくない人数が動き回っている。


「ちょっと見てみようぜ。」


ジハードを促し扉の前に立つと申し訳程度の看板が目に入った。



➖➖ アンドレアギルド シリマリ支部 ➖➖



「ギルドじゃな。冒険者の仕事斡旋所見たいな所じゃ。こんな田舎じゃ大した依頼は無さそうじゃがの。」


腰に手を当てたジハードがため息混じりに説明してくれる。


「へー。ちょっと覗いてもいいか?」


「好きにせい。」



ギィとドアを押しのけ、中に入る。


何人かの冒険者がこちらを伺うがすぐに興味を無くしたようだ。


「あらあら、新人の兵士さんかしら?

今日はどのようなご用件で?」


話しかけられた方を見ると女の人が微笑みながらカウンターに肘をついていた。


「あ、あのすいません。こういう所、始めてでして。」


苦笑しながら頭に手をやる。

そんな俺に女性は目を丸くした。


「ギルドくらい知ってるでしょ?いくら田舎町だからって。」


「いやぁ、実はですね…」


俺は記憶を無くしている事と、成り行きでこの町の兵士を手伝うことになった事を説明する。



「ふぅん。いろいろ大変だったのねぇ。 あぁ申し遅れました。私はこのシリマリ支部のサブマスターをしているジュピアよ。 マスターは今依頼で出かけているわ。」


「俺はリュウと申します。こっちはジハード。」


後ろで退屈そうに欠伸をしているジハードを紹介する。


「うふふ。可愛いわね。よろしくねジハードちゃん。」


ちらとジュピアをみたジハードは、

ん、と空返事で返す。


「ところでここはどういう所なのですか?」


ニコニコとジハードを見るジュピアに聞く。


「そうね…。暇だし、一から説明するわ。ここに座って。」


促された椅子に座るとジュピアさんは資料をばさばさと机に並べた。


「ありがとうございます。」


「いいのよ。ふふ。

さて…ギルドは全ての人が利用する権利があるわ。そしてここはアンドレアギルドのシリマリ支部。 ギルドにもいくつかあって、大きな所で言えばここアンドレアに、マーセル、シュバイニーとかがあるわ。」


ペラペラと資料をめくって各ギルドの紋章を見せてくれる。


「ギルドは誰でも作ることが可能だけれど、運営が大変だし、色んな許可を取らないといけない。人気のあるギルドは依頼も報酬も多いから信用無いギルドはすぐ潰れちゃうわ。町や国に税金を納めないといけないしね。」



会社の法人税みたいなものかな。

説明は続く。



「ギルドに登録すると依頼を受ける事が出来るようになります。依頼を出すのは誰でもできるわ。

依頼はランクF〜Sまで。B以上なんかは滅多に無いし、怪我したり死んじゃう場合も多いからよっぽどじゃない限り受けるのはオススメしないわ。」



そういえば俺がこの前森で狩った魔物はランクBとかジハードが言ってたな。 全然大した事無かったんだけど。


「依頼は私とかのギルドの人間に聞いても良いのだけれど、基本的にはあそこの掲示板に張り出されたものを申請するわね。先着制だから良い依頼から無くなっていくわ。残っているのは危険だったり、割りに合わないものだったりが多いからそのまま期限で依頼落ちしちゃうわね。」


なるほど。食い扶持を稼ぐくらいならわざわざ危険な事はしないのか。


「説明はこんなとこね。で? どうする? するの?登録。」


資料を纏めながらジュピアさんは笑顔で聞いてきた。


うーん、正直今はしなくても良いかな。でもここまで説明して貰ったし、無下にも出来ないな。


「おい、リュウよ。これ見ろ。」


ジハードが指差した所を見ると…



➖登録料 金貨10枚 ➖



「たっけぇ!!」


「あら?バレちゃったわね。」


あらあらといった感じでジュピアさんが笑顔だ。


金貨1枚って銀貨10枚だろ?到底足りない。



「ジュピアさん、申し訳ありませんが…。」


「良いのよ。暇だったから。忙しかったら相手もしなかったけどね。」


だんだん笑顔に妙な迫力を感じてきた。



帰ろうかとした時、後ろでギィと音がした。


そこには12歳くらいの女の子が立っていた。


その子を見るとジュピアさんは悲しそうな顔になった。


「もうやめなさい。あなたの依頼は誰も受けないわ。」


女の子はふるふると顔を振り、カウンターに一枚の銀貨を置くと急いで外に出て行った。



「あの子は?」


「依頼者よ。でも危険なのと報酬が安いのとで誰も受けないわ。」


「その依頼とは?」


ジュピアさんは一つ考えてため息を吐いた。


「本当は、登録者以外に見せるのはダメなのだけれど…。」


そう言いながらも資料を出してくれた。


《オズワルド一味の討伐及び奴隷の解放》と書かれている。報酬は…


➖銀貨3枚➖


「これは…」


「アダモレアの森を拠点にしている盗賊達よ。半年前に彼女の母親と弟が行方不明になったの。捜索隊が組まれたのだけど目撃者がいてね、そいつらに連れ去られたみたいなのよ。 最初はみんな心配してたんだけどオズワルド一味と聞いた途端引っ込んじゃってね。」


「危険なんですか?」


「まあね。あの森を拠点にするくらいだから頭領のオズワルドは少なくともAランク相当、部下もCからBランクってとこでしょうね。ここは田舎だから殆どがFからCランクの人たちしかいないし、仮にそれ以上の人が来てもこの報酬じゃね。」


「そんな…。」


「こういう事はさして珍しい事じゃないわ。世界中何処にでもある話だもの。だからこの依頼は誰にも相手にされず期限がきたわ。期限を過ぎた依頼は再登録するか延長料金を払うのだけど、彼女は毎日こうして延長料を払ってるってわけ。」


ジュピアさんは置かれた銀貨を悲しそうに手に取った。


「父親は…」


「漁師だったけど、数年前に…事故でね。」


「そうですか…」



世界のどこでもある事、しかし彼女にとっては残されたたった二人の家族だ。



「彼女は、どうやってお金を?」


伏し目がちにジュピアさんは答えた。


「ちょっと想像すればわかるわ。親も身寄りもない女の子が毎日安くないお金をどうやって稼ぐか。哀れとしか言えないわ。どこかの路地裏で客を取ってるはずよ。」



そこまで聞くと俺の心は決まっていた。



「ジハード、行くぞ。」


「ほいほい、フェミニストだものな貴様は。」


「あなた達、何する気? 悪い事は言わないわ。この依頼は本当に危険なのよ? もしかしたら死ぬよりも辛い目にあうかもしれないのよ?」



「だからと言って俺が動かない理由にはなりません。大丈夫ですよ、俺達強いんです。」



ドアに向かってつかつかと歩く。固い意志を持って。



「あなた達、いったい…」



「ただの新任兵士ですよ。」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





今日の分はなんとかギルドに渡せた。



明日の分も稼がないと。



少女は汚いローブを被り、暗い町角に座り込んでいた。

ぐうとお腹が鳴る。

昨日から何も食べてないが、何とか今日中に2人くらい見つけないと明日は動けないかも知れない。



お風呂にも入りたい。今日の男にかけられたモノが乾いて髪にへばりついている。



「気持ち悪い…。」



ゴシゴシと髪をローブで拭くがそのローブもまた、同じような汚れで異臭を放っていた。



ゴシゴシ…ゴシゴシ…ゴシゴシ…



「……ひっく……ひっく……」



ゴシゴシ…ゴシゴシ…ゴシゴシ…



「…うえぇぇぇぇ…おがぁざぁん! 会いたいよぅ!」


少女の光を失いかけた瞳から涙がボロボロと溢れる。


「もう…やだよぅ…ひっく…会いたいよぅ…」



ふと通りの方を見ると男がこちらを見ていた。逆光で表情は見えない。


いけない!客だ!



すぐに感情に蓋をして光の無い笑顔を作る。



「ごめんなさい…。手は銅貨5枚、口は銀貨1枚です。」


つかつかとこちらに歩いてくる。

体は恐怖でびくりと震えるが笑顔は崩さない。


「えっと…。先にお代を頂いても良いですか?」


男はこちらを見つめている。哀れみの表情をしているが私は知っている。この男もどうせ私を欲求のはけ口として扱った後は何食わぬ顔で通りに消えていくのだ。どんなに優しくされても最後はじゃあなの一言で済ませる。 男とはそういうものだ。期待もしない、ただの金を落とす客だ。



「君は…。」


そう言うと男は私をがばっと抱きしめてきた。



「!! …あの、先にお代を…。」



突然の事でびっくりしたが私は冷静に話す。



「大丈夫だ。俺が助けてやる。」


私を抱きしめたまま男が呟く。


助ける?私を?何を言ってるのだろう。優しい言葉をかけて私を攫おうとでもしてるのだろうか。



「あの…離して…。」


男の手から逃げようと体を捻る。

しかし男は離してくれない。


「大丈夫だ。君のお母さんと弟は俺が助けるよ。だからもうこんな事しなくていい。」



「…え?」



私は耳を疑った。

ギルドに行っても、お父さんと仲が良かった漁師さん達に言っても相手にしてくれなかった。

自分でも殆ど諦めていた。



助けてくれる?お母さん達を?



「…ほんと…ですか…?」



「勿論だ。必ず助ける。今まで辛かったね。」



少女の目から先ほどとは違う涙が溢れる。


彼の顔を見る。彼も目に涙を溜めてこちらを見ていた。透き通る瞳の中に優しさを感じる。



「…お願い…します…。お母さん達を…助けて…。」


何度この言葉を今まで吐いた事だろう。

皆この言葉を聞いても相手にしてくれなかった。

俯いて何も言ってくれなかった。



しかしこの人は…



「俺に任せろ。」



少女の瞳と心に眩い光が差し込んだ。



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