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偉そうにするな!

暖かい。


陽光の中にいるような朗らかな気持ちで龍司郎は目を覚ました。と、同時に自身の変化に心臓が飛び出そうになった。


「うわぁ!」


何に対してもでなくその事に対して身を仰け反らせた。


今自分の目の前にあるのは真っ黒な世界では無い。


濃い群青の袴に白い道着。左側は大きく焼け焦げて血が乾いた後がある。もっとも彼は色というものを知らない為これが青だとか血の色が赤だとかはわからない。ただその色一つ一つが彼にとっては膨大すぎる情報で、恐怖にも似た感情を爆発させていた。


「な、なん?これ?え?目が?え?」


龍司郎がこの世界に来て何度目かの大混乱をしているとズズと後ろで大きなものが動く気配を感じる。


「おお、目を覚ましたか。」


恐る恐る振り返ると…。


「うっぎゃあぁぁぁぁ!」


腹の底からの悲鳴をあげる、目の前の巨大な生物に自分自身生物としての本能のままの行動であった。


「何だ。我の姿を見ると同時にソレは流石に失礼ではないのか?」


ふしゅると鼻息を鳴らし不機嫌そうにこちらを見下ろす巨大な竜がそこにいた。


幼い頃にまだ健在だった両親が買ってきてくれた竜という架空の人形。目が見えない俺の為に両親は色んな動物の人形を買ってきては俺に触らせてくれていた。一際俺が興味を持ったのが世界の幻獣シリーズ。ユニコーンだとかドラゴンだとか、コアなものになると何処かの神話に出てくるような神獣の人形を買ってきた。今思えば何処に売ってたんだろう?


「ああ…ええっと…。ごめんなさい!」


そう言うと一旦目を閉じる。


暗い、いつもの色だ。

感じ慣れた色に少し落ち着いた所で再びゆっくりと目を開ける。目の前には自分の手。少し大きめで所々固いところがある。マメ?の後だろうか?

ひらひらと目の前で自分の手を見ていると、左右で違う事に気付く。右手は所々古傷とかがあるのだが、左手はもう綺麗さっぱり。まるで生え変わったかのような綺麗さだった。首を傾げていると後ろの生物がふしゅると息をかける。


「どうだ?問題無いだろう?我が魔力で身体の悪い所全部直してやったからな。感謝するがいい。」


俺はくるりと向き直る。再び眼前に巨大なドラゴン。うおっとたじろぐが何とか留まる。


白銀の体に煌く鱗が綺麗に揃う、背に生えた対の翼は折り畳まれながらも皮膜からキラキラと何かが光り、尾はすらりと長く時折ぐるんと回っている。二本の巨大な角に青い目、巨大な口からは犬歯だけが鋭く上下を向いていた。



「えっと。何がどうなってるんでしょう?」


「ん?だから言っておろう。死にかけたお前を我が直した。それだけだ。」


「はぁ。それはどうも。じゃなくてこれ夢でしょ?さっきからすっごいリアルなんですけど。これ覚めるんですかね?」


自身の夢に出てくるドラゴンに聞いた所でおかしな話だが認めたくない。こんな事…ある訳が無い。


「気にはなっていたが、貴様先ほどから何を言っておる?まさかこのジハードを夢の中の住人と見ているわけではなかろうな?」


ズンと立ち上がりながらジハードと名乗る竜は目を細める。


「はは、マジ?」


引きつった笑いで目の前の事を受け入れられずにいると。


「まあ何だ、ともあれ貴様はこれからこの世界の王となるのだ。末長い付き合いになる。よろしくな。主人どの。」


何か言い出したこの竜。


「はい!?何の事!?もう全然わかんない!」


少々ヒステリックに叫ぶと


「言ったであろう?我が負けたら貴様のエレメントになると。我に二言はない。ルールを破ってしまったからな。あれは見事な一撃であった。」


「何の話だよ!ほんと説明して下さい!」


うんうんと勝手に納得している竜をぶんぶんと子供のように手を振り回しながら聞く。


「ふむ。誠に不思議な奴よ。本当にわからんのか?」


「だから言ってるじゃないですかぁ。」


若干涙目になりながら説明を求める。


ジハードの説明によるとここは俺が住んでいた地球とは全く別の世界のようだ。人と動物の他に様々な種族が文明を築き、それぞれが独立して土地土地を納めているらしい。人間以上に高度な知識を持つ種族もいるが、他の種族にとっては害悪でしか無い種族もいたりするが各地で絶妙なバランスのもと成り立っているそうだ。さらにこの世界とは別次元で天界、魔界と存在し、ちょうど真ん中に位置するこの世界は真界と呼ぶらしい。真ん中だから真界、単純じゃね?


ただもちろん侵略戦争も起きたりするわけでそれに対抗する為、真界の人々はエレメント使役という自身に他の種族の力を宿らせる技法を完成させたという。例えば妖鬼族のオーガという種族を宿らせれば怪力無双に、魔族のエルフを宿らせれば膨大な魔力をと言った感じだそうだ。


ただエレメント使役をするには双方が納得する必要があり、相当の信頼関係が無ければそこまでには至らない。なので人間は赤ん坊の頃に使役するエレメントと一緒に育てられ、信頼関係を築いた後に契約をするという方法を取っているそうだ。

エレメント対象の魔物は自我に目覚める前にこの考えを刷り込まれる為、余程のことがない限りそのまま契約を結ぶのだそう。


しかし、たまに真の実力で魔物にエレメント契約を結ばせる者がいる。野生の魔物は、険しい環境で過ごす者が多いため使役した時の力が強いという。しかしそういう契約をする為には大抵命を賭ける事になる為、一般的ではないらしい。


そして最後に大事なことは、このエレメント契約。一生にただ一度である。一度契約をするとお互いの魔力が干渉し合い、他の魔力を受け付けなくなる。契約をした後にどちらかが死んでもそれは解消されず他の契約は受け付けなくなってしまうという。


一通り説明を受けると疑問が生じた。


「えっとジハードさん。あなた、俺でいいの?」


この巨大な竜はまさにこの俺と今契約を結ぼうとしている。よくわからんがこの見た目と話を聞く限りではこの世界の頂点と言っても過言ではない存在がさっきこの世界に来たばかりで、さらに目も先ほど見えたばかりの赤ん坊のような俺とだ。


「ジハードで良い。構わぬといっておろうが。我は負けたのだ。それに嫌々というわけでもない。異世界から来たという貴様に我は興味が尽きん。先ほどふと旅にも出たいと思っておったのだ。今まで来た人間にも我と契約結びたいと言っておった者がおったが、残らずその辺に転がっておるしの」


そういうとジハードはちらりと広い部屋の隅を見る。


山盛りになった骸に剣やら鎧やらが重なって元が人間なのか魔族なのかよくわからない。


「えっと。殺したんですか?」


「喧嘩を売ってきたのは向こうだ。こっちは興味も無いのにこの我を使役して頂点に立とうなどと虫が良いにも程があろうよ。」


まあ、確かに好きでも無い相手から交際申し込まれるついでにいいように使われるのは迷惑な話ではあるけどな。


そう考えるとこのエレメント契約っていうのはある意味結婚に近いものなのかもしれない。一度契約してしまうと解除できない事を考えるともっと重いものなのかも。


「我は今まで長い間生きてきたが契約したいと思う相手もおらんかったからな。例え貴様が先に死のうが我にとってはそんなに不都合は無い。気にせず契約して最強の使役者となるが良いぞ。」


カチンと来た。


別にこっちは頼んだわけでも無いのにさもありがたく思えよと言わんばかりだ。こちとら小さい頃から厳しい祖父に武士道と侘び寂びを叩き込まれた身である。


世の為人の為、受けた恩は石に刻み、与えた恩は水に流す。仁義を持って礼を尽くさん。


先祖から受け継いできた沖田家の家訓である。

多少古臭いが自分でもこの家訓は気に入っているし誇りに思っている。


世界は違えどこの信条は曲げるつもりもない。例えこの竜に食い殺されても、だ。


「なあ、ジハード。」


「ん?何だ?契約ならとっととしてしまおうではないか。光栄に思うがいい。」


「うん、その話だけど遠慮するわ。」


「…なに?」


ジハードはまさかそんな事を言われるとは夢にも思わなかったのかキョトンと目を丸くした。


「うん、お前の態度?凄い嫌い。まるで殿様だな。礼がちっとも感じられない。お前友達いないだろ?嫌われるぜそんな態度してたら。」


「…な…な…。」


今まで世界最強を自負してきたジハードにとっては予想だにしない言葉だった。


「それによ、回復させてくれた事には感謝するけど元々の勝負ではルール破ったのお前だよね?自分からルール設定しといてそれを破って怪我させた俺に対してお前から感謝しろは無いんじゃないか?」


わなわなと竜の方が震える。顔を伏せているので表情はわからないが多分怒ってるんだろう。


ああ、俺、死ぬなぁ。


そう思いながらもトドメの一言を放つ。


「お前、カッコ悪いよ。」


ぐおんとジハードが立ち上がり天上を見上げる。


さっきの火球か?ブレスか?痛くなかったら良いなぁ。ここで死んだら元の世界に戻れたりしねえかなぁ。


そんな事を考えていると、すうと大きく竜が息を吸った。


来る!

お爺さん。ごめんなさい。でも、俺は武士であったと思うよ。


覚悟を決めて目を瞑ると…。



「ぐわぁぁぁぁぁぁぁん!!」



「は?」


「そっそんなっ酷いことっ言わっなくてもっいいじゃないっかぁぁぁぁぁぁん!!!」


ジハードが鳴いている。


いや、泣いている。


まるで子供が泣きじゃくるように、大粒の涙を零しながら。


「ちょっ!ちょっと!」


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁん!ぐわぁぁぁぁぁぁぁん!」


けたたましい泣き声が室内に響く。龍司郎の超聴覚が悲鳴をあげる。


「ぐわぁぁ!やめろ!泣くな!」


耳を抑えても意味が無いほどの爆音に気が遠くなる。


「ごめん!俺が言い過ぎた!ごめん!謝るから!泣き止めって!」


身を屈めて必死にお願いすると泣き声が小さくなった。


「ぐずっ!ぐずっ!誠か?」


ホント?みたいに言うな!


「まことまこと!あれだな!俺も助けて貰ったしな!凄いなー!ジハードお前凄いなー!」


そう言うと泣いていたのが嘘みたいにぐいと胸を張る。


「ふっ。当然であろう。この竜王ジハードに不可能は無いのだ。フハハハハ!」


何なんこいつ?ただの情緒不安定じゃねえか。


「では我と契約を交わすのだな?」


ずいと鼻先を俺に向ける。


「ああもう。わかったよ。ただし、あれだぞ?パートナーになる以上お互い遠慮無しだ。俺はさっきみたいに言いたいこと言うしお前も言え。泣くのは反則だ。やめろ。ちゃんと言葉で解決するんだ。いいな?」


「う、うむ。努力しよう。」


ったく。さっきまで我とか何とか唯我独尊のくせしやがって、キャラが定まってねーんだよ!


「では契約を行う。貴様はなにもわからんであろうから我の指示に従うがいい。しばし待て。」


そう言うと光がジハードを包む。太陽も未だ見たことがない龍司郎はその眩しさに目が絡み思わずよろける。


「うおおっ!」


光はだんだんと一点に集まり、巨大なシルエットが小さく人型に形成されていく。


そして一際輝いたかと思うと光はスーッと消え代わりにそこには角を生やした少女が立っていた。


「よし、うまくいったの!さて契約方法じゃが…」

「服を着ろぉぉぉぉ!!」


もとい、裸の少女が立っていた。

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