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話を聞け!

生まれて初めて小説を書きます。

少しでも暇潰しになれば幸いです。

ふわりとした風が木々が揺れる音と草花のほのかな香りを古い家屋の縁側に座る青年に届けた。


「ああ、今日もいい天気みたいだ。」


青年は一人呟くと、すっと立ち上がりぐいと背筋を伸ばす。

陽光が降り注ぐ中その青年、沖田龍司郎は杖をつきながら足元の草履に履き替え庭先に向かう。


杖の先を器用に使い通り慣れた庭道を抜けると印として刺してある杭に杖先が当たり、ガラリと扉を開けた。少しカビ臭いがどこか落ち着くような不思議な気分になる。


広めの空間に彼の足音が響き、青年は壁をつたいながら高めにある窓を一つ一つ開けていき、全ての窓を開けた頃には庭先で感じたような爽やかな風が道場の中を廻っていた。


ひとつ深呼吸をするとしばらく前から感じていた気配が道場に入ってきた。

白いヒゲを蓄えた彼の祖父、沖田康生は龍司郎の姿を見ると優しく微笑んだ。


「おはよう、龍司郎。」

「おはようございます。お爺さん。今日も良い天気のようですね。」

「ああ、絵に描いたような小春日和じゃて。さて、それでは稽古を始めるかの。」


はいと返事をして龍司郎は道場の神前に供えられている刀を腰に刺し振り返る。

「ふぅぅ…」

大きく息を吐き集中する。


腰を落とし鞘に収まったままの刀を構えズリズリと少しずつ前に進んでいく。


刹那…


「フッ!」


短い呼吸と共に刀が放たれ、横薙ぎに空気が切り裂かれた。煌く剣先は迷い無く、まっすぐに彼の腕から伸びていた。


「見事。心技体が全てにおいて完璧に調和しとる。真剣を握れば鋼鉄さえも両断できような。」


「ありがとうございます。お爺さんの指導のおかげです。」

刀を鞘に戻しながら康生に向き直る。


「儂の教えなんぞとうにお前は超えとる。お前の努力の賜物じゃ。沖田抜刀流はお前の代で完成したと言えるだろうよ。」


「ご謙遜を、私はお爺さんから未だに一度も一本を取ったことが無いのにですか。それに私の目は実戦には向きません。あくまで演舞の範疇ですよ。」


龍司郎は目が見えない。生まれた直後に高熱を出し、一命こそ取り溜めたものの代償として光を失った。幸いだったのはそれが龍司郎が自我に目覚める前の話で龍司郎からしてみれば気付いた時には見えないことが当たり前であったことか。


「儂が負けておらんのは経験値だけじゃ、稽古ではそれを駆使しているだけにすぎんよ。それにお前には超人的な耳がある。充分実戦で通用するさ。」


龍司郎の耳は特殊な力を持っていた。自分の半径30メートル内であれば何がどこにあるか。どんな形なのか。人ならば性別、体型、姿勢が手に取るように分かるのである。少々騒がしい所でもそれは変わらず、ある方法を使えばさらに正確に把握することが出来た。


普段杖を使っているのは実社会で目が見えない事をアピールしないと普通の人からしてみれば見えているとしか思えないからであった。それでは流石に不都合があるという事で白い杖を持たされているのである。


「まぁ、驕らず精進しますよ。」


なんだか照れ臭い気持ちを誤魔化すように拗ねた言い方をして再び稽古を再開した。






午後になり、稽古を終えようとした時。龍司郎は外の様子がおかしい事に気付く。


「お爺さん。天気が悪くなっていますか?」


「ん?いいや?相変わらず陽気な天気じゃぞ?」


「そうですか。でも一雨降るかもしれませんね。早めに家の戸を閉めたほうがいいかもしれません。」


「この時期に通り雨かの。お前が言うなら降るんじゃろうて。先に戻って閉めとくから道場の戸締りを頼むぞ。」


「はい、わかりました。掃除してから僕も戻ります。」


龍司郎の超感覚は耳だけでは無い。肌で気圧や湿度の変化を感じ、天気を当ててしまう。下手な天気予報よりよっぽど信用できる代物だった。


道場から康生が出た後、龍司郎は道場の床を磨き、神棚の水を変え、窓を閉めて後片付けを完了した。


よしと、一息ついて道場から出た時に再び先ほどの異変を感じる。



「何だ?…これ…?」



ずんと空気が重い。深い水の中にいるような感覚に頭が混乱する。


「早く…帰ろう…。」


胸騒ぎを覚え、道場の鍵をかけると庭先の道へ足を向ける。

立て掛けておいた杖を取り歩き出した瞬間だった。




ガアァァァァァン!!!




音が先か衝撃が先か。雲1つない空から龍司郎一直線に落ちてきた光の刃は龍司郎が一瞬も思考する暇を与えず彼の意識を断ち切った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「う…あ…?」




龍司郎は見えない目をうっすらと開け仰向けの半身を起こした。



「何が…?」




混乱しながらも辺りの様子を探ってみる。空気が冷たい。手に触れる地面は平らな石のようだ。道場から出たところまでは覚えているが、家の周りは土の地面でこのような石の地面は無かったはず。


龍司郎は指をパチンと鳴らしてみた。反響した音で周りの地形を把握していく。

これが彼のもう一つの空間把握能力。自身が発した音で屋内であればほぼ正確に、屋外であっても音が帰って来ればかなりの精度で位置を特定できた。



「道場…じゃないな。もっと広い。体育館?いや、もっと広い。」



音で把握したこの空間はかなりの広さで自分はその真ん中にいるようだ。壁から反響するのが歪なのは装飾品だろうか?尖っているものや丸いもの。何かの動物を模してある像のようなものもが左右対称にある。

そしてまだ気になるモノがある。まさかとは思ったがもう一度そちら方、自分の正面に指を鳴らす。



パチンッ



…何かがいる。



かなり大きい。驚くべきはソレが生物であるということ。そしてその周りに人型の何かが無数に転がっている。いや、人型というよりもっとスカスカで…。骨…だろうか。金属の鎧のようなものを纏っているのか反響がそれぞれ違う。しかし水分を感じられず、代わりに乾いた軽い石の音が聞こえた。


現状を把握すればするほど混乱していく状況にどうすれば良いかわからないでいると、正面にいる大きな生物がズズと動くのがわかった。




正体不明の巨大な何かから見つかるまいと腰を屈めて気配を殺す。



どうやらソレはこちらの様子を伺っているようだ。

時折聞こえるふしゅうという呼吸音がその生物の特徴を龍司郎に伝える。



嘘だろ?ありえない。



龍司郎が感じたその生物は体長が30〜40メートル。尾もあるだろうか?長さ次第では60メートルくらいになるかもしれない。


えっと、シロナガスクジラとかで30メートルくらいだっけ。はは、クジラさんかぁ。最近は陸にも来るようになったんだなぁ。


龍司郎は現実逃避気味にヘラヘラとひきつる。

状況に思考が追いつかない。しかし、ふいに。



「何者だ。」



地の底から聞こえてきたような重い一言にびくりと体を震わせる。


しゃ、喋った?目の前のコレが?え?何かのドッキリ?夢か?夢だな?


「我を倒しに来たのか?」


低い声は続ける。


「止めておけ、命を粗末にするだけだ。」


ゴクリと息を飲むと龍司郎は意を決して問いに答える。


「あ、あの!すいません。何だかよくわからないんですけど気が付いたらここで倒れてて、失礼したいんですけどちょっと場所がわからなくて、帰りたいんですが、ちょっとわからなくて…。」


混乱して言葉が出て来ず、めちゃくちゃな文章になったが何とか喋ることができた。ああもう、夢なら早く覚めてくれ。


「…………。」


「…あ、あの…。」


返事が無い目の前の何かに促すと、ずずんと大地が揺れる。


「うおっ!」


その生物はゆっくりとこちらに向かってきているようだ。一歩一歩近づいて来る度に自分の体が揺さぶられる。そして自分の目の前まで来たソレはふしゅうと息を吐き出した。生暖かい息が体を叩く。


「貴様、何者だ。」


地響きのような声が目の前でした。


「ここは我が城。世の最果て。古の地。資格無き者は立ち入る事さえ許されぬ。」


…はい。何言ってるかわかんないです。とは口が裂けても言えず、あ、とか、う、とかしか言えない俺。


「えっと、私は沖田龍司郎と申します。山奥で祖父と暮らしているのですが良ければ電話とか貸して貰えないですか?住所教えて頂けたらそこに迎えに来てもらうので。」


「………。」


「ああ、住所がダメなら近くの市役所とかでもいいです。タクシー呼んでもらえたら自分でそこまで行きますので。僕もわからないですけど何だかお邪魔みたいだし早くおいとましようと思います。」


「………。」


「あ、あの……。」


「我を目の前にしてその態度。なかなか肝が座った奴よ。面白い。」


「は?」


「大抵の冒険者は我を見た瞬間怯えて立ち去るか、不意打ちまがいの魔法で攻撃するかなのだが、お前はどちらでもないようだな。」


もう、ほんと何言ってるかわからないです。

こっちは絶賛混乱中の中一生懸命下手に出てご機嫌伺いながら話してるのにこの巨大な何かは話をあさっての方向にすっ飛ばしてしまう。多分夢なんだろうけどイライラしてきた。


「あの、もう帰りますんで。」


リアルな夢だが夢ならこの巨大な何かも怖くない。いや、ちょっと怖いが慣れてきた感はある。


「ふふふ、何だ貴様もう帰るのか?我を倒しに来たのではないのか?」


「さっきやめとけって言ってたじゃねぇか!」


あっ。普通にツッコミ入れてしまった。


「かっかっ。面白い、面白いぞ沖田龍司郎。よし、相手をしてやろう。得物を構えるがいい。」


「話聞いてました?俺帰りたいって言ったの。得物って何だよ。何も持ってねぇよ。」


苛つきから段々と言葉が悪くなるが夢なので気にしない。俺悪くないし。


「ここに来るまでに武器を壊したのか?それならばそこら辺に落ちておるものを使うがいい。ここに来る冒険者は各国の勇者達ばかりでな。それなりの物が落ちておるだろうよ。」


「もうどうとでもなれ…。」


そう言って諦めて武器を探すために空間認識を使う。


「チッ…チッ…チッ…。」


「何をしておるのだ?」


舌を鳴らして先ほどの指を鳴らした要領で武器であろうものを探す。


「お気になさらず。」


軽くそいつからの質問を流すと武器探しを再開する。

しばらく歩き回っているとちょうど良さそうなものがあった。

刀ではないが刀身が良い具合に湾曲しており重さも丁度良い。刀と違ってやや短いが問題無いだろう。

中国の青龍刀を細くしたようなものだった。鞘も付いていてスルリと抜ける。抜刀には問題なさそうだ。


「これでいいか。」


袴に剣を差し込みバランスを調整する。


「決まったか?では始めよう。」


すっと腰を落とし、山で罠にかかった熊くらいは修行の中で両断した事はあるが目の前のクジラさんはそうはいかないだろうなとかそんな事を考えていると。


「何をしている。」


「?」


「早くエレメントを出すがいい。」


「えれめんと?」


「貴様、我を相手に様子見などと考えるなよ。最初から全力で来ねば力の一端も見せずに消滅してしまうぞ。」


ああ、夢の中の設定みたいなやつね。


「あいにく俺はその、えれめんと?ってヤツを持ってなくてね。まあ気にせずかかって来いよ。」


「何?エレメントを持たぬだと?戯言を。ならば呼び出すまでよ。」


そう言うとヤツの周りの空気が淀んでいく感覚がした。

「竜王が命ずる。沖田龍司郎のエレメントよ。その姿を見せよ!」


ゴアッと強烈な何かが全身を叩く。びりびりと空気が震え体を突き抜けていくのがわかった。

が、それ以外に変わった事は特に起こらなかった。


「……………。」

「……………。」


「「?」」


1人と何かは同時に首を傾げる。


「貴様、本当にエレメント無しでここまで来たのか?」

「いや、あの、よくわからないけど、そうなんじゃ無い?」


再び沈黙が流れ。


「クァッハッハッハッ!良かろう良かろう!面白いぞ沖田龍司郎!ではこうしよう。我を倒せたならば我が貴様のエレメントになってやろう。この竜王ジハードをエレメント使役出来たなら世界は最早貴様の物よ。悪く無いだろう?」


ああ、こいつ竜だったのかなるほど。ちょこっと話をしてそのフォルムがどう考えてもそれだったんですぐ納得した。何度も言う。これは夢だ!


「どうでも良いけどさ、えっと、ジハードさん?お前負ける気無いだろ?っていうか無理でしょ?多分一撃食らったら俺死ぬし(夢だけど)勝負にならねえよ。」


そうなのだ。いくら耳で空間を把握してしたとしても避けれないものは避けれないし当たるもんは当たるのだ。ましてや竜とか言ってるんだったら、出るよね?ブレスとか。


「ククク、安心しろ公正なルールを作ってやる。初撃だ。全身全霊を込めるがいい。我が鋼鉄の鱗を切り裂くか、我が一歩でも動いたら貴様の勝ちにしてやる。しかし、それがなされなかった時は次の瞬間貴様は消炭だがな。クァッハッハッハッ!」


何がそんなに面白いのと若干引いたがまあ負けても目が醒めるとかだろうし俺からしてみたら初撃を譲ってくれるのは有難い。それに…。


「鋼鉄…か…。」


口元に少し笑みを浮かべた龍司郎は再びスッと腰を落とした。


「全力で来るが良い。刃が我に当たった瞬間その剣は砕けるだろうがな。」


そう言うとジハードと名乗った竜はこちらに向き直った。


そういうの、フラグって言うんだぜ。

一つそう思い、集中を高める。


「ふぅぅ…。」


息を深く吐く。


狙うは首元。4本足だろうから首元に刃は届く筈だ。


「チッ…チッ…チッ…。」


舌打ちで狙いの首元を再度確認する。問題無い。


腰を落としたままずりずりと竜に近づく。


射程まであと7メートル、6メートル…。


何だ?この構えは?

ジハードは不思議な感覚に陥っていた。

自分は圧倒的な強者である。生まれた時から最強の種族である竜族の中でさらに隔絶した力を持っていた自分が今吹けば飛ぶような小さな人間の異様な気配に妙な感覚を覚えている。


5メートル…


小さな人間は一切姿勢を崩す事なく、舌打ちをしながら足の小さな動きだけで本当に少しづつ近づいて来るのだ。それがとても不気味に思えてきた。


4メートル…


しかしこの竜王ジハードの誇りを持って自分から仕掛けたルールを破るのは許されない。なに、人間の一撃など今までどんな巨漢な勇者も傷をつけることは叶わなかった。そのようなヤツらに比べれば、こいつは背格好も小さく重さも無さそうだ。


3メートル…。


ただの暇潰しだ。我に怯えて帰ろうとしたこいつを少し焚きつけただけの話よ。


2メートル…。


思えば人間も多く屠ってきた。我を倒せば英雄だとか我から強力な武器を作ろうとか。散々消炭にしてやったの。歯応えの無い連中だった。たまに来る魔族の豪傑とか抜かす連中も少々魔法が使えるだけ。獣人の英雄もすばしっこいだけ。まあ、竜族の中でも最強の力を持つ我が相手では些か仕様がないというものよ。

竜族か、他の者どもは今頃どこで何をしているのだろうな。寿命がやたら長いせいで続くのは退屈な毎日であるだろうに。今度旅に出るのも良いかもしれんな。いつまでもこんな所にいてこんな奴と、ん?こいつは何だ?そうだ。闘いの途中であった。いかんな。少し考え事をし過ぎてしまった。しかし我がこんなにも昔の事を思い出すとは、この人間に毒されてしまったか?しかし、何故だ?記憶がめくるめく回っておる。何だこれは?遠くに忘れた過去の事が頭の中を駆けては去っていく。これは…。


1メートル…。


走…馬…灯…?


「バカだぜ、あんた。」


刹那…


「ガァァァァァッ!!!」


龍司郎の剣は自身の方から真っ直ぐ真横に伸びていた。切っ先はぶれる事なく煌めきを放っている。


しかし反対側の手は肩から先が無かった。肉が焼け、血が噴き出すが龍司郎は残心を持って動じない。


龍司郎の横には大穴、一撃の刹那の際、死に直面したジハードが生物の本能のままに火球を吐き出し、首を狙った剣を躱すと同時に龍司郎の半身を吹き飛ばしたのである。


ふしゅうふしゅうと大きく息を吐き出すジハードは次の瞬間正気に戻る。


「我は…何を…?」


それは今まで命を脅かす事の無かった彼が始めて死を拒否する本能を感じた率直な感想だった。


冷静になって見れば目の前の人間は半身を焼き消されながらも凛としてこちらを見つめている。深く吸い込まれそうな黒い瞳、その姿に彼はしばし見惚れていた。


「はは、超痛え。」


残心を解いた龍司郎は左半身の燃えるような痛みを感じるとばたりと倒れた。


夢のはずなんだけどなぁ。スッゲェ痛え。

気が遠くなる中地響きのような声が響くも何を言っているか迄はわからなかった。




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