第六話
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よろしくお願いします。
オヤジに促されてカウンター近くのテーブル席に着いた。
「いやあ、若いのに大したもんだな。他にも色々使えるんだろう? 教国を出て、うちと契約しないか? 報酬は勉強させてもらうぞ」
満面の笑みで、勧誘してきた。
「オヤジ、ふざけるのは後にしろ」
リュオクが睨み付けると、オヤジは本題に入った。
「さっき聞かれた街道の魔物の件なんだが、さっきの連中も含めてそこそこ腕の立つのを遣わしてるんだが、結果が出ない。そこで呪導師様に相談なんだが、魔物の討伐を手伝ってもらえないだろうか?」
ファリィラは返事に困った。魔物の討伐などと言われてもピンとこない。そもそも魔物など見たこともない。辺境には危険な魔物が生息している、と聞いたことがある程度なのだ。そもそも危険な魔物が頻繁に出没したら人の生活がままならない。
魔物というのは、瘴気に侵され変質した自然界の動植物である、と言われている。瘴気と言うのは、淀んで溜まった呪源や、何らかの理由で生物が死んでも残り続けた気源が凝ったもので、種々の悪影響を引き起こす。その最たるものが魔物の発生なのだ。滅多に起こらない上、発生した魔物は瘴気の発生している場から動くことはほとんどない。呪源や気源が正常に循環している場所では弱体化してしまうからだ。魔物は瘴気が無ければ存在を維持することができないはずである。それが街道に出てきて、長々居座り、気道士達を返り討ちし続けているのは異常だ。そして、その異常に対応できる知識も経験もファリィラにはなかった。
「私が加わったところで、手助けになりますかどうか……。魔物の出没など初めて聞きましたし、何をするのか想像もつきません」
オヤジは頷いて、説明を始めた。
「そうだな、まずは説明しよう。魔物はいわゆる魔犬というやつだ。大きさは野牛ぐらい、まあ魔物にしては小さい方だな、が一匹のみ。生まれた瘴気場から何らかの理由で出てきてしまったらしい。珍しいが前例が無いことはない、出てきた魔物は討伐すれば済む話だ。だがこいつは普通じゃない。まず、賢い。通常は闇雲に暴れるだけだが、こいつは人の動きを読んで、待ち伏せしたり、逃げる振りをして討伐隊を油断させて回り込んで背後から襲ったりする。そして、動きが素早く、力もそこそこ強い、厄介な敵だ。それに弱る気配がない。瘴気のない場所に長くいれば弱ってくるはずなんだが、その気配ははまったくない。さっき帰ってきたケンズたちの報告からすると、逆に強くなっているのではと思うくらいだ」
ここでオヤジは一旦言葉を切った。
「そこで貴女に原因の調査をお願いしたい。道士達にもその辺の調査をさせているが、異常は発見できなかった。呪導師であれば、呪源の凝りや異常などより詳細に見えるだろうから再調査していただきたい。その際、可能ならば魔物に力を与えそうな要因を排除してほしい」
ファリィラは黙って話を聞いていた。手伝ってあげたいのは山々であるが、経験のない自分には内容が少々高度すぎた。
「調査することは構いませんが、異常を見付けられる保証は出来ません。要因の排除につても同じです。あと、魔物の出没するような危険な場所で活動出来るほど、私は強くありません」
屋外活動の経験すらほとんどない、戦闘経験は皆無。そんな者が危険な調査活動をすれば、下手をしたら即犬死にだ。
「調査してくれればそれで良い。こちらとしても念のためという要素が強い依頼だ。実際に調査に出るときには複数の護衛を付けるし、貴女の身の安全は最大限考慮する。是非ともお願いしたい」
そう言って頭を下げられてしまうと断ることもできず、引き受けることになった。




