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天鏡の魔女  作者: 香矢 友理土
女神の嶺
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第五十七話

 カナワに帰ってくると、懐かしい人物がいた。

「よぅ、お久しぶりぃ。ちょっと見ない間に一皮むけたようだねぇ、お二人さん」

間延びした癖のある口調で、レインが話しかけてきた。

「出たな、呪協の犬。こんな所に何しに来た、さっさと帰れ」

リュオクがシッシッと追い払う仕草をする。

「酷いなぁ、お祝いにナイオビの蒸留酒を持ってきたのにぃ。霊峰に行ってきたんだろぅ、話を聞かせてくれよぅ」

ナイオビの酒と聞いて、リュオクの態度がころっと変わった。

「おお友よ、話せる範囲でよければ聞かせてやろう。だから早く酒を出せ」

その日の夕食が酒盛りなったのは言うまでもない。

 差し向かいで酒を呷りつつ、高原に来てからのあれやこれやを語り合っている男達の横で、ファリィラは黙って話を聞いていた。今のところは内容を選んで喋っているようだが、酒が進めば何を話されるか。要らないことを洩らされないように警戒を怠る訳にはいかない。

「そうかぁ、大変だったなぁ。ところで、その霊峰の試練とやらはうまくいったのかぃ?」

「まあな。俺は最悪に胸糞悪い役回りだったが、リィラは先史文明の遺産とやらを受け取ったし、目的は果たしたんじゃないか?」

そこでファリィラの方を見て、意地の悪い表情になった。

「力を手に入れて世界を変えるんだったっけ? せいぜい頑張れよ。俺は陰から見守ってやるからな!」

ははははは、とリュオクの笑いが響いた。

「えぇ? そんなこと考えてたの、リィラってば意外と過激だねぇ」

レインもつられて笑った。ファリィラは横目で高笑いしている赤毛を睨みつけた。

「いずれは必ず。ですが、今すぐどうこうするつもりはありません」

 先史文明の過ちの結果、萎縮してしまっている現在の呪導の在り方を、よりよい方向へ導きたい。減ってしまったとはいえ、確かにこの世界に満ちている呪源を、不幸の源ではなく恩寵にしたい。一朝一夕に叶うことではないが、どれほど時間がかかっても、一生を費やすことになっても取り組むつもりだ。

 ファリィラの真剣な様子にレインが笑いを収めた。

「そうかぁ。俺も陰ながら応援するぜぇ。よし! 飲め、その決意を酒に刻むんだぁ!」

「それはダメな決意! 酒じゃなくて心に刻まないと」

思わず突っ込んでしまったファリィラだった。

「いや、人の心は変わる。酒は変わらない、未来永劫人の前にあり続ける酒にこそ刻むべきだ」

「酔ってますね、完全に」

ぐいぐい酒を勧めてくるレインを押し戻しながら、ファリィラはため息をついた。


 酒も残り少なくなってきたところで、リュオクがあることを思い出した。

「なあ、俺達突然失踪してきた訳だけど、下はどんな感じだ?」

レインは片眉を上げた。

「やっと聞いてくれたかぁ。とうの昔にそんなこと忘れて、このまま高原に永住する気かと思ったぜぇ」

机に乗り出して話し始めた。

「大変だぞぅ。教国は失踪は呪協の差し金だと公式に非難、呪協は言いがかりだと反論して真っ向対決。行方が分からないファリィラには多額の懸賞金がかけられて、教国に連れて帰ったら大金持ち間違い無しだ。おれ、懸賞金貰おうかなぁ?

 ギルドも結構な人手を出してるぜぇ。ちなみにリュオクにはファリィラをたぶらかした男として、生死問わずで懸賞金が出てるから、殺されないように気をつけて歩けよぅ」

話し終えて酒瓶を掲げて笑っているレインの向かいで、リュオクが頭を抱えて机に沈んだ。

「そのうちここにも賞金狩りが来るぜぇ。間に合って良かった、リィラには早急に今後の身の振り方を考えてもらわないと大惨事だぁ」

「俺、どうしよう……」

暗い顔でリュオクが呟いた。

「リィラが戻ってくればお前に用は無いから、懸賞を取り下げてもらえばいい、ギルドには呪協から働きかけてやるよぅ。契約違反他、いくつ反則金が付くのか知らんけど、追い回されて死ぬよりいいだろぅ」

頭をかきむしってリュオクが吠えた。

「違反金なんて払えねえ! 奴隷落ち確定じゃねえか畜生おおおお!」

「呪器を売ればいいさぁ」

「嫌だあぁぁぁ!」

切羽詰まって逃亡を検討し始めたリュオクを、レインが呑気に眺めて楽しんでいた。

「反則金なら私が支払います、元々私のせいですから」

ファリィラが提案した。

「お前金あるのかよ。言っとくけど違反金は法外な値段だぞ?」

「作ります。この腕輪を売ればいいので」

森で見つけた腕輪を机の上に置いた。

「先史時代の物ですので、修復して機能を回復すれば三代は遊んで暮らせるお金になるそうですから」

修復して売りに出します、そう言って腕輪を戻した。

「呪道具、直せるのか?」

「多分。受け継いだ知識の中にあるので、出来ると思います」

「驚きだぜぇ。先史時代の呪導が使えるとか羨ましいなぁ」

ファリィラは笑った。

「ではレインも霊峰に行ったらどうですか? 命懸けになりますが、得るものは大きいですよ」

レインは身震いした。

「命懸けは嫌だぁ、何か一つくらい使えそうなヤツを教えてくれよぅ。おれはそれでいいなぁ」

「だらしねえな。男なら命張れよ」

「気道士どもは簡単に命かけるよなぁ。おれは御免だぜぇ、命あっての物種っていうだろぅ」

 夜も更けて、具体的な今後の計画については明日相談することになり、酒盛りはお開きとなった。

完結まで後三話です。

毎日更新しますのでよろしくお願いします。

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