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天鏡の魔女  作者: 香矢 友理土
女神の嶺
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第五十話

 ファリィラの意識が戻ると、そこは先ほどの広間だった。隣りにはリュオクもいた。

「何だったんでしょう?」

光が消えてしまった台座と鏡を見る。

この鏡から得た情報が正しければ、この世界に呪導と気道がもたらされた原因は分かった。伝説とされていた先史文明の前の時代も、伝承が正しかったことが証明された。

 だから何だというのか、これから先の試練にこのことがどう関係してくるのか謎だった。

「ただ単に歴史を教えてくれただけじゃないのか?」

既に忘れ去られ、記録もろくに残っていない過去のことである。こんなに鮮明に伝えてくれるのは確かに有難い。

 だが、本当にそれだけだろうか? 疑問は残るが答えは見つからなかった。

「とりあえず今日はここで休みましょう、疲れました」

「賛成」

二人は水と携帯食料で腹を満たし、壁際で横になった。


 翌日も乾いた山道をひたすら歩いた。

「ただ歩くだけとかクソつまらんな。魔物の一匹でも出てくればいいのに」

「嫌ですよ。歩くだけで十分です」

無駄口をたたき合いながら歩いていると、前方にゆらりと黒い影が現れた。影はどんどん濃くなって一体の魔狼になった。

「あなたが余計なこと言うから、魔獣が出てきたじゃありませんか!」

「ははは、願ったり叶ったりだ。俺の日頃の行いがいいからだな」

リュオクは剣を出して走り出した。

 間合いを一気に詰めて剣を振り下ろす。魔狼は避けることなく斬撃を受けて霧が消えるようにいなくなった。しばらく周囲を警戒するが、もう魔獣は出てこなかった。

「弱ッ、ふざけんな!」

軽くイラついたリュオクは岩を蹴りつけてから剣を収めた。

 気を取りなおして歩き続ける。かなり歩いたので休憩しようとしたその時、背後に気配を感じて振り返った。あの魔狼がいた。

「この野郎、死んでなかったか!」

リュオクは剣を構えて走り出した。ファリィラが止めようとしたときには、既に切りつけていた。今度はあっさり切られたりはせず、右に左に器用に避けて翻弄していた。業を煮やしたリュオクが見事なフェイントをかけ、魔狼は見切れずに致命傷を食らって消えた。

 ファリィラはそれを水を飲みながらのんびり観戦していた。

「お疲れ様です、水をどうぞ。干し果物もありますよ」

リュオクに水筒と油紙に包まれた欲し果物を渡して、休憩を取らせた。

 再び歩きだすと、また魔狼が現れた。数歩先に突然現れたのを見て、ファリィラはリュオクの腕を抱えて止めた。

「放せよ。今度こそ仕留めてやる」

「相手をしてはいけません。あれはおそらく私達の行動を観察しているのです」

そのまま目を合わせずに横を通り過ぎるが、魔狼が襲ってくることはなかった。

 時々振り返ると、一定の間隔をあけて魔狼がいるのが確認できた。害がないとわかっていても落ち着かない。

「なあ送り狼って知ってるか?」

「不吉な言い伝えなら間に合ってます。口を閉じてください」

自然と速足になって山道を登る。

 緊張と早いペースで歩いたことによって疲れがでてきた頃、山肌に横穴を発見した。一つ目と同じように穴の周りに門と同じ模様が浮き出ていた。

 中に入ると、作りはほぼ一緒で中央に台座があった。光る文字が浮かんでいる鏡のようなものも同じだ。

「どうしましょう。また触れますか?」

「それしかないだろう」

二人は光に包まれた。


 そこは都市だった。歴史書の挿絵にあったような大きな建物が道の両側に立ち並んでいる。道には複雑な文様が走っていて、そこを呪源が流れているのが分かった。

  どこもかしこも煌々と明かりが灯り、夜の闇など寄せ付けない。道行く人々は上等な服を着て、高価な装身具を身に着け、楽しげに笑いさざめきながら歩いている。

 そのうちの一人とぶつかりそうになり、慌てて避けようとしたが、その人はファリィラを素通りして反対側に消えていった。

「私はここに存在している訳ではなさそうですね」

高度な立体映像の中に放り込まれたような状態だった。一度目と違い自由に動けるようなので、あちこち覗いてみることにした。

 一軒目はなんとなく目にとまった服屋だった。店名を確認したが、古代文字な上、飾り文字になっていて読めなかった。広々とした店内は様々な服であふれていて、そのどれもが今では考えられないほど上等の生地で作られていた。

「本当に誰もが王族のような生活をしていたのですね」

図書室で読んだ本の内容を思い出しながら、光沢のある生地で出来たスカートに手を伸ばす。しかし、触れることはできず、布の手触りは分からなかった。

 次に入ったのは、飲食店のようだった。抑えた照明の中で、複数の男女が酒と食事を楽しんでいる姿があった。

 料理は言うまでもなく、使われている食器や何気なく置かれている調度品も上質で素敵なものだった。一瞬、こんな素敵な場所でリュオクと食事が出来たらと想像して、慌てて振り払った。余計なことを考えてはいけない、これは霊峰が見せている幻なのだからと、気を取り直して次の店を見た。

 呪道具が所狭しと並んでいた。なんとなく用途が分かるものから、全く想像できない物まで大量にあった。手にとってみたいが、触ることが出来ないので諦めて外に出た。

 目的もなくふらふら歩いていると都市の外れまで来てしまった。暗い路地をそっと覗くと、明かりも少ないみすぼらしい建物がひしめいていて、一目で裕福では無いと分かる人々が道端で何か話しこんでいた。

 呪師でも道士でもない、呪導が生活の基盤であった先史文明時代に差別されていた「力無き人々」だった。

 ファリィラは話し込んでいる男性に近づいて、会話の内容に驚いた。

「……呪導の循環装置を暴走させる。既に内通者からいつでも出来ると連絡が来ている。決行日は独立記念日だ。いいか?」

残りの男達が了解の返事をして解散した。

 ファリィラの意識が暗転した。

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