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天鏡の魔女  作者: 香矢 友理土
揺籃の地
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第四十三話

 リュオクは興奮の直中にいた。敵がいる、殺しても殺しても尽きることなく、次から次へと襲ってくる。


――殺セ、殺シ尽クセ。全テヲ血デ染メアゲロ――


 お馴染みの声が脳裏に響く。一振りごとに吹き飛ぶ血に、どんどん理性が奪われていくのが分かる。歯を食いしばって、湧きあがる狂気に耐えつつ敵と切り結ぶ。

 リュオクの鬼神のような戦いぶりに、巻き添えを嫌った味方が距離を取った。。

「あんまり羽目を外すと、怒り狂った魔女が壊しにくるぜ」

ケマン村での一件を思い出す。濃密な呪源、叩きつけた刃を浸食してきた呪導、あれなら間違いなく解放状態の呪器でも破壊できるだろう。


――破壊、セヨ。無ニカエセ。コンナ世界ハ、滅ンデシマエ――


リュオクが破壊を連想したため、呪器が反応してしまった。早めに決着をつけないと冗談抜きで壊されてしまう。

「ザコは失せやがれぇぇぇ!」

大きく斜めに切り下ろすと剣から気源の刃が飛んで、数を頼んで押し込めようとしていた兵士たちを薙ぎ倒した。刃の威力は衰えずに地面を抉って、土埃を巻き上げた。

「ひぃっ、何でこいつ飛撃ひげきを使うんだ?!」

辛うじて射程から外れていた兵士が、驚きつつも一目散に逃げ出す。それにつられるように他の兵士も次々逃げ出し、敵は総崩れとなった。


 リュオクは無防備に逃げる背中に向かって無造作に刃を飛ばした。面白いように人が千切れて飛んでいく。愉悦の色を浮かべて右に左に刃を飛ばしていると、手首を押さえられた。

「それ以上はやめろ」

タウロスは逆らうようなら実力行使も辞さない構えだ。その低い声に、リュオクは自分が何をしていたのか気づいて愕然とした。逃げまどう者を攻撃するなど、断じて自分の意思ではない。こいつを殺せ、今すぐ殺せと呪器が囁いたが、なんとか無視した。今にも切りつけようとするのをこらえ、必死に剣を収めようとしが、呪器は殺せ殺せと喚きながら抵抗してくる。

 こんなことは初めてだった。今まではリュオクが戦闘を止めれば呪器は普通に戻った。内心の焦りを隠して無理矢理呪器を戻す。何とか戻すことに成功して、一息ついた。

 タウロスは不穏な目でリュオクの左腕を見ていたが、手を放した。村人でもある部下達を労いつつ、後始末に入った。


 ファリィラはぐったりと救護所の壁にもたれかかった。ひっきりなしに治癒を行ったせいで頭が痛いうえ、だるくて動けない。もうどうにでもなれと気を抜いたとたんに、体がぐらりと揺れて床に顔面から倒れ込んだが、激突する間際に体を支えられた。

「へばってるな。呪導の使い過ぎか、おい帰るぞ」

抱きかかえられて外に出ると、辺りは既に薄暗かった。

 そのままタウロスの屋敷に入ると、タウロスがまだ指示を飛ばしていた。リュオクに抱えられているファリィラを見ると、こちらにやってきた。

「大丈夫か?」

「単なる呪導の使い過ぎ。食って寝れば治る」

「無理をさせてしまったか、申し訳ない」

ファリィラは片手を上げて気にしないでいいと言おうとしたが、声は出ず、手もすぐにだらんと落ちてしまったため、弱っているのを際立たせてしまった。

 そのまま部屋に寝かされると、残っていた意識も飛んで泥のように眠った。


 ファリイラを部屋まで運んだ後、食堂で夕飯にありついていたリュオクはタウロスに捕まった。

「話がある」

視線が左手の呪器に注がれているのを感じて、鼻を鳴らした。

「こいつに関することなら、白耀はくようのところで、一応まとまっている。今更何言われても聞かないぜ」

タウロスはその内容に驚いた。

「白耀の預かりになったのは聞いたが、そんなことまで話したのか」

リュオクはスープを一気にのどに流し込んだ。

「リィラのお節介だ。……これ以上呪器の悪意に染まるようなら破壊するとさ」

タウロスが顔をしかめた。

「そんなものを身につけているのか。正気の沙汰ではないな」

「そうだな。まあ、こいつのお陰で何度も命拾いしているし、なんとかするさ。話はそれだけか」

立ち去ろうとすると、止められた。

「これからあけの一族にこちらから仕掛ける。旧守派の切り崩しも順調だ。朱に付き従ってもじり貧なのは目に見えているとあって、離反する部族は多いし、静観する構えの部族もそれなりにいる。

 一族内でも、現族長のヘレボスの傍若無人ぶりに反感を募らせている派閥があり、今が好機だ。朱の一族が大人しくなれば、とりあえず一時的でも高原は平和になる。我々は疲弊している、例え火種がくすぶっていようと、争いのない時間が欲しい」

タウロスが頭を下げた。

「協力してもらえないだろうか。今は一人でも多く戦力がほしい」

リュオクは頭を下げ続ける男を見降ろした。高原のいざこざなど関わりたくない、それが本音だ。だが、ファリィラは絶対に行くと言い出すに決まっている、面倒だった。

 あいつの出番がないくらい、速攻でカタを付ければいい。突如閃いて、リュオクは自分を褒めたくなった。そのためならタウロスへの協力など、お安い御用だ。

「いいぜ。さっさとそのヘレボスとかいう阿呆を叩き潰して、霊峰にトンズラしてやる」

リュオクは不敵に笑った。

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