第二十一話
本日は正午にも投稿します。
よろしくお願いします。
商人たちに、指示したらすぐ荷車を止めて隙間に身を潜めるように言って、護衛五人は賊を迎え撃つ段取りに入った。
「最初に弓で数を減らすのが常道だが、気道士相手にどこまで通用するか」
ラナータの持つ弓は女性が持つものとは思えないほどしっかりした大弓だった。彼女の髪と同じ黒くて艶のある塗装が施されている。
「強弓なら弱い奴なら普通に刺さる、貫通は厳しいけどな。急所を狙い撃ちできるなら、結構有効だぜ?」
ボルスは表情を緩めた。
「それならいけるだろう。ラナータ、頼んだぞ」
ラナータは弓を掲げて答えた。
「弓矢に余裕があるなら俺も久しぶりに引こうかな」
街道を行く商人たちの中には護身用の弓を持っているものがいる。グレコも多少使えるそうで持ってはいたが、気道士相手は荷が重いということでい仕舞ってあったものを借り受ける。
賊の探知していたファリィラとレインが数と距離の確認を終えた。
「八人きっちりいるなぁ。後方、左右から来る。じきに姿が見えるはずだ。進路をふさがないのは、何かあるのか、追い回すのを楽しむ気か」
おそらく後者であろう。気道で強化された身体なら、足の遅い荷車など簡単に追いつける。能力が高ければ追い抜いて回り込むことさえ可能だ。
「自信があるのは結構なことで、ラナータ、右と左、どっちがいい?」
弦を張って具合を確かめながら、リュオクが尋ねると
「右」
ということでリュオクが左につき、弓を構えた。リュオクは膝立ちで、ラナータは立って狙いを定める。
「引き付けてからやれよ。強そうな雰囲気の奴は最初から狙うな、どうせ無駄だ」
土煙が近づいてきて、賊の姿が見えた。左右から四人づつ二組、それぞれの組にジバシリに乗った者が一人いる。
ラナータの矢が放たれた。一番先頭を走っていたものが、目を射抜かれて倒れた。続けてもう一人が顔の中央に矢を受けてもんどりうって倒れた。
「良い腕してんなあ」
感心しながらリュオクも矢を放つ。さすがに顔面を狙うような芸当はできず、胴体を狙う。立て続けに二本、矢羽近くまで突き刺さって賊が絶命した。
「その弓でどうやって?」
矢を放ちながら、ラナータが聞いてきた。
「気道で、ちょっとズルしてるんだ」
そう言って二人目を仕留めた。結局、ラナータが三人、リュオクが二人を仕留めた。揺れる荷車から矢を放ってどうして急所に当てられるのか、ファリィラには全く分からない。今度聞いてみよう、と思っているうちに賊が距離を詰めてきた。半数以上が倒れたにもかかわらずまったく頓着しない。リュオクが黒い大剣を担いで飛び降りた。そのままの勢いで一人残った右手のジバシリの男に駆け寄っていく。
「車を止めろ!」
ボルスの指示に荷車が止まる。商人たちが荷の隙間に潜り込んだ。
ボルスが車から降りて、戦斧を構える。ラナータは弓を下げてファリィラとレインに場所を譲った。レインは面倒くさそうに
「一人くらい倒しておかないと、あの赤毛は絶対、文句言ってくるよなぁ」
しょうがないなぁ、と言いながら左手の徒歩の男に向けて術を放つ。何が起こったかも分からないまま、盗賊は即死した。横のジバシリに乗っていた女盗賊が、驚いて足を緩めた。荷車に向かってくるのを止め、右手の盗賊の援護に切り替えるようだ。
「おっ、向こうに行っちゃう。リィラ、せっかく覚えたんだから、あの女ギューってやっちゃおうかぁ?」
指示されてファリィラは焦ったが、自分がやることを思い出して、習った術を使った。ジバシリごと女を拘束する。しかし、女はすぐに拘束を破ってしまった。ジバシリを駆ろうとするが、ジバシリは拘束を受けたままだ。気道は自分以外に影響を及ぼせない、例え騎乗しているジバシリであってもそれは変わらないのだ。自分に掛けられた術を破棄出来ても、同じ術が他者に掛けられたら解いてやることができない。それが出来るのは、特殊な才能を持った一部の者だけだ。
女盗賊はジバシリを乗り捨てて、駆け出した。男と対峙しているリュオクに向かう。
「ありゃりゃ、あっさり破られちゃった。意外と使うねぇ、あの女。せっかくだからジバシリを頂こう。おーいボルス、おれ達あっちへ行くから、ここ頼むねぇ」
ボルスが片手を上げて答えた。二人でリュオクの援護に向かう。一度ジバシリを回収して荷車に繋ぐのも忘れずに。レインはかなり余裕だった。
一方リュオクは苦戦していた。男はジバシリを器用に操ってリュオクを翻弄している。そこへ女が合流して更に防戦一方になった。
そこにレインとファリィラが到着し、ファリィラが例の拘束を今度はもっと強めにかけると、一瞬止められたものの、すぐに破られてジバシリだけが固まり続けた。激しく動いていたジバシリは突然硬直したためにバランスを失って前のめりに地面に激突し、男は放り出された。それを見逃すリュオクではなく男に切りかかった。
「死ねや、くされ盗賊!」
リュオクの一撃は、男の防御に防がれ、左腕を浅く切り裂くにとどまった。女盗賊が割って入って牽制する間に、盗賊は体勢を立て直した。
「うーん、二対一だと厳しいかなぁ?」
男が乗っていたジバシリを回収しながら、レインは首を傾げた。そこであることに気付いて、明るく言った。
「あ、おれ達下がるから、その呪器解放して、大暴れしてくれぃ」
ファリィラは目を剥いた。遠慮はいらんぞぅ、という声が不吉に響いた。




