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天鏡の魔女  作者: 香矢 友理土
巡礼の旅
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第一話

 静かな廊下に足音が響く。足音の主はファリィラ、清星教の呪導師になったばかりの17歳だ。青銀の瞳は柔らかな光を湛え、色白で華奢な体つきは実年齢よりも幼さを感じさせる。今は上司に当たるアルド師の呼び出しを受けて、執務室に向かっているところだ。腰まで届くつややかな銀髪をなびかせながら足早に歩く。清星教は規律に厳しく、上位者からの呼び出しを受けてダラダラ行くことなど許されない。だが、彼女が急いでいるのはそんな理由ではなく、逸る心を抑えきれないからだ。装飾の施された扉を前にして、一息、深呼吸してノックする。

「お呼び出しを受けて参りました。ファリィラでございます」

「入りたまえ」

中からのアルド師の声の後、一拍置いてからドアを開けると、執務机に山と積まれた書類をさばいているアルド師の姿があった。ファリィラはその姿を眺めながら声がかかるのを待った。相変わらず大変そうだな、などと他人事に思いながら。

 大して待たずに者類が片付き、用件を告げられた。

「君が申請していた巡礼の件だが、今日正式に許可が下りた。期間は最長半年、地域は東平原国家群内ならば自由に行き来できる通行許可を出す。残念ながら、政情不安で他地域への巡礼は見合わせるよう通達が出ているため、山脈越えは無しだ」


 清星教の総本山となる清星教国があるルフルスト大陸は、ほぼ中央に南北に走る大山脈を隔てて東域と西域に分れており、東域は山脈を水源とする大河が西から東に向かって走り、それを境に南北に分けられている。東平原国家群は河南地域の平野部の中小国家が中心となって同盟を結んで平和を保ち、各国家が自国の得意分野を活かして交易したりして栄えている。清星教国もこの同盟に参加しており、同盟内に強い影響力を持っている。清星教を国教としている国も半数以上あり、信者の数も他の地域に比べて多い。

 清星教は、神を持たない宗教である。元々は遥か昔に、呪導師たちの精神修養と呪導の才をきたえるため、また平和的に呪導を使用するように行動規範を定めたものが、今では一般の人々の生活の場でも使えるように変えられて、教義として広められた。大元になる規範を作り広めた呪導師とその主だった弟子たちが、教祖および聖人となって祀られている。

 また現在も、呪導師の修行の場としての機能は保たれていて、才のある子供を引き受けて呪導師として教育している。


 西域に行けないのは確かに残念だが、巡礼の許可が下りただけでも有難い。彼女の生い立ちを考えると、一生教国から出してもらえなくても不思議ではない。

「ありがとうございます。巡礼の間も精一杯、努めます」

師は頷くと、思い出したように付け加えた。

「さすがに若い女性が一人では物騒だから、道中の護衛を付けることになった。費用は出るから遠慮なく使いたまえ」

監視付きかと内心舌打ちしたい気分だったが、静かに頭を下げて退出した。


 これで、目標の第一歩を踏み出すことが出来た。必ず力を手に入れ、自由をもぎ取り、母を、そして同胞を穢し、貶めた連中に復讐するのだ。彼女たちの受けた苦痛と無念を連中に思い知らせてやらなければならない。ファリィラは暗い決意を胸に巡礼の旅支度を始めた。




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