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天鏡の魔女  作者: 香矢 友理土
巡礼の旅
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第十三話

 帰路は、リュオクの呪器の話題で大騒ぎだった。

「悪いことは言わない、捨てろって。発狂するとかぜってぇやばいだろ。今ならまだ間に合う」

とレクルスが言えば

「別に今すぐどうこうって訳じゃないんだから、いいじゃない。勿体ないわよ、呪器の専門家に見てもらえば直るかもしれないんでしょ」

アルナは捨てるなんてとんでもないと言い張った。第一、どこへ捨てるのか。他の誰かが拾って身に着けてしまえば元も子もない、犠牲者が変わるだけだ。

 更に、腕輪の件もあった。魔犬の攻撃を受けたが、奇跡的に無事だった。割れた宝石もかろうじて嵌ったままだ。皆で回しながら観察してみたが、古い時代の物であること以外は分からなかった。

「これ、私が貰ってもいいかしら?」

「ああ、発見者に権利があるからな。浄化したのもリィラだし、良いんじゃないか? でもギルドで絶対売れって話になるぜ、いくらになるか見物だな」

「掘り起こしの作業料は酒と飯で。よろしくな」

レクルスも乗ってきた。本来であれば全員で山分けになるのだが、今回ファリィラとカイウ達は別口の依頼になるので報酬の山分け対象にならない。この辺は厳しく決まっていて例外は無いらしい、金で遺恨を残さないようにとのギルドの知恵である。


 雑談しているうちに街に着いた。門衛が荷車の後ろにくくりつけられている魔犬を見つけて、狂喜した。騒ぐ門衛をそのままに、ギルドに直行する。

 ギルドに着くと、早速魔犬の検分になった。魔物の体は様々な加工品に使えるとかで高値で買い取りされる。討伐報酬を合わせると、かなりの額になるらしい。加えてファリイラ護衛の報酬も出るので、カイウ達はご機嫌だった。

 二階の部屋に通されて、オヤジに顛末を報告した。魔犬の異常の原因になったと思しき腕輪が森の中にあったという報告はオヤジの興味を引いた。ファリィラは、持ち帰った腕輪をそっと机に置いた。オヤジはその腕輪を手に取って眺めたが、やはり何も分からなかった。

「この腕輪、間違いなく浄化済みなんだな」

確認されたので頷くと

「金貨二十枚で買い取ろう」

と言われた。拒否すると

「金貨二十五枚」

買い取り額が上がった。

「いくら積まれても売りません。私もこの腕輪に興味がありますので、可能な限り調べてみるつもりです」

結局腕輪について分かったことがあったら、ギルドに情報を渡すということで落ち着いた。

 

報告が終わり、報酬額が算定された。翌日に一階で金を受け取れる旨を伝えられて、解散となった。

「リュオク、お前は残れ」

「えっ、説教?! 俺今回は下手打ってないけど」

リーダーのカイウからの報告も、特に問題なかったはずだ。皆が出て行った後、オヤジと差し向かいで座った。

「ファリィラ殿の様子はどうだった? 何か変わった様子はなかったか」

説教ではなく、密告の要求だった。

「別に。森を見た瞬間にあそこは嫌だ、良くない、帰りたいって駄々こねたけど、カイウが上手いことやってたし」

オヤジはそんなことはどうでもいいと言いたげだった。

「浄化を行った時の様子は?」

おいおい、もろ疑われてるんじゃん隠す意味なくないかこれ? 心の中でファリィラに突っ込んだ。

「ごにょごにょ言ってってぴかっと光って終わり、だったけど何か他と違うのか?」

オヤジは目を細めて、ジーッとリュオクを見る。

「気味悪いぜ、オヤジ。そんなに気になるなら覗き見役をつければいいだろうに」

オヤジはリュオクを睨みつけるのをやめて椅子の背にだらんともたれた。

「呪導師にそんな者つけたらすぐばれる。あいつらには自分の周囲の様々な気の流れが常に見えているんだ。意識することもない、目に映る風景のように自然にな。日常と少しでも違うことがあれば、違和感を感じてしまう。普段から周囲を警戒している人物なら、尚更敏感だ。だから護衛の名目で堂々と横に貼り付けることにした」

そこで体を起こして

「だからきちんと報告しろ」

「今しただろう! だいたい本人に気付かれてるだろうそれ。俺だって警戒されてるのにそうそうネタが出るかよ」

オヤジは頭を掻いて

「そこはうまくやれ。若い女の護衛に、見目の良い男を付ける意味を考えてみろ」

リュオクはがっくり肩を落とした。自分がハニートラップだったとは。

「そんなの無理だ。適任者に変えろよ」

がはは、とオヤジが笑って

「まあ、正直あんまり期待していないからな、無理しなくていい。じゃあ引き続き頼むぞ」

笑いながら肩をバシバシ叩かれた。


 一階に降りると皆が待っていた。

「お、終わったか。じゃあ行こう、今夜はリィラがおごってくれるってさ!」

 宿に戻ると打ち上げになった。酒も料理も卓に乗りきらないほど注文された。どんちゃん騒ぎに辟易したファリィラが金を置いて部屋に帰ってからも、狂宴が繰り広げられた。


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