プロローグ
小説を書いてみたくて投稿しました。
初めて書いたので拙いところが多々ありますが、よろしくおねがいします。
何か悪い夢を見ているに違いない。
ファリィラはそんなことを思いながら目の前に広がる光景を眺めていた。
美しく誇り高かった母が、ボロボロになって磔にされている。足元には大量の薪、火刑に処せられるなんて冗談だろう。
体格のいい男が歩み出て、それに火を付けた。煙と炎が立ち上がり、観衆から声が上がった。半分は興奮した歓声、「やった!」「死ね!」「汚らわしい魔女め!」などといった罵声。半分は怖れと嫌悪、「何とということを……」と呟く声がファリィラの耳にも届いた。
この処刑を取り仕切った男が何か叫んでいる。曰く、呪導を用いて人心を惑わし、私腹を肥やし、政財界の重鎮に取り入り世を乱した魔女を処罰した。これでこの国、ユーカナンは正しい国になると。
そんなことは無い、断じて無い。母は確かに優れた呪導師であったので、多くの人が助言を求めて訪れており、その中には政治家なども居た気がするが、母と政治について論じている様子はなかった。依頼者から大金を巻き上げたこともない。暮らしぶりも質素で、ファリィラも贅沢品など与えられとことは一度もなかった。
男の演説はなおも続く。炎は一層大きくなり母を包んだ。ファリィラの頬を涙が伝った。涙などこの数日で枯れ果てたはずだったのに。
男がこちらを向いた。ファリィラを指さして断罪する。
「この娘もその力を受け継ぎ、やがて母と同じ道をたどるだろう」
地面に跪かされ、押さえつけられていたファリィラは、母の横の磔台に引きずり出された。恐怖がかすかに体をこわばらせたが、もうどうでも良かった。
抵抗することもなく、されるがままになっている少女を見て、観衆がざわついた。「子供まで殺すのか……!」という非難めいた声が、何か所から上がった。
「お前たちは何をやっている?! 止めろ! 私刑は禁忌だぞ! 全員その場から動くな!」
突然、警吏官たちがやってきてこの場を取り囲んだ。警吏官は激しく抵抗する首謀者達を取り押さえ、ファリィラは解放された。そして、見慣れない服を着た男に引き渡された。彼はアルドと名乗り、安心させるように柔らかな笑みを浮かべて、優しくファリィラの手を取った。
「助けが遅くなって申し訳ない。まずは向こうに行って座ろう、何か飲み物を」
ファリィラは首を横に振って、アルドの手を払いのけると、警吏官が作業している消火された磔台へ駆け寄ろうとした。
「お母様!」
しかし、アルドに腕を掴まれ止められた。
「駄目だ。見てはならない。今はこちらへ」
そのまま連れて行かれる。ファリィラの母を呼ぶ悲痛な叫びが尾を引きながら去っていく。
ユーカナンの魔女狩り。ユーカナン国の暗黒史として残る、ある男の私怨に端を発する呪導師の迫害及び粛清。これにより、「ヴァーユール」と呼ばれユーカナンを呪的に支えてきた多くの女性呪導師達が、迫害によって命を落としあるいは国を去った。
ファリィラもまたアルドに連れられて国を出て行った。彼女が再び故郷の地を踏み、ヴァーユール」と呼ばれるようになるには長い歳月を要する。




