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男女恋愛法  作者: hiroki.is
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第1話・別れ‐その別れた瞬間のレシピの作り方

沙和音は、良真から別れ話を持ち掛けられた。その良真に何も言い返せなかった。言い返せなかったのではない。それは、ただの恋の魔法が解けた瞬間だった。

「男女恋愛法」がある。

沙和音は、男女恋愛法に一縷の望みを見つけた。そこには法律と言う謎の壁にある暗礁を乗り越えなければならない。

男女の恋愛に対して、法的制裁を望む沙和音の気持ちが揺れる日々が続く・・・

 もう恋なんってしたくないって、言わないよぜったい―――――――ぃ~ぃ。

そんな、何処かで聴いたようなセンチメンタルなフレーズが耳の傍で流れているような気がしながら、新堂沙和音しんどうさわねは街路灯やネオンサインが照らされた街中を1人で歩いていた。

 満面の笑みや幸せ感を漂よせ合いながら、目の前を行き交うカップルの数々を見送っていると、まるで自分なんかこの世に存在しないかのような、惨めな気持ちが胸を締め付けた。

何時かはこうなるだろうと思ってはいたが、突然の言葉が沙和音を奈落の底へと突き落とした。

「別にさあー、お前が嫌いになったとかじゃなくてさあー。何だか性格の不一致っていうかさあー。分かるだろう、そう言うのってさあー」

沙和音はその言葉を聞きながら、反論の言葉を探していた。

「なあ、俺さあー。近頃ストレス感じるんだよな。何ていうのかなあー。こう言うのって。何て言えば分かってもらえるのかなあー。俺も、あんまり良く分かんないけどさあ・・・」

付き合い出して、そろそろ1年5~6か月が過ぎる頃だろうかと、ふっと、沙和音の頭の中で今、目の前にいる相手の男との付き合いの月日を思い浮かべた。

拙論せつろん的に発する相手の言葉の数よりも、もっと多く何か言い返さないとっと、沙和音は返す言葉を模索した。

「ごめん!俺!俺さあー。他に付き合っている女がいるんだ。マジで好きなんだ。そいつがさあー!」

「そう・・・」とだけしか、沙和音は言葉に出せなかった。

笹谷良真ささやりょうまと付き合いだしてから、沙和音は良真のパーソナルティーに合わせようと自分なりに努力して来たつもりだし、自分の性格を変えようと真剣に悩んだ時期もあった。

「だからさあー。俺たち別れよう・・・本当にごめんな・・・ごめん!」

良真はそう言って、顔の前で手を合わせて、沙和音に向かって軽く頭を下げた。

その良真のパフォーマンスともデモンストレーションとも取れる主張に対して、沙和音は立ち上がって、両手でテーブルの上を強く叩いた。

その勢いで揺れたグラスを右手に取り、抗議の水を良真に目掛けてぶっ掛けたい衝動に駆られたが、それを思い留まった。

「何よーっ、それってぇー!」とだけ言い返した。

そして財布の中から、500円硬貨を1枚取り出して、テーブルの上に叩き付けるように置いて、沙和音は店を出た。後ろは振り返らなかった。良真が追いかけてくる気配は窺えない。

今日の仕事が終わってから会おうと、良真からラインが入った。良真が沙和音の会社の近くまで来ると言うので、沙和音はココアの美味しい店を指定した。

 その結末は、僅か4~5分間足らずの別れ話だった。もっと、何か言い返してやりたかったが、返す言葉が何も思い付かなかったし、こんな時に備えての返す言葉の準備さえしていなかった。

半年程前から、ぎこちない関係が続いていたが、良真は浮気なんてしたていない。仕事が忙しいからと、言っていた。その言葉を沙和音は信じていた。でも、その言葉は嘘だった。

嘘だったのか、それとも信じた沙和音が愚かなのかは分からない。

でも、人を信じていたという、思いが崩れ去った。たった今・・・

別れることは仕方がない。だからと言って、嘘で浮気を隠してきたことは許せない。

目指す目的がないかのように彷徨い歩いていると、冷たい微風が沙和音の顔に靡いてくる。その冷たさに、ふっと注文したばかりの温かいココアを飲みそびれたことに、ちょっぴり後悔した。口も付けづに残してきたココアには後悔したが、あんな男には後悔するもんかと、ギュッと握り絞めた拳を見つめる自分が、何故か悔しく思えた。

 何だか歩く足取りが重いのを感じた。その感じたこととは裏腹に、良真が好きだった自分の気持ちに偽りがなかったことを、強く沙和音は確信した。

しかし、良真は違った。最初から偽りの遊びのつもりだったのか考えると、腹の底から良真に対する怒りと悔しさが込み上げて来る。

頭の中が真っ白な状態とは、こんなものなのかと思っていたら、コートのポケットに入れているスマートホンが、着信音を奏でているのに気づいた。

発信者は、たった今、別れたばかりの良真だった。沙和音は一瞬、躊躇ためらったが画面を通話方向へと、ドラックした。

「はい・・・・」と、良真に対する憤りを隠すように平然を装って、言葉を発した。

《もしもし、沙和音・・・あのさーぁ。俺さあー。今の女と将来的に結婚するつもりなんだ・・・それでさあー。これから先に何かと物入りになるしさあー。悪いけどさあー。そのーぉ・・・お前から借りていた、5万円だけどさあー。あれって、俺の結婚祝いの前払いってことで、チャラでいいよな・・・》

混乱する沙和音の頭の中で、何かが弾け飛んだ。

「何よー、そんなーぁ勝手な話ってーぇ、!返しなさいよーお・・・!返してよーお!」

沙和音は、周囲の目も何もかも忘れて、大声で耳元から聞こえる良真の声に訴えった。

《でもさあー。お前が俺にお金を貸していた証拠はないわけだしさあ・・・沙和音、これからも元気でな。幸せになれよ・・・》

 良真は、沙和音の次の反撃を交わすように、一方的に電話を切った。怒りで震える身体を理性で固持するように、スマホを片手に呆然と立ち尽くしていると、沙和音は呟いた。

「あんな奴なんか・・・訴えてやるーうっー!」

今月は少しピンチだから、今度のボーナスが入ったら必ず返すからと言って、6ケ月前に立て替えてやった、良真のアパートの家賃代だった。

その沙和音の好意さえ無にして、せせら笑いを浮かべている良真の顔が、何度も目の前に浮かんでは消える。腹ただしさが増して、悔し涙をハンカチで何度も拭った。

あんな程度の男に、自分が〈恋〉という魔法に掛けられていて、今はっきりと、その恋の魔法から解かれたことを思い知った。

男に恋の魔法を掛けていたのは、女の自分方ではなかったのか。

いや、違う・・・

男も女も恋の魔法を掛け合って、一方の魔法が自然に解かれた方から、別れ話を持ち掛ける。たった、それだけの事なんだ・・・・

だからもう、そんな魔法には掛からないし、掛けもしないんだと、沙和音は自分の胸の中に強く言い聞かせた。


 夕刻のラッシュ時間帯の電車内は、帰宅に向かうサラリーマンや色取り取りに着飾ったOLなどの女性たち。そして、今は何だか懐かしく思える学生服を着た、今時の女子高生で埋め尽くされている。

女子高生か・・・部活やバイト帰りかなと、ふっとした逡巡が沙和音の心を和ませた。

そんな狭い電車の中の僅かな空間では、男にフラれたばかりの身では電車に身を任せて、揺られているのも辛い。沙和音は電車のドアに身体を預けるように持たれて、気が抜けた様な顔を通路の床に落として睨めっこする。そんな姿勢では首も疲れてしまう。

 何気なく、笑い声の聞こえる方向へと少し首を捩じった。女子高生の帰宅グループだろうか、その愛らしい笑い声に安らぎを覚えたところで、再びもう少し首を捻った。

すると、ルーフにから吊るされている車内広告が、沙和音の眼の中に飛び込んだ。何やら、女性週刊誌の広告のようだ。それに並んで文芸雑誌の広告も見られる。

女性週刊誌の広告には、相も変わらずに芸能ネタが濫立している。

 刹那、気になる文字が広告面に躍っていることに気が付いた。『人気女優キミノイズミ : ロック歌手Satoyaとの交際破局で勝訴! : 男女恋愛法で女優イズミからの慰謝料請求を認め、Satoyaに支払命令判決!』

沙和音は食い入るように、その広告を眼で追いながら黙読を頭の中で繰り返した。

「男女恋愛法・・・」と。

背後でシートの手摺に摑まっている、少し寄れたスーツを着た中年風の男が、沙和音を一瞥した。その一瞥を逸らすために、沙和音は持たれている扉の窓の方へと、顔を背けた。


 時刻は午後8時を少し回っている。電車から降りると冷たい空気に再び沙和音は顔を顰めた。そして、小さく吐息を1つ吐いた。

駅を出てゆっくりと自宅に方向へ向かって歩きながら、沙和音の胸中は1つの言葉が埋め尽くされて、幾度もその言葉を反芻はんすうしていた。

「男女恋愛法・・・」

そんな事を聞いたこともあるし、最近施行された法律だとニュースや新聞記事で知った。

「男女恋愛法・・・」

まるで電子機器が壊れて誤作動しているかのように「男女恋愛法・・・」と、胸中で呟いていると、何か光明が差し込んで来たかのように、沙和音の胸には感じた。

 コンビニの前で立ち止まり、ここで夕食を買うことにした。右手に持っていたスマートホンに、男女恋愛法を検索したキーワード画面を閉じて、コートのポケットに突っ込んだ。コンビニの店内に入ると、そこは明るい空間だった。

当たり前の話だが、店内が暗いコンビニなんて聞いたことがない。それでも、1人住まいの暗い部屋へ帰ることを思うと、コンビニの店の明るい光でさえも、沙和音の傷ついた心を癒してくれるのだった。

フルーツ入りヨーグルトとカフェオレ2本、そして食パンと念のための買い置きとして、チョコクッキーをカゴに容れた。それから、ブックコーナーに行って雑誌類を眺める。

『週刊Ladies‐plaza』を手に取ると、先程の車内広告で見た記事が特集として掲載されていた。

 その特集ページを捲って、見開きで大きく見出しタイトルの掲載された箇所に眼を通して見ると、『恋愛の正義を守る法律』と書かれている。若者層に圧倒的人気を集める芸能人の、ロック歌手と女性俳優との、交際破局を詳細に綴っているようで「男女恋愛法」の活字が所々に、沙和音の眼に付いた。その雑誌をカゴに容れて、レジに向かった。

コンビニを出ると、先程とはさらに外の冷気が強く顔を衝いたが、コンビニの店の灯りが空気の冷たさを遮ったような気が、沙和音には感じ取れた。

今は、目的を自分の部屋を目指して歩いている。男から一方的に別れを告げられた悔しさも、何故か今は影を潜めて、足取りも先程とは変わって、軽くなっていることに気付いた。

そればかりか、これから何か見えない新たな異性との闘いに期待感を募らせると、心臓がドキドキと鼓動を打ち沙和音を奮い立たせた。

「今に見てろよ~。この恨みは、必ず晴らしてやるからな・・・」

沙和音はポッソリと呟いてから、舌先ををペロッと出して苦笑顔を作って、自分自身を元気付けた。


 自分の部屋の前で、トートバックに入れているポーチから部屋の鍵を取出すと、良真の部屋の鍵が一緒に束ねてあり、その鍵をキーホルダーから外して自分の部屋へ入った。

「ただいま・・・」

小声で言っても、1人り住まいなので誰も返事はしてくれない。それでも、沙和音は外出から帰宅すると、口癖のように言ってしまう。その口癖は無事に帰宅できたことへの感謝と、安心感を言葉で表現しているのだろうと、沙和音は思う。

 部屋に入るとキッチンスペースの天井と、居住スペースのシーリングライトとフロアーライトの灯りを点けると同時に、ワンルーム生活での空虚感と、良真と別れてからの帰宅経緯までの塞ぎ込んだ気分を埋めてくれる。

 ローテーブルの上にコンビニ袋を置いて、化粧ドレッサーの脇にノーブランドのトートバックを置いた。キーホルダーから外した良真の部屋の鍵を掌でぼんやりと眺めてから、化粧ドレッサーの引き出しの奥に突っ込んだ。

 グレイーッシュピンクのコートと、トータルネックのセーターをベッドの上に脱ぎ捨てて、替えを持ってバスルームにシャワーを浴びに行く。冷えた身体に、お湯の温さが敏感に反応して設定以上の温度の熱さを感じる。

 沙和音は頭の天辺から降り注ぐシャワーに打たれていると、思い出に耽るかのように思考を巡らせる。良真とケンカする度に、私が悪いんじゃないかと思い悩んだ。そんな思いはただの杞憂でしかなかったのだ。熱しやすく冷めやすい。それが良真の本性だ。

でも、そういう私はどうだろうか。熱した良真に対する報復心は何時になったら冷めるのだろうか。それとも、この思いは良真に対するただの未練なのか。

その答えを沙和音は探したいと思った。

 頭から降り注ぐシャワーに打たれて眼を閉じていると、こんな事を考えるのは止めようかと、ふと、我に返ってみる。

その途端に、お湯の温度に身体が慣れてしまったのか、お湯がぬるく感じたので少し、お湯の温度を上げて、シャワーを浴びた。

バスルームから出ると、通販サイトで買った膝丈のルームワンピースを着て、冷蔵庫からブルーベリージャムを取り出した。沙和音は、帰宅途中で買った食パンにジャムを塗り付けて口に頬張る。

頬張った食パンを口の中で嚙みながら、化粧水とスキンクリームで肌を整えドライヤーで髪を乾かす。その作業の間も、食パンに手を伸ばして齧る。食べ物を口一杯に含んで、ドレッサーに向かっている姿なんて、家族や惚れた男にはとても見せられない。

 行儀が悪いのも1人暮らしの利点だと、沙和音は思う。人に見せられない場面なんて誰でもあるだろうし、人に見せられないからプライバシィーと呼ばれる。

楽天的な考えかも知れないが、帰宅後の時間の節約には有効な方法なので、これでいいのだと思っている。

 テレビのリモコンを手に取り、チャンネルを回す。特に見たい番組もなさそうなので、バラエティー番組にチャンネルを合わせた。食パンを取り、再びジャムを塗り付けてカフェオレを啜る。

その一連の流れの途中で『週刊Ladies‐plaza』をコンビニ袋から取り出して、気になっていた記事のページを開いた。

その記事を一読して要約すると、こんな感じになった。


『マスコミから結婚目前と騒がれていたテレビや映画・CMなどで圧倒的人気と存在感を誇る女優、キミノイズミと多くのヒット曲を持ち、他の歌手などにも楽曲を提供しながら活躍し、女性層からの指示が根強いロックグループのボーカリストSatoyaとの破局原因は、浮気癖と金銭の労費癖に改悛が認められない、キミノイズミからの三行半とも言うべき決別宣言をSatoyaに突き付けたことが、事の発端とさていれる。

キミノイズミは原告として、Satoyaと浮気相手の女性に対して慰謝料を請求する裁判を起こして、裁判所は、Satoyaと浮気相手の女性に計120万円を、キミノイズミに支払うよう命じる判決を言渡したと言う。女優キミノイズミと、ロック歌手Satoyaの交際が報じられたのは4年程前で、交際期間は恋人契約をした日から、約3年間。

交際の切っ掛けは共演したTVドラマで、他の共演者たち数名と食事を共にしたことから、Satoyaとキミノイズミは、急接近したと言われている。

その交際の間に、Satoyaの3回の浮気と借金問題が浮上したが、その都度、イズミは気丈に恋人であるSatoyaの浮気と借金説を否定していた。

借金問題についても、Satoyaの個人事務所やSatoya自らがデザインを手掛けるブランド品の店舗などの事業資金を投資家から借り入れている連帯保証人にキミノイズミがなっていることから、別れることはありませんと交際破局説を否定していた。

それでも、4回目の一般女性(25歳)との浮気が発覚すると、浮気癖から改悛しないSatoyaにキミノイズミは恋人としての堪忍袋の緒が切れたのか、Satoyaと別れることをを決心した。

そして、男女恋愛法違反(正確には、「男女の恋愛を誠実に追行し適切な恋愛の促進を図る法律」というらしい。)による恋人契約不履行により、Satoyaと浮気相手の一般女性に対して、慰謝料を請求する民事裁判を、キミノイズミが原告となり提訴したという』


 沙和音はこの記事を読みながら、食パン3枚とフルーツ入りヨーグルトを食べ終えて、空になったカフェオレのカップに差し込んだストーローの先を軽く唇で挟みながら、キミノイズミの気持ちを考えた。

それに、今の自分の気持ちを同時に重ねて考えたら男にフラれても、それなりに食欲はあるので失恋という事実には、そんなにめげていない証拠だろうと思った。

 しかし、この記事の内容は酷い話だと思う。幾度も浮気を繰り返して女を弄ぶ男の心理なんて、どうせ自分勝手な弁解に終始する男の女に対するエゴイズムだと、沙和音は思った。

そんな値打ちのない男と別れて、さぞや、キミノイズミもスッキリとしただろにと思いつつ、特集記事を繰り返して読み返す。

 男女恋愛法についての解説部分を食い入るように読み耽っていると、テーブルの上に置いているスマホから、ラインの通知音が鳴った。そのスマホの通知音に沙和音は、ふっと、我に返ってスマホを手に取ってラインをチェックした。

送信者は妹の美沙絵みさえからだ。沙和音は美沙絵からのラインメッセージを読んで、クスッと微笑んだ。


〈お姉ちゃん寒いね♪風邪なんかひいてない?ミサは来週から期末試験なので勉強中です☆ガンバって良い点を採らねば(^^)v。。だからお姉ちゃんもお仕事頑張ってネ。。試験が終わったらまた、食べ盛りのミサにご馳走してくれることを楽しみにしてマァ~ス(笑)。。。〉


美沙絵は高校2年生だ。沙和音とは4つ歳が離れているのだが、妹のくせに変にこんなメッセージで姉を励ましてくれる。もうすぐ12月になる。美沙絵は沙和音が通った同じ高校に在学している。

沙和音もこの時期には試験勉強で苦渋の思いをしたことがある。

勉強不足と思い知らされた試験の結果。今、その苦渋の思いとは別の苦渋の思いが、沙和音の心を揺さぶってくる。その揺さぶられている思いを美沙絵が、慰めてくれている様な気分になった。

沙和音は急いでメッセージを書いて、ラインを美沙絵に返信した。


〈そうね。ガンバって良い点を試験で採ったら美味しいご飯を食べに連れてくね☆だから暖かくして勉強に励んで、くれぐれも赤点は採らぬように(笑)〉


 沙和音は美沙絵にラインを送信すると、その動作により癒された気持ち、を瞬間的に感じとった。

時刻は10時を回っている。ベッドに脱ぎ捨ててあった衣類をクローゼットに仕舞ってから、スヌードを首に巻いて、倒れこむ様にベッドに横たわった。

おぼろげに、天井を眺めながら男女恋愛法の特集記事を黙考する。男女恋愛法が施行されたのは三年ほど前からだ。恋人同士になるとか、なろうとする男女は恋人契約を締結し、信義誠実の原則に従って男女の交際を履行しなければならない。

 信義誠実の原則とは、お互いが相手の持つ信頼や期待を裏切らないと言う法理のことらしい。その契約に違反した相手の一方は、慰謝料などの損害賠償の責務を負うことになるとしている。

原則として、男は一八歳、女は一六歳で恋人契約ができるとされているのは、男女が結婚ができる年齢に達したという条件を満たしていることが必要とされ、男女恋愛法は民法第731条の準用により婚姻年齢に達した時に、恋人契約ができるとされている。

 もっとも、未成年の場合は父母の一方か法定代理人の同意がなければ恋人契約はできないとされている。

その煩わしさからか、未成年や自由な恋愛を楽しむ若い世代にはあまり好まれている法律ではなく、男女の交際に対して、強制的に恋人契約を強いるものでもない。

また、各都道府県の市区町村では、交際している男女からの同時申請があれば「恋人証明書」なるものを交付してくれるらしい。

 強行法規ではないが、その反面、任意法規としての法律としての性格は、男女間の別れ話からの紛争を防止する目的がある。その男女の恋愛の破局原因からのもつれによる、怨念の恨みを晴らすためのストーカー行為を未然に防ぐ役割を果たしていると、記事には解説されていた。

つまり、恋人契約を交わさなくても当然に男女の恋愛は自由であり、恋人契約をするもしないも、その男女の自由意思に委ねられるのである。

 男女恋愛法のメリットは、恋人契約の破局原因を作った有責者から、恋人の一方を法律に基づいて保護しようということだ。

そのために恋人契約をしておけば、後々の男女間の紛争に役立ち、有責者から被った精神的苦痛を慰謝料を通じて、傷ついた一方の男女の心は補填ほてんされるし、男女共に平等の権利が与えられるということだ。


 法律って、何だか難しいイメージで固められているが、沙和音は自分の場合はどうなんだろうかと考える。別れることに、恋人双方に異議がなければ何も問題はない。

でも、良真と別れることになった原因は、私にではなく、完全に良真の責任だ。浮気と言う裏切り行為と、挙句には一方的理由による別れ話で、沙和音は精神的にも傷ついたと思う他はなかった。

 この傷ついた心は、やがて訪れるであろう最愛の恋を実らせるための、かてとなるのに必要なレシピ作りの素材の1つなんだと・・・

そんな思いを勇気付けるかのように、いつの間にか、あまり観ないテレビドラマから「世界で一つだけの花」が流れているのに、沙和音は気づいた。


第2話に、つづく。


「金貸しくんの快進撃ー悪戦苦闘の法律編」から、最新作の構想がようやく完成に近づきました。

揺れる沙和音の気持ちと、今どきの恋愛事情に著者なりのメッセージを込めました。

恋愛はジェネレーションとは、無関係にあるもの。

男と女が存在する限り、恋をし互いの異性の存在を認め合う。その認め合った関係は永久的なものなのか、それとも、一時的な関係でしか存在しないのか。

「男女恋愛法」とは何だろうか・・・

(著者(注)・「男女恋愛法」は著者の創作であり、実在する法律ではないことをお断りしておきます。)

なお、本篇は構想上は完成していますが、完結予定時期については著者の都合上未定です。

本年中には、最終話のアップを目指して頑張りますので、気長にご一読の程をよろしくお願いします。

本篇の第1話も著者の都合上、大幅にアップが遅れてしまいました。

又、本第1話も後々と加筆・訂正していきますので、誤字・脱字等のお見苦しい点はご了承ください。


著者補足。

読者のみな様からのレビュー投稿と、はてなブログのフォローをいただければ、著者としては幸いです。


ブログ:URL http://hiroki-is.hatenablog.com/

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