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幕間~気さくな王様の正体

【タローの掲示板】の効力が切れ、視界に再び色が戻ってくる。


とはいえ、この黒曜城はその名が示す通り、多くを魔力を帯びた黒曜石でできているため、彩りがあるというには程遠い。


その城の中枢、彼以外、誰もいない謁見の間で、漆黒の玉座に座するその男は凝り固まった筋肉を解す(ほぐ)ため、座っている姿勢を少しずらした。


内外にこの王ありと恐れられているこの男が、久方ぶりに緊張していたのだ。


それ程までに、先のあいだ空間に満ちていた魔力は凄まじかったのだ。

その魔力は、一個人がどうにか出来るものではない。

例えそれが、個体としては最強の力を持つ竜族であったとしてもだ。


―神の力

それは時として、この地上に生きとし生ける全ての者にとって、どうする事も出来ない天災の代名詞とも言える。


「ふん…、ケイオスフィラめ、次は何を企む?」


だが玉座に座るその男は、天災だとしても甘んじてそれを受け入れる者ではなかった。


既に、あのタローと呼ばれた異世界人に渡したものには、彼の魔力がしっかりと(にじ)み込んでいる。

かの者の場所を特定するのに、さほど時間は掛からないだろう。


あの者は贈ったものに何も疑問ももたず随分と感謝していたが、かなり暢気(のんき)な性根をしているのだろう。


「『アザース』とか言っておったな…。」

異世界の言語で感謝を示す言葉らしい。

あの者も、贈った物の価値はそれなりに知ってはいた口調だった。

それから察するに、この『アザース』という言葉は、最上級の謝辞を表す言葉なのだろう。


―こちらは混沌神の目論見しだいでは殺す事も考えているとは、考えもしていないおめでたい頭をしている男のようではあったが。


しかし彼自身、あの者を葬るつもりは、あまり考えていない。


おそらくあの者を殺したとしても、ケイオスフィラにとって大した痛手にはならないだろう。

また次の転移者(または犠牲者)を、送り込めばいいだけなのだ。

そして次は、もっと葬るのに手間の掛かる者が来るだろう。


ならば今のあの者を、己の手のひらで泳がせておいた方が得策というものだ。


ただそれだけではない。


おもわず本音を漏らしてしまっていたが、あの者との会話が楽しいと感じていた。


何の気兼ねもなく、しかもいくら喋っていても誰にも時間を(とが)められる事もない。

第一線を退いたとはいえ、彼の様な立場の者では、なかなか得られない機会ではあった。


かの者も、平和ボケしたといえばある意味、裏表のない人間とも言える。

おまけにあまり地位に拘泥するたちでは無いようだ。


なにしろ周りにいる者といえば、自分を恐れるか畏れる、それか隠した敵意を向ける者がほとんどなのだ。

彼の力や成してきた業績を知れば、誰もがそうなるのは仕方がない。


だがかの者は、そんなものを知る由もないのだ。

実に都合が良い!

しかも己の事を、こともあろうか『気さくな王様』と名付けるとは…。


おもわず口の端が上がってしまっていた。


『…おや、王が笑みを浮かべるとは。

何十年ぶりですかな?』

いきなり何もない空間から人の声が聞こえた。

「アガーシャか…。」


その声に驚く事もなく、王と呼ばれた彼が正面の空間を凝視する。

するとその場が蜃気楼の様に揺らいだかと思うと、次の瞬間には一人の男が片膝を屈した状態で現れた。

「…御意に。

王の命により、馳せ参じました。」


アガーシャと呼ばれた男、この者こそ王の右腕とも呼ばれる彼の幼年より付き従う、彼が最も信頼をおく部下であり、友人であった。


「お前を呼んだのは他でもない。

アガーシャよ、おぬし、将軍職を辞する気は変わらぬか?」

「は、我が王に従いまして数百年、幾多の戦場を共にしてきましたが、寄る年波には勝てず…。

息子も何とか、一軍の将として及第点を出せるようになりました。

そこでそろそろ楽隠居をさせてもらおうかと、思うた次第でございます。」

「寄る年波とはよく言いおる…。」


つい先日、自分の領内を脅かしていた氷竜を、一刀のもとに首を斬り飛ばした事は王の耳にも入っていた。


「まあよい、おぬしが一度決めれば余でも変える事が出来ぬ頑固者なのは、かくいう余が一番知っておる。

…で、おぬし、隠居したあとは、どうするつもりだ?

まさかテラスで茶を啜る毎日を送る気でもあるまい?」

「まあそれも良いかもしれませんが、しばらくは諸国を漫遊したいと思うております。

(いくさ)続きの毎日でした故、ゆっくりと周囲を観るヒマもありませんでしたので。」


アガーシャがそう答えるのを、王は半ば確信していた。

幼い頃からの付き合いだ。

この男の考えは手に取るように解っており、思った通りの答えを聞いて王は心の内でほくそ笑んだ。


「どこかの大店(おおだな)の隠居とでも偽って気の向くまま、旅の日々も良いかと思うております。

丁度、うちの若い者で二人、見所ある者がおりましてな。

そやつらに見聞を広めさせてやろうかと、考えておったところでして。」


…ご隠居さまに、お付きが二人。

どこかの時代劇にいるような組合わせだ。

太郎がその場に居れば、激しくツッコミをいれたかもしれない。

おまけにうっかりなお調子者と、忍びの者がいれば完璧かもしれない。


―それは一先ず置いておいて…、王は臣下で親友のその話にひとつ大きく頷く。


「うむ、ならば丁度よい。

実はおぬしがそう言うのであれば、余からひとつ、頼み事を願いたかったのだ。」

「ほう…、いかような事でありましょうや?」

「一人の男を、見定めてきて欲しい。

というのは、その者、かの混沌神ケイオスフィラが、異界より喚び寄せた者らしいのだ。」

「っ!

あの、厄神でありますかっ?!」


ケイオスフィラの名前が出た瞬間、アガーシャから抑えきれない殺気が(ほとばし)る。

気の弱い者が近くにいれば、それだけで気を失っていたかもしれない凄まじさだった。

だが王は、そんな殺気など意もせず話を続ける。


「そういえばおぬし、フシャラハン戦役で、かの混沌神に随分と煮え湯を飲まされたのだったな…。」

「…お見苦しいところを、お見せ致しました。

で、私はその転移者とは、いかような者なのでしょうや?」

「うむ、というのはな…。」


瞬時に殺気を消し去ったアガーシャに、王は今までの経緯を説明した。


……

「…解り申しました。

王からの命、この老骨、つつしんでお受けいたしまする。」

「うむ、頼んだ。」


そこで(こら)えきれなくなったようで、小さく肩を震わせながらアガーシャは押し殺して笑った。

「フフフ!

それにしてもまさか、かの『極北の魔王』と呼ばれる王を、『気さくな王様』と呼ぶとは…、クフフハ!

万が一、うちの倅の耳にでも入れば、間違いなく首を飛ばしに行きますぞ。」

どうやら太郎は、知らない所で命拾いをしたのかもしれない。


「ふん、人にそう呼ばれると、あまり面白いものではないな。

…まあ解っておると思うが、此度の事は内密にしておいてくれ。

余にとっても、その方が都合の良いのでな。」

「は、畏まりました。」

「あと、余からも手練れの"野伏"を付けてやろう。

探索には重宝するはずだ。」

「ありがとうございます。

…早速、出立の手配を致しましょう。

では、これにて…。」

そう言うやアガーシャの姿は、またもや蜃気楼の如く消え去ってしまった。


『万里走のアガーシャ』―レベル5の転移魔法を操る、魔族でも有数の戦士の別名通りの素早さであった。


そしてアガーシャが言った『気さくな王様』こと、『極北の魔王』。


この世界で強大な力を持つ種族、魔族と呼ばれる者達の中で更に最高位の力を持つ者だけに与えられる称号『魔王』。


その中でも畏怖をこめて『極北の魔王』と呼ばれる魔族の王が、『気さくな王様』の正体であった。


2m近い偉丈夫に、禍々しくも雄々しい牡鹿の様な大きな角を頭上に抱いた彼は、往年には最も世界制覇に近い男とさえ呼ばれていた。


そんな男を『気さくな王様』と名付けてしまった太郎は、いつか彼の正体に気付く日が来るのだろうか?

なんだか気付いた日が、太郎の命日になりそうな予感がしないでもなかった。



―次回!

トンデモ魔王様から頂いた、骸骨戦士の無双が始まる!

あら?太郎のチートはどうなったの?

数年前からこんなのを書いてます。

生まれて初めて投稿した作品です。

よかったら、こちらも見てもらえたら嬉しいです。


『スマホのカード使いに転生しました!』

http://ncode.syosetu.com/n5440ca/


いつも読んで頂いてありがとうございます!


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