タローのアイテムボックス
日本のサブカル、とりわけゲームを思う存分楽しみたいがためだけに、混沌の女神と称する、駄女神から自分の人生を横取りされ、右も左も解らない異世界へ飛ばされた修多羅太郎、19才(浪人・彼女なし)。
駄女神からはほとんど何の説明もなく、ネタスキルとしか言い様のない【タローの掲示板】も効果?時間が終わったらしく画面が勝手に閉じてしまった。
ちなみにもう一度スキルを開けようとすると、
『次の使用開始可能まであと【06:12:58】』
との表示が出るだけだった。
最後の一桁目が一秒毎に減っていってるようなので、たぶん次に使えるのは6時間と少し先になるみたいだ。
まあ6時間後にあの駄女神が、再び対応してくれるかはかなり怪しいものである。
なにせ、かのステルスゲームは大作である。
しかも1作目から始めちゃったりしていたら、どうなることやら。
どちらにせよ、数時間後にはどハマりしていることは間違いない。
「はあー…。エライことになったなあ。」
1時間も前には普通に買い物をして、さて晩御飯の段取りをどうするかと考えていた(あれ?受験勉強は?)のが、まさかの異世界転移モノに巻き込まれたのである。
「兎に角、一番使えそうな【アイテムボックス】Lv Master!から調べてみるか!
なんせこういう場合、まごまごしてると、狼とかゴブリンとかに襲われるのがパターンだからな!」
太郎、またそう言うフラグを立ててしまうのか。
「…なになに…、ふむ、…いやーやっぱりコレは使えるな!
あの駄女神、ちゃんと解ってるじゃん!」
スキルに触れて説明を求めると、そのスキルについて脳内に直接メッセージが浮かび、教えてくれるようだ。
親切設計である。
それによると―
・【アイテムボックス】内に入っている間は、時間が停まっている。
・またいくら重たい物を入れても、それが使用者に影響することは無い。
・生きているもの、または高位の意思を持ったアーティファクト等は入れる事が出来ない。
・収容には、体のどこかが対象に触れていないといけない。
・スキルキーに触れているだけで、収容してある物が頭の中にに表示される。(ただし同種類99個×99種類まで)
・【アイテムボックス】は空間魔法の一種だが、MPは必要としない。
またスキルは全て6レベルまでであり、Master!レベルが6レベルとなる。
スキルはレベルアップをする毎に、効果や範囲、能力が増えていく。
【アイテムボックス】もそうであり、Master!レベルではこうなる。
・収容量は、感覚的に1,000m3(立方㍍)くらいまで。
・収容した物を取り出す時、その内容物に分別して取り出せる。(ただしその内容物をある程度概念的にでも知っていないといけない)
・取り出す際、入っている物の出現範囲は、目に見える所まで。
「こうゆうのって、チートなら無限大とかが普通なんだけどなー。
…収容能力に制限があるのかー。」
太郎、残念そうにしているが、1㎞立方といえばちょっとした小山がすっぽり収まる容量なのを解っているのだろうか。
とは言えその内容は、太郎が読み漁ったラノベ主人公らが有していた、異次元収納の能力にほぼ匹敵するものである。
太郎が駄女神を『解ってるじゃん!』と言ったのも、その辺のお約束をふんでいるからなのだろう。
「とりあえず実験してみよー!」
そう言うや足元に転がっている小石を拾い、アイテムボックス~と念じてみる。
「おおっ!消えたっ!」
手にした小石が、まるで手品のように消えた。
と同時に頭の中で、【アイテムボックス】内に『〈小石〉× 1』と記録されたのが理解できた。
取り出す方も問題なく、また手のひらに小石が現れた。
異世界へ来て、自分が魔法?を使えたことに興奮する太郎。
「よし、じゃあ一先ずこれを入れておくか。」
次に太郎は、肩に掛けていたエコバッグを収める。
エコバッグには、『スーパーひろや』で買い物をしたのが大量に入っていて、かなり重かったのだ。
なにせ調味料などは、ほとんどを徳用サイズで買っているので。
しかも今日、『スーパーひろや』は、一部の調味料などが特売日でもあった。
太郎は、そういった時を小マメにチェックするタイプであった。
主夫か。
つーか、そんなチェックをしてる時間があるなら、単語のひとつでも覚えとけと言いたい。
やはり本人に、浪人の自覚は薄かったようだ。
とは言え、異世界に連れて来られてしまった今となっては、浪人も何もあったモノではない。
生き残れるかどうかの、サバイバルのはずである。
―そして早速、その試練がやって来たようである。
太郎のいる草むらの前方、40~50m向こうから、ザザザァっと何かが草を分けながらやって来るのが見える。
その数4つ。
草むらは、背丈が太郎の腰より少し上くらいあり、こっちに向かって来ているモノはそれより高くない様で、どのような姿をしているかは太郎の場所からは見えない。
ただ「ギャッギャッ!」だの「ギーグェッ!」だのといった耳障りな鳴き声が聞こえた。
ただし太郎にはその鳴き声が、別の意味をもって聞こえたのである。
『ニンゲンノニク、ヒサシブリごぶっ!』
『デモ、ヒョロット、シテイルごぶっ!』
『デモ、スジバッテ、ナサソウごぶっ!』
「おおう…。」
はからずももう1つのスキル、【言語理解】が効力を発したようである。
「こいつら、たぶんゴブリンだよな…。」
語尾に『ごぶ』と付くのは、ゴブリンのお約束である。
というか【言語理解】Lv Master!は、モンスターの言葉まで翻訳してしまうようだ。凄すぎである。
あとこの調子なら、豚面のモンスター、オークの喋る語尾は、『ブヒ』とか言いそうである。
いやもう確定か。
「と、とと、とにかく逃げなきゃ!」
たたかう
じゅもん
どうぐ
にげる←
太郎のコマンドは、『にげる』一択のようだ。
ヘタレか。
いや武器も何も無い、レベル2の町人(又は料理人)では当然の対応かもしれない。
だが太郎の選択は、行動に移す前に潰されてしまっているようだ。
『オ前ラ!モット騒ゲ!アイツノ後ロニイル、仲間ヲ気付カセルナごぶっ!』
『ゲッゲッ!りーだーヤッパリ、アタマ、イイごぶ!』
『ユダン、シタトコ、ウシロカラ、ズブリッごぶ!』
どうやら一匹、知恵の回るヤツがいて、そいつがリーダー格のようだ。
他のゴブリンより流暢に言葉も喋れるようである。
そしてそいつのせいで、太郎の逃げ道は塞がれてしまったようだ。
『モンスターにまわりこまれた!にげられない!』な状況のようである。
いやこの状況は、『モンスターはまわりこんでいた!』か。
いや、どちらでもいいか。
「うっ、うわっ?!
ど、どどどうしよう?!」
慌てる太郎。
【言語理解】Lv Master!のお陰で、不意討ちのバックアタックは防げたが、要は逃げられないのが判っただけというのが悲しい。
「……こ、こうなりゃ、ぶっつけ本番でやるしかないよな…!」
太郎は何かを決心したようだ。
そうこうしている間に、前方のゴブリン共はもう10m程まで近付いて来た!
既にチラチラと濃緑色の肌色や、武器らしい錆びた剣や棍棒が見え隠れし始めてきている。
「…上手くいってくれよ!
うっりゃーー!!」
そう叫びながら、太郎は土下座をした!
―次回!
太郎は土下座で謝りたおして、ゴブリンに許してもらったのか?!
あと掲示板、二人目の住人が登場するかも?
数年前からこんなのを書いてます。
生まれて初めて投稿した作品です。
よかったら、こちらも見てもらえたら嬉しいです。
『スマホのカード使いに転生しました!』
http://ncode.syosetu.com/n5440ca/
いつも読んで頂いてありがとうございます!
もし面白いと思っていただけたら、下の『勝手にランキング』をポチとお願いいたします!