太郎と双子の魔族
「人族の男もケダモノだったのね。
てっきり獣族だけかと思ってたわ…。」
「い、いや、あのね…。」
太郎、言い訳を繕おうとするが、時既に遅しである。
伸びきった鼻の下が、全てを語っている。
ある意味、現行犯だ。
―くっ!どうすれば挽回出来る?
太郎、必死で何かないかを考える。
「くうぅ~…。」
その時、双子姉妹の方から、何か可愛い音が聞こえてきた。
主にお腹辺りから。
「―っ!」
おもわずお腹を押さえて、顔が真っ赤になる。
―ああ、やっぱりお腹空いてんだろうなあ。
太郎、昨晩の夕飯の事を思い出して苦笑する。
昨晩の夕飯はクルトが作ったのだが、少しのくず野菜と干し肉を煮込んだものと、限りなく硬い黒パンが少々であった。
あとクルトは料理の腕がダメダメであった。
それに味覚も絶望的なようである。
『要は火が通っていて、食えればいいんですよ!』などとほざいていた。
ありていに言うと、メシマズ男だ。
量も限りなく少なかった。
どうやらクルト、食費をケチっているようである。
作る料理の調味料もケチって、ほんのひとつまみの岩塩らしきモノしか入れていない。
現代日本の食料事情に、慣れきった太郎の口には合うはずもなかったが、何とか食べきった。
だがこの世界の食料事情では、それほどヘタクソの内には入らないのだろうか。
奴隷のお姉さん達は不満げな顔をしていたが、それを口に出すことなく食べていた。
それより量をもう少し、増やしてもいいだろうと太郎は思った。
魔族の双子姉妹は、あきらかに今までろくに食べてきていなかった様子だ。
頬が痩せこけ、今までがどんな食生活をしていたのか、衣食住が満ち足りた日本にいた太郎には想像もつかない。
クルトのメシマズ料理でも一瞬にして食べてしまっていて、空になった鍋を物欲しそうに見ていたのだ。
まあ奴隷にだけ食わさないとか、差別をしていないのには、太郎もひと安心していた。
腹を空かした人の横で、自分達だけガッツリ食えるほど太郎は気が強くない。
―面の皮は厚いようだが。
それより、あの量であれば、彼女達のお腹が鳴ってしまうのも無理はないだろう。
「あっ!
そういやアイテムボックスにいいものあるじゃん!」
太郎、何か閃いてスキルの【アイテムボックス】を開く。
「イチゴミルクキャンディ~!」
某ネコ型ロボットの声まねをしながら、【アイテムボックス】から取り出した。
ちなみにビミョーに似ていると、友人達にはそれなりににウケていた芸なのだが、もちろん目の前の少女達にウケるはずもなく、不思議な顔をされている。
異世界の人間にウケるはずもないのが判っているのに、それをやってしまうのが太郎という男である。
さて太郎が【アイテムボックス】より取り出したのが、昔から親しまれている某社から発売されているイチゴミルク味のキャンディーである。
練乳をかけたイチゴの味がする、お馴染みの飴だ。
太郎、これを夜中の疲れた時なんかに口にするのが好きで、ちょうど切らしていたのを思い出して買っていたのだ。
夜中の糖分補給といっても、受験勉強ではない。
たいていはゲームにハマって、徹夜した時のエネルギー補給用である。
舐めながらなので、コントローラー操作の邪魔にならないのだ。
あと太郎は浪人だったはずだが、もう今さらである。
「これ、食べる?」
太郎、袋を開けて中の飴を取り出して、双子にみせる。
「…な、なによそれ?」
双子の片割れの少女は、警戒している。
今まで(彼女達からすれば)見たこともないピカピカした袋、そしてこれまた見たこともないカラーリングをした包装紙に包まれたモノなのだ。
怪しむのも無理は無い。
ガサガサいう音ひとつひとつにビクついている。
「あ、イチゴミルク味の飴だよ。
ほら、別に変な物じゃないし。」
太郎、自ら包装を開いて口にしてみる。
「あめっ?!
あめって、あの甘~いっていう食べ物のことっ?!
わたし食べたいっ!」
太郎の"飴"というワードに思った以上の反応をみせたのは、今までもう一人の少女に守られ、一言もしゃべらなかったもう一方の少女だ。
「え?
飴、食べたこと無いの?!」
驚く太郎に、その少女は飴に視線が釘付けになりながらふんふん頷く。
「うん、村のお祭りなんかで、子供たちが口にしてたのを、見たことはあるんだよ~。」
…どうやらこの双子は、魔族の村ではヤヤコシイ立場にあった様子である。
実は昨日から太郎、双子に色々と質問しているのだが、警戒されているのか、ほとんど質問に答えてくれていないのだ。
太郎、通訳としては完璧なのかもしれないが、ネゴシエーターとしてはお粗末さんなようだ。
ただ、気の強そうな双子の一方から、『逃げてきた』としか聞き出せていない。
なんと彼女達の名前もまだ、教えてもらえてないのだ。
まあ昨日は、彼女達の美少女っぷりにシドロモドロになって、かなり怪しい口調になっていた。
それでもって更に警戒されていたのだ。
太郎、ナンパももちろんしたことが無い。
童貞男の悲しさであった。
一晩経って、なんとか普通に話せるようになってきたが、それでも内心はドキドキなのだ。
「ちょっと!
毒でも入っているかもしれないわよっ?!
見てよ!
こんな包み紙、私見たこともないわ!」
「だいじょうぶだよ~。
わたし達に、毒なんか与えても意味無いよ~?」
「で、でもこいつ、ずっといやらしい目で私達を見てたわ!
それにさっきまで、女の人の裸を食い入るように見てたし!
きっと変なクスリとか入ってるのかもっ?」
「え~?
確かにえっちな顔はしてたけど、わたしにはそんなクスリを食べさせる度胸のある人には見えないよ~。」
「そ、そりゃあ、確かに小心者っぽいけど…。」
「うん、少なくとも悪い人じゃあないと思う~。」
ちなみにこの会話、太郎の目の前でしている。
しかも別に声をひそめて喋っている訳ではない。
太郎、双子の美少女達には完全にエロ男認定済で、ついでにヘタレ確定済のようである。
「せめて俺に、聞こえないように言ってくんないかな…?」
なにげに太郎、凹んでいた。
「それよりっねえっ?!
そのあめ、食べていいの~?」
「うえっ?えっ?
あ、ああうん、どうぞ。」
「あっ!ちょっ…。」
片方の少女が躊躇している間に、素早く手を出してくるのにおもわず反射的に飴を手渡す太郎。
「…ふっはあああっ~!」
飴を口に入れた途端、びっくりした顔で両頬を手で押さえる少女。
そうしないと、美味しさで頬が落ちてしまうんじゃないかと思ってるみたいだ。
「おいしいいよおおっ~!
ねえっ?
あまいっ?!
これが本当にあまいっていうんだ~!」
「えっ?
ああ、そ、そう!
うん、これは甘い飴だけど…。
…えと、今まで甘い物食べたことなかったの?」
「ううん~、年に一回くらい、少しお芋が食べれるけど、これはその何倍もあまいよおお~。」
「な、なんか不憫な生活だったんだね…。」
「ん~、そうなのかな~?」
どうやら彼女にとって、それが普通だったようだ。
「私達は村では、"特別"だったの…。」
もう一人の少女が、呟くように言葉を吐いた。
その表情からその"特別"が、良い意味ではないのが分かる。
「…えーと、その"特別"って?」
「……。」
少女は答えない。
それを知るには、太郎はまだ信用されていないのだろう。
「あーおいしかった~!
世の中には、あんなおいしいものが有るんだねえ~。」
太郎と少女の重い場をぶち壊す様に、双子のもう一人が嬉しそうに会話に入ってきた。
「ごちそうさま~!
ありがとうね~。」
そう言ってペコリと頭を下げる。
しかし彼女の下げた先には、キャンディーの袋がしっかりとロックオンされていた。
「…はは、もう1つ食べる?」
太郎、苦笑しながら飴を、もう1つ少女に渡した。
「本当にっ?!
うれしい~、ありがとう~!」
太郎から飴を受け取るや、素早く口に入れる。
「~~!」
そしてまた両頬を手で押さえながら、嬉しそうに身体を左右に振っている。
この双子の姉妹、こっちの方は楽天的で、もう一人の方は苦労性の様に見える。
「…ねえ、本当にいいの?
甘いお菓子って、人族でも高価なんじゃないの?
私達、魔族だよ?
それに他人の所有の…奴隷なんだよ?」
双子の苦労性の方が、不思議そうに太郎に訊いてくる。
「え?
い、いや、そんなに高いもんでもないし。
…ほらっ!お腹空くとイライラするっしょ?
そういう時は、やっぱり甘いモンだし!」
太郎、彼女の質問の答えになっていない。
太郎、美少女とやっと会話出来て、実はテンパっていたようである。
ここは、『美少女には笑顔が似合うんだよ!』とか言ってみればいいのだが、もちろん太郎にそんな芸当は無理である。
「は、はいっ!
君もどぞっ!」
テンパりを誤魔化すために、少女にも飴を手渡す。
「……。」
少女は暫く飴をじっと見詰めていたが、隣にいる片割れの幸せそうな顔をふと見て苦笑いをする。
「…ま、まあ?
くれるっていうのを、無下にするのも何だし?
仕方無いから、もらってやってもいいわよっ!」
「なっ?!」
―こいつっ?!
素で言っているのかっ?!
天然モノのツンデレさんなのかっ?!
今のは幻じゃあないよなっ?!
どうやら苦労性に見えた双子の片方は、リアル天然ツンデレ娘であったようだ…。
―次回!
魔族の双子美少女達の設定が判る!
あと久しぶりの掲示板を、太郎が発動する。
そこで新たな掲示板の力が判るぞ!
数年前からこんなのを書いてます。
生まれて初めて投稿した作品です。
よかったら、こちらも見てもらえたら嬉しいです。
『スマホのカード使いに転生しました!』
http://ncode.syosetu.com/n5440ca/
いつも読んで頂いてありがとうございます!
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