表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕の恋人

作者: 澤波 香織

「出来た」

 彼は満足げに筆を置くと、描き上げた物を僕に見せた。

 真っ黒な紙に白い線で模様が描かれている。

「これは何の絵ですか?」

 彼は、好きな物を好きなように描く。それは何かすぐに分かる絵もあれば、今回のように、教えてもらわなければわからない物もある。

 前に、僕の目や口をかなりのアップで描いたこともある。その時も辛うじて目とか口だというのはわかっても、それが僕のものだっていうのは、教えてもらわなければわからなかった。その絵は、この家に飾られている。アトリエには目、寝室には口。少し照れる。その後、鏡を見ながら描いたと言って、彼は、自らの双眸を描いて、僕にくれた。自室に飾ってはいるけど、かなり気になる。正直、かなり恥ずかしい。でも、外したくないって思っている。

 その、光の加減によっては金色に見える目が、僕をじっと見つめて、笑みを形作る。

「これは、蕎麦の絵だ」

「蕎麦?」

「そうさ。真っ黒い蕎麦の上に溶かしたゴルゴンゾーラチーズを、絞り袋に入れて、模様を描いた」

 蕎麦にゴルゴンゾーラは合わない気がする。

「さっそく、夕飯に作ろう。そうとなったら買い出しだ」

「いや、それは何でも・・・・・・」

「心配すんなって。旨いはずだから」

 彼はいそいそとコートを着込み、僕の作ったマフラーを巻いて、ポケットに財布とスマートフォンを突っ込む。

「だからお前は、安心してこれを出版社に届けてこい」

 A4サイズの封筒を僕に渡す。これが、彼の仕事の成果。本の挿絵を描いている。僕は、そんな彼の担当。

 この封筒の中は、さっきの絵とは違って、こちらから指定した通りの絵が入っている。仕事はきっちりとする男である。

「蕎麦にチーズは・・・・・・」

 彼は僕の言葉を無視して、僕のコートとマフラー、鞄を持つと、僕を玄関に押していく。

「さっさと渡して、早く帰ってこいよ」

 何を言っても無駄だと、僕は諦めて、コートを着る。鞄を受け取り、マフラーは彼が巻いてくれた。

「出来た」

 満足そうに笑う彼に、僕は言う。

「行ってきます」

「あぁ」

 彼は、そう言って扉を開けた。


**********


 2時間後。

 僕は食卓にいた。目の前には蕎麦。あの絵のように白い線が蕎麦の上に描かれている。と思う。麺の上では、紙のようにはいかず、所々線が途切れている。

 白い線を見ると、あることに気がついた。

「これって、大根おろし?」

「そう。流石の俺でも本当にチーズは乗せないよ。何?信じてたの?可愛いなあ~」

 彼はにやにやと笑っている。

 恥ずかしい!

「照れてる顔、いいな。今度描こうかなでも、描くなら、やっぱ、ベッドの・・・・・・」

 完全に、僕のことからかって遊んでいる。

「知りません!」

 僕は、大声でそう言うと、蕎麦に箸をつけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >アトリエには目、寝室には口。少し照れる。 ここの文章がすごくツボで、読んでいてじたばたしてしまいました。 >鞄を受け取り、マフラーは彼が巻いてくれた。 こことかもね! [気になる点] 締…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ