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某国の物語  作者: 翠凛
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某魔術師の言うことには。

「とあるメイドの言うことには。」に出てきた彼視点のお話です。ひたすら、彼が語ってます。良かったら聞いてやってください。

 生まれたときから、俺の人生は決まっていたらしい。「体に流れる血で職業が決まる」――なんでそんな家に生まれてしまったんだと思った。でも子供は親も家も選べない。だから、諦めるのも、受け入れるのも周りの大人を見てれば、案外早かった。面倒なことは嫌いだったから。

 でも、そんな風に大人ぶって受け入れる自分の中には、子供のように駄々をこねるもう一人の自分もいた。逃げ出したい、遠くへ行きたい、自由に生きたい、もっと平穏な暮らしをしたい、誰のことも傷つけることなく生きていたい……と。望んでもいないこんな力は消えてほしいと思う夜なんて何度もあった。この髪もこの目も無くなってほしい。そうしたら俺は違う人生を歩めるのだから。

 だからいつも心の中は、大人の自分と子供の自分の戦場だった。


 一族の中でも特別素質があるらしい俺は、小さい頃から強制的に行わされていた訓練などの成果もあってか、魔術学校も好成績で卒業し、気付けば宮廷の魔術師としての任に就くようになっていた。

 そして周りは、「聖なる魔術師」と俺のことを呼んでいた。なんだその名は、と思った。結局人は見た目で騙される、小さい時に覚えてしまったこの作り笑いはこんなことにまで影響してしまうんだなと、常に笑っていなさいという母の言いつけを守ってしまった自分を後悔した。


 でも――。あの日出会った彼女は違った。誰もが頬を染める俺の笑顔を、彼女だけは胡散臭そうな目で見ていた。だから、彼女のそばにいるのはすごく安心できた。平穏で、静かで、それなのに飽きなくて、毎日が楽しくて、ああ、これが俺の求めている時間だと思った。


 お淑やかそうな見た目に反して、彼女はよく動く、そして平気で危ないことをする。彼女の動きすべてが、そばにいなきゃいけないという使命感を与えた。だから、空いてる時間は必ず彼女のそばで過ごした。大切な彼女が、危ないことをしないように、突然俺の前からいなくならないように……。


 彼女は俺がちょっかいをかける度によく怒った。でもその後小さく笑った。誰にも言えなかったことを笑い話のように告白した日も、怒った顔をして、魔術師なんかやめてしまえばいいと言ってくれた。思わず涙が出そうになって、俺は笑って誤魔化してしまったけれど、その日彼女への気持ちが確かなものになったのは彼女は知らない。ずっとずっと彼女のそばでこんな毎日を過ごしていたい、そう思った。

 

 それなのに。魔王はふざけたことをやってくれた。突然第二王女が攫われたのだ。


 魔王討伐なんて、最悪だと思った。第二王女なんて知ったこっちゃないと。彼女の方が大事に決まってるだろ、馬鹿か、そう心の中で罵ったけれど、立場が立場だっただけに断ることもできず、討伐に行くことになってしまった。彼女に伝えるべきか悩んだけれど、彼女に会ってしまったら、ますます動きたくなくなる気がして、会うのはやめた。なんだかんだ言いながらも彼女は優しいから、きっと知ってしまったら心配するだろう、だから討伐に行くことも伝えなかった。

 その変わり、何が何でも帰ってきてやる、身の危険を感じたら魔王も王女も部下も何もかも放置して、彼女の元に絶対行ってやる、と決意して、俺は旅立った。



――その時は、まさか力を失うことになるなんて思いもしなかったのだけれど。



 魔王討伐は、何とか無事成功した。そう、何とか……俺の魔力をギリギリまで使うくらいには。魔術師の間では、髪は特別な力を持つと言われている。つまりは、魔力に代わる力を持つと。だから、体内の魔力が限界に達しかけた俺は、自分の髪を対価にして、魔力の補充をし、とどめの攻撃を魔王に与え、任務を終えた。

 その結果、俺の髪は銀色ではなく、枯れ葉のような色になった。そして、今までのようには力を使えなくなった。「聖なる魔術師」では、なくなった。


 その後は、俺の可愛い奥さんが話した通りだ。え?奥さんって誰のことって?

そんなの決まっているじゃないか、俺がそばにいたいと願ったあのメイドの彼女のことだ。

 本当は、俺が帰ってきたときの、彼女がどれだけ可愛く見えたかを教えてやりたいが、そろそろ彼女のそばで眠りたいので失礼する。


 とにかく俺は今とても幸せだ。子供の自分が大人の自分に勝ったこの今をずっとずっと大切にしていく。



FIN?






ここまで読んでくださってありがとうございました!次は、魔王か、王女か、あの婚約者か、まだ思案中です。また、お会いできますように!

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