某メイドの言うことには。
ついったーでぶつぶつ言ってたのが始まりです。ぷらいべったーに投稿したものに手を加えました。主に語り口調になってるので、テンポが悪いと思いますが、読んで頂けると幸いです。
寒い季節を越えて暖かくなった頃、我が国の第二王女様が魔王に攫われたという知らせが国中に広がった。慌しい王宮の中で、清掃担当メイドである私がまず第一に思ったことは、第二王女様の心配ではなく、あの人のことだった。
ひとはあの人のことを聖なる魔術師だと言う。日が当たるとますます輝く銀の髪、海を連想させるような蒼い瞳、どんな人相手でも笑顔で手を伸ばす紳士的な振る舞い、次の代の魔術師長を期待されるほどの能力……などなど王宮の人間だけでなく国中の人間はそう噂する。でも私にとってあの人は意地悪な人だった。
ある日、干していた洗濯物が風で飛ばされてしまい、大きな木の枝にひっかかったことがあった。その時周りには誰もいなかったから、私は脚を隠すメイド服のスカートを思い切りあげて、木の窪みに適当に足をかけ、さあ得意の木登りで取ってやろうと力んだ――けれど。それを阻止するように突然風が強く吹いて、私はその激しさに目を閉じ、木からも手を離して元の位置に着地した。しばらくすると、ぴたりと風はやみ、目を開けると視界いっぱいに求めていた洗濯物があった。被るように自分を覆っていたそれを慌ててとると、目の前に光り輝く銀の髪を後ろでひとつにまとめ、にっこりと笑う蒼い目をした男がいた。正直、胡散臭そうな笑顔だと思った。でもだからこそ分かった。今まで遠目でしか見たことがなかった噂の魔術師が目の前にいたのだ。――そう、彼が私の言うあの人。そしてこれがあの人と私が初めて出会った日の話。
「お転婆なメイドがいたもんだね、でも危ないことはしたらだめだろう?怪我をするよ」
そう言って、あの人は蒼い目を細めて笑った。でも、小さい頃から怪我なんてあたり前だった私にはなんてことないことだった。それを言ったら、あの人は呆れた顔をして、また笑った。でもその笑い方は胡散臭くなかったから少しだけ驚いた。
それから何故か会うことが増えた。外で枯れ葉の掃除をしていると何故かあの人は現れて、客室の掃除をしているときにも何故かあの人は現れて、調理場の裏でおやつを食べていると何故かあの人はそれを一緒に食べた。誰もいない夜の調理場でまかない程度のご飯を振るまうことも増えて、不思議なくらいに一緒にいる時間が増えていった。でも、あの人は会うたびにちょっとした意地悪をする。花弁を頭の上から降らせてみたり、魔法で水を顔にかけてきたり、持ってきたお菓子にひとつ辛いものを入れたり……子供のようなイタズラを何度も繰り返した。私は、ただのメイドなのにどうしてこんなに構われるのか分からなかった、だから一度だけ聞いた。「どうして私にはそんなに意地悪をするのか」と。すると、あの人は一瞬きょとんとして、いつものように何も言わずに笑った。誰が聖なる魔術師か、ただの意地悪な魔術師じゃないかと私は大声でみんなに教えてあげたかった。でも、言えなかった。言いたくなかった。意地悪だけど……とても傷つきやすい人だったから。
ある日、妙に疲れた顔をしているなと思っていたらあの人は言った。「本当は魔術師なんてなりたくなかった」と。でも、人より魔力や才能があったことから、両親の希望もあり仕方なくこの道に進んだそうだ。そして、「僕は魔術師だけど、誰かを傷つけるようなことをしたくないんだ。人を助ける魔法は好きだけど、傷つける魔法なんて知りたくなかったんだよ」とも言っていた。でも仕事柄それは避けられない、いつも戦った後はとても恐ろしい夢を見るんだと。倒した魔物の叫び声が聞こえたり、泣き叫ぶ人々の声が聞こえたり……頭が痛くなると。だから言ってあげた。そんなに嫌なら魔術師なんかやめてしまえばいい、と。でもあの人は、いつも何も言わずに笑っていた。弱音を吐くあの人の笑顔は本当に泣きそうで、自分でもよくわからないけれど、抱きしめたくなった。
だから――、私には第二王女様なんてどうでもよかった。ただ、あの人が心配だった。闘う度に嫌な思いをして、嫌な夢を見て傷ついて、それなのに笑うあの人が心配だった。あの人は強いから、もちろん魔王対峙に選抜された。でも、それも噂でしか聞けなかった。あんなにあの人は私のところに現れていたのに、あの人は第二王女様が攫われてから討伐団が出立するまで私の前に現れなかった。約束をしたかったのに、できなかった。帰ってきたら、今までの分のイタズラの仕返しをしてやると言いたかったのに。
何カ月経っても彼らは還ってこなかった。3か月経っても、半年経っても。王宮どころか、国中の人が泣いていた。でも私は泣かなかった。だって、腹立たしいから。勝手に消えて還ってこないのだ、悲しいどころではない、腹立たしくて仕方ない。でも、あの人みたいに特別な力があって、空が飛べたらいいのにと毎晩暗闇を見つめて願った。そうしたら、会いに行けるのにと。腹が立つけれど、やはり会いたかった、会いたいと心が叫んだ。
だから帰ってきたら、まずはおかえりなさいと言ってあげよう。そして、一発叩かせてもらおう。それで許してあげよう、そう……思ってたのに。
――どうしてあなたはいつも。
「こら、どうしてきみはいつも僕のいないところで危ないことをするかなあ?」
「……」
「……あれ、怒ってる?」
あの日、初めて出会った日のように、もう10カ月も会ってない人が、木の下で蒼い目を細めて笑っていた。少しやつれている、でも表情はどこか明るくてこっちの気持ちも知らないで何なんだと、ふつふつと怒りがわいてきた。でも……、頭を隠していたフードをあの人が下した瞬間、怒りは消えてしまった――。
「あ、やっぱりびっくりした?いやあ、魔王討伐は無事に終わったんだけども、ちょっと色々あって力を使いすぎてしまってね、そうしたら、びっくりするくらいに今までのようには魔法も使えなくなって……治癒魔法や生活魔法は使えるんだけどね。髪色もこんな感じに枯れ葉のようになっちゃって、やたらとみんなが言う聖なる魔術師とやらではなくなってしまったよ。これからどうしようか?」
何でもないように、あの人だけどあの人じゃない、でもやっぱりあの人――な人は笑う。だから、木に登ったまま白いシーツで顔を隠した。
なんでいつもいつもそんな風に笑うの、何がこれからどうしようか?よ、私にそんなこと言ってどうするのよ、何よ、馬鹿馬鹿馬鹿!
「え、なんで顔隠すの?」と驚いたような声が聞こえたけれど、無言を貫いて、ねえねえと何度も宥めるような声を首を振って無視し続けた。そんなやり取りを何度か繰り返しているとあの人は諦めたのか、声を発さなくなって。なぜかそれを不安に思う自分がいて……。
「……そんなにこの髪が嫌?聖なる魔術師じゃなくなった僕が嫌い?」
「…っ…そんなわけないでしょう!?そもそもあなたはただの意地悪な……!」
今まで一度も聞いたことがない、泣きそうな声に被っていたシーツを慌てて剥がすと――
「あ、やっぱり泣いてる、でも可愛いなあ」
全く声にそぐわない、意地悪なあの顔をしたあの人が両腕を広げていた。
「……っ!」
「早く降りておいで?僕は君がいないと死んでしまうみたいだから」
「……っな、ん…で…」
「実は王への挨拶に行かなきゃいけないんだけど、どうしても最初に君に会いたくて逃げてきてしまったんだ……いま帰ったよ、黙って消えてごめんね、ただいま――」
殴りたくなるような意味の分からない言葉ばかり聞こえるのに、最後の言葉を聞いた途端、ぶわっと涙線が崩壊した。
だから――、おかえりなさいも言えず、一発叩くこともできず、その腕の中に飛び込んで、濡れた顔を薄汚れた服に押し付けてあげた。
それから、森の中で三人暮らしをすることになるのは、もう少し先のお話。
FIN?
最後まで読んでいただきありがとうございました。次は、幼馴染みカップルの予定です。




