生徒会副会長の女子高生(令嬢Aの場合)
「今年の新入生に少し気になる子がいるんだ」
4月初旬、わたしたちの生徒会会議は生徒会長のその一言から始まった。
「気になる子?問題ありですか?」
「いやいやこういうのはやっぱり恋バナっしょ?」
律儀に問題定義について質問するのは書記。ふざけた話題に誘導しようとするのは庶務。
「どちらにしてもヘタレには無理じゃね?」
バッサリ行くのは会計。
「・・・まずは真面目に今回の議題から話そうとは思いませんか?」
同じくバッサリ・・・とは言わないけれど、さっさと他の議題を進めたいのが私、副会長。
「・・・・・えーと、まずは他の議題から片付けようか?」
結局は私の言葉で他の議題から進めることに賛同したこの会長はやはりヘタレとしか言いようがないと思う。
「それで?気になる子とは?」
議題についての話し合いが終わった後、時間も空いたので先ほどの話題を振ってみる。こうでもしないとまた話そうとすることができないこの会長は本当に今話題のカリスマ御曹司なのだろうか?
「ええとね?入学式の日に中庭にいるのを見かけたんだ」
「おっ?やっぱり恋バナなのかな?かな?」
「問題ではないのなら庶務と話してください。私たちは忙しいので」
恋バナの雰囲気にテンションが上がるのは庶務だけで、他は全員聞く気が失せたという顔をする。これでも忙しい身だ。関係ない話題に時間を割きたくない。
「え?いやいやいや、恋とかじゃなくて・・・」
「でもでもぉ?気になっちゃうんですよね?目で追っちゃうんですよね?それは恋というのですよぉw」
「いや・・・だから・・・」
「まずはぁ、出会いから話しましょうか?さぁキリキリはいちゃってください。どんな子で、名前は?クラスはどこなんでしょうねぇ?」
「あの・・・」
「ふふふふ、久しぶりの恋バナですよぉ。テンションあげあげですぅ」
「人の話を・・・」
ヘタレの会長が庶務の勢いに押されているうちに全員帰り支度が終了した。後は軽く声をかければかえっていいだろう。
「では、あとは庶務に任せます」
「はいはーい。会長の恋の悩みはこの冨澄円がばっちり相談にのっちゃいまーす」
「だから!恋じゃなくて!」
突然大声を上げた会長に全員動きが止まった。ヘタレが珍しいこともあるものだ。
「佐伯に絡まれてた女の子がいたんだ!」
「佐伯に?」
佐伯勇治私たちの後輩にあたる2年の生徒で素行に問題があると報告されている生徒だ。成績は優秀で常に全国統一模試でトップを取る天才児なのだが、去年の秋ごろ突然髪を染めてピアスを開け始めた。どうやら家庭環境がかなり複雑らしく先生方もなかなか指導しにくく手を焼いているらしい。他の生徒と問題を起こすことはしていなかったのでそこまで要注意というわけではなかったのだがこのヘタレは箱入り息子なのが災いしているというか、佐伯に一方的な悪感情を持っているのだ。これは対応に細心の注意を払わねば被害が拡大する。主に佐伯とその女の子に!
「詳しく聞かせてもらいましょうか?」
「分かった。まずは――――」
ヘタレに話を聞いた後、当然すべて信用できるわけないので裏の確認等を行わなければならないのだが、そんなことは微塵も感じさせずに「被害者が女の子だというのなら女性である私たちの方が恐怖感なども生まれないだろう、男性である会長は一切手を出さないように」と念には念を押してその場は解散させた。
裏を取れば案の定、ヘタレの勘違い。被害者と言われた少女はただの迷子で加害者と言われた佐伯は道案内を行ったむしろその子にとってはヒーローである。頭が痛くなった。
とりあえず、佐伯にはヘタレが変な勘違いを起こしてからんでいきそうだから注意しろ、助けた1年の女子にはしばらく近づかないようにとメールで注意を促し了承を得る。実は佐伯とは1年の頃からなかなか仲が良いことはここだけの秘密である。
次に対象の女子への対応だ。名前は春日光、成績優秀な子で母子家庭のため学費免除申請を行っているという情報が入ってきている。これは余計に注意が必要だ。正式な決定は6月でそれまでに素行不良が取り上げられたら申請が却下されてしまうのだ。何としてでもヘタレと佐伯を近づけるわけにいかない。今のあいつらは素行不良の烙印の元だ。免除申請者であることも佐伯にメールする。あの子はやさしいからこれで絶対に6月までは彼女の前に現れないだろう。次はヘタレだ。
ヘタレには注意は促さない。そんなことしたら逆効果なのはわかりきっているから。なので彼女の方に注意を促しに行く。
友人作りや助けてくれた相手にお礼をすること許されないのかといわれたので申請された学費免除の審査が6月まであり、それまでに問題提起されると申請が却下される可能性が高いこと、いかにヘタレと佐伯(=騒動の元)に近づくことが今の彼女(の申請)にとって有害かを懇切丁寧に述べる。最後に「あなたが(あのトラブルたちに近づくなんて)問題行動を起こせばどこまで(あなたの申請受託を)保証できるかわかりませんのでご注意を」と言葉を残して去る。
きちんと伝えられたわねなんて廊下を曲がって階段を上がり自分の教室に向かう廊下で先ほどのセリフを振り返る。
「・・・・あら?」
もう一度振り返る。・・・なんか、セりフだけとると私って・・・・
「悪役令嬢?」
えええええええええええ!?
「何処の乙女ゲーライバルのセリフよっ!?」
ないっないわっ。私は私のセリフに絶望を覚えた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
自分のセリフに絶望を覚え取り乱した私の肩を叩いて正気に戻してくれたのは非常に同情のこもった眼をしたクラスメートだった。おのれヘタレ。キサマのせいでかいたこの恥の借りはいつか返してもらうからな!
いつかお前の乙女ゲー展開に指さして笑ってやるぅ!