03
俺が、あいつ──万年青空がラノベ主人公だということに気付いて……いや、これ見よがしに気付かされて、数日が経ったある放課後のことだ。その日は俺が掃除当番の一人だったものだから、帰りが若干遅くなってしまった。
今日は十日。つまり、電撃文庫系の発売日だってのについてない。
そんな事を考えながら、学校近くの本屋に寄る。
「んー」
あ、意外と今月は良作が多いな。
バイトをしているわけでもないし、一高校生の俺が買える量は限られてる。所持金で、ラノベに費やせるのは千円と少し。大体二〜三冊分くらいだろうか。S.A.Oととあるは鉄板。でも、最近勢いのある、村人のやつと、エロマンガ先生も捨てがたい。まあ、今日一日で一気に何冊も読めるわけでもなし。読みたい順にチョイスするか。……エロマンガ先生、さらばだ。また会おう。
結局、帰路につく頃には、すっかり日も暮れてしまった。一応、程々に都会なので、それでも暗くなることはない。同時に、田舎町みたいに街で知り合いとばったり、というのも滅多にない。
だから、俺が帰り道に通った公園で、そいつに出会ったのは、軽い奇跡なのかもしれない。……こんな奇跡誰も願ってないが。
「よお」
「ふぇっ!?」
そいつは俺の呼びかけに、そいつは、ラノベ主人公のくせしてヒロインみたいな驚き方をした。
「も、もしかして高橋くん?」
「もしかしなくても高橋くんだ」
それ以外に何に見えるというのだろう。
意外なのは、こいつ──万年青空がこんな夜の公園のベンチで一人寂しく携帯を弄っているということだ。
ラノベ主人公というのは、三百六十五日二十四時間無休で、ヒロインといちゃいちゃしてるイメージであるが……まあ、そんな事普通に考えて、ありえないか。ゼロの使い魔の主人公だって、時には女っ気のないとこにいたシーンが……あったっけ? どうでもいいけど、ご冥福お祈りします。俺が死んだときは天国で最終巻が読めるようにしておいてください。
「あ、あの」
「ん?」
隣の席といっても、そこまで親しいわけでもない。むしろ、俺の現実と非現実をかき混ぜるこいつは、あまり好きではない。挨拶したのは形式的なもので、それ以上の意味もない。
それなのに、こいつは俺に対して何か言いたげであった。
「どうした? 何か言いたいのか?」
「う、ううん。そういうわけでもないけど」
……何だろう。
何か、全身から察してよオーラが出てるように感じる。
無視したい。
すっげえ無視したい。
てか、何でこんな奴が、ラノベ主人公クラスにモテモテなのだろうか。あれか? 守ってあげたいとか、そういうやつか? 最近は俺つえーだっけ? そういうのが、結構流行ってたりしてる気がするが、それとは真逆のタイプだな。……ったく。
「けど、何だよ? とりあえず言ってみろって。もしかしたら、力になれるかも、だろ?」
心にもない。
非常に心にもない事を言う。
てか、何でこんな事言ったんだろ?
俺は激しく後悔する。ここは無視して逃げるべきだった。だった、のに……。
「じ、実は──」
こいつは、ちょろちょろと話し出す。
その内容は、俺を驚かせるのに、十分なものだった、ととりあえず言っておく。