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02

第一幕02


 ラノベ主人公が、ラノベ主人公となるのにはどれくらいの期間が必要なのだろう。

 例えば、それこそ一見して平凡なだけの男子が、何も無い日常で突然ラノベ主人公になるという事は無い。何も無い日常で平凡な男が平凡に暮らしていては、それは最早ラノベにならないからだ。

 一応、初日のツインテールツンデレ幼馴染みのあのアクションがあったわけだから、あの瞬間にはもうラノベ主人公になっていたのかもしれないし、あるいは転校してくる、というイベントが既にラノベ主人公的なイベントだったのかもしれない。

 まあ、それはいい。

 万年青空。

 彼がラノベ主人公であると、俺が最終的に断ぜざる得なくなったのは、転校して一週間程経ってからの事だ。

 ──昼休み。

「あ、青空くん、私の作ったサンドイッチ食べてください」

 なんて言うのは、全教科偏差値75over、ついでに胸囲は95overの我がクラスのメガネ学級委員。ラノベなんかによくいる、歩辞書ウォーキング・ディクショナリー、つまり、何でも知ってる、何でも尋ねてくれ系のキャラ、名前は春風うらら。

「あ、ズルい。私のから食べなさいよ。ほら、肉団子」

 そんなことを言うのは先日も話題に上がったツンデレ幼馴染みキャラ。頭は悪くなかった気がする。少なくともそんな噂は聞かない。胸囲は……プライスレス。名前は山本梓。

「…………私のシュウマイ食べて」

 なんて、その台詞だけであー、無口キャラねわかります、なのは下級生の……知らん。流石に下級生の名前とかわからん。ただ、リボンの色から下級生なのはわかる。胸囲は……やっぱりプライスレス。まあ、よくいる。

「私のも食べてくれると嬉しいな☆」

 台詞に星を打ち込むという、器用な真似をしたのは、現役JKアイドル、水町桃香。芸名モカ。別クラスだが、流石に名前は知ってる。よくいる……というか、鉄板? アイドルって、結構あるある設定なんだよな。ちなみに胸は、その名の通り、桃レベル。大き過ぎず小さ過ぎず。

「ウフフ。 そんな有象無象なんて構わなくてよろしくてよ。ソラくんは私の作った子羊のローストをお食べになっていればいいのですわ」

 いや、昼飯に子羊なんか詰めてくんなよ。

 そんな事を言うモロお嬢様系縦ロールは、伊集院葛葉。上級生。名前を知ってる理由は、この人が生徒会長だから。お嬢様系、とは言ったがマジもんのお嬢様とのこと。そんな奴がこの高校になんでいるんだよ。ちなみに、台詞中の私はわたくしと読む。胸は……ダイナミック。委員長すら超えてる。

 ──なんて、この学校の綺麗所五人が、俺の隣の席、つまり万年青空の席に集中してる。何だろう。羨ましいというよりも、鬱陶しい。ほら、そこ暴れるな。埃が舞って弁当に着いたらどうするんだよ。そういうのはラノベっぽく屋上でやってこい。都合良く、去年の生徒自殺騒動で解放されてるのに人気の少ない屋上があるから。

「…………」

 一方の俺は、そんな事を考えながら、ラノベを読みながら、弁当を食べる、なんてことをしている。

 読んでるラノベはハーレム物。

 その中でも、ラノベ主人公が美少女に囲まれてぐちゃぐちゃになりながら昼飯を食べていた。

 この時の主人公の気持ちはこうらしい。

 こいつら、何でそんなにギスギスしてんの?

 まあ、実際にそんな事を考えている奴がいたなら、思わずツッコミを入れたくなるが──と、流し目で俺は隣の同級生を見る。

 なんとなく困惑している。

 そんな感じの顔。

 全力で困惑してるわけではないけど、まあ、一応困惑していないでもない、みたいなそんな顔。

 何を考えてるのか。

 あるいは逆に何も考えてないのか。

 何にしても、迷惑な事甚だしい。

 せっかく俺は今、非現実を読んでいるのに、隣で非現実なんてやられてたら、非現実だと思えないじゃないか。現実だと思えないじゃないか。

 これで三日目。

 こんな、現実と非現実がごちゃ混ぜになった様な空間が、昼飯時に毎日発生するようになって三日目だ。きっと、一週間ちょいの間、俺の知らない場所で、隣にいる男子一人女子五人の中で、大体単行本三冊分くらいの大冒険があったのだろう。

 そう思えるくらい、俺の隣は異様な空間だった。

 そう思えるくらい、隣の席の同級生は、どうしようもなく──ラノベ主人公だった。

 

 

 

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