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第一幕 ラノベ主人公 01

 ライトノベル内では定番の言い回しに「こんな時期に転校するなんて珍しい」なんて物がある。

 目立たせたい人物を更に目立たせる為に使うのだが、最早数多の作品で使われ過ぎて、逆に目立たない感すらある。あー。はいはい。あなた重要人物なのね、的な。

 さて、ではどんな時期に転校して来るのが一番珍しくて、どんな時期に転校してくるのが、一番珍しくないのだろうか。

 珍しい、という点ではおそらく三月、それも最後の方であればあるだけいい、そんな時期に転校してくるのが最も珍しいだろう。何故ならば、その時期に転校してくるなら、別に四月、新年度が始まってからで良いじゃん、ということになるからだ。それは、あまりに珍しすぎて、逆に、そんな時期に転校するなんて話はあまりラノベなんかでは起こらない。てか、そんなことやっても、残り数週間で物語の起承転結を終らせなければいけないし、実際その時期は終業式やら卒業式やらで忙しいのであまり物語ってる暇が無いのだ。

 だから、ラノベ内での一般的に珍しいとして使われる転校時期というのは、なんだかんだで、学期の中間辺り、具体的に言うなら、5、10月くらいが多い。珍しいのに多いというのは軽い皮肉だ。

 逆に珍しくないのは、断然四月の新学期初日だ。日本にあるどの企業も新人やら、転勤やらというのは、大体四月に来るように設定している。その方が色々と面倒ではないしな。次が夏休み明けの九月初日で、あとは似たり寄ったりと言ったところか。

 その似たり寄ったりなとこに転校してくるのが、ある意味でラノベ的には最も珍しい時期と言えるのかもしれない。

 ちなみに、そいつが転校してきた、今日は、6月23日。

 微妙だ。

 果てしなく微妙だ。

 いや、まあ一応珍しいではあるだろうけど。

 因みに、6月というのは一般的に休みのない月で有名なのだが、とある県では慰霊の日なんていう全国ただその県だけ休み、なんて、なんと言うか、ズルい日がある。いや、ズルいと言っても、その県にとっては結構重い日なので、全然ズルくはないのだが、それでも、なんかズルい日だ。詳しく知りたい人は、とりあえず『月桃』という曲をYouTubeかなんかで聴いてみてほしい。民謡にしてはなかなか味のある曲でオススメだ。

 更に因みに、その慰霊の日というのが、今日、6月23日であって、そこまで知って、転校なんぞしてきてるなら、南の人にぶっ殺されても文句は言えないだろう。

「今日は新しい仲間が──」

 そんな、テンプレ的な事を担任が言って、そして出てきた奴は、

「は、初めまして!」

 なんて、同様にテンプレ的な転校生特有のテンパりを見せる、顔普通、背は高くもなければ低くもない、中肉中背の男子である。

「僕の名前は、万年青空おもとあおぞらといいます。おもと、というのは一万年の万年と書いて、あおぞらは普通に青空です。よろしくおねがいひます!」

 噛んだ。

 これも、まあテンプレと言えばテンプレか。

 名前は……キラキラって程ではないけど、面倒くさ目な感じだな。ラノベとかにありそうだ。

 顔を真っ赤にする転校生。

 何となくその様子に、クラス全体が親近感を覚える、そんな時だ。

「あぁぁああああああ! もしかして、あんたソラ!」

 そんな事を、人差し指を転校生に突き刺しながら席を立って言う女生徒。

 名前は山本梓。

 別段親しいわけでもないので、詳しくは知らんが、敢えて彼女を言い表すのならツンデレ。いや、デレを見たことあるわけではないが。あと金髪ツインテール。美人だが胸は無い。これもテンプレ。

「あ、梓ちゃん?」

「やっぱり、あんたソラね!」

 どうやら二人は知り合いらしい。それも結構仲良さげだ。所謂幼馴染みなのかもしれない。テンプレテンプレ。……あれ?

 気づく。

 これは何のテンプレートだ?

 現実世界の?

 違う。

 創作世界のテンプレートだ。

 名前がどことなく変だったり、転校先に偶然幼馴染みの美少女がいたり。

 それは、まるでラノベの様ではないか。

 こんなこと……。

「……ふぅ」

 俺は一呼吸置く。

 冷静になるため、一呼吸置く。

 まあ、こんな事くらいならあるだろう。

 無い、なんて断ずるのはさすがに早計だ。

 実際、こうやって現実世界で起きている。

 このくらいのことなら、極稀ではあるだろうけど、まあ無いわけでもあるまい。

 と、俺がそんな無意味なことを考えてる間に、色々と話は進んでいた様で、

「では、そうだな。一番後ろの高橋の隣が空いてるか。万年はそこに座れ」

 なんて、担任の爺さんが言う。

 ……どうでもいいが、何故御都合主義甚だしく空いてる席なんてあるのだ? 明らかに邪魔だろう。絶対に要らない。確かに、テンプレではあるが、ここは現実世界。そんなものある物なのだろうか。

 ……まあ、実際空いてるのだからしょうがない。何故か、意味も無く、御都合主義的に、俺の隣の席が空いてるのだからしょうがないだろう。

 それに──

「よ、よろしく」

 そんな事をやさ顔で言って、手を差し出し握手を求める転校生。

「…………」

 俺は言うまでもなく男だ。

 美少女でも、隠れ女子でもなく、れっきとした男である。

 こいつも男。

 男と男の席が隣同士。

 つまりはそういう事だ。

「ああ。よろしく」

 俺もそう言って、差し出された手を軽く握り締める。

 ここは憎きライトノベルの世界ではない。

 ただの現実世界だ。

 この世界に、ラノベ主人公はいない。

 

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