不思議1.招きの井戸
黙っているとフライパンの上を必死で歩きまわっている様な暑さの夏の放課後。
待ち合わせ時間は、午後の三時三十分、待ち合わせ場所は、通っている学校の裏手にある井戸。
時間には余裕があるが、被った野球帽が、風に、流されて行くのを必死に抑え、走って、そこへ向かっていた。
向かう途中にある、桜野ババアがいる駄菓子屋に寄っていくのは、お母さんが毎日うるさく勉強を、脅迫してくるぐらい当たり前の事だ。
「隆、学校は行ったのか」桜野ババアの少ししゃがれた声が4畳半の狭い店内に響く
「時間見ろよ、桜野ばっちゃん、もう三時三十分だぞ、とっくに終わってるよ」
眉間に寄った眉を解き「ああ、そうかい」と、そっけない返事。
その、妙な暑苦しさと冷たさが、何だか心地良い。
アイスと、ラムネを買い、裏手の井戸へ、足を急がせた。
すでに、待ち合わせ時間は過ぎていた。
着きそうになるころには、息も切れ切れだった。
「おーいキャップー」僕のあだ名を呼んだのは、少し割腹の良い、隊員NO2福島悟改め「ピーキー」
「おおーピーキー、今日も一番乗りだな」
ピーキーは、半泣きの顔で「おおーじゃあないよ、来ないかと思ったよ」
ピーキーは、体格とは反比例して、泣き虫だ。
「悪い、悪い・・・つーかさ、あとの二人は?」
ピーキーは不服そうだが、いつもの事だ。
「エーケーと、明子ちゃんは、キャップが来たら、教えてくれって、近くの公園で、遊んでるってさ」
「リーダーが来たってのに、ダメな奴らだ・・・お前もそう思うだろピーキー」
ピーキーは唇を尖らせ「キャップも遅れてきたから、一緒じゃない?」
「しつこい奴はモテ期来ないって話だぞ」
ピーキーは少し焦った表情をした。「ええ、そんなあ」
「嘘だよ、つーか、本気にするなよ」
安堵の表情でいっぱいになったピーキーはとんでもなく馬鹿だが、とんでもなく良い奴だ。
「行くぞピーキー、四時四十四分まで時間ねえぞ」
学校のベルが、学校の周りを響く、井戸の周りは校舎に囲まれた場所にあるので、音が反響に反響を重ね、何だか不気味に耳に届く。
そんな不気味さに、背中押されながら、公園の近くまで走った。
「ピーキーここまで来ればあれで連絡とれるでしょ」
「うん」ピーキーは背中に背負った大きいリュックサックから取り出したのは、一昨日、ガシャポンで手に入れた無線
機。
感度が悪く、近くまで行かないと連絡取れないのが難点だが、小さい電話機がない俺達には、かけがえのない宝であった。
「こちら、ピーキーピーキー、どうぞ」
ピーキーは、無線機にスイッチを入れ、映画で覚えた無線術を、見せ付ける。
「ピーキー超かっこいいぞ」
「えへへ、この前のロードショーで見て、覚えたんだ」
「その話は昨日聞いたよ」
突っ込みなど、気にしないぐらい、ピーキーは天狗になっていた。
「このお調子者め」
肝心の無線機からは、明子ちゃんの愛らしい爽やかな声が聞こえてくるでもなく、はたまた、エーケーの高飛車な知能垂れ流しラジオが聞こえてくるわけでもない。
ただ、ノイズという名の沈黙が、公園近くの何もない公道に響いていた。
ピーキーは、自分の軽率な行動に、後悔していた。
もし、自分がロードショーの事は言わず、ただ、それらしい事を言っていただけなら、こんなに、キャップから、白い目で見られる事はなかっただろう。
「ノイズうるさいな・・・行くか・・・・・公園」
気を使われた事が何よりもショックなピーキーだった。
3分程、コンクリートで囲まれた川沿いを、走ると公園に、着く。
その途中、出逢った猫を少し追いかけて、5分程のロスをしたのは、ピーキーと俺だけの、内緒だ。
公園に着いたころには、夕陽の淡い橙色が、茜雲の隙間から、公園をスポットライトの様に、照らしている。
「夕焼けだ・・急がなきゃ」時刻は恐らく、十六時二十分頃、門限は十七時三十分、好奇心の怪物には時間が足りなすぎる。
帰ったら、お母さんに門限の延長を要求しないと。
「おーい、エーケー、明子ー」拡声器ぐらいの、声で叫んだ。
公園の中央にある、ドーム型滑り台、通称ホワイトベース。
大抵、俺達は、ホワイトベースにある穴蔵を拠点とし、次の作戦の会議をしたり、資料という名の漫画に読みふけっていた。言わば秘密基地なのだ。
案の定、ホワイトベースの中から、陰気な顔をした知識垂れ流しラジオ、いけ好かないが頭が良い。
隊員NO3、天内翔通称エーケー
やっぱり、いけ好かないのは一言目でわかる。
「リーダーが、一番早く、遅れてくる・・・いやはや先が思いやられるな」
とにかく、いけ好かない、納豆のような、ねばねばとした、しつこさと、羽毛の様な、軽やかな、口上が拍車をかけ、俺の嫌悪感は、日に日に、増長していく・・・だが、知識は我が隊の中で一番。
「やはり、最初から、僕をリーダーにするべきだったな」少し口角を上げ、今にも折れそうな目で言う。
「エーケーは知識はあるけど、行動力に欠けるから、却下」
麗しい声と、天使の輪ができた長い直毛の髪、そう彼女こそが、我が隊の紅一点、隊員NO1海原明子通称など、いらないだろう、これが完成形だ。
「エーケーは喧嘩弱い癖に、吹っかけるんだから」明子ちゃんのナイスフォローはエーケーに突き刺さる。
「明子ちゃんはキャップに甘いんだよ」なんだその言葉はエーケー・・・親みたいだ。
「キャップは馬鹿だけど、行動力と、決断力だけはあるわよ」明子ちゃんの突然のフックが俺の心臓を深く抉る。
俺を置いて、いつの間にか、悪口に、なっているのに、気づく・・・
「てめーら、黙って聞いてりゃ、人の事を馬鹿馬鹿と」俺は少し困り顔で言う。
突然のノイズ・・そして「こちら、ピーキーピーキーどうぞ」
明子ちゃんのスカートの中から、ノイズ音と混じったピーキーの声が聞こえる。
ピーキーは、ホワイトベースから、5m程離れた場所で、自慢げに、無線ごっこに、勤しんでいた。
「時間がないから、早く行こうよ」ピーキーの言う事はもっともだった。
「よし、じゃあ、まずは、俺達、不思議バスターズの初作戦って事で、この前決めたスペシャルポーズをしようぜ」
リーダーらしい言葉に、皆が立ち上がった。
「まさか、本当に、あの馬鹿みたいな、ポーズをやるとは・・・」エーケーのやる気のなさが口から零れる。
「ほら、また喧嘩吹っかける」一人だけ、乗り気ではないが、不思議バスターズのリーダーの俺には、そんな言葉は、ピーキーの無線自慢ぐらい無意味な事だった。
みんなが、ホワイトベースの頂上で、横一列に並び、各々のポーズを、取る。
「俺達」俺が、皆のポーズを確認し、雄たけびの如く、叫ぶ。
そして、息を合わせ「不思議バスターズ」
そう、俺らは不思議バスターズ、バスターズが出来てから、まだ数日しか、経っていないが、俺達、不思議バスターズ。
不思議バスターズはなんなのか?それは、5日前の花咲木小学校、時間は、四時間目、場所は図書室まで遡る。
文字と混在した色の、羅列が織り成す、天の川。
ただ違うのは、流れるのは、星ではなく退屈な時間という事だ。
「図書室で好きな本を一冊選び、この一時間で読んでください」
先生の話に呼応するように、クラスメイトの淳平は言う。
「読むだけでいいんですか?」
「そんなはずないだろ、淳平は誘導ミサイルだね、先生が説明を円滑に理解しやすいように、そこにホーミングしてるみたいだろ?」
目をキツネのように、尖らせながら言うエーケー。
「なんだ、それ、俺達もそのミサイルと一緒なんじゃないのかよ」
「全然違うよ、だって彼はホーミングだけど、僕達は指令誘導ミサイル、個別で識別するのと、指令を受けて、、」
エーケーはミリタリ?ってのが好きなんだ、だから例えが、いつもミリタリになる。大抵、この話になると、エーケーは熱くなって話出すので、静観するのが、正解だ。
ちなみに、エーケーという、あだ名も、銃の名前から、付けたって言ってたが、自分であだ名を付けて、自分で広げるというのは、どうなんだろ・・・悲しいぞエーケー
「明日の図書の時間には、読書感想文を書いてもらいます。ですから、しっかり、読みましょう」
予想通りの、答えで、予想通り、俺の体は今にも、スライムのように、机に、へばりつきたかったのだが、そういう訳にも、いかず、天の川を覗きに、机から飛立つ事にした。
エーケーとピーキーは、もう本が決まっていた。
エーケーは見なくても、分かる。
ピーキーの、読んでる本は、乗り物図鑑。昨日テレビでやってた映画の影響だろう。
開いてるページは、恐らくバイクのページだ。
そんな事を、考えながら、何を、選ぼうかと、途方に暮れながら、適当に本を取っては戻し、取っては戻しを繰り返していた。
何故、図書室には、ドラゴンボールやDrスランプアラレちゃんは、ないのか。
「ああ、漫画読みてえ」
そう言いながら、10冊目の本を取り出すと、A4サイズのノートが、本と本の隙間から、落ちた。
俺は即座にそのノートを、取った本で、隠しつつ、ピーキーとエーケーのいる、一番先生から、遠い、窓際の席へと、足早に足を、運んだ。
急いで席へ着くと、ピーキーが俺に興味を持つ。
「キャップは何の本選んだの?」
俺は鼻を高くした。
「ピーキー、実はな、世紀の発見を今したんだ」
「こんな、田舎町の、図書室で、世紀の発見とは、君も、呆れるほどの、馬鹿だね」
「これを見ても、そう言えるか、皆の衆」
エーケーの小言は無視し、俺はA4サイズのノートを机に出した。
「キャップ・・・ただの、ノートだよ」ピーキーは、いかにも、呆れた顔で、俺に言った。
「馬鹿だな、ピーキー・・・図書室にあるのは、ちゃんとした本だけだって、相場は決まってるんだ・・・なのにだ、この、ノートは、あったんだ。世紀の大発見だろ」
「開いてみたら、世紀か、間抜けか、わかるんじゃないか」
エーケーの、屁理屈な小言に後押しされ、皆が見守る中、ノートを開いた。
1ページ目、白紙。
2ページ目、白紙
3ページ目、落書き
4ページ目、漢字練習
「やっぱり、これ、ただの誰かのノートなんじゃあ」ピーキーは、呆れ顔でまた言う。
「最初から、誰かの、ノートだよ・・・それに、最後まで、見ないと、わからないだろう」俺は的確にピーキーの、言
葉の、矛盾に喝を入れる。
「何が、わからないって?」エーケーはもう、ミリタリの本を読みながら、こちらに話掛けている。
「・・・なんかだよっ」ヤケクソとは、こういう事を、言うんだろう。
開いても、開いても、同じ様な、白紙白紙白紙、焦燥感と汗が、出始めていたが、俺はまだ、諦めない。
いよいよ、最後の紙を左手で、めくると、そこには、とんでもなく、好奇心を誘う一文が書かれていた。
{願いが叶う。}
酷い字で書き殴ってあったが、好奇心の怪物に大事なのは、浪漫なのだ。
「ドラコンボールだー」俺は、先生に見つからない様に、声を、殺してはいたが、震えながら言った。
「願いが、叶うか、突拍子も・・・ないね」エーケーは、好奇心を、押し殺しては、いるが、顔には、笑みが上がった。
誰よりも、冷めた心を持ったエーケーだが、誰よりも、ファンタジーが、好きなのは、週間少年ジャンプを、毎週買ってくるという行動で何となく、理解していた。
「キャップ凄いよー、続きも読まないとね」ピーキーは、急かしながら、言った。
ノート内容
{願いが叶う。}
{この街に、眠りし、七不思議を、全て、試した時、君達は、願いを叶える事ができるだろう}
{第一の不思議は}
ここで、ノートは破られていた。破るとは、俺達を試しているな。
「試してるな・・・」エーケーは一番悔しそうに口から、零した。
「わからないんじゃ、どうしようもないね」ピーキーは、少しホッとしたような、顔にも、見える、ピーキーは、臆病だからな。
「いや、僕に、良い、知り合いがいるんだ・・・あの人なら、知ってるかも、しれない」
この時ばかりは、エーケーとは、波長が合うかも?と、誤解をしたもんだ。
それにしても、エーケーは、久しぶりに、燃えている。
遡れば、二年前の小学三年生の頃、裏山に行った時以来だ。
あの時は、確か、裏山に狐が居たとかで、探しに、ピーキーと俺とエーケーで行ったんだけど、門限の時間なのに、居る筈なんだって、言い張って、結局、見つからないわ、お母さんに、門限過ぎて、怒られるわ、散々だったんだ。
でも、もしかしたら、ストライクゾーンは、狭いが一番熱くなったら、止められないタイプなのかもしれない。
次の瞬間、俺の頭に激痛が、走る。頭から、足に、電撃のような、衝撃。
「ノートは閉まって、読書・・・ね」先生は、俺の頭を、持っていた手帳で、叩き、酷く笑顔で言った。
「はぁい」痛くて、涙目なのか、先生の妙な笑顔が怖くて、涙目なのか、わからなかった。
「先生さようなら、皆さん、さようなら」号令が終わり、嫌な勉強から、開放される。
エーケーと、ピーキーと、俺は、クラスの、人混みを颯爽と抜け、先生ステージである、黒板前に、集合した。
「知り合いの所に、早く行こうぜ」早々と、俺は、本題へ行く、寄り道や、無駄口など、もってのほかだ。
思えば、四時間目から、終わりの号令まで、今にも、走り出したくなるような、衝動を必死に堪えていた。
「知り合いって誰なの?まさか、怖い人では無いよね?」嫌な予感を察したのか、顔から、血の気が、引いているのが、一目で、わかる。
「んーまぁ・・・ある意味怖いかな」エーケーは、少し悩んだ表情だが、口元が、少し上がっている。
「えー・・・今日はやめとこうかな」焦りだしたピーキーは、わかりやすい、決まって鼻下に、一指し指を、付ける。
「ピーキー!!つべこべ言ってないで、行くぞ!」怒号にも、似た声を出す。
「キャップー許してよー」赤子の様に、ピーキーの、服を掴み引っ張り出す・・・この光景は、傍から見れば、ただの、いじめっ子と、いじめられっ子の図だ。
ピーキーと知り合ったのは、今から、二年前、クラスの女子に、デブと、罵られ、泣き叫んでいた姿を見た俺が、ただ、喚いてるピーキーに腹を立て、女子に、「うるせーぞ、ブス」って、言ってしまい、先生から、大変ありがたく長い、お叱りを受けた時からの、付き合いだ。
長いお叱りの後、俺は教室に帰って来て、机に、伏せた。
「さっきは、ありがとう」後ろの方から、ピーキーは、巨体を、ダンゴ虫の様に体を丸め、水風船の様に、顔を腫らし、俺に言い寄って来た
「お前も、お前だぞ、男のくせに、ぴーぴーきーきー泣きやがって、次はお前があの、ブス共に、ブスって、言えよ」
「そんな事、言えないよ・・少なくとも、僕は、彼女達をブスとは、思ってないし・・・」
純粋というか、馬鹿というか、男と女の、対立何て、今に、始まった事ではない。
「そういう事じゃなくてだな・・・」怒りたい気持ちとは、裏腹に、俺の顔は笑顔だった。
「何か、おかしい事言ったかな?」惚けた顔で、言うピーキーの顔は、今年度NO1の爆笑顔だった。
「いや、もう、いいや・・・それよりお前の家ってさ、ゲームある?」心の中に爆笑したい気持ちを、必死に、抑えていた。
「あるよ、ソフトは一本しか、ないけど」ピーキーは、顔に、生気を取り戻し、少し笑顔になった。
「よーし、じゃあ、今日は、放課後、お前の家で、ゲームやるぞ」
「うん」ピーキーは、今まで見たこともない笑顔で、返事をした。
この日の、放課後、ピーキーの家にある、たった一本の、糞ゲーを遊び尽くし、俺達は、友達へ、なっていった。
それから、話の流れで、ぴーぴーきーきー泣くという事から、ピーキーというあだ名が付けられた。
ちなみに、ピーキーは、スタローンという名前を、求めていたが、誰も、首を縦には、振らなかった。
ピーキーを、教室から、引っ張り出し、エーケーの言う、知り合いの所に、向かう。
夏が、来る前の、爽やかな風が、俺らの気持ちを高揚させてたんじゃないかと、思うぐらい、気持ちは高ぶり、体には、武者震いと、鳥肌が、心を澄ませる。
好奇心の、怪物に、とっては、格好の餌なのだ。
桜野ばばあの、駄菓子屋へ、向かい、歩きながら、ずっと、考え込んでいた。
今日は、月曜日・・週間少年シャンプの発売日か・・・あの後、シャロルはどうなるんだろう。
確か、前の話では、復讐を誓った主人公{シャロル}が、秘密結社マイブルバンドの刺客{デスペルーぺ}に、命を、狙われたんだっけか。
デスペルーぺの能力が、鎖を自由自在に、動かし、地上に、打ち付けた摩擦で、鎖に火を、付けてたんだったな。
シャロルは、能力を、使う事を、極端に、嫌がり今の所は、能力を使わず、銃や剣で、傷つきながらも、何とか、倒してるんだよな。
俺の、考えでは、友を殺した奴も、能力者だから、友を殺した兵器、つまりは能力を嫌い、使う事を避けていると、俺は睨んでいる。
孤独を、好み、決して、人とは、馴れ合わないシャロルだったが、最近は、友に似た顔の女性が現れた時は、驚いたな。
作中では、友としか、語られず、性別なんて、気にしていなかった。
まさか、女性だったとは・・・俺の想像力も、浅はかだな、と痛感。
そして、シャロルは、少しづつ、人間としての、温かみを、取り戻して行く中で、実は、その友の顔に似た女性が、友を殺した張本人で、能力が、殺した者の、顔を奪い、いつでも切り替え可能だったという、展開には、熱くなったな。
これが、三話前だったかな、友の顔に化けてた奴は、シャロルの殺害に、失敗し、逃亡して、怒りに任せシャロルは、そいつを、森の方まで、追いかけていったら、デスペルーぺが、攻撃を仕掛けてきたんだ。
やはり、熱い・・・エーケーは、展開が幼稚とか、馬鹿みたいな事言ってるけど、シャロルの、男らしさたるや、そりゃあもう・・・
「おい、キャップ、明後日いってんのか?さっさと、菓子買って、行くぞ」エーケーの声が聞こえる
「ぬあ?ああ、わりい、わりい」こんな事、考えてる何て、言ったら、小馬鹿されるのだろう・・・
「今日は、どうしたんだ?顔が赤いぞ」眉を吊り上げ、気持ちを、読もうと、顔を見てくる
「今日は、暑いから、日焼けかな」空を見上げると、太陽一つ見えない、生憎の曇り空。
「キャップー新しいアイスがあるよ」ピーキーナイスアシスト!心の中で、大声で叫んだ。
「桜野ばっちゃん、その、アイス貰ったー」勢いと、早めのステップで、エーケーの、所から、キャップの、居る店内へ、逃げ込む。
「隆ー!学校は行ったのかー」桜野ばばあロボット説っていうのが、一時期、花咲木小学校全クラスに、広まったぐらい、同じ話を、延々とする。
「時計見ろよ、ばっちゃん」時計に、指を指す。
時計を見た桜野ばばあは「そうかい」自分の、非を、諸共せず、この、言動。
桜野ばばあロボット説も、七不思議に含まれているのだろうか、そう思うと、自然に、にやけてしまった。
アイスと、ラムネをランドセルへ、隠す。
一応、買い食いは、校則で、禁止されているが、一度家に帰宅する、時間が、もったいない俺たちには、校則など、合って、無いようなもので、あった。
学校から、桜野ばばあの駄菓子屋を入れて、二十分程経った。
話題は、昨日の日曜洋画劇場の話で、大盛り上がりだった。
大盛り上がりの中、エーケーが、ある場所で、足を止めた。
錆びれたブリキの看板には、薄っすらと、白い字で、田中サイクルという文字が見えた。
キックボード派の俺にとっては、あまり縁の無い店・・・それ以前に、今現在営業しているのかすら、微妙な雰囲気だ。
軒先には、ワインレッドの、古めかしい自転車が値段と、共に、置いてある。
相当、雨風に晒されていたのだろう、ワインレッドの中には、赤茶の色が混じっている、つまり商品が錆びているのだ。
胡散臭い店だ、先ほどの自転車の値札には、{新品お値打ち価格10000円}と、記されている・・・何とも、胡散臭い。
おまけに、売り物の自転車のタイヤのゴムが、熱したお餅のように、アスファルトに寝そべっている。
タイヤから、空気が抜けきっている、つまりパンクだ。
しかも、空気の抜けようからして、大きい穴なのが、水に、さらさなくても、わかる。
「胡散臭い自転車屋だろ?」見たままの、言葉がエーケーから、吐き出される。
「古風で、良い自転車屋だよ」お世辞でも、古風という単語は似合わない。お世辞下手ピーキー・・・
「ここに、何が、あるんだよ」少し強い口調で、エーケーに言った。
「何が、ではなく、大切なのは、誰か何だよ」そう言うと、エーケーは、玄関なのか、店の入り口なのか、わからないドアの横にあるインターホンを押すと、鈍い音が、鳴る。
いつもの、音程より、酷く荒く、妙に低い。
手入れが、行き届いていないのが、如実に、現れ、呆然と、するしかない俺とピーキーだった。
「はいよー」大人の男性の低い声と、物凄い物音に、おまけの、足音が聞こえてくる。
錆びているのか、立て付けが、悪いのか、鉄と鉄の擦れ合う乾いた音が、静かな田舎町の、小さな通りに、木霊した。
それと、同時に、髪を、肩まで垂れ下げた、眼鏡を掛けた女?男?が、扉から、出てきた。
「おう、翔・・・どうかしたのかい?」低い声が、女の様な髪の人間から、聞こえてくると、何だか不気味だ。
ピーキーは、体を小刻みに震わせ、恐怖を、俺達にアピールしてくる。
「物知りの、照吾に、聞きたい事があるんだ」この言葉が、エーケーなりの、紹介らしい。
「翔の友達かい?初めてだね、田中照吾だ、よろしく」声に温かみがあるのが、わかると、隣のピーキーの、震えはスイッチOFFとなり、止まった。
「福島悟、です・・皆からは、ピーキーって呼ばれてます。よろしくです」喉元から、捻り絞った声が、ピーキーから、出された。
「俺は、宮地隆{みやじたかし}皆からは、キャップって呼ばれてるから、キャップでいいよ」とりあえず、初めて会った奴には、尖ってみる。
高らかに笑い声を上げた後「あだ名か、懐かしいね、おっと、立ち話もなんだし、上がってよ」
誘い出した店内には、驚く程に、自転車に関する物は、ほとんど無かった。
自転車屋というか、ただの古めかしい小屋という印象である。
入ると、右側には、ほとんど何も無い店内、正面には、二階へ続く階段があった。
「汚いけど、ゆっくり、してってよ」入り口を見ていた俺とピーキーに言う。
「逆に落ち着く雰囲気がありますから・・・バックトゥザフューチャーのドクの部屋のような」例えが、この前入っていた映画だし、下手糞だし、お世辞というか、皮肉にも、似たピーキーの、渾身の褒め言葉に、照吾さんは、優しく微笑みかけていた。
照吾さんと、エーケーは、自然に、二階への、階段へと、足を運んでいた。
1階はお店、二階は、居住スペースという、ごく一般的な、下町の小さな店の、間取りだ。
桜野ばばあの駄菓子屋も、似たような造りだが、あそこは、店内が狭すぎる。
二階へ、上がると、廊下を挟んで正面、左右に、扉がある。
照吾さんは、左側の、部屋のドアノブを、開けた。
部屋は八畳ぐらいの、少し広めの、部屋なのだが、物が、乱雑に置かれており、広い印象は、パッと見では、わからない。
漫画やら、ゲームやら、あとは、・・・エッチィ本、もちろん中にある、袋閉じは、破られていた。
照吾さんは、几帳面に見えて、以外と、大雑把、袋閉じは、切り取り線から、大きく外れ、雑誌から、ちらりと、顔を見せている。
小学生の、俺には、刺激が強すぎる。
うつつを抜かしながら、座れる場所に座った。
まずは、エーケーが、照吾さんに、事情を説明した。
「今日は、この街の七不思議を教えてもらいに来たんだ」
「懐かしい響きだね、七つ試すと、願いが叶うとかいう、話だったね」少し微笑みながら、言った。
俺は、ランドセルの中から、謎のノートを取り出して、照吾さんの、顔に近づけ言った。
「知ってるなら、教えてくれよ」懇願に近い言い方というか、生意気だなと、俺でも思った。
座椅子に、座った照吾さんは目を細め、微笑みながらも、声は、湖のほとりの様な、静かな口調で、話始めた。
「七不思議という、噂は、所謂、都市伝説の一つなんだよ、誰かが、創作した話や、実際経験した話が波のように、人から人へと、伝わり、元あった話とは差異が生まれる事もある・・・そんな不思議で、不確かなものが、都市伝説なんだよ」
何とも、浪漫を感じない言葉に、怒りを覚える。
「だから、七不思議を教えろよ」強い口調にした覚えはないんだけど、ピーキーが、一瞬体を縦にビクッと、揺らした事で、わかった。
「キャップー喧嘩はタメの子だけに、してよー」ピーキーは、情けない声で、囁く。
「キャップ!!照吾さんは、まだ話してる途中なんだぞ」珍しく強い口調になるエーケーに、少し戸惑うが、俺は、浪漫を否定する奴を許す気はなかった。
「ごめんごめん」右手を後頭部へやりながら、困った顔で、話始める。
「否定するつもりは、なかったんだ、何も、無かったとしても、気落ちしない様に、話しただけさ、それに私は、そういう不思議な事ってのを信じる人間だしね」
言いながら、本棚から、取り出した本は、UMA生物発見と、書いてある本だった。
「昔は、モンスター、心霊やら、大好きでね、だから、気持ちは、良くわかるんだ」楽しそうに、本を開き話す照吾さんの、笑顔は雲一つない快晴の様に、気持ちいい笑顔だった。
「俺も言い過ぎたっす・・すいません」素直に謝る事が、恥ずかしく、少しにやけながらの、謝罪。
「歳を取ると、話が長くなってしまって駄目だね・・・本題に移ろうか」そう言うと照吾さんは、机の引き出しを、開けて、古びたノートを、手に取り、三人が囲む形で、照吾さんの、座った位置に、体を寄せた。
一瞬では、あるが、部屋には、外で吹く春一番の心地良い強風の、音は、沈黙し、喉に唾を通す音が、反響するのではないかと、思うくらいの、静けさが、部屋を占領した。
屁を、したら、やばい雰囲気と、言えば、わかりやすい。
古びたノートには、油性のマッキーで、書かれている文字は、{こくご}。
「私もね、昔は、謎を、見つけては、体験したがりの少年だったんだよ」
そう言いながら、照吾さんは、ノートを、流し見しながら、ペラペラと捲り、半分くらいいった所で、止まり、俺達の、前に差し出した。
{ナナカナイ}
この、ナナカナイは、どこから、生まれたのかは、わからない。
内容は、この、花咲町に、ある七不思議を、全て体験すれば、願いが、叶うというもの
花咲町、自体に、今の所、七不思議という噂は、ない。
途中で、噂の伝達が、止まったのか、わからないが、これより、噂を、探し出し、願いを叶えるとしよう。
「ナナカナイ・・・何か、ドキドキ止まんねー」俺は、興奮の、あまり、いつも言わない様な事を、発してしまった・・・恥ずかしい。
隣に居るピーキーは、黙ってはいたが、顔は、満面の笑みで、手を、どこに置けばいいのか、わからず、指を、ゆらゆらと、動かし、俺を、引かせていた。
「ナナカナイを、調べてたんだ照吾さん」冷静沈着エーケー・・・エーケーロボット説も、提唱したい程だ。
「そうなんだよ、だけど、実は詳しく、覚えてないんだ」照吾さんの、口から、発せられた衝撃の事実、無知という名の口撃、一体、この時間は、何だったのか、無駄だったのか、そんな心の憤りを、表す言葉は、一言+叫びで、簡潔に、相手に伝えられる。
「えー」俺達三人は、腹から、叫んだ、吼えた。
「ガッカリさせたかい?でもね、全部をここで知るより、楽しいんじゃないかな、少なくとも私なら、そう思うよ」
突然、心理の話なのか、確かに、一理あるので、無碍にもできない。
「まーでも、確実に、噂はあるって事がわかっただけでも、収穫だな」俺は一息付いて、言った。
「それも、そうか」エーケーが、珍しく共鳴する。
「最初は怖かったけど、楽しくなってきた・・・願いが叶うなら、ムキムキの筋肉と、人を見下せる身長二メートルが、いいな、あっ・・・・・・でも、願いは一つか、どうしよう」独り言とも、取れるような、ピーキーの話は、もちろん相槌すら、打たない。
「では、浪漫の心得を覚えた所で、一つ目を、教えよう、ナナカナイの一つ目は、招きの井戸という現象だ」さらっと言う照吾さんに、一同静止。
「今さっき、覚えてないって言ったじゃないか」エーケーもピーキーも俺の一言に、相槌を打った。
「覚えてはないのは、本当だが、ノートに書いてないとは、言ってない」狡賢い大人の、屁理屈に、唖然とする。
「一つずつ、教えていくよ・・君達の話を聞きたいし、それに、わからない方がわくわくしてくるだろ?」
今すぐ、知りたいのは山々だったが、ナナカナイの、噂は、何処かで、途絶えているという話だし、手がかりを、持っているのは、照吾さん以外には、考えられない。
それに、認めたくはないが、好奇心の怪物が、人生で一番、心の中で、暴れまわっているのを、心臓の鼓動が、体を震わせ、体中に響いてくるそんな感覚に陥っていた。
つまりは、すごく、わくわくしていた。
エーケーとピーキーも、わくわくしているのが、顔つきで、わかる。
今彼らを、スカウターで計ったら、戦闘力計測不能で、スカウターを一つ無駄に、するだろう。
「わかったよ、早くその、招き猫が、どうとかって教えてくれ」俺は進まない話を急かすように、言った。
「わかったわかった、小学校の裏手にある封鎖された井戸があるだろ?封鎖を解いて午後十六時四十四分まで、待てば、いいだけだ」
「待てばいいだけか・えーとメモメモ」ランドセルから、学習帳を、取り出し時間を、書き記す。
「その時間になれば、井戸へ招かれるんだ」
俺達は、息を呑む。
「そもそも、原因になった話があってね、それはいつぐらいかは、わからない昔、花咲小学校に、居た少年が、好きな女の子に告白するために、その井戸に、呼び出したんだ。」
ピーキーは、怖い話だと、察したのか、耳を両手で塞ぎ、屈んで震えている。
鼻くそを、ほじりながら聞いているエーケーとは、えらい違いだ。
しかも第二間接まで、指が入っている、こんなに、つまらなそうに話を聞く奴は、こいつぐらいだろう。
「その少年は、遊びで、好きな女の子の目を、隠したんだ、恐らくは、{だーれだ?}とでも、言いたかったんだろうね」言い終えると、少し下を向き、顔が少し苦笑いというか、歪んだ顔になった。
「女の子は驚いて、落ちたんだ、あっけなく、あっさりと井戸の暗がりに、全体を、入れたんだ」
怖いもの見たさというのは、知るまでは、知るために走り回る喜びを、感じ。
知れば、事柄を、終えたという満足感と、話の内容に、よっては、恐怖も加わり、これ以上関わりたくないと、普通の少年は、少なからず、そう考えている。
現に、ピーキーは、叫びたい声を、腹に隠居させ、蛇口の様に、目から涙を出している。
耳は塞いでも、心は聞きたいと、思う。
そんな、好奇心が、今ピーキーを、泣かせている。
哀れピーキー、泣くなピーキー、そして立てピーキー。
君の明日を作るのは君なんだ。
と、今読んでいる漫画の、一文を、被らせる。
「それから、花咲小学校では、真しやかに、噂が立った・・・これが招きの井戸さ」少し誇らしげにも、見える顔の、照吾さんは、少しかっこよく見えた。
そして話が、終わった途端、使わぬ頭を、駒の様に、回転させていたせいか、ひどい脱力感と、覚めやらぬ高揚感が体の体温を、噴火させ、ひどい喉の渇きを、訴えていた。
ひどく暑い・・・ランドセルから、桜野印のラムネソーダを、取り出し、一気飲みを、しようと試みるが、間に、入った、ビー玉が、それを阻止した。
「ビー玉、邪魔くせー」ラムネを横に置き、勢い良く、床に寝転んだ。
「行儀が、悪いぞ」エーケーは言うが、行儀なぞ糞食らえ。
「いいんだよ翔くん、もう僕達はチームじゃないか」照吾さんの、何気ない言葉だったが、見事俺達の、心を鷲掴みした。
「チーム!?いいねキャップ・・なんだか、映画で、見た事あるよ、すごくかっこいいよー、まずは、名前かなー?うーんとねー、こんなのは、どうかな?特攻野朗」
「Bチームだろ?この前、入ってたからな、わかりやすいんだよ」先ほどまでの、甲羅に隠れた亀状態とは違い、人差し指を、立て偉そうに、言うピーキーに、被せ気味にけん制を図る。
「でも、チームってのはいいな、名前は一人、一個ずつ考えて、明日考えようぜ」そう言って時計を見ると、門限である十七時三十分は間近に迫っていた。
「やべー走っても、間に合わない時間になってるー」この田中サイクルからは、自転車でも、15分。
自転車と、同じ速度で、走ると、三分に一回、二分の休憩、つまり簡単計算で、二十五分で、家に着く。
今は、十七時十七分・・・馬鹿でも、わかるぞ間に合わない。
「僕には、門限が無いから、まだ居るよ」なんと傍若無人な事を言うエーケー、俺の門限を知っても尚、その言葉を口にするか。
「僕には、門限は、あるけど、十八時三十分まで、だから僕も少し居るよ」ピーキー・・・なんて無慈悲な、一緒に帰ってくれと、言いたい所だが、この二人に、少しでも、引きたくない、つまりは、負けたくないという、変な、負けん気が発動していた。
「あぁ、そうか、照吾さんから、詳しく話聞いて、明日俺に、教えろよ、絶対だぞ」照吾さんに「また来るから、報告待っててね」と言い、部屋を、出ると、狭い階段には夕日など、届いてるはずも、無く。
闇が、足元を這いつくばっているように、見えた。
階段の障害は、階段の天井に付けられた裸電球のスイッチを見つけ、すぐに、解決した。
それから、四十分ただ、ひたすら、夕日が、地平線というか、家々にかくれんぼ、する様を見ながら、歩いた。
歩く最中は、家の入り方に、付いて、ひたすら悩んでいた。
門限に間に合わせるという、思考は、すでに、もう無く、お母さんをどうやったら、騙せるかという詐欺師めいた思考を張り巡らせていた。
作戦;1{正面突破}
この作戦については、一度試し、失敗に終わっている。
敵のお母さんから、超音波の様に、響く怒鳴り声と、神の一撃に近い熱い一撃を頭に食らう。
作戦;2{裏口隠密作戦}
可能性は低いが、作戦1よりも、可能性は高い。
家の、裏口は、居間と隣接したキッチンへと、繋がっている。
この時間ぐらいでは、お母さんは夕飯を作り終え、テレビを、寝そべって、ケツを掻きながら、牛の様相で、見ているはずだ。
俺が、お母さんから、気づかれずに、入り、二階から、降りて「眠くて、寝てた」と言えば、生ける。
寧ろ、息子の帰宅に、気づけなかった自分を悔やむだろう。
作戦;3{バッタ作戦}
これは、可能性と言うよりかは、危険な作戦である。
俺の部屋の窓は、二階の風除室の上に位置している。
風除室の取っ手に足を掛け、グリップの効いた靴と上がり・・上がれば、あるいは・・・
部屋の窓は、新鮮な空気を入れる為に、常時俺が開けているから、大丈夫なのだが、音を立てずに上がるのは困難。
ただでさえ、薄い壁のボロ家では、軋む音が、テレビの音では無いと気づくのは、容易だ。
さて、どうしたものか、考えていたら家の前まで、来てしまった。
しかも、暗い・・・この暗さは、当に十八時を、過ぎているだろう。
普通に入ったら、烈火の如く、お母さんは怒るだろう。
正攻法で、行っても無駄なのだ、であれば、作戦1{正面突破}はもちろん却下。
ここは、危険の少ない、作戦2{裏口隠密作戦}を決行するとしよう。
風除室の右脇へ、入ると、暗すぎて何も、見えやしない、居間側の方なら、家の明かりで、ハッキリ見えるのだけど、そちらは、お母さんの、目視範囲内・・・君子危うきに近寄らずだ。
そうして、なんとか、物音を立てず、裏口前まで、やってきた。
緊張で、汗ばんだ手は、ドアノブを避けているかの様に、滑らせた。
「?」声も出せず、誰にも、見られない暗がりに居る、俺がどんな顔をしているかは、鏡を見る如くわかる。
瞳孔が開き、眉毛を垂れさせ、口はカバの様に、開けている。
ドアノブに、静かに、力強く手を掛け、ゆっくりと、回すと、先ほどの、滑りが、手の汗だけが、原因では無いことがわかった。
そう、今日は・・・いや今日に、限って裏口に、鍵を掛けていやがる。
全身から、気持ち良くないジメジメとした汗が噴出す。
頭の中では、色々な事柄が思い浮かべられたが、これは走馬灯なのだろうか、いや、これはただお母さんへの恐怖を避けようとする回避行動か。
怖いが、勇気を振り絞って、作戦3{バッタ作戦}しか、逃れる術はないのだ。
俺は、仮面ライダーの様に、改造されてはいないので、上から、アイキャンフライしても、死にはしないが、家から外出禁止とか言われたり、迫る誕生日に向けての、好感度上げが、水の泡になってしまう。
下手したら、プレゼントに頼むはずのトラクエが買えない。
なんとしてでも、それだけは、阻止しなくては。
そんな、想像で、自分のやる気を、奮い上げ、体から出る汗と、震えを止めた。
途端に、熱意が芽生え、次の瞬間には、風除室の角と、取っ手に足を掛けていた。
熱意というか、今の勢いで行かなければ、臆して作戦1{正面突破}へと、足を進めそうなのが、わかっていた。
腕を、いっぱいに、伸ばすと、子供の癖にガチガチに固まった筋肉が、悲鳴を上げていた。
子供でも、好奇心の怪物でも、体は、硬いのだ。
手を屋根の角に掛け、体を持ち上げようとしたが、あまり上がらない、その瞬間にも、腕は、どんどん疲労していく、この間、0.5秒。
次の瞬間には、風除室のガラス戸に、靴を押し付けた。
すると、体は上がっていき、腰の部分まで、屋根から出した所で、足を屋根に、上げ、勢いで登る、この間、3秒。
達成感で、顔が、緩み涙すら、出そうになった・・・それは言いすぎか。
「やった」小さい声と小さいガッツポーズで、この小さい危険を乗り越えた事を称えた。
自然に、窓へと手を伸ばし、力を入れると、あら不思議。
一度ある事は二度ある、門限破りをした、俺に因果応報。
俺の部屋は、閉め切られた牢獄と化していた。
最初から、あれを行えば・・・いやもう過ぎ去った事だ、仕方ない。
今日は、お母さんの拳の痛みと、叱りを子守唄として、寝る運命なのだ。
今日の最終作戦は、作戦1{正面突破}・・・幸運を祈る。
「ただいま」少し小さく声は震えた、正面突破開始。
古びた床が軋む音が耳に響く、居間で、寝ている者が起きた音だ。
ドタドタドタ、三歩四歩と、居間の扉から、近づいてくる足音。
居間の扉の曇り硝子に、影が映り、ドアノブが回った。
居間の扉が開くと、お母さんの姿が、玄関の暗さのせいか、真っ黒で、怖気づく。
近づいてくるお母さんの表情が見えない。
自分の前に来た、お母さんは、手を振り上げた。
その瞬間、目を閉じた。
この後来る、痛みに、心を備えるのだ。
だが、以外にも、お母さんの手は、拳ではなく手のひらであった。
帽子の上から、頭を撫で、帽子をクシャクシャして言った。
「ご飯が冷めるから、早く食べなさい」表情は、見えないが、笑顔の様な、悲しげな様な・・何だか、俺は動揺し、喜んでいいのか、悲しめばいいのか、わからなくなった。
ただ何だか、凄く悪いことをしたという、罪悪感というか、何というか。
だが、そんな事は食卓に並べられた食材に、よって頭からスッポリ消え、座布団に身を、落とした。
今日は、ハンバーグだった。
「いっただきまーす」元気に言うと、お母さんはいつもの、寝そべった体勢で、テレビを見ていた。
夢も何も無い、ニュース番組だ。
だが、これが、終われば、ノストラアムスの予言スペシャルという、オカルトめいた番組がやるらしい、オマケにUFOを撮影した外国の人にインタビューまでするという・・・非常に気になる、心が躍る。
大抵、こういう番組は、肯定派と否定派に分かれ討論する。
しかも、討論時間は、映像一つごとに細切れだが、トータルすれば、結局の所、半分は、夢を壊す時間に当てられる。
嘆かわしい事この上ない・・だがしかし、見てしまうのも事実。
ご飯はいつもより、おいしく感じた。
ナナカナイとか、ノストラアムスの予言が、摩訶不思議、仰天な明日を思い描くだけで、俺には、良いオカズとなっていたのだろう。
「ご馳走様」いつもはしないが、手を合わせ、少し頭を下げた。
門限破りを破った俺に慈悲を与えたお母さんという神に感謝。
「ほら、隆の好きな、くだらない番組が始まったわよ」お母さんもエーケーに負けずとも劣らずの、減らず口だ。
「言ってろ」何故か、少し自信有り気に言った。
{本日、遂に、世界の終局の正体が明らかに・・・実は予言は既に当たっていた!?徹底解明ノストラアムスの予言、二時間スペシャル}
冷静な口調で、胸が熱くなるような、内容のナレーションと共に遂に、始まった。
二時間はあっという間だった。
結果から、言えば、楽しかった。意味は良くわからないが、今年の、十一月二十九日に、雲を覆う、恐怖の王が、空から、降ってくるらしい。
楽しかったのは、良いのだが、終始、バラエティ番組でも、見ているかのように、笑うお母さんとの、衝突は耐えなかった。
「あー、おもしろい番組だったわね」笑いすぎて流れる涙をふき取りながら、言う。
「笑う番組じゃないだろ?」
「あれを、信じてるわけ?まだまだ子供だなあ」これを言われ、先ほどの、お母さんへの、感謝はどこへやら、無言のまま、自分の部屋へ向かった。
子供に、夢を語らない親など、居るのだろうか・・・確かに居るのだ、しかも、ここに。
俺の部屋は、扉を開けると、すぐに、勉強机、その横に本棚、向かいに布団、というシンプルな部屋だ。
ドアを開け、灯りすら付けず、俺は布団に伏せ、考える。
本当に、何もない世の中なんて、ない。
絶対に何か、ある・・そういえば、照吾さんの家で、考えてくる事があったな。
いいのが、思いついたぞ、不思議バスターズ。
意味は良く、わからなんが、響きが良い、明日、隊員達に、報告するとしよう。
恐らく、エーケーの非難が、殺到するが、構いやしない。
そんな事を、考えていたら、いつの間にか、寝ていて、いつの間にか、小鳥のささやく音と共に、朝日が、俺の目を刺激し、具合を悪くした。
朝日の明るさとは対象的に、朝の名物となるものがある。
「隆ー朝だよー起きなさーい」お母さんの、おはようコール、耳にタコが出来そうだ、だが背に腹は変えられん。
これが、無ければ毎日遅刻し、非道な人生の一途を辿るのだろう。
「起きてるよ」目を閉じながら言う俺。
そう言い、二度寝が始まるが、すぐに、おはようコールが来る。
「いいかげんにしろ、起きろー」
「下行く準備してるとこー」見えない所での心理戦は、長きに渡り続いている。
毎日十分か、そこらだが、これを日曜日以外、ほぼ毎日続けていれば、二人共、スキルは上がるものだ。
お母さんは、二階に上がらず、どう起こすかに思考を凝らし。
俺は、どうやったら、余裕の無い時間まで、引き延ばせるかに、思考を凝らす。
どうでもいい所で、人間は進化するのだと、思う。
堪忍して、階段を降り、挨拶する。
「おはよう」朝一番の声は、爽やかなイメージとは違い、枯れているものである。
お母さんは、いつものように、バターをたっぷり塗り、こんがり焼いたパンと、牛乳が置いてある。
起きる時間が十分程遅れたにも、関わらず焼きたてのパンと、注いだばかりの牛乳が机に、置いてあるのには違和感というか、心理戦に負けた事を、示唆していた。
だが、すごくうまい。
憂鬱な話ばかり流れるニュースを尻目に、俺は家を出る。
「いってきまーす」栄養補給で準備万端、声は健やか。
「隆!給食袋忘れてるわよ」お母さんが、居間の方から、焦りながら、、現れる。
サンキューマザーと心で思い、家を後にした。
空は快晴、水面の清い空。桜野ババアの駄菓子屋の前を過ぎた辺りの路地で、何食わぬ顔で待つのはピーキーだ。
遅刻ギリギリでも、俺を待ってくれている。
「おはようキャップ」
「うーす、ピーキー、いつもながら、遅刻ギリギリだから、走るぞ」急かすように言うと、ピーキーは焦る。
「またー?キャップー」泣きべそを掻いてはいるが、声のトーンだけで、顔は笑顔なピーキー。
ほぼ毎日走って登校しているわけだから、慣れるのも、無理はない。
爽やかな朝は、学校に着くころには、男香る汗臭い朝になっている。
ピーキーは毎日、こんな激しい特訓を受けているのに、腹は一向に引っ込まない・・・些か疑問であるが、学校に着いてから、ゆっくり考えるしよう。
退屈な授業時間は、程よい睡眠と、程よいアートによって、過ぎ去る。
福音が学校中を駆け回るのは、昼休みである。
颯爽とピーキーは俺に歩み寄る。
「一緒に食べようよ」ピーキーは銀色に輝く長方形の箱を手に持っていた。
それは、ただの箱と言うべきか、いや、箱としか言いようが無い弁当箱なのだ。
ちなみに言うと、花咲小学校は弁当制だ。
六年前ぐらい前に、ある親からクレームが行き、給食は廃止になった。
その鬼婆はこう言ったんだと「私の武蔵はしっかり私達が栄養管理をしています、だから、ココアババロアだったり、甘い物や栄養過多になるような、給食はいらない」とか何とか。
何とも、つまらない理由で、至福の楽しみは終わってしまったものだ。
お母さんは毎日「鬼婆のせいで、弁当を作るなんて、世も末だよね」なんて、ただ面倒なだけなのだが、一週間に一度お母さんの小言の中で罪を着せられる。
「もちだけど、場所移動しようぜ、あの話もしたいし」他の奴に聞かれて、着いて来られるのも困る。
しょうがないから、エーケーも連れて行こう。
エーケーには、照吾さんの」紹介の恩もある。
「エーケー食べに行くぞ」俺は後ろの席から、前へと声を上げるが、エーケーに反応は無い。
「おい、エーケー行・く・ぞ」席を立ち俺は、エーケーの真横で言った。
「断る、今日は貧血なんだ」我がまま極まりない。
「わかったよ、じゃあそう言えよ」そう言い散らし、俺達は、屋上への階段を上がり、屋上へ行ける扉で弁当を食べる事にした。
できれば、青空の下で、校庭を見下ろしながら、食べたいのだけど、生憎屋上への扉は大きな南京錠が掛けられている。
差し詰め学校に監禁と言った所か・・・あまり上手い言葉ではないな。
「キャップ決まったの?」ウインナーを口で遊ばせながら、俺に話掛けるピーキー。
「いや、まだピンとは来てないけど、とりあえず井戸の件やってからでも、いいんじゃね」俺は投げやりにピーキーに答える。
「そだね、まずは、井戸の伝説を解いていこうー」顔が歪むほどのピーキーは不細工だが、何だか微笑ましい。
「楽しいそうな、話聞いちゃった」話と弁当に夢中で、階段への注意を怠っていた。
その方向から、高い声が聞こえた。
昨日、雑誌の編集長が言ってたんだ。
「運命とはそう思った時点で運命になる、だから奇跡もそうだし、不思議もそうだ。」
そして、こうも言った。
「人間が信じる事によって生じるエネルギーは無限であり有限、だからこそ信じる事が大切で、それが信仰であり、それが紙でも神と信じれば神になる」
と編集長は語る。
「とりあえず信じとけって事じゃあねえかよ」とコメディアンの一言で片付けられたが今は信じている。
運命を信じている。
その声の主は、隣のクラスの女の子。
だが、只の女の子ではない。
学園トップの可愛さ、学年でも群を抜いた学力と運動能力、才色兼備という言葉が彼女には相応しい。
名前は海原 明子
その名前の通り、海の様な広大に見渡す目を見ただけで、俺の心に光明が差していた。
俺は信じる、これは運命なのだと。
思い込みと思われて笑われるだろう、でもこんな偶然はない、奇跡という運命。
「何ボーとしてるのよ」少しムッとした表情を浮かべる明子ちゃん。
「うるせーな、知ってるよ」俺は良くわからん頭で答える。
「何を知ってるのよ、まだ何も言ってないわよ」チクリと突いてくる言葉一つ一つが痛く突き刺さる。
しまった・・・何と幼稚な口だ、頭だ。
「キャップ・・もう隠せないよー」ピーキーの慌てふためいたのは、明子ちゃんには伝わっている。
「馬鹿ピーキー」俺は必死にピーキーを抑止しようとするが、明子ちゃんにはお見通しである。
「観念して、教えてよ、何かしてるのはバレてんだぞー、先生に言ってもいいんだよ」明子ちゃんの悪顔は悪い顔だが、可愛い・・・そんな事を形容している場合ではなく、先生に今バレるのは、まずい。
「・・・・・しょうがない」少しのため息の次に俺は話した。
エーケーやピーキーの事、謎のノートの事、照吾さんの事、そして{ナナカナイ}の事。
「そうか・・・」テンプレの様な相槌を打ち、明子は探偵の様に拳を握り顎に付ける。
俺らは、説明して黙っていた。
そして、黙りながら、どこか俺は祈っていた。
明子がチームに入らないかと。
願望というのは浅はかなのだが、それが叶えば、きっとこれは運命と言える、そんな気持ちだった。
少しばかりの沈黙の後、明子ちゃんは言った。
│
さ
ぁ
、
行
き
ま
し
ょ
う
│
不思議な返答に、頭が掻き回され、何が何だか。
「何、ボーとしてんのよ、早く連れて行きなさい」明子ちゃんは狂ってしまったのか?明子ちゃんの狂言に制止するが、俺とピーキーは目玉を出すような顔で言った。
「どこに?」素朴な疑問だが、今の状況には、これが適当だろう。
「決まってんでしょ」明子ちゃんにそう言われたのは5分前で今は命令で・・・いや希望通りに、俺達のクラスに来ていた。
「このインテリがエーケーで、こちらは明子ちゃんだ」エーケーと明子ちゃんとを、何だか他人事の様に引合わせる、俺の言動は擬古地ない。
「今日から、よろしく」そう言った明子ちゃんの言葉を聞いたエーケーは口を半開きにし、止まった。
手を差し出したか?否。
目を泳がせたか?否。
本当に止まっていたのだ、まるで彼だけが時間が止まったかのように。
「あたしの事はあまり好きじゃないのかしら?」疑問を投げかける明子ちゃんにすら、無慈悲な制止を続けるエーケー。
「いや、明子ちゃん・・・エーケーは女の子が苦手なんだよー」ピーキーの必死のフォローはエーケーの額に汗をかかせる。
エーケーが止まるのも、無理はない。
彼は、誰よりも、明子ちゃんに興味があった。
仲良くなってから、今までこの方、一週間に一度必ず、明子の話題を出していた。
ずっと一緒なのだから、それぐらいあるさと、普通なら思うのだが、エーケーは普通じゃない。
普通の話でエーケーから、話を振る回数はほぼ無い。
要するに、ただ俺達の話を聞き、横槍を入れる皮肉屋なのだ。
時折、少年シャンプの話もするが、それも大抵は俺からだし、映画の話、銃の話、ゲームの話、どの話も切り出すのは俺かピーキーなのだ。
だからこそ、エーケーから振られた明子という話題は、神妙にして奇妙なのだ。
疑問はすぐにも、確信に変わる。
エーケーの顔はすぐに赤くなるし、茶化すと風船ガムの様に膨らむし。
それは恋、エーケーは明子に恋している。
だからこそ、今のエーケーの制止行動は必然なのだ。
「よろろろろろよろしく」長い長い沈黙を破り、エーケーは引きつった笑顔と、震えた汗まみれの手を明子ちゃんに勢い良く突き出す。
「あはは・・・よろしく」苦笑いと共に、後ろを振り向く明子ちゃん。
その気まずさに、俺とピーキーは目を合わせ、平静という笑顔を見繕う。
「紹介が済んだのだし、まずは何をするの?」明子ちゃんは、エーケーの手を握らなかった。
握れなかったという事だろう。
握る女の子が優しいと思っちゃいけない、清潔さを保つのも、女性の嗜み。
男性も見習い、綺麗な手を差し伸べなければならないということ、勉強になる。
「そそそそうだね、状況を打破するには、まず考えねばならない・・・作戦を・・・・・そして、作戦を遂行するには訓練をしなければならな」
「まずは俺達が何なのかを教えよう」俺はエーケーの、演説を遮り、話した。
そして今に至る訳だ。
その後は放課後ホワイトベースに行き、リーダーを決める選挙を行った。
一人以外は俺に投票した。
そいつの名前は言わない、それは野暮ってもんだろ。
その後は照吾さんに、紹介をした。
明子ちゃんとは馬が合い、すぐに打ち解けた。
相も変わらず、静かな家だが、明子ちゃんが来ると、華やかだ。
そう、これが不思議バスターズ結成秘話である。
時は、進み、招きの井戸の周りを俺達は囲んでいた。
四時四十四分まであと、五分と迫っていた。
「あと五分だ・・・あわわ」ピーキーはここに来ても尚、恐れている。
そんな、恐怖でもピーキーは腰を抜かさず、必死で時計と睨めっこ。
「まぁ、そんな事象起こるわけがない」エーケーは明子ちゃんの前だと、気取り屋さんだ。
「うるさいわよ、エーケーは本当に井戸が招いたら、真っ先に逃げるタイプでしょ」明子ちゃんのナイスジャブはエーケーの心の臓に深く突き刺さる。
「エーケーは逃げる、絶対逃げる」俺は明子ちゃんの後に続き茶化す。
「逃げない」エーケーは食い気味にそして、強く俺に言った。
「逃げる」俺は強く言った。
「絶対に逃げない、逃げたら犬の糞でも食べてやる、それぐらい逃げない」エーケーは慣れない強がりを見せた。
「あ」ピーキーの間の抜けた声は俺達の言い争いをやめさせた。
「どうしたの?ピーキー」明子ちゃんはピーキーに言う。
「もう、過ぎてるよ・・・四時四十四分」ピーキーの一言で場は凍り付いた。
過ぎてる?・・・エーケーとの言い争いに、幽霊も怖気づいてしまったのか、それとも、招きいれるのを見逃したのか。
「ふん、馬鹿馬鹿しい」エーケーの強気の表情がムカついた。
後日、照吾さんの家に行き、この事を話すと、照吾さんから、信じられない訳が返ってきた。
「実はね、昔、時計のチャイムのメンテナンスを忘れていたらしいんだ、だから、時計が十六分遅れていた時に、この噂が作られていたんだ、十七時のチャイムが、調度あの時間になっていたという事なんだよ」
なんとも、つまらない真実である。
俺が十六時に聞いていたチャイムは確かに、校舎と校舎に反響し、不気味な音になっていた。
あれが声に聞こえると言われれば、聞こえるかな?という感じ。
俺達、不思議バスターズの初任務は何とも、言えない肩透かしを食らったわけだが、あと六つある。
願いも叶う。
立て、不思議バスターズ。
ーそこに不思議がある限りー
~続く~
このサイトでは、三個目の作品になるのだけど、これが本当の処女作です。
連載物にしないようにしていたのですが、どうしても短くすることができず、連載物になりました。
最初付近から中盤に掛けては初めての執筆に思考錯誤でしたが、今では、キャラクター達が、僕の頭で駆け回り勝手に動き、作品を作ってくれます。
ありがたい事です。
まだ続きますので、気に入ってくださったら、また覗いてみて下さい。