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第7話 人を助けました

 悲鳴の聞こえた方へ向かうと、一人の女性が三人の見るからにガラの悪そうな男達に囲まれていた。それを見て、なんかこういうのはお約束なのかなと考えていると、男達の一人が女性の腕をつかんだ。


「やめてください!」


「いいじゃねぇか。俺たちとイイコトしようや」


「そうそう、楽しくて気持ちいいぜ」


「もみもみ」


 うわぁ、典型的な下種な小悪党だ。なんというか見てるだけでも胸糞悪いな。つーか、最後のやつ酷過ぎるだろ。


「はぁ、ガラじゃないんだけどなぁ」


 俺は呆れながら、彼らに近づいて行った。日本育ちで、他人に極力干渉しないように、当たり障り無く過ごしてきた人間としては、何でこんな行動をしたのか不思議だった。力を手に入れて調子に乗っているだけなのかもしれないが、まぁ人助けということで今回はいいだろう。


「おい、あんた等。何やってんの? その子嫌がってるだろ」


「ああ? 何だ、テメェ」


「関係ねぇ奴ぁ引っ込んでろ!」


「しっしっ」


 そんな男達の言葉を完全に無視して、女性の手を取りその場を離れようとすると、一人が殴り掛かって来た。


「テメェ! 無視すんじゃねぇ!」


 その男は背後から殴り掛かってきたが、俺はいったん彼女から手を放し、それを難なく躱し、カウンターに鳩尾に一発打ち込んだ。殴り掛かって来た男は一瞬よく分かってない顔をしていたが、俺のカウンターを食らうと、その場に倒れこんで気絶した。それを見た残り二人は、同時に俺に殴り掛かって来た。


「ふざけやがって! よくもアニキをやってくれたなぁ!」


「ふがふが」


「は? そっちから仕掛けてきたんだろ?」


 俺はここで、実験とばかりに非殺傷系の魔法を試すことにした。


「スタン」


 すると、殴り掛かって来た二人は一瞬ビクンと体を震わせ、その場に倒れた。スタンとは雷属性の初級魔法であり、相手に電流を流して神経系に異常を与え、本来は体が痺れたり、力が入りにくくなったりするものである。ただ、俺が使った場合、人間が相手であれば一瞬で気絶させられるようだ。ちなみに、この世界では四大属性のようなものは無く、それぞれ大まかに火、水、風、土、光、闇等とされ、判別できないものは未属性とされている。

 憂さ晴らし兼魔法の検証も出来て満足した俺は、倒れている男たちを無視し、女性の方に話しかけた。


「大丈夫でしたか?」


「……は! はい。助けていただいてありがとうございます」


 彼女は一瞬呆けた表情で俺を見たが、すぐに真面目な表情に切り替えてお礼を言ってきた。やっぱり女性ってこう切り替えが早いもんなのかねぇ、とくだらないことを考えたが、彼女が大丈夫というならもう特に話すことは無いので、その場を立ち去ることにした。


「あの、待ってください!」


 俺は足を止め、彼女の方へ振り返った。


「あの、……私、ユネハと言います。貴方様のお名前をお聞きしても宜しいですか?」


「……ショウ」


「ショウ様ですか。いいお名前ですね。宜しければお礼をさせて頂きたいのですが?」


「別にお礼なんていらない。あと、呼び捨てでいいし、そんな堅苦しい話し方もしなくていい」


「そうですか、分かりました。ですが、お礼だけはします。欲しいものがなければせめて夕食だけでもご馳走させてください」


「本当にいいんで、失礼します!」


「えっ! ちょっと待ってください!」


 あんまり女性に免疫がないのもあるが、あまり人付き合いが好きではない為、会話を強制的に切り上げ、その場を立ち去った。後ろから何か聞こえていたが、俺は気にせず宿へと戻っていった。




――――――




 宿に戻り夕食を取っていると、横から声を掛けられた。


「相席しても良いですか?」


 ふと、顔を上げてみると、そこには先ほど助けた女性が立っていた。周りを見渡すと、確かに席は埋まっていてここで食べるには相席する必要がありそうだった。あまり気が進まなかったが、俺は相席を許可することにした。


「俺はすぐ食べて退くので、ごゆっくりどうぞ」


 関わりたくないオーラを全開にして、席を勧め俺は急いで残り食べる。


「そんなつれないこと言わずにお話ししませんか?」


「はあ、別にあんたと話すことは何も無いが?」


「いえいえ、ショウさんに無くても、私にはあるんです」


 なかなか引かないので、少し鬱陶しくなり、料理の一気に食べて席を立とうとする。


「ちょ、ちょっと待って下さい! そうだ! デザート食べませんか? 奢りますよ? すいませーん! フルーツタルト一つお願いします!」


 俺の返事も聞かず、注文していた彼女を見て、何か哀れになってきたので、大人しく話を聞くことにした。さっきは特に気にしなかったが、改めて正面に向かい合ってみると、彼女は中々の美少女だった。見た目は高校生位の人族で、肩に届く程度の茶色のお下げ髪が特徴的の明るい雰囲気の子である。そんな彼女もだいぶ落ち着いてきたようなので、話を切り出すことにした。


「で、話って?」


「はい! 先程のお礼なんですが、私、情報屋をやってまして、何か欲しい情報があれば提供しますよ?」


「だから、お礼はいらないって言ったろ。それに欲しい情報といっても特に無いし」


 実際、この世界の情報はゲームの時に公式サイトや攻略サイトなどから、大体の事は頭の中に入っている。まあ、ゲームの時と違うこともあるような事を自称神から聞いたから、その辺りは聞いてもいいかもしれないが、説明が面倒なので特に聞こうとは思わなかった。


「えっ! 本当にないんですか? 誰かの弱みを握りたいとか、ギルドの受付嬢のスリーサイズを知りたいとか何でもいいんですよ?」


「いや、別にいらないから」


 ギルドの受付嬢のスリーサイズと聞いて、一瞬セリーヌさんを思い浮かべたが、そんな事を聞くのもどうかと思ったので、あっさり否定した。


「そーですか。……は! もしや、体が目当てですか? 確かにこんな絶世の美女を目の前にして、そんな事を考えるなというのは年頃の男の子には苦痛かもしれません。ですが! 私の体は心に決めた人だけに捧げると誓っているのです。なのですいませんが、それはあきらめて頂く方向で、イタッ!」


「喧しい」


 なんかバカなことを言い始めたので、俺は彼女の頭に軽くチョップをかました。すると、彼女は頭を押さえ、恨めしそうにこちらを見てきた。


「ちょっとしたジョークじゃないですか。それに女の子に暴力を振るうなんてサイテーです」


「あー、はいはい。じゃあ、そういうことでサイテーな人間は自分の部屋に戻るとしますか」


 お互いに食事はすでに済んでいたので、そろそろ退かないと他の客にも迷惑も掛かるので、話を切り上げて部屋に戻ることにした。




――――――




「で、どこまで着いて来るんだ?」


 部屋に戻ろうと歩いていると、後ろから彼女も着いて来ていた。


「え? だって、あなたの隣の部屋ですよ、私の泊まってる部屋」


「あんた、ストーカーか」


 ここで食事をしている時に声を掛けられた時にも思ったが、何で俺のいる場所が分かったのか疑問でもあった。ただ、この宿の食事はこの町では人気で、偶然ということも考えられるが恐らく違う気がした。


「失礼な! この宿にはもう一週間は泊ってるんですよ!」


「じゃあ、なんで俺の部屋を知ってるんだ?」


「それは昨日、サンドイッチを持って部屋に入って行くショウさんをお見掛けしたからです」


「そう」


「むっ、何かさっきから素っ気ないですね。こんな美少女と話しているというのに、無反応ですか? 無能ですか?」


「はぁ、勝手に言ってろ。俺はもう部屋に戻るぞ」


「仕方のない人ですね。それでは、また。お休みなさい」


 俺は彼女と別れ、自分の泊まっている部屋に入った。厄介な女性を助けてしまい、慣れないことはするもんじゃないと後悔しつつも、考えてもしょうがないので今日はもう休むことにした。




お読みいただきありがとうございました。


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