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chapter 9

 アヤが振り向いた先にいたのは、安心した表情を浮かべるタクトだった。その隣には、タクトと同じ表情をしたハルルも立っていた。


「タクト……」


 危機から救ってくれたタクトを見て安心したアヤは、無意識のうちにその人の名前を呟いていた。


「大丈夫?」

「え? あ、うん」

「そっか。本当によかった」


 心の底から安心したような声に、アヤの心は少しだけ痛んだ。


「心配かけて、ごめん」

「アヤが無事ならいいよ」


 アヤの謝罪に、タクトは優しい声で返す。そして、ゆっくりとアヤに向かって歩を進めた。


「それより、セイラはどうしたの?」


 その時アヤの腕の中で眠るセイラに気が付いたタクトは、不思議そうに尋ねた。


「セイラが自分の過去を思い出したからって、ローズが……」

「じゃあ、まさか……」


 セイラの事情を知っていたタクトは、アヤの言葉の意味をすぐに理解した。そしてアヤも、タクトが気付いたことを悟った。


「うん。セイラは、私の妹だったの」

「そっか……」


 本当は真実を知った時に、すぐにでもセイラにかけられた術を解きたいと思っていた。しかし、ローズとリリーが邪魔をしてきて、それができずにいた。タクトとハルルが来た今なら、術を解くことも可能だ。


「タクト。はるるんと一緒に、アクマの方お願いしてもいい?」

「うん、いいよ」

「私は、セイラにかけられた術を解くから」

「判った」

「そうはさせないわ。セイラ」


 話がまとまりだしたころ、ローズがセイラの名前を呼んだ。


「――っ!?」


 すると、眠っていたはずのセイラが突然目を覚まし、アヤを攻撃した。

 不意を突かれる形となったが、アヤはすんでのところでセイラの攻撃を躱していた。


「大丈夫?」


 その様子を近くで見たタクトが、アヤの傍に駆け寄り尋ねる。


「うん、大丈夫。それより、さっきのこと、お願い」


 アヤはそう言うと、ローズとリリーの元へ向かって歩くセイラを追いかける。


「セイラ、待って!」


 ローズの術により操られているセイラは、アヤの声を無視して歩き続ける。

 その間、タクトはハルルにアヤに頼まれたことを伝えようと声をかけた。


「ハルル先生」

「だいたいのことは聞こえていたわ。タクトくんにローズの方をお願いしてもいいかしら? 私では多分、敵わないと思うから」

「判りました。ハルル先生はリリーの方をお願いします」

「ええ」


 話はあっさりと決まった。

 二人の話が終わるころ、アヤはセイラに追いついた。


「セイラっ」


 名前を呼び、セイラの手首を掴む。するとセイラは、振り返りながら掴まれていない方の手に光の球を出現させて、再びアヤに攻撃をしかけてきた。一瞬驚いたアヤだが、すぐに気を取り直すと、あいている方の手でセイラの術を無効化させた。


「ごめん、セイラ」


 そして、一度謝るとセイラを魔術で眠らせた。くたりと力が抜けて倒れそうになるセイラを、アヤは抱きかかえるようにして支えてゆっくりとその場に座った。

 ――セイラ、お願いだから元に戻って。

 アヤはそう願いながら、セイラの身体の下に魔方陣を出現させた。そのまま頭の中で呪文を唱え、術を発動させ魔方陣の線が光りだす。少しすると、その光は弱くなり消えていった。


「セイラ……」


 腕の中で眠るセイラを見て、アヤは心配そうに名前を呼んだ。


「……ぅん」


 わずかな反応があり、セイラはゆっくりと閉じていた目を開けた。アヤより緑がかった、それでも綺麗な緑色の瞳があらわになる。そして、少しだけ口を動かし


「ぁ……お、ねえちゃん?」


 アヤを呼んだ。

 アヤは目を見開くと、次の瞬間には泣きそうな顔で笑った。そして、セイラの本当の名前を口にした。


「サヤ。おかえり、サヤ」

「うん。ただいま、お姉ちゃん」

「よかった。本当に、よかった……」


 アヤは何度もそう呟きながら、サヤを抱きしめた。

 アヤがセイラにかけられた術を解いている間、リリーとローズは大人しくその様子を見ていた。そのため、タクトとハルルも二人に攻撃をすることができなかった。こちらから攻撃をしかけてしまえば、どちらがアクマに近いのか判らなくなってしまうからだった。

 アヤが妹と約十年ぶりの再開を喜んでいると、ローズが口を開いた。


「本当、あなたという存在は厄介ね」


 ローズの呟きに、アヤは反論しようと顔をあげてローズを見た。すると、そこにはいつの間に描かれていたのか、封印された魔力を暴走させる魔方陣があった。


「――っ!?」


 それを見てしまったアヤが、苦しそうに顔を歪める。


「アヤっ!!」

「アヤちゃん!」

「お姉ちゃん!?」


 三人がアヤを呼んだ。アヤは苦しそうに呼吸するだけで、返事をしなかった。

 タクトは、ローズが作り出した魔法陣を壊そうと術を放った。


「――っ。やっぱりダメか」


 しかし、タクトが予想していた通り、魔法陣は壊れなかった。

 魔法陣は、完成するまでならとても壊れやすいが、術が発動してしまうとそう簡単には壊せなくなる。完成した魔法陣は、より強い魔術による攻撃か、その魔法陣に対抗する術でなければ壊すことはできない。

 そうしている間にも、アヤはローズの魔法陣に苦しめられていた。

 早くしなければ、身動きがとれなくなってしまう。タクトは一瞬迷ったが、闇系統の魔術を使うことにした。

 アヤに助けてもらい光側の方に来た時、もう非常事態や必要な時以外は闇系統の魔術を使わないようにすることを決めた。アクマ側にいた時と同じように、当たり前のように闇系の魔術を使いたくなかったのだ。だから、迷った。それでも、大切な人を救うためには必要だと判断したタクトは、闇系の術を使うことにした。

 タクトが闇系統の魔術を使用すると、ローズの魔法陣はあっさりと壊れた。


「アヤ、大丈夫?」


 タクトは再びアヤの元へ駆け寄り、声をかける。


「……う、ん。あり、がと……」


 すると、アヤは辛そうに呼吸をしながらお礼を言った。

 その間、ハルルがリリーからの攻撃を防いでいた。ローズが続けて攻撃をしようとする動きを見て、ハルルは叫んだ。


「私だけじゃ防げないから、手を貸して!」

「タクト、私は大丈夫だから、アクマの方お願い」

「判った」


 タクトは頷くと、アヤの傍を離れハルルの近くへ行きローズからの攻撃を防いだ。


「二人とも、もう少しだけアクマの攻撃を防いでてくれる?」


 アヤがそう言うと、タクトが振り返ってアヤの顔を見た。そして、これからアヤがやろうとしていることを察して、一瞬だけ目を見開いた。しかし、すぐに柔らかな笑みを浮かべて返事をした。


「判った。こっちは任せて」

「ありがとう」


 アヤはお礼を言うと、目を閉じて深呼吸をした。


「お姉ちゃん?」


 アヤの隣にいたサヤが、不思議そうに首を傾げる。


「サヤ、少しだけ離れててくれる?」

「うん」


 サヤの質問には答えず、優しい声でお願いをする。サヤは、アヤの言葉に従い少しだけ離れた。

 アヤはサヤが離れたことを確認すると、再び目を閉じた。そして、頭の中に浮かべた魔方陣を、自分を中心に描いていく。

 魔方陣はすぐに出来上がり、完成すると同時に線が光り出し魔術が発動した。次第に魔方陣の光が強くなり、アヤの姿は見えなくなっていった。

 その魔術は、アヤの封印されていた魔力を解き放つものだった。

 それに気が付いたローズは、先程よりも頻繁に攻撃を仕掛けてきた。


「アヤの邪魔はさせないよ」


 ローズの術を防いだり弾いたりしながらタクトが呟く。


「裏切り者のくせに」

「僕はあの人に操られてただけで、最初から仲間なんかじゃなかった。それに、今はアヤが大切だからね」


 そうして、タクトとハルルがリリーとローズの攻撃を防いでいる間に光がおさまり、それとともに魔方陣も消えていった。


「タクト、はるるん、ありがとう」


 そっと閉じていた目を開けたアヤは、二人の背中に声をかけた。


「どういたしまして」

「それより、顔色が悪い気がするけど、大丈夫?」


 タクトが心配そうに尋ねてくる。


「大丈夫だよ」


 そう答えるアヤの声は、あまり元気がなく、少しふらついているように見えた。


「結局、解いてしまったのね。これでもう、主様は黙ってはいないでしょうね」

「…………」

「今日はもう引いてあげるわ。流石に封印の解けたあなたを相手に戦えるわけがないもの」


 封印の解けたアヤの姿を見たローズは、そう言い捨てるとリリーを連れて丘から姿を消した。

 タクトとハルルは、ずっと心配だったアヤとサヤのところへ集まった。


「二人とも、ありがとね」


 アヤは、アクマの相手をしてくれていた二人にお礼を言った。そして、明るい声で


「もう一仕事、しなくちゃね」


 と口にした。


「もう一仕事?」

「うん。封印を解いた時、お父さんとお母さんの居場所が視えたの。だから……」


 ――これから二人を助けに行く。

 続く言葉は告げられなかったが、その場にいた三人はその言葉を予測することができた。

 アヤが片手をあげて、すっとその手を振り下ろす。すると、片手が通った空間が、ナイフで切ったようにぱっくりと切れた。そして、その奥には別の空間が続いていた。

 アヤは、現れた空間に手を入れると、ゆっくりと向こう側の空間へと移動した。その後をタクトとハルル、サヤが続いて、四人は丘とは違う場所にいた。

 そこは静かで蒼い空間で、どこか冷たい感じのする場所だった。

 アヤは辺りを見渡し、両親の姿を探した。そして、奥の方で透明な氷のようなものに閉じ込められている姿を見付け、小さな声を漏らした。


「……ぁ」


 アヤがゆっくりと両親の元へ歩きだす。アヤが向かう先に両親の姿を見たサヤは、思わずといった様子で走り出した。


「お父さん! お母さん!」


 両親の元へ辿りついたサヤは、二人を閉じ込めている透明な壁に手をあてた。それは、少しでも両親のことを感じていたいという思いからの行動だった。

 少し遅れてアヤがサヤの隣に立つ。両親を閉じ込めている透明な氷のようなものに目を凝らし、どんな術なのか予想を付ける。ゆっくりと手を伸ばし二人を閉じ込める壁に触れる。それを見たサヤは、アヤの邪魔をしないように壁から手を離した。

 アヤは焦りすぎないように意識して術を解こうと試みるが、どうしても焦ってしまいうまくいかない。

 ――早くしないと、アクマが来ちゃうかもしれないのに!

 その思いが先にきて、ますます焦るという悪循環に陥る。


「アヤ、落ちついて」


 そんな時、後から来たタクトが優しい声でアヤに声をかける。その少し後ろには、柔らかな眼差しをしたハルルも立っていた。


「大丈夫。アヤならできるから、落ちつこう? ほら、深呼吸して?」


 タクトがぽんぽんとアヤの背を優しく叩きながら言う。


「吸ってー、吐いてー……」


 アヤは目を閉じると、タクトの言葉に合わせて深呼吸を繰り返した。三回ほど繰り返した後、ゆっくりと目を開ける。先程より落ち着いた状態で術の構成を読む。今度はすぐに理解することができたアヤは、一度だけ深呼吸をして魔方陣を描き始めた。

 呪文も詠唱せずに、中心から外側へ一気に魔方陣を作る。完成するや否や、術が発動した。

 すると、両親を閉じ込めていた氷のようなものがすうっと消えていった。


「お父さん! お母さん!」


 アヤの隣にいたサヤは、両親が目を開けたと同時に駈け出した。二人は、駆け寄ってきたサヤを優しく抱きしめた。


「サヤ……」


 母親が柔らかな声で娘の名前を呼んだ。

 アヤは、その様子を一歩も動かずに見ていた。

 一枚隔てた、見えない壁の向こう側の出来事。本来ならば、サヤと同じ当事者なのに、この時のアヤは、第三者の視点で三人の様子を見ていた。ただ静かに、ワンピースの裾を右手で軽く握りしめて。

 そんなアヤの様子を見ていたタクトとハルルは、どうすることもできない哀しみで胸が痛んだ。喜ぶべき再会のはずなのに、家族の輪の中に入っていかないアヤの姿が、素直に喜べない原因となっていた。

 タクトとハルルは、何故アヤが動かないのか、なんとなくだけれど予想できていた。

 本当の両親の元ではなかったとはいえ、アヤは学校に通って普通の人と同じ生活をしていた。しかし、サヤはアクマとして生きていて、両親はずっと眠らされた状態で時間の流れのわからないこの空間に閉じ込められていた。アヤは、自分よりも妹と両親の方が辛い思いをしてきたのだと考えていた。それに、記憶を取り戻したばかりのサヤの方が、家族に、両親に会いたいという想いが強いということも。親がいなくても普通の生活が遅れていた自分は、三人に比べれば幸せだったのだからと。

 だからアヤは、すぐには動こうとしなかった。

 そんなアヤの心情を、タクトとハルルはうっすらとだけれど察していた。

 けれど、二人にだって言い分はあった。アヤだって、周りの人たちに比べれば、十分辛い思いをしてきているのだ。それを、アヤの判断で後回しにしてほしくなかった。サヤのように、素直に行動してほしいと思った。

 未だに動くことを躊躇っているアヤを見て、二人は何とかしてあげたいと心から思った。しかし、そう思いながらも実際は動くことができなかった。というより、しなかったと言った方が正しい。

 タクトとハルルの二人は、今のアヤに必要なのは自分達の声ではないことをよく理解していた。だから、アヤの両親に強く願うことしかできなかった。ずっと離れていて、娘がどんな風に育ったのかすぐには判らないのは承知で。それでも、ほんの少しでいいから今のアヤの心情を察してほしいと。

 サヤとの再会を果たした母親は、ふと顔をアヤとタクトとハルルがいる方へ向けた。

 一瞬だけれど、彼女とハルルの目が合う。その短すぎる時間で、二人が何を思っているのか悟ったのだろう。

 彼女は、アヤの方を見て優しく微笑むと、口を開いた。


「アヤ」


 ずっと、どこかの映像を見るかのように家族の再会をぼんやりと眺めていたアヤが、彼女の声に反応する。感情の見えなかった顔が、一瞬だけ驚きの色を浮かべた。

 それを見てとった彼女は、穏やかな声と表情で再度アヤを呼んだ。


「アヤ。おいで?」


 父親と一緒に抱きしめていたサヤから手を離し、アヤの方に身体を向け両手を軽く広げる。

 すると、アヤは少しだけ足を動かし母親の元へ行こうとした。しかし、その足はすぐに止まってしまう。

 アヤは、未だに迷っていた。本当に、自分が近づいても良いのかを。

 そんなアヤを見て、彼女は愛おしげな笑みを浮かべた。そして、もう一度優しい声でアヤを呼んだ。


「アヤ、おいで」


 その声を聞いたアヤは、迷いながらも、残り数歩の距離をゆっくりと歩いた。

 彼女の前に来ると、恐る恐るといった様子で顔をあげて母親の顔を見た。その瞳には、ゆらゆらと不安の色が揺れていた。

 彼女はそんなアヤを包み込むように、優しく抱きしめた。

 その瞬間、アヤの身体に緊張が走り、固くなった。

 抱きしめられることに慣れていないアヤを知って、彼女は心の中で哀しみの色がある笑みを浮かべた。


「アヤ、よく頑張ったね。ありがとう」

「……うん」


 母親の言葉に、アヤは小さく頷いた。

 大人しく母親に抱きしめられていたアヤだったが、わずかな空気の揺れを感じて身体を強ばらせた。


「どうしたの?」

「アクマが、くる……」


 母親の不思議そうな問いかけに、アヤは小声で答えた。

 それとほぼ同時に、アクマが姿を現した。


「よく判ったな」


 声とともに姿を現したのは、一人の男のアクマだった。その場にいる全員が、いつも街をうろついているアクマ達とは雰囲気が違うことに気付いた。

 アヤは母親の腕の中から離れると、突然現れたアクマをじっと見つめた。そして、そのアクマの片腕に、知り合いの姿を見つけ、すっと目を細めた。

 アクマの腕の中にいたのは、眠らされているロビンだった。


「……ロビンをどうする気?」


 アヤにしては珍しい、低い声で尋ねる。


「判っていて聞くのか? 連れて行くに決まっているだろう?」


 その答えを聞いたみんなは、黙りこんだ。

 タクトとハルルとアヤの三人は、どうにかしてロビンを取り戻す方法を考えていた。

 しかしハルルは、自分ではそのアクマに適わないことを判っていた。普通の人より少し強い魔力をもつ自分では、力の差がありすぎるのだ。ハルルは、何かあった時にアヤとタクトのフォローすることを決めていた。


「……。ロビンを離して」

「そう言われて『はいそうですか』って返すわけがないだろう?」


 再び沈黙が訪れようとした時、アクマに抱えられていたロビンが目を覚ました。


「んん……あれ?」


 アクマの意識がロビンに向いた瞬間を、アヤは逃さなかった。

 少し強めの攻撃を連続でして、それと同時にアクマに向かって突っ込んでいった。

 アクマが攻撃を防いでいる間に、アヤはロビンの腕を引いてタクトの方へ投げた。アヤが魔術でうまくコントロールしたこともあり、ロビンはタクトの方へと飛んでいった。


「タクト、ロビンをお願い」

「判った」


 投げられて空中を移動したロビンは、何が起きているのか判らないままタクトに受け止められる。


「大丈夫か?」

「あ、あぁ……」


 ロビンがタクトの元に行ったことを確認したアヤは、急いでアクマの傍から離れようとした。

 その時、アクマがアヤの腕を掴もうと動いた。そのことに気が付いたタクトとハルルが、叫び声をあげる。


「アヤッ!」

「アヤちゃんっ!」


 二人の声がアヤに届く前に、アヤの腕はアクマに掴まれてしまっていた。


「油断したな」

「……離して」


 アヤはアクマをきっと睨み、強い声で言った。


「それはできない相談だな。お前は、あいつの代わりに連れて行く」

「嫌だよ」

「そう思うのなら、逃げ出してみることだな」

「…………」


 アクマの言葉を聞いたアヤは、黙り込みじっと掴まれている腕を見つめた。

 少し何か考えたかと思うと、アクマに掴まれていない方の手に魔力をこめて、その手で腕を掴んでいるアクマの手に触れた。


「――っ!?」


 アヤの攻撃に驚いたアクマは、掴んでいた腕を離した。その隙に、アヤはアクマの元を離れ、みんながいるところに戻った。


「アヤ。よかった」

「心配かけちゃったね」


 ほっとした声を出すタクトに、アヤは苦い笑みを浮かべて言った。


「七対一か……」


 アクマがアヤの方を見て呟く。


「流石に七人はきついな……」


 アヤは気を抜くことなくアクマを睨み続けた。


「呪いが解けたんだな」


 アクマは感心したように言った。反応しないアヤを気にすることなく、アクマは続けた。


「みんなが大切、か。あまり欲張っていると、いつか守りきれなくなるぞ?」

「…………」

「その力も、恐れられるだろうしな」


 アクマはそう言い捨てて姿を消した。

 辺りは静まり返った冷たい空気が占領していた。

 アヤはアクマの気配が消えたことを察知して身体の力を抜き、後ろにいるみんなの方へ振り返った。


「戻ろうか」


 冷たい空気を変えるように、明るい声が響いた。

 アヤを先頭に、入る時に開けた空間の歪みから元の小さな丘の上へと戻った。

 丘に戻ると、日が傾き始めていた。


「ロビン、もう立てるか?」

「あぁ。悪かったな」

「構わないよ」


 タクトはロビンを一人で立たせると、アヤの元へ歩き出した。


「ありがと」

「どういたしまして。アヤ、お疲れさま」


 ロビンのお礼に軽く振り返るだけで返事をしたあと、アヤの隣に立ち声をかけた。


「……うん」


 異空間を出る時に聞いたアヤの声が一変して、頷く声は弱々しいものだった。その変化に心配になったタクトは、大丈夫か尋ねようと口を開こうとした。

 タクトが質問するより先に、アヤの身体がふらりと揺れる。


「アヤ‼」


 アヤの身体が倒れる前にタクトが手をだし、なんとか地面に倒れるのを防いだ。タクトの腕の中におさまったアヤは、ぐったりとしていた。

 そっとアヤの額に手を当てると、予想以上に熱かった。


「あつっ」


 高熱が出ていて辛いというのに、アヤは無理に意識を保っていた。安全なところに行くまでは、眠るわけにはいかないと思っていることが、タクトにも判った。


「アヤ、あとは任せていいから無理しないで」


 タクトが優しい声で告げると


「ご、めん……」


 謝罪の言葉を口にして、アヤの意識は眠りの海へと沈んでいった。






初出:本館「月夜の旋律」

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